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F-2無双(仮)  作者: 穀潰之熊
第三部 世博停戦

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106/128

100 世博展示飛行「THE DEMON LORD’s CIRCUS」

央暦1970年3月16日

長坂 万里(ばんり)山 葦原世界博覧会会場

葦原国大和幕府空軍第1航空団『彰義隊』第1中隊『ペンギン』

志村“Chase”良介二等空尉


 開会式を経ずに開会した世界博覧会、2日目───

 ぐだぐだながらも客足は好調な様子で、入場ゲート前の待機列は前日に劣らぬ人波が形成されていた。


「うーん。やはり列に並ばないってのは最高だな……」


 良介はその様子を遠巻きに眺めながらの入場を果たした。

 というのも、今回はさる出展者からの招きを受けての来場なのだ。


「ねえ、リョースケ……ひとつ、いや無数に聞きたいんだけど……

ひとつ、聞いていい?」


 エラ・アーロン。

 葦原の南西、極東の覇権国家合衆国を建国したひとり。


 良介はその彼女から、合衆国パビリオンにVIP待遇で招きを受けていたのだ。


「うんうん、いくらでも聞いてよ」


「絶ッ対、何かの間違いだと私は思ってるんだ……

聞くに値しない、誤報だと思ってる。

だけど念のため、一応、敢えて聞くんだけど……

あなた昨日、アシハラ・ガバメントのパビリオンに行った?」


「うん、行ったよ」


 良介の返答を聞いたエラは、悶絶してその場にうずくまった。

 しばらく悶絶していたが、発作の落ち着いた彼女は四つん這いの姿勢のまま質問を続けた。


「……わ、わかった。でも、これは間違いだよね?

アシハラ・ガバメントのリーダー、クニオ・イザナキと話した?」


「話した。彫刻について聞かれたから、率直に感想を述べた」


「ぐわおおおおお……」


───うーん、エラちゃんのキャラが崩壊しているぞ……


 当たり前だ、私だって崩壊したいんだぞ。

 敵対している勢力のパビリオンに入り込んで、さらに視察に来た政治的トップと呑気に会話していたなど。


 普通にありえん、どういう頭をしているんだ?


「……そうだ。リョースケの正気を疑うだけ、時間の無駄だったね」


「どーいう意味だ、こら」


 どうやら、エラと私は話が合うようだ。

 今度から彼女と話す時は、私が代わってみようか?


 やめた、普段の行動との差異でまた正気を疑われて終わりだ。


───一行で判断翻すのやめてくれる?


 と、良介の奇行は無駄という事実を互いに再認識したところで。

 ふたりは裏口入場を開始した。


「確か合衆国館は今日からなんだっけ?」


「うん。予定なら昨日だったんだけど……

どっかの連中がおっぱじめた騒ぎのせいで、目玉の到着が遅れちゃってさ」


 この騒ぎとは、もちろん良介も巻き込まれた政府軍急進派による幕府将軍・親王暗殺未遂事件である。

 事態の収拾のために葦原中の航空便がストップし、合衆国パビリオンに不可欠な荷物(・・)が足止めを食らってしまったのだ。


「エラちゃんのおかげで、あの暗殺に対処できた。

改めて、ありがとう。エラちゃん」


 もし彼女がF-2にアップグレードを施さなければ、将軍と親王の搭乗していた御料機キンシは撃墜されていた可能性が高い。

 そして、その護衛である良介も切り抜けられたかどうか。


 外国勢力の人間とはいえ、エラの功績は間違いなく大きかった。


「……別に。そういうのいいから」


 顔を真っ赤にしたエラは、視線をぷいとそらした。

 とてもかわいい。


───……俺は彼女から、愛の告白を受けている身なんだよな……


 そして、受け入れてはならない身の上でもある。

 今の良介は停戦中という状況に守られているだけで、大和幕府・葦原政府の葦原にある二大勢力から身柄を狙われている。


 片や、最強の戦力として。

 あるいは、最悪の敵として。

 そしてエラの言葉が正しければ、合衆国ですら単なる人として扱っていない。


 下手に愛する人を作ってしまえば、この潮流に巻き込まれる。

 もはや良介は、単なる兵士として扱われるような存在ではないのだ。


───もし俺が、自分の世界に帰れる時。その時なら、答えを出せるかもしれない……


 そう思うなら、ナンパをやめろ。


───ヤッ!


 というわけで、クズ野郎は今日も街を往くわけだ。


 エラと彼女の護衛を伴い、入場開始前の世博会場を練り歩き───

 一行は合衆国パビリオンの待機列に到着した。


 巨大かつ真っ白なドーム状の建築物で、聞くところによると今回の世博で一番巨大なパビリオンだとか。

 内戦やら先の暗殺未遂で建設が遅れているパビリオンもあるなか、この巨大建造物をガワだけならば間に合わせた辺り、合衆国は流石である。


 もちろん、先客はなし。

 最前列一番乗りである。


「それじゃ、私は準備があるから」


「準備?」


「合衆国……パヴィートラム地方にも歴史があるからね。

それなりの格好ってものがあるんだよ」


 そう告げると、エラは護衛と共に裏口の方へ向かった。


 つまり、彼女はパヴィートラム地方の伝統的な衣装に着替えるのだ。

 万博のようなイベントでも、そのような催しがあっただろう?


