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F-2無双(仮)  作者: 穀潰之熊
第三部 世博停戦

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103/122

97 世博展示飛行「THE DEMON LORD’s CIRCUS」

央暦1970年3月15日

長坂 葦原世界博覧会会場 葦原政府パビリオン

葦原国大和幕府空軍第1航空団『彰義隊』第1中隊『ペンギン』

志村“Chase”良介二等空尉


 お、おのれは頭の病気ではないのか?

 あそこまで散々、政府軍の人員をぶっ殺して政府のメンツを損ねておいて。

 その政府が出展しているパビリオンに、単独で入るとは。


「頭の病気は……否定しにくいからやめろ」


 しかし私は───うんわかった、やめる。

 だが今回は悪いことは言わない、考え直せ。


「やだよ……幕府軍にいると、葦原政府の言い分ってのがよく聞こえてこない。

俺は前から、こういうのが気に入らなかったんだ」


 ならもっとこう、あるだろう───手段と場所が!

 よりにもよって、メンツの象徴とも呼べるパビリオンへ行く必要はない!


「なあに、こんな場所で大それた真似はしないだろうさ」


 千代がお前を殺しに来たあの出会い、忘れたのか?

 彼女はお前の容姿を知っていた、面はもう政府側に割れているのだぞ。


「だったら、入場待ちの列は絶好の機会だっただろうさ……

仕掛けないのなら、世博会場を血で汚したくないんだろう」


 それは───自分で自分を論破するんじゃない。


 わかった、お前の言葉に理があることを認めよう。

 しかしだからといって、素性が露呈するのはよろしくない。

 何かしらの変装をするべきだ。


「眼鏡とつけ髭は持って来てないぞ」


 ならば───態度だ。

 政府側の情報網ならば、お前がどういう人間かは掴んでいるはず。


 普段とは全く違う人間を装って、別人になりすますのだ。


「無茶言うなよ、俺は俺だよ」


 お前は、私だ。

 政府パビリオンにいる間、私が表に出て態度を変装しよう。


「……出来るの? そんなこと」


 到底出来るとは思えないんだけど……


「出来た。やってみるものだな」


 うーん……俺って、多重人格なのかな?


「その一種という見方も出来る。あいつもいることだからな───

しかし、なんか安っぽいので私は嫌だ」


 嫌で決まる事じゃないだろ、そういうのは……

 おっと、なんて言ってる間に短い列が終わりそうだぞ。


「チケットを拝見します」


「ええ、どうぞ」


 と、俺はモギリの男にとくべつチケットを提示した。

 すると、奴の視線がわずかに鋭くなった。


───えっ、なんで……?


 そりゃ、そのチケットに幕府側のVIPって書いてあるじゃないか。

 一発で幕府側の要人だって思われるぞ?


───ば、ばかぁ……なんでそんなものを渡すんだぁっ⁈


 そりゃ、幕府側のVIPが用意したチケットだし……

 まあそれは置いておいて、やる事はやるらしい。


「ようこそ、葦原(・・)館へ」


「ど、どうも」


 俺らこそが、本当の葦原なんだぜ。

 そう言わんばかりに言葉を強調したモギリは、俺に道を開けた。


 薄暗くて狭い通路に、何事か書かれた看板がライトアップされている。

 そのひとつに目を通す。


『よくわかる葦原政府の功績!

我々葦原政府は暴政を働く大和幕府を追放し、

現代的かつ文明的な社会を葦原にもたらしました!』


 非武装の民間機を停戦破りで攻撃する軍隊を持つ国が、現代的かつ文明的ねぇ。

 ま、いいだろう。


 また少し通路を歩いて、俺は次の看板へと向かった。

 今度はおっさんのどデカい写真も併設された看板だ。


『葦原を真の自由と民主主義に導いた最高神祇伯(じんぎはく)

伊邪哭(いざなき)國男(くにお)


