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F-2無双(仮)  作者: 穀潰之熊
第一部 東の果て

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12 夷俘島迎撃戦「IRREGULAR」

央歴1969年5月11日

夷俘(いふ)島 屋岸空港

日本国航空自衛隊第11航空団第114飛行隊

志村“Chase”良介二等空尉


 間もなく車が到着すると、お付きの人が囁いた。

 ようやっと、日本人(ボス)と対面することが出来る。


 心のどこかで安堵し、また別の場所で実現するのか怪しみながら。

 一行は空港の正面玄関から外に出た。


 葦原は内戦中で今まで一般人の気配を感じなかったが、


「ゲホゲホゲホッ! な、なんか空気がたばこ臭いな」


「そうでしょうか? ……私は特に感じませんが」


 と、竜司は茶化してる雰囲気もなしに言う。

 その横で宗治郎は煙草を取り出し、お付きの人に火を点してもらっていた。


「煙草は男の嗜みだ。志村二尉、吸うか?」


「俺は酒もたばこもやらないの」


「ほう、そいつは珍しい。何が楽しくて生きてるんだ?」


 どうやら、扱っている兵器が古臭いだけではない。

 価値観まで5、60年代のようだ。


 やたらとたばこを進めてくる同期がいたが、嫌な思い出である。

 一度吸い始めるとやめるのが手間なのだ。


「もちろん、可愛い女の子とお近づきになることだ……

そう、竜司ちゃんのような、可愛い女の子とさ」


「しっ、志村殿っ! 破廉恥ですよ! あなた本当に軍人なんですか⁈」


「へっへっへ……それを言われると、マジで返答に困るんだ。自衛官(おれら)って」


 もういっそ、古いわけのわからん建前など投げ捨ててしまえという精神と。

 そんな事に政治リソース割くなら、もっと重要な事をしろという精神と。


 ふたつの心があった。


 空港前の道路に視線をやると時折、民間人や車が過ぎ去る。

 現代のコンピューターが弾き出した最も効率的なシルエットではない、多種多様な全自動悪い空気製造マシーン。


 良介は車に興味はないが、マニアの同僚は大喜びしそうだとボーっと見ていた。

 すると、ひとつだけ他と意匠の違う車が接近していた。


 軍用系車両の意匠を感じる小型車両で、ルーフはビニールで出来ているように見えた。

 ムードが大切なデートには向かない外観だ。


 その車は隙間を縫うように無法な運転を繰り返し、やがて空港のロータリーに入り込んだ。

 呼びつけたという車だろうか。


「松平公ッ!」


 違うらしい。

 宗治郎お付きの人が素早く前に出ると、急停車した車との間に立った。

 これを暗殺者か何かと見たのだろうが───その見立ては間違いだった。


「心配無用、取引相手だ」


「そう、この終わってる幕府軍を助けてあげる唯一無二の存在よ」


 わずかに車両が揺れると、無骨な車両にそぐわぬヒールの脚が伸びた。

 いーっけないんだ。踵が高い靴で運転するのは危険なので、決して真似してはいけない。


 左の運転席から姿を見せたのは、驚くほどの美少女だった。


 それも───笹のように耳が長い。


「えっ、エルフ!」


「見つけた、蒼い機体の神兵!」


 またその呼び名か。

 美しい女性に注目されるのは望むところだが、その名前だけはご遠慮願いたかった。


 もちろん、彼女が良介の内心など知るはずもなく。


「あなたが、あの爆撃機を墜とした神兵ね」


「? をつけろ。断定するな」


「だって、神兵は私たちの事をエルフなんて名前で呼ぶんですもの」


「おっと」


 耳が長いから地球と同じくエルフと呼ばれているとは限らない。

 当たり前のことだが、良介はすっかり失念していた。


「志村二尉、紹介しよう。マランス合衆国ロング・イヤ社代表、

エラ・アーロン氏だ。現在幕府軍と取引をしている唯一の異国企業だ」


 宗治郎から紹介を受けたエラは、上流階級の香りが漂う恭しい礼をした。