「エルフ……耳長の民族衣装に着替えるって事か。

……どんな格好なんだろう?」


 おい、不埒な妄想をやめろ。


「まだ何も言ってないぞ」


 私はお前だ、そのような妄想はすぐにわかる。

 葉っぱ数枚を貼り付けただけ、などという昭和のイメージする蛮族のような姿が出てくるはずがないではないか。


「ふん、わからないぞ? なにせこの世界には錬金術があるんだ……

幕府軍のインナーみたいに、とーんでもなくセクシィな格好かもしれないぜ?」


 幕府軍はインナーに、伸縮生地なるぴっちりスーツを着用している。

 錬金術によって錬成される素材で、かなり昔からあるというが───


 や、やめろ。

 推測だけで物事を決めるのは、よくない。


「ふっふっふ……俺様の勝ちだ」


 勝ち負けなどあるものか。

 それに、もしあるとすれば───


「アーロン様のお客人……なんかブツブツ言ってるぞ?」


「あの人、皇帝とも良い仲だったって言うし……趣味が悪いんじゃないか?」


 見ろ、お前はエラの客人とパビリオンの人間に知れ渡っている。

 奇行をすればするほど、彼女の名に傷がつくのだ。


 ぶつくさと自分に語れば語るほど、彼女の名誉が毀損されていくぞ?


「ちっ、自分を脅迫しやがって……」


 当然の、事実の指摘だ。

 私は自己批判の精神として、正さねばならない問題を正そうとしているまでだ。


 とにかく。

 お前は背筋を伸ばして、しゃきっとしておけばいいのだ。


 それに、時計を見ろ。

 もうそろそろ、入場開始の時刻だ。


「世界博覧会、入場を開始します!」


 遠くから、そのような声が響いた。

 それと共に、パビリオンの出入り口が開かれた。


「さ、リョースケ。入りましょう」


「横乳ッ!」


 バキッ。

 良介はエラにげんこつでしばかれた。


「馬鹿ッ! 言うに事欠いてそれかっ!」


 エラのまとう衣装───耳長の民族衣装について、改めて描写しよう。


 所謂貫頭衣(チュニック)というやつで、ノースリーブかつ脇が結構開いているのだ。

 エラは非常にスタイルがよく(巨乳という意味に非ず)、普段は見えない部位の、滑らかな素肌が世界に晒されている。


 つまり、横乳だッ!