 このなんか凄い名前を見て思い出した。

 本州の西部に位置する若櫻(わかざくら)藩出身で、葦原政府の創設者にして最高指導者となっている野郎だ。


 顔を見るのは初めてだ。

 記憶に残らない感じの、印象が薄いタイプじゃないからな。


「───この男が、葦原政府の指導者というわけだ。

若干色黒で体格が良く、容姿も悪くはない。

気のいい大衆受けする指導者の典型といったところだが───

顔に貼り付いた笑みに、良介の勘が警告を発している」


 うーん、なんかすごく言葉にしにくいんだけど……

 違和感があるんだよなぁ、この笑顔。


「覚えていないのか? 昔、らぐな院に浄水器を売りつけにきた営業マン。

マルチ系の業者だったが、あの営業がこんな笑みをしていた」


 ちょっと矛盾したとこ突っついてやったら、『こんなの真に受ける方が悪いんだ』って逆ギレしたあいつか。

 そういえば、こんな感じにニタニタしてやがったな。


 写真にちょっとした経歴も併記されているな。

 もちろん諸外国へのアピールのために、リールランド語も添えて。

 うーんと、なになに……


央暦1949年。

若櫻藩鳥鹿に生まれ、その武芸と勉学の才から若櫻の伊邪哭國男と評される。

名声が藩主にまで伝わると、噂通りの実力に感心した藩主は

さらなる見分を広げるため武揚の学問所へ入学させた。


学問所にて多くを学びながらも、幕府と取引のある

リールランド貿易公社の人間から国際学を習得。

その結果、幕府という体制の限界を知り、幸利戦争で確信に至る。


若櫻藩に帰郷後、葦原の民主主義を確立させるため政治活動を開始。

卑劣な幕府の妨害に遭いながらも、幕府討伐に成功する。


 見た目以上に若い……老け顔だな。

 それよりもこいつの経歴、なんか怪しげな本の著者みたいだぞ。


「ただそれだけで評価を下すのは拙速というものだ。

もう少し、展示を見てみよう───警戒は欠かさずに」


 あんまり信用しちゃいけない感じなのがトップなのはわかった。

 また俺は通路を歩いて、次の灯りに照らされた看板を見る。


『葦原を変える、3つの政策!

五民平等!

士農工商匪、幕府の作り出した前時代的な身分制度は葦原から消え去ります!

武士が他を虐げる事はなくなり、葦原人全てが平等で豊かな生活に!』


「まともな政策に見える───が、残念ながらその反証を良介は知っている」


 少なくとも葦原内戦じゃ、千代ちゃんみたいな無理矢理忍者にさせられた子がそのまま使われてる。

 本人は直球で言わなかったけど……やっぱり、本意じゃないんだろうな、あの様子だと。


「そして幕府もまた、その本意ではない仕事をさせ続けている───

正義とは、どこにあるのやら」


 しばらくは目玉政策の説明を続けるつもりらしいな。

 次の看板を見ると……


『葦原を変える、3つの政策!

税の撤廃!

葦原は世界で初めて、税のない社会を実現します!

腐敗した幕府が大好きな中抜きは根絶され、葦原人は安くて高品質な商品をいつでも買えます!』


「素晴らしい政策だ、羨ましい───さて、撤廃した税の補填をどうするのか。

それは、どこに書いてあるのだろうか?」


 見えてるだろ、看板の文字は全部読んだじゃないか。

 次の看板で説明されてなきゃ、この場で話す気はないんじゃないか?


「中身が一文字もない政策説明とは、これ如何に。

───本当に、天下獲った後を考えているのだろうか?」


 考えてたらいいな……

 なんだか俺は、猛烈に嫌な予感がしてきたぞ。


「誠に遺憾ながら、同感だ。最後の看板には───

地図がついているな」


『葦原を変える、3つの政策!

大葦原の奪還!

葦原は元々、大きな国土を持っていました……

しかし無能な幕府は目先の小銭目当てに超帝国や合衆国へ売り渡し、

現在の夷俘・本州・伊予・筑紫の4島だけになってしまいました。

伊邪哭國男最高神祇伯率いる葦原軍は、本来の葦原を取り戻します!』


 で、隣にあるのは葦原の周辺地図。

 葦原を表す赤い領域は、元からある葦原4島……

 さらに大陸にある超帝国沿岸部や、合衆国の離島複数が葦原領扱いされていた。


 うーん、幕府が徹底的に隠蔽してるとかでもないと、これ大嘘だぞ。

 俺もこの世界で結構な量の本を読んできたけど、そんな話は聞いたことがない。


 一応、合衆国の離島とやらは一時期葦原領だった時期はあるらしいけど……

 少なくとも、こんな図を披露する理由にはちょっと弱いな。


「───これを、平和の式典とされる場に展示を?