 しかしその装いは独特だ。スカートの丈の側面は長いが、前方は極端に短いという、地球では───厳密には、現実では(・・・・)見たことのないセンスをしている。


「そう。私があの、エラ・アーロン……

なんて言っても、神兵にはわからないよね」


「その通り、俺様はさっぱりわからないぞ。……君がとても可愛いこと以外」


「ふふっ。150年この仕事して、5回神兵に遭遇したけど……

初対面で口説いてきたのは、あなたが初めてよ」


「ふふん、そうだろう? 俺様は型にはまらない破天荒な快男児なのだ」


 なにやらすごい数字が聞こえた気がしたが、良介はスルーした。

 この程度の数字など、良介にとっては些事に等しい。


 というのは見栄を張っているだけで、単に脳の処理が追いついていないだけである。


「俺は志村良介、日本って国で軍人みたいなものをやってる。

ところで、君の連絡先が知りたい」


「本題だけれど。あなたの乗ってきた機体……F-16っていうのよね」


 良介の要請はスルーされた。

 それはこちらもスルーした側なので、文句は言えない。


「よく言われるけど、実は違う。F-2という……

まあ、発展型のようなものだと思ってくれ」


「その機体の整備修理、わたロング・イヤ社が協力するわ」


「いま私って言おうとした?」


 あまり考えないようにしてきたが、今後幕府軍とどう付き合うかは置いておいて。

 F-2をどうするのかが大きな課題だった。


 良介とボスとしては、あのF-2は最後の日本。

 下手にいじくり回されたくはないが、かといって自分で高度な整備や部品交換・修理が出来るわけではない。


 ましてや、あのハイGに次ぐハイG機動。

 エンジンも鞭打ってかなり無茶をした。


 565号機も元から飛行時間の限界が近づいていた老体だ。

 今回の飛行で部品の交換どころか、用途廃止モノの損傷もあり得た。

 日本ならば整備隊の連中にまたレンチで殴りかかられたかもしれないが───


「でも、出来るのか? 言っちゃ悪いけど、技術格差があると思うんだけど」


「やってみせるわ。ロング・イヤ社もとい、私は世界一神兵の兵器に精通した天才なんだから」


 神兵という単語は気に入らないが───そういえば、彼女は先ほど良介のような人間に5度遭遇したと言っていた。


 言葉の響きからも、神兵は『異世界の軍人』のような意味合いがあるのではないか。

 自分たちの知る言葉とは意味が少し違うのではないか。

 と、見た。


 それはそれとして、唯一の故郷を他人に触らせたくないが。


───でもま、エラちゃんが可愛いからいいか。


 良介は軽くてちょろい男であった。


「いいけど、約束してくれ。絶対に壊さず、無くさないでくれ。

俺の、最後の故郷なんだ」


「今更そんなヘマはしないわ。世界一の天才メカニックとして、

リバースエンジニアリングまで完璧にやってみせるわ」


 リバースエンジニアリング、つまり似たようなものを複製するという宣言だ。

 確かに維持の面では必要な話になるが、それは果たしていい事なのか。


 というお前の懸念はよくわかるが、これは良い悪いという次元の話ではない。


 生き残りのためなら、四の五の言っていられない。

 宗治郎の言葉だが、その通りだった。


「では、ミス・エラ。よろしくお願いする」


「ええ、任せておいて総裁さん。それじゃまたね、リョースケくん」


 ブボボッ、と空気に悪そうな排気ガスをまき散らしながらビニール窓の車は去っていった。

 場所が開くのを待っていたのか、エラが去ると宗治郎が用意した車はすぐに到着した。


「その、志村殿? あなたは今……」


 ずっと会話に参加しなかった竜司が、顔面蒼白のまま良介に尋ねた。


「どうかした?」


「えっと、いえ。なんでもありません」


 言いたいことがあるのならハッキリと言ってもらいたいが、それは車の中でも聞ける話だ。

 疑問はひとまず胸にしまって、良介は先に座ろうとした竜司を制して座席に腰掛けた。

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