 脇───脇も、あるな。


 しかしやはり現代という事もあってか、ボトムスには伸縮生地のスパッツのようなものが伺える。

 いや、それはそれでスタイルが表れていて見事で───


 ち、違う。

 想像よりも行動だ。


「ご、ごめん。つい意識が……」


「これ、清き森の連中はまだ着てるんだからね……

とにかく、一般客が来る前に入ろう」


「うん……」


 意識を、彼女の側面ではなく正面頂部───つまり顔に合わせろ。

 シンプルに失礼ではないか。


 合衆国パビリオンに入ってすぐ、最初は合衆国の中心地であるパヴィートラム地方の歴史から、展示が始まる。


 パヴィートラム地方はシャルコ大陸南に位置している。

 大陸南部から突き出た半島であり、合衆国を構成する地域の中で最大の土地となっている。


 我々の知識に合わせるならば、インド半島とインドシナ半島を合体させたような地域になるだろう。


「パヴィートラム地方だけでも国が成立するな……」


「昔はそこら中で魔物がウヨウヨしてたから、

人間はまともに住めない土地だったんだけどね」


「耳長はどの辺りに住んでるの?」


「ここ、北端のゴンガー源流近いところが清き森だよ」


 と、エラは地図の最北端に近い大河のほとりを指差した。

 ゴンガー河の向かいは国境線であり、超の文字があった。


「……超帝国との国境沿いでもあるのか」


「そ。超帝国がちょいちょい越境して悪さしててね。

そういう歴史があったから、耳長という種族は長らく人間に敵対的だったんだ」


「今はどうなの?」


「無許可で接近すると撃たれるよ。

人なら銃、車なら砲、飛行機ならミサイル」


「……超危険な北センチネル島みたいだな、おい」


 それほど排他的でも、一応は交流があるのだから凄いものだ。

 やはり海という障壁がない分、交流が容易いのだろう。

 あるいは敵対的な勢力も踏み込みやすく、まだマシな勢力に頼らざるを得ないということなのかもしれないが。


「ということは、初めて植民したのはユーロネシア人なの?」


「そうだね。自治政府を最初に築いたのは、その中でもリールランドの反乱軍。

現人神(あらひとがみ)の治世に反逆して、集団で逃げ出した奴らさ」


 これが、合衆国でリールランド語が公用語となっている理由である。

 他にもユーロネシア各地から入植者が流入していたが、集団生活のノウハウを持っていたのはリールランド系住民だったのだ。


「それ以前は、海沿いにポツポツと追放者の集落があっただけ。

大体がユーロネシアの入植者に踏み潰されたけど、偶然リールランド人が上陸した

バルマトが栄えて今の連邦直轄地……いわゆる首都バルマトになったというわけ」


 入植者たちが作り上げた国。

 聞こえはいいが、それは先住民を弾圧した結果という見方が出来る。


 入植者に踏み潰された集落というのは───

 ようするに、そういうことだろう。


 エラからすれば、少し前に遠いところにいる誰かが死んだくらいの距離感なのだろうが。

 当時を生きていた人間のドライさ、といったところだろうか。


「バルマトは、最初に栄えただけの街じゃない……

地方を合衆国にした、建国者が最初に降り立った地でもあるんだ」


 その人物は、パヴィートラム地方に続く展示となっていた。


 初代合衆国皇帝、タナト・ク・マランス。

 150年前、現在の合衆国構成地域をひとつの旗の下に集わせた建国者。

 冒険者最後にして、最大の成功者。


 そして───死後しばらく経った今もなお、良介の心に動揺をもたらす人物である。


「リョースケ。何度でも言うけど、彼の事はもう……諦めてるからね。

私だって、最期を見届けた人間を想い続けるなんて、出来ないから」


「ああ……わかってるよ」


 良介に愛を告げたエラが、最初に愛した男でもある。

 その男は一世紀前にこの世を去り、今や写真にその姿が残るばかりである。


「この写真、私も写ってるんだ」


 合衆国政府が成立した直後の写真が展示されていた。

 そこには『俺がトップ!』と書かれた看板を持つ皇帝を中心に、様々な人物が写っている。


 マランス皇帝の傍らには、確かにエラらしき人物が写っていた。

 断言しづらいのは、明らかに今と比べて幼過ぎる幼女であるためだ。


「懐かしいなぁ。私が30代の頃だから、まだまだ子供だったんだ」


「うーん、脳がバグる発言だ……」


 どうやらマランス皇帝は写真が好きだったらしく、他にも様々な姿が残されていた。

 幅の広い片手半剣(バスタードソード)とフリントロックの拳銃を携える姿、現地の子供と腹ばいになって遊んでいる姿、水着で水泳をしている姿───

 確かなのは、彼が常に美女を傍に置いている点である。


「……マランス皇帝ってさ」


「うん。いつも言ってるけど、そういう人。

気に入った女の子は絶対に放っておかないタイプ……

リョースケと違って、手段は択ばない」


「よくもまぁ、一国築けたな」


「運がいいからね、恐ろしく」


 白銀の頭髪を持つ皇帝が楽しそうにしている絵が、年代問わず続き。

 最後の展示は彼の遺影ではなく、その死を悼む人々の写真で締めくくられていた。


 諦めていると宣言したエラだったが、それでも感情がないわけではない。

 口数の減った彼女と歩調を合わせて、ふたりは歴史展示を抜けた。


 続く展示は、風習の展示。

 合衆国は複数の地域にまたいでいるため、多様な文化を持っているのだ。


「わぁ、アーロン様だ」


 そう反応したのは、エラのものと似たチュニックを身に着けた耳の長い少年。