こんなもの、違法な領有権主張のプロパガンダではないか」


 異世界版大東亜共栄圏……いや、植民地解放って建前は用意してたから未満だ。

 こいつらマジで日本人のぐぎゃーポイントを刺してくるな、おい。


 まあ、あれだ。

 こういうのを主張して、葦原政府ってのは支持を集めて今に至るらしい。


「周辺諸国に警戒されて当然ではないか。

こんな主張、ネットの極まった連中ですら言い出さない」


 あー、これはあれだ。

 情報化社会じゃないから、割と言ったもん勝ちになるんだ。

 訂正出来る知識人の耳に届く前に、訂正しようがないほど広がったら終わりだ。


 幕府も長年権威として君臨してるから、教科書や歴史書も捏造された歴史って事に出来る。

 実際、俺も幕府が情報を隠蔽した結果だって言われても反証を出せない。


「そして奪った側(がいこく)が何を言っても、聞くに値しない嘘───

なるほど、いい勉強になったな。お前の言う通り、来る価値はあった」


 だろ?

 ……俺も、ここまでの収穫があるとは思わなかったけど。


「宗治郎が、葦原を渡すわけにはいかないと言った理由も得心がいく。

間違いなく葦原政府は、極東大戦を引き起こすだろう」


 よかったじゃないか、ついでに玉虫色の政策で出てくる不都合の押し付け先もハッキリした。

 占領した植民地に全部おっ被せる、ナチス式経済政策だ。


「───それで、まだ展示を見るのか?」


 もちろん。

 それはそれとして、他にどんなプロパガンダがあるのか気になってきた。


 というわけで、俺は曲がりくねった通路を進んで……

 今度は狭い通路と打って変わって、広間に出た。


 相変わらず薄暗い事に変わりはないけど、そこは軍事色全開のプロパガンダコーナーだった。

 広間の中央には、戦闘機と馬鹿でかい空飛ぶ船、そして艦艇と歩兵の模型が展示されている。


 どんなしょうもないプロパガンダだと思ってみたけど……

 案外、面白い造形をしてるな。


 戦闘機、これはライトニン……じゃなくて、パニッシュがモデルだな。

 こいつの翼端からは飛行機雲が伸びていて、右翼の雲は地上の歩兵が立ち上がるための杖になってる。


 で、左翼の方は海の艦艇に寄り添う……道しるべかな?


 戦闘機の隣に浮かべられた空飛ぶ船、こいつは多分魔道兵器。

 こいつの後から付け足した感は強く、異質だ。


「とはいえ結局のところ、これは政府軍のプロパガンダだろう」


 確かに、幕府を示す白と黒の旗印が像の一番下に位置してる。

 どれもこれもが破壊されていて、雑というか、作品としての軸がぶれているというか……


 魔道兵器以上に取ってつけた感が強いような気がする。


「しかし───平和の式典に軍隊のアピールを?」


 自慢したくなったんだろうな。

 平和とか国際協調とか、あんまり興味なさそうなトップだし。


 どれどれ、看板にはっと……


『強い葦原軍! 世の悪を祓う義の烈士たち!

魔の軍勢と対峙する政府の軍隊、神機隊をはじめとした』


 っと、なんか気配があるぞ。

 俺は気配の方向を見る。


 すると、明らかに関係者以外立ち入り禁止な扉が開いて……

 ぞろぞろ、ぞろぞろと一般人ちっくな格好の人々が部屋に入って来た。


「ま、まずいのではないか───?」


 まさか、こいつらみんな素人だよ。

 ほら、目に生気がないし、歩き方もだらしない。


 プロの変装なら、もうちょっとしゃっきりしてる。


「では、この集団は一体───?」


 それは……もうちょっと状況を静観すれば、わかるんじゃない?