 彼の背後にあるのは、耳長の展示だ。


「インか。あんたひとり?」


「そうだよ……で、そいつが噂の?」


 インと呼ばれた少年───恐らく、良介よりずっと年上の───は視線を良介へ向けた。


「うるさい。仕事しろ」


「ちぇっ。偉そうにしやがって……

どうも、神兵さん。耳長の展示へようこそ」


「ああ、どうも」


 良介はインに会釈すると、実寸大と書かれた竹製の住宅に視線をやった。


「これが、耳長の家?」


「そうですよ。清き森では、みーんなこんな不便な家に住んでます」


「それ、言っても大丈夫なの?」


「清き森から出た事のある耳長はみーんなそう言って、帰ろうとしなくなります。

だから何度か、長老は交流を断絶しようとしてます」


「こわ……」


「入ってみます? 現地は空調とかないから蒸し暑いですよ」


「自分で言うなっての」


 といいつつ、良介は耳長の住居に足を踏み入れた。

 中はほとんどすべてが土間となっており、出入り口の近くに調理用の釜土があった。


「そういえば、エラちゃんが寝るときは寝心地悪いとか言ってたな」


「ああ、あれです。ベッドもどき」


 インの指さす先には、竹と葉っぱのベッドらしきものがあった。

 横になれるスペースというか、マットレスの類はないので土間の上に敷いた葉っぱで横になるというスタイルだ。


 竹と葉っぱは、虫よけくらいの意味しかないだろう。


「……なるほど。畳を欲しがるわけだ」


「いいよね、畳。どこで寝っ転がってもいいんだ」


 インの言葉に、エラはうんうんと頷いていた。

 どうやら、清き森は深刻な人口流出に悩まされている様子だった。

 この問題に、あまり真剣に向き合っていない様子もうかがえる。


「耳長って、独立問題とかないの?」


 良介は住居から出ると、インに尋ねてみた。


「5年に一回くらい出ますね。

でも10年に一回くらいの頻度で超帝国が侵入してくるので、すぐ静かになります」


「……超帝国の侵攻って、中央政府の意思? それとも、地方の軍閥の独断?」


「ここ最近は資金源が欲しい地方の独断だね。

中央政府は合衆国(ウチ)とやり合うどころじゃないみたいだから」


 ここは政治的な影響力の強いエラが答えた。


「地方軍とはいえ、10年ペースで侵略か……

清き森も大変そうだな」


「ええ、大変ですよ。毎度森が燃やされるんですから」


「……言っちゃ悪いけど、清き森ってよく今も続いてるね?」


「なんだかんだ、耳長がみんな頑張るんで」


 侵略を受ける、という負担は心身ともに重くのしかかるものだ。

 耳長が人間と大きく異なる種族だからといっても、この負担を感じないほどの違いはないだろう。


 やはりインの言う通り、相当な努力を重ねているに違いない。

 展示コーナーの一角には、その努力をアピールするための展示物がいくつもあった。

 ここは、そのために設けられたのだろう。


「お互い頑張ろう」


「ええ。神兵さんも、帰れるといいですね」


 まったく、その通りだ。

 インと耳長の展示物に別れを告げると───


 過去の次は、今と未来だ。

 最も多くのスペースを占有する、技術の展示だ。


「さあ、ここからが私の領分だよ……」


「合衆国は、技術でどんなことをするんだ?」


 まさか、この場で戦争能力をアピールしないだろう。

 既にしたところを良介は目にしていたが、それは置いておいて。


「合衆国はね、新しいフロンティアを探してるんだ」


「……でも、この世界も大体は開拓し尽くしたんだろ?」


 この世界最後の未開拓地はパヴィートラム地方だという。

 それ以外は居住に適さない土地だと、調査の末に判断されている。


 新しいフロンティアは、もうないという事だ。


「まだ、調査出来ていないところがある……

今まで誰もが果てと呼んで、調べもしなかったところがね。

リョースケ。あなたは合衆国外の人間で初めて、この事実を知るんだよ」


 エラが案内した写真は、他の展示物より明らかに強調されていた。

 大きな航空写真、成層圏に近い高高度から遠い土地を撮影したものに見えた。


 分厚い氷の土地に囲われた、わずかな灰色の土地。

 そして、灰色の中央から天に向かって───

 具体的には軌道エレベーターの如く、静止軌道辺りまで伸びる建造物。


「ク連も未だ目撃していない、果ての外……南の外には、土地があった!」


 南極。

 地球における、最南端の土地。


 これは合衆国が南の果て、凍てつく壁(FrozenWall)の向こうを撮影した写真なのだ。


「南極大陸……こっちにも、やっぱりあるのか」


「これが合衆国館本当の目玉、果てなどないという証明……!

未だ発見されていない、未開拓地の証明さ」


 なるほど。

 ク連パビリオンでも、将来宇宙へ進出するというアピールは存在した。

 しかしあくまで、将来的なものに過ぎない。


 実物をお出しする、という点において合衆国が先行している。

 ゆきが喜びそうな展示内容である。


「で、俺は東の果てにも行ける可能性を証明したって事か……

この写真、どうやって撮影したか聞いても?」


「氷の壁は、絶対零度の世界。壁を物理的に越えるのは困難な上に、

航空機で飛び越えると冷気でたちまち飛行不能に陥る……

だから成層圏まで飛行可能な機体で、果てに入らない位置から

南の果て……南極を撮影したの」


「神様からの妨害は?」


「リョースケはバトルホークスと会ってるよね?

あいつらの担当だったんだけど……撮影した直後、中央の建造物から

高出力レーザーの攻撃を受けたという報告があった。

攻撃がかすって、実物の証拠も残ったの」


 エラが指さした先には、焦げ跡の残る機体のパネルが展示されている。

 実際に彼らは攻撃を受けたのだ。

 管理者、この世界の神から。


「……想像以上に、合衆国はこの世界の秘密に迫ってたのか」


「世界博覧会は、この事実を発表するのに最高の機会だったの。

だから、妙な事をせず予定通り開催してもらいたかったんだけどね」


 こればかりは、運が悪かったとしか言いようがない。

 まさか開催現地でいきなり革命が起きて、政府が転覆するなど想像できるはずがない。


「うーん。エラちゃんが俺に東の雲海を越えないように言ってたのは、

攻撃の可能性を確信してたからか」


 彼女の果てに対する情熱から、雲海を越えるように言わないのは良介も不思議に思っていた。

 なるほどこういう前提があったとなれば、慎重になる理由も理解できた。


「氷の壁の向こうがそんなに大きくないのは、計算上明らかだったからね。

……だけど、東西の果て。この世が球形だとしたら、東西の隠れた世界は巨大。

抵抗は南の比じゃないはず」


 攻撃が確かならば、リスクは大きいが───

 この世界の情勢であれば、穢れのない巨大な陸地は魅力的に映るだろう。


「ねえ。もしかして俺をここに呼んだのって……

将来的に俺が合衆国に行って欲しいってこと?」


「あれ。承知の上で来てくれたと思ったんだけど?」


 何度も、エラ自身の口からそう告げられているのだから、当然だろう。

 もし葦原で立場がなくなったとしても、合衆国にはまだまだある。

 という、彼女なりのアピールなのだろう。


「この事実が知れ渡れば、ちっぽけな土地を巡って争う事はなくなる……

葦原の連中も、しょうもない争いなんてやめるはず」


「それはちょっと、人間に高望みし過ぎじゃないかな……」


 そのちっぽけな土地を巡って、しょうもない争いをするのが人間だ。

 合衆国は周囲と視座が違い過ぎて、この世界における一般的な常識を見失っているように見えた。


 たとえ、世界に果てがあるとわかったところで。

 手を取り合って外の世界へ飛び出すとは、良介には考えられなかった。


「でも、やってみないとわからないか」


「そう。やってみない事には、どうなるかわからない。

でもそれが、合衆国(わたしたち)の使命なんだと確信してる」


開拓者魂マニフェスト・ディスティニー、か……」


 この世界の常識を根底から破壊する。

 合衆国が技術開発に邁進する理由。


 正直、良介個人の手に余る案件である。


「……俺は、この世界にとってよそ者だ。

それも、意に沿わない形で放り込まれたんだ。

こう、立て続けにいきなり言われてもなぁ……」


「でも、知ってもらいたかったんだ。

私たちの使命を、私たちの敵を。

相手はもはや同じ人類は相手じゃない、次の段階にあるんだって」


 エラたち合衆国は、かつて神と存亡をかけた戦いを経験している。

 果ての向こうにいると思われる管理者が何であれ、敵と認識している。


 欲しいだろう、どんな手でも強力な手札は。


 そこで良介は気づいた。

 あまり強引に、良介やボスをこの世界に引き留めていない理由を。


「……もし万が一、帰れる手段が確かで、行き来の手段が確立したなら……

地球(おれら)にも一枚噛ませようとしてるのか」


「私は、そこまで期待してないんだけどね」


 あまりにも危険な判断だ。

 日本であれば、手に余るのは間違いないが───

 無茶な真似はしないと断言できる。


 しかし東西の海を隔てた隣国はどう考えるか。

 協力などしない。

 むしろ、全部欲しがるだろう。


 錬金術も、新たな土地も、資源も。


 合衆国とやらは、地球人類の技術を甘く見過ぎている。

 あるいは、理性を高く見積もり過ぎだ。


 手を組めるだろうという判断は、この世界にとってあまりにも危険だ。


「なら、そう考えてる連中に伝えておいてよ。

冒険が過ぎると、犬に手を噛まれるってレベルじゃ済まなくなるぜ」


「ええ、伝えておく……異世界(むこう)の人間が全員、

あなたみたいなのじゃないだろうし」


「ああ、俺は特別な人間なんだぜ……良くも悪くも」


 尻に火がついているのは、お互い様というわけだ。


 技術の展示が終わると、今度は落ち着いた空間になっていた。

 二手に分かれ、右が出口で左は───


「占星術?」


「そう、これが表向きの目玉展示……

この世界で最も信頼出来る占いだよ」


 まさか、占いを信じるほど良介も若くはない。

 無視して出口に───


「異世界の占いか……よーし、混んでもいないことだし、

ここはいっちょ占ってみよう」


 まあ、よかろう───

 占いのひとつやふたつ、やったところでどうにかなるものでもあるまい。


 エラと共に、いかにもなのれんをくぐると。

 中央に巨大な水晶が設置された部屋がそこにあった。


 水晶の中では無数の小さな光が煌めき、時に消えていた。


「……」


 水晶の向こうで、静かに座る人影。

 白銀の頭髪に、白粉を塗ったかのように白い肌。

 あそこにいるのは人間ではないと、本能が警告していた。


 彼女の閉ざされた瞼が開くと、金色に輝く瞳の黒い眼球が左右別々に動いた。


 斜視だろうか?

 いや、それにしては動きが奇妙だ───

 となれば、恐らくあの目に光は宿っていないのだろう。


「エラ・アーロン。あなたですね?」


「ええ。もうひとりいるの、わかる?」


 そう言ったエラは、ポンポンと良介の背中を叩いた。

 星の彼女は静かに瞼を閉ざすと、頷いた。


「エラ。貴方の宿す星……前に会った時より、ずっと強く輝いてる。

だけれど……隣の方は、不思議。どんな光も、飲み込んでしまいそう」


 良介はエラに視線を合わせて尋ねた。


「これ、褒められてる?」


「抽象的で、いつも解釈に困るんだよね。

読み解けた時は便利なんだけど」


 エラは良介に言葉にうなずくと、ずかずかと水晶沿いに歩き───

 まるで友達のような距離感で星の彼女の隣に立った。


「こいつはエルゥラット。魔族の占星術師」


「ま、魔族?」


「さっきの展示見てなかったの?