 ただ、居合わせた人も混乱している辺り、予定されてた行事じゃないっぽいな。


 関係者の集団は部屋中に広がると、各々が展示へと視線をやった。

 俺の隣にも、何人かやって来てプロパガンダの像を眺め始める。


 そいつ(無論男)と視線が合うと、少しだけ俺を眺めて像に視線を戻した。

 やっぱり、警備関係者って感じではないな。


 俺がそう確信してから少し経つと、順路から早足で歩く異質な気配。


「すぐにいらっしゃるぞ、準備しろ!」


 その掛け声と同時に、周囲の人間の態度は一変した。


「わぁ、凄い展示!」


「國男様カッコいい!」


「政府あっての葦原だな!」


 明らかに他人に聞かせるための呟きで周囲が溢れ、生気のなかった連中の目がぱあっと輝きだした。

 まるで自分から喜び勇んで、このパビリオンへやって来たかのように。


「な、なんだぁっ……?」


 とりあえず、合わせておいた方がいいんじゃないか?


「う、うーん……葦原に相応しい展示だな!」


 何だかよくわからんうちに、それっぽく振舞っていると……

 悠然と歩く、パビリオンの大きさに見合わぬ集団の気配。


 彼らがやって来る通路へ視線をやると。


「おおっ! 伊邪哭國男最高神祇伯!」


「すごーい! 本物だぁっ」


 その色黒の姿は、俺がさっき写真で目にしたのと同一人物だった。

 先ほどご紹介に預かっていた通り、葦原政府の意思決定機関である神祇官。

 そのトップである、伊邪哭國男最高神祇伯だ。


 書くのも読むのも大変な、ややこしい名前をした野郎だぜ。


「しかし、この集団の理由がハッキリしたな」


 ああ。

 この人ら、サクラだ。


 大方、超お偉いさんが視察に来るってのに、ガラ空きなのはまずいって判断が働いたんだろう。

 展示といい、こういう仕草といい……さすが独裁体制って感じだぞ。


「ありがとう、最高神祇伯!」


「このまま大きな葦原を取り戻して!」


「やあやあ、どうもどうも……遠くからご足労頂き、ありがとうございます」


 國男は部屋に来て早々、一礼すると部屋の中央……

 つまり、俺のすぐそばまで歩み寄った。


「わぁっ……!」


「ああ、これ……これは僕が、自らの手で造ったんですよ」


 と、國男は背後に侍らせている記者やカメラに向けて言った。

 これまたわかりやすく、周囲が感心してますよーと言わんばかりの声を上げた。


 お、人だかりの中に美人さんがいるぞ。

 なんか、軍人っぽい格好してるけど……


───バカっ、それよりも國男がこっちを見ているぞっ!


 カメラから像へ視線を戻し、國男は俺とさっき目が合った男。

 数セット、交互に見渡すと……俺に向き直った。


「どうです? この像」


───えっ、私に?


 草。

 多分、台本だと隣の奴が答える予定だったんだろうな。

 あいつは口をパクパクして、カメラより遠くにいる奴と視線を交わしてるし。


───草を生やす余地はどこにもない! 他人事(ひとごと)みたいに言いやがって───

どっ、どうするんだあっ⁈


 そりゃ、シカトこくわけにもいかないじゃないか。

 答えなよ。

 無理なら、俺が表に出てインタビュー受けても構わないけど?


───ま、待て。まて、待て。私が、話そう。

お前が出るとロクなことにならん。


 ひと呼吸置いて、國男を見上げる(・・・・)


 身長は見た目通り高く、180センチくらいかな?

 俺よりも一回り大きく、顔は写真通り。

 どうやら、こいつに画像加工技術は必要ないらしい。


 しかし、あの気味の悪い笑みはそのまま。

 本能が嫌悪感を発する、不気味なスマイル。


 確か生まれは1949年だから、まだ21歳。

 俺はもちろん、あくりちゃんよりも年下らしいな。

 悪い意味で、そうは思えない。


 正直相手するのは、ご容赦願いたかったけど……

 俺は口を開いた。


「ええ、実に素晴らしい───造形だ」


 最後に飛び出そうになったプロパガンダという言葉を肺に押し込み、無難なコメントを残す。

 端的な言葉だったけど、彫刻家様は気をよくしたらしい。


「でしょう? 特にこれ、神機隊の飛行機をモデルにしたんですけど、

細部までこだわったんです」


 本人がそう言うだけあって、パニッシュの造形はいい感じだ。

 いや、俺も戦闘中に遠くから見ただけで、間近に見た事ないから細かい造形は知らないんだけど。


 でも、遠くから見たパニッシュという意味ではいい出来だと思う。


「なるほど……実に、よく出来ている。

翼端から伸びる飛行機雲が、陸の歩兵が立ち上がる杖になっている造形が見事だ。

空の支援によって前進する助けを得る歩兵たち、といった趣旨でしょうか?」


「……! そっ、そうっ! そうなんですっ!