合衆国は世界で唯一、魔の世界と国交を維持している国なんだけど」


 そういえばそうだった。

 魔族はかつて、人類と敵対する不倶戴天の天敵であった。


 この世ではない、魔の世界からやって来る彼らは門を介して人の世に侵入し、奪い殺していく。

 その侵攻を止めるために、多くの勇者が命懸けで人と魔の世を繋ぐ門を破壊してきた。


 葦原は2度、魔族との戦いを経ている。


 最初は夷俘島の、いつ生じたかもわからない古い門を。

 2度目はかつて葦原で最も高い山だった嫦娥(じょうが)山に生じた門を壊した。


 戦いで多くの人々と英雄、そして中葦原が犠牲になった。

 良介が政府側から夷俘の魔王と呼ばれるようになったのは、この魔族を統べる王の存在がきっかけである。


 葦原のみならず、世界各地で人と魔の争いが続き、やがて合衆国成立以前のパヴィートラム地方でも門が発生した。

 しかし、この門が壊されることはなかった。


 魔族───厳密には侵略者の対立氏族の王と地方の代表が和睦することで、同盟関係が築かれた。

 結果、人類は知られていなかった魔族の多くを知ることが出来たのだ。


 例えば───魔族は元来、この世界に住んでいた種族。

 今の人類は後から、人類の言う神によってもたらされたのだと。

 ユーロネシア各国はこの報告を認めない方針だったが───


 ともかく。

 これもまた、マランス皇帝が持つ実績のひとつであった。


「エル。こいつが例の神兵……畏怖の魔王だよ」


「……彼を畏れる。ええ、彼に広がる暗闇は、多くの光を飲み込んでいます」


「その、暗闇とか光とか……どういうこと?」


「こういう、集中してるエルと会話が成立すると思わない方がいいよ」


「はあ……」


「それより、見るべきはこっち」


 エラが指し示すのは、部屋中央の水晶。

 そこに煌めく星は、軌跡を描きながら流れ───


 やがて、光は消えた。

 あの光が星だとすれば、水晶にある光景は暗闇。

 星のない、虚無だった。


 虚無の闇に向かって、多くの星々が吸い込まれ。

 そして、光は消えていく。


「……未知、不定、不安。

星を垣間見る人は、そう感じるでしょう」


「つまり……?」


「占星術は、空に浮かぶ星々を人に見出すものです」


 なるほどわからん。

 星を人に見出すのであれば、良介には見出せていないではないか。


「学術的に関連が指摘されてるんだけど、サトリって占星術の星を

察知出来る能力なんじゃないかって、言われてるんだよね」


「じゃあサトリの人に不気味がられる理由って、

普通は星が見えるのに真っ暗闇しか見えないから、ってコト……?」


 良介。

 ひとつ思いついたのだが、これはアレに似てないか?


───アレだのコレだの、ボケがはじまったのか?


 黙れ。

 そう、宇宙といえば銀河・恒星・惑星。

 その中にある天体、とりわけ暗闇といえば。


 ブラックホールだ。

 超強力な重力の塊で、光すら飲み込んでしまう。

 星、光を飲み込むというのを比喩表現と考えるなら、ピッタリではないか?


「……俺、ブラックホールなの?」


「ブラックホール?」


「ほら、宇宙にある超強力な重力」


「ああ、コラプサー(Collapsar)か……

占星術でコラプサーを見出された人間なんて、聞いたことがないね」


「私も、このような方には初めてお会いします。

なので、どう考えれば良いか……」


 と、エルゥラットは首を傾げた。

 専門家ですらわからないのは、本当にどうしようもない。


「強く輝き、多くを照らし、灼く。

そんな星を持っていたタナト様とは、真逆なお人」


「同じ初めてでも、タナト君は太陽判定だったっけ……」


 また、その男か。

 良介はちょびっと気分を害したが、その程度で不機嫌になる程子供ではない。


「……何もわからない占いって、どうなんだ?」


「ふふふっ」


 どういうわけか、良介の発言にエルゥラットは笑い出した。


「ごめんなさい。タナト様も、同じ事を仰ったので」


「……とはいえ、これじゃ反応に困るな。

これ、いい事なのか悪い事なのか、さっぱりわからないじゃないか」


「ええ、どちらとも言えません。

あなたにあるのは、先の見通せない闇……

ですが、この暗闇は必ずしも凶事を示すわけではありません。

定まった運命を打破し、良くも悪くもわからないものとする。

星は何も教えてくれませんが、あなたはそういう存在だと思うのです」


「占星術なんてものともしない、天命を否定する者(イレギュラー)……

リョースケにピッタリだね」


 何やら、良介に大層な二つ名がついてしまった。

 好き勝手、適当にやっているだけなのだが───

 過剰評価ここに極まれり、である。


「結局、俺は機械あっての存在なんだ。

そんなに大層なもんじゃないよ」


「あなたって、こういう肝心な時に素が出るよね」


「素って……なにさ?」


「普段は偉そうなのに、こういう本当に褒められた時は

恥ずかしくなって謙遜するって事だよ」


「……」


 良介は反論出来ず、黙り込むしかなかった。


「そういう、ちょっと素直になれないところが

可愛くて好きなんだよね」


「あ、あのなぁ……」


 なんとか反論を試みたその時、背後ののれんで気配を感じた。


「アーロン様。そろそろ、一般客が到着します」


「おっと、もうそんな時間だったか。

リョースケ、そろそろ行こう」


「お、俺の話はまだ終わってないぞぉっ」


「後で聞いてあげるから。それじゃあエル、またね」


「ええ……また(・・)、お会いしましょう」


 エルゥラットは心底嬉しそうな、奇妙な別れの言葉を口にした。


 他パビリオンと同じく、合衆国パビリオンのレストランも展示コーナーの先にあった。

 エラの視線から、良介は彼女の興味がそこにあると察した。


「レストラン、寄っていく?」


「うん。そうしようか」


 そこで改めて、彼女が抱く良介の認識を改めるとしよう───


 出口との分岐でレストランへ入り、ダイナー然とした店内に。

 店内には人型の爬虫類が立っており、着用している衣装からウェイターだと推測出来た。


 まあ、なんて立派お店なんでしょう!

 一晩中かかってしまうかもしれません!


「わぁ。まさか、アーロン様がお越しくださるなんて!」


「私だって、コーヒーくらいは飲むよ」


「……お隣の人も?」


「うん。特上のコーヒーを頼む」


「かしこまりました」


 まだ、昼食とするには早い時間帯だ。

 コーヒーを頼んだふたりはスツールに並んで腰掛けた。


───……さっきは軽口で言ったんだけど、

特上コーヒーなんてメニューないよな?


 会話を始める前に念のため、良介がメニューを確かめていると───


「さて、リョースケ。

これで合衆国が懐の広いところだって、わかってくれたかな?」


 先手を取られた。

 確かに多様な人種のみならず、かつて敵対的だった種族とすら手を組めるのだ。

 さらに、ウェイターだってそうだ。


「さっきの人型トカゲ、リザードマン。パヴィートラム地方の現地人で、

かつては人と離れた姿から魔物扱いされてたんだけど……

最終的にコミュニケーションが成立して、同じ旗の下に集う同志になった」


「凄いな。俺のいた世界だったら、どうなってたんだろう……?」


 我々の知る世界は、インディアンをさまざまな手段で迫害して居留地に押し込み。

 古くは南米大陸の現地部族は、文字通りヨーロッパ人に絶滅させられた。


 歴史書を見れば、入植という言葉の次には、大体原住民との衝突がある。


 日本も例外ではない。

 今でこそアイヌはほぼ同化が完了しているが、その背景に和人による攻撃があったのは間違いない。


 外の侵略者は能動的に絶滅させている側のくせに、平気で他人の歴史を悪用してくるからタチが悪いが───


「別に、リョースケの世界は特別野蛮ってわけじゃないよ。

姿が違う、文化が気に入らない。そんなノリで滅ぼされた種族は、

この世界にいくらでもいる。それこそ、耳長は過去にそれをした側だ」


 それでも、その歴史を乗り越えて今がある。

 異世界から来た人間を受け入れるくらい、わけはない。

 エラはそう言いたいのだろう。


「まだ、俺のこと合衆国に引き込みたい?」


「まだ、じゃない。ずっとだよ」


「参ったな……」


 エラは幕府の言う、堅石の鏡を用いた帰還を信用していない。

 自分たちの技術に賭けた方がいいと、過去に語っていた。


 良介からすればどちらも怪しいことに変わりはないが───

 ここまで来てしまったのだから、意見を翻す気はなかった。


「なあ、エラちゃん。俺は……」


 不意に、気配を感じた。

 その方向へ視線をやるのと同時に───


 パシャリ。

 射影機のシャッターが切られた。


「ああっ、ちょっとこっち見ないでくださいよ!

ヤラセ感半端ないじゃないですか!」


 そこにいたのは───少女だろう。

 10代くらいの小さな少女が、良介とエラに射影機を向けていたのだ。


 思わず、良介はエラへ視線をやった。


「さあ? 多分、葦原(このへん)のジャーナリストじゃないかな」


 その意味ありげな笑みから、嘘ではないと判断出来た。

 こうなる事は目に見えていたけど、敢えて対策はしなかった。

 未必の故意、というやつだ。


 良介は現状、葦原でも馬の骨といったところ。

 幕府軍で何をしているのか、報道のいち記者が知るはずがないのだから。


 その無名の隣に、合衆国建国の英雄がいるのだ。


 葦原人のジャーナリストだとしても、エラを知っていれば注目するに決まってる。

 世界博覧会会場という晴れの場のレストランで、建国の英雄が男と食事をしているのだ。


 明日の一面を飾りかねない、一大スキャンダルだ。

 しかしエラの立場から見れば、逃げ道をひとつ閉ざしたといったところか。


「まったく……ここで外堀を埋めてくるとはね」


「ごめんね」


 エラはそう言って、ウィンクした。

 腹立たしい事に、とても可愛い。


「さぁて、バレちゃった事だし……ちょっとお話聞かせてもらいますよ」


「マジ?」


 ジャーナリストの少女は宣言通り、エラの隣に座った。

 あくまで良介は馬の骨であり、メインはエラの方なのだ。


「あなたはもう帰っていいよ」


「まままっ、ここまで来たんですからぁ、お話くらい聞かせてくださいよ」


「はぁ……セキュリティ呼ぶよ?」


「ちょっとだけ! 話題ひとつだけですから!