すごい、それに気づいてくれたの、あなた初めてですよっ!」


 あの気色の悪い笑みが、変質したような……?

 もっと素直で、年齢相応の若々しい屈託のない笑顔。


「神機隊は、その活躍で空のみならず、陸や海の兵たちの支えにもなった……

僕は、彼らのあの飛び方を、この像に込めたんですよっ!」


 その言葉には、今までのような胡散臭さはなく、心の奥底から出ているように聞こえた。

 といっても、老獪(ろうかい)な政治家はそのくらいやってのけそうだけど。


「ありがとうっ!」


 感極まった様子の國男は、俺に手を差し伸べた。


───え、閲覧料でも要求されているのだろうか?


 おい、俺のボケ潰しやめろ。

 どう見ても握手を求められているじゃないか。


 でも……確かに、俺が握手していいのかな?

 俺はこいつのメンツを現在進行形で潰してるっていうのに。


───では、払いのければいいのか?


 あのなぁ、常識的に考えてみろよ?

 そういう態度は俺様の流儀的にも、あと命的にも論外だ。


 というわけで、俺は差し出された手を握り締めた。

 國男が結構な圧力で握り返してきたので、同じくらい強く握り返した。


「さ、最高神祇伯。そろそろ、次へ行かないと……」


 秘書っぽい印象の男が囁くと、國男はカメラの死角で顔を怒りに歪めた。

 この暴力性と獣性を想起させる表情で、俺は改めてこの男を思い出した。


 大量の首を要求して、現場の兵にも無茶を強いた。

 あの独裁体制の長である、という事実を。


「そこの方。ぜひ、お名前を……」


「な、名前っ?」


 これはよくある、政治家が民衆の声を聞いているというアピールだろう。

 今回の茶番を締めくくるトリといったところか。


 さすがの俺様でも、本名を名乗るべきじゃないってのはわかるぞ。

 だから、別の名前……チェイスは論外だから……


「りゅ、りゅうのすけ。初芝(はつしば)竜之介(りゅうのすけ)……」


 なっ、なんで近藤先生の名前を出すんだ?

 そもそも、初芝って誰だよ?


───らぐな院院長が入院していた海原病院の看護師だったはずだ。


 そんなことよく覚えてるな、俺。


「竜之介さんっ! 今日は本当にありがとうっ」


 がっちりと握手を交わすと、國男は報道を伴って部屋の違う展示へ向かっていった。


 そして……俺に向かって来る人間が数人。

 そのうちのひとりは、俺が入ってくるときに応対したモギリだ。


「に、にげろぉっ」


 いや、俺がチェイスだってバレても、命までは……

 わ、わからないな。

 逃げようっ。


 俺は展示を無視して足早にパビリオンを歩き……

 追いつかれることなく、外の衆目まで脱出に成功した。


 さすがにここまで来て、いきなり拘束はしないだろう。


「ふぅ───私はただ、パビリオンに入っただけなのに。

なぜこのような事に巻き込まれるのか?」


 俺も想定外だ……命懸けになるなら、相手が女の子だったらよかったのに。


「相手が男でよかった。女の子と見たら、お前は制御権を乗っ取りそうだ───」


 あっ、ベンチに女の子が座ってるぞ。


「ばっ、まっ、待てぇっ───!」


 っと、よく見たらこの子……いや、多分同年代か年上だな。

 さっき國男の後を歩いてた軍人じゃないか。


 くっくっく、ここはひとつ、久々にナンパと行こうではないか。

 異世界の世界博覧会でのナンパだ……腕が鳴るぜ。


───やめろオオオ。


 俺は彼女のもとに歩み寄ると、笑みを浮かべた。


「失礼、そこの方。先ほど、お会いしましたよね?」


 ゆっくりと、艶やかな黒髪を持つ頭が俺を向いた。

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