せっかくのデートに、物騒な人挟みたくないでしょ?」


「こ、このガキ……」


 どうやらエラは、スキャンダルをすっぱ抜くジャーナリストが図々しい可能性を考慮していなかったらしい。

 少しだけ同情したくなる気もするが───これは全部彼女の招いた事態である。


「策士策に溺れる、だな」


「……わかった。ひとつだけね」


「やったっ……! じゃあ、お聞きします。

幕府軍が擁する畏怖の魔王……チェイス。

目撃情報では、彼の乗る機体は修理や改装を施して外観が変わっている。

幕府の能力ではまず無理、しかし合衆国ならば……

実際のところ、どうなんですかっ⁈」


 素直に、良介は驚いていた。

 スキャンダルを追う、週刊誌じみた記者ならば相応に俗っぽい事を聞くと思っていた。


 しかし貴重なインタビューに、そんなミリオタしか喜ばないような話題を選ぶとは。

 記者の子を改めて一瞥するも、やはり。

 そっちの方(・・・・・)の気配はしない。


 至って普通の───ちょっと太ももが太い、可愛い女の子である。


「ふんっ」


 ガッ。

 良介の脛に、ハイヒールの踵が叩きつけられた。


「あいたっ」


「あ、ついでにあたしも」


 ゴスっ。

 良介の顎に記者のハイキックが突き刺さった。

 ミニスカートのような格好だったが、現代的にスパッツのようなものを履いていた。


「おふっ、でもこれはこれで……!」


「ギャーッ!」


 今度は鳩尾にキックが叩き込まれた。

 トドメに、エラからゴミを見るような視線が向けられた。


「油断も隙も、節操もない……」


「スケベニンゲンは置いておいて、どうでしょうっ⁉︎」


「うーん……」


 冗談はさておき、エラは良介へ視線をやった。

 どこまで話してやるか、それを考えていたのだろう。


 エラは合衆国の要人だ。

 しかしここは、あくまで葦原政府の支配下にある土地。

 現地報道に、どこまで話していいのやら。


「これ、私が気安く話せる話題じゃない……それは、わかってるね?」


「ええ! ですから、ちょっとボカした感じでもいいですよ!」


「じゃあ、ふたつ教えてあげる……合衆国の技術力は、伊達じゃない。

そして、畏怖の魔王は機体を選ばない」


「そ、それって……!」


「そこまで。これ以上は、命の覚悟をしてもらうよ」


 先ほどまで冗談を言い合っていた関係だが、これは本気だ。

 国家の、軍事の機密に迫ると言うのは、そういうことなのだ。


「せ、せめて畏怖の魔王……蒼い機体のパイロットがどんな人なのか……!」


 残念ながら、彼女は食い下がってしまった。

 幸いな事に合衆国は嗅ぎ回らせた記者を暗殺するような真似はしない。


 エラの視線で待機していた合衆国の警備員が動き出し、記者が持っていた射影機を取り上げた。


「あっ! そっ、それは大事なもの!」


「外までお連れして。射影機は壊さないよう、丁重に扱うように」


「はい、アーロン様」


「あー、その心遣い痛み入り……じゃなくてぇっ! 温情を〜!」


 そうして、記者の女の子はパビリオンの外へ連れ出されていった。

 この後は世博のセキュリティスタッフに引き渡されるのだろう。


「本人を前にして、どんな人なのか……だって?」


「さすがに、それを話されたら困るな」


 良介の素性は、政府・幕府共に一握りの人間しか知らない。

 政府の最高指導者は知らなかったようだが───


 それはともかく、彰義隊の面々はしっかりご存知な訳で。


 このごく僅かな人間が、このスキャンダルの真の意味を知るだけで、良介の行動(ナンパ)は著しく制限されるだろう。


「あなたみたいな浮気性は、こっちから掴みに行かないと逃げそうだし」


「……俺って、付き合うと決めたら一途になるんだぜ?」


「決めたら、だろう? それじゃあ、私は満足出来ないからね。

それに私のお気に入りだと知れば、アシハラ・ガバメントも少しは行動(あんさつ)を躊躇う」


「だと、いいんだけどさ……」


 ここに来て、エラはかなり強引に距離を詰めようと考えたらしい。

 良介には、うまく行くようには思えなかったが───


「証明するよ……私は、リョースケに命を助けられただけでなく、

心まで取られちゃったんだからさ」


 そう言って、彼女は良介に手を重ねた。

 血管からは、激しい脈動を感じた。


 この愛の表現を、受け止めてしまっていいのか。

 良介には、わからなかった。

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