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F-2無双(仮)  作者: 穀潰之熊
第三部 世博停戦

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102/121

96 世博展示飛行「THE DEMON LORD’s CIRCUS」

央暦1970年3月15日

長坂 万里(ばんり)山 葦原世界博覧会会場

葦原国大和幕府空軍第1航空団『彰義隊』第1中隊『ペンギン』

志村“Chase”良介二等空尉


 葦原は我々の知る、西暦1960年代後半から70年代の日本に極めて等しい景観を持つ地域である。

 しかし、やはり違う。


 その違いとして、真っ先に上げられるのが人口だろう。

 日本で少子高齢化が人口数に表れた西暦2000年代が比較対象ではない。


 葦原の総人口は、なんと1億3千万人。

 本来葦原の持っていた国土自体は日本と大差なかった。

 しかし中葦原の消滅によって葦原湾が生じた結果、日本より大きく目減りし、居住可能な平地はさらに少なくなったという諸条件があってもなお、だ。


 これは人口のピークに達していた西暦2008年の日本でも届かなかった数だ。


 この秘密には、我々の知らない技術あるいは魔法があった。

 良介もお世話になっている、錬金術である。


 錬金術は術者次第で鉄屑を黄金に変えられる技術だ。

 これを応用すれば水と可燃物で液体燃料を生産でき、鉱物は金銀プラチナどころかレアアースまでなんでもござれ。

 さらにある程度の成形すら、錬成の段階で可能であった。


 もちろんこの世界で知られていない物質は錬成しようがないが───


 それでも我が地球のあらゆる人々が、喉どころかチェストバスターして手を伸ばすほど、錬金術を欲しがる事だろう。


「うーん、マジでインチキ……」


 しかしやはり、何事にも代償が存在する。


 錬金術とて万能ではなく、それなりの代物を錬成しようとするとそこそこの素材が必要となる。

 そこそこの素材ともなれば、その辺の水や植物で錬成が可能だ。

 この流れが錬金術師が数名勤務する町工場レベルであれば、少々近場の山や海が荒れる程度だろう。


 では錬金術が広まり、規格化され、そこに工業という凡人も参加可能な技術が加われば?

 通常では得られない高度な素材を用いた機械や、有用な化学物質が広まり、人々の生活が豊かになる。


 実際に葦原は錬金術の恩恵を受け、我々では信じられないほどの早さで化学肥料と農薬を手に入れていた。

 天災による不作と品種改良が未熟な作物を除けば、成長不足や虫どもの横取りもない食料供給だ。

 錬金術というブレイクスルーの結果、葦原の人口は央暦1820年代で6000万人を超えていた。


 どおりで葦原の歴史に度々、棄民やら開拓やらの話題が出て来るわけである。

 人口爆発が地球よりもずっと早く、そして頻繁に起きていたのだ。


 情報化や人権については未熟なため、妙な男女論の分断がなく、婚姻の自由化も乏しく。

 人口減になる要素は、葦原含めこの世界には多くないのだ。


 古い時代、少子高齢化など誰の頭にもなかった少し前の時代。

 あの頃のSFで取り沙汰された人口爆発による社会崩壊の危機を、この世界は抱えているわけだ。


 これはあくまで、ポジティブな代償だ。

 ネガティブな代償は、我々もよく知るものだ。


 そこそこの素材を得るため、その辺の水や植物が乱獲された。

 使い物になる水源は片っ端から吸い上げられ、適当な植物は相当つまらない雑草でもない限り根こそぎ引き抜かれ。

 世界中で砂漠化の兆候が現れていた。


 この世界には資源管理の概念がまともに育っていないのだ。


 さらに錬金術における錬成では、100%純粋な狙ったものが出るわけではない。

 失敗してほぼ全てが無駄になる可能性はもちろん、成功しても使い物にならない砂のようなゴミも多少生じる。

 リサイクルの手段はもちろん、廃棄の手段も各国ロクに定めていなかった。


 さらに進んだ工業化によって、世界中で工場が稼働し。

 出てきたゴミとかしらねー、その辺にポイしなさいと言わんばかりに、廃棄物は山へ海へ空へと棄てられ。

 環境汚染は誰もが考えるも、どうしようもないほどに進行していた。


「もう慣れちゃったけど、この世界ってずっと煙っぽいんだよな……

みんなプカプカ吹かしてる煙草とは無関係に」


 これは工業から遠く離れた夷俘島でも例外ではなかった。

 それほどまでに、汚染された空気が蔓延しているのだ。


 この環境を浄化する浄化剤なるものも、土壌や水質向けに存在する。

 存在はするが、浄化剤錬成のために高度な素材を多く要するというオチがあり。


 錬金術も万能ではない、という言葉が頭に浮かぶ。

 特殊な技術というブレイクスルーがあっても、理想郷への道程によく知る課題が立ち塞がる。


 それがこの央暦という世界であった。


「俺たちのいた世界も他人のこと言えないけど……

この世界も、かなり大変だなぁ」


 こればかりは私も、良介のように他人事を決め込むより他ない。

 今の良介は幕府軍に参加する、戦働きしか能のない一兵士に過ぎないのだから。

 それも、いずれ帰らなくてはならない無責任な立ち位置だ。


 深入りしたところで、口に出来る解決策は彼らにとってこう聞こえるだろう。

 その生活を捨てて、錬金術や工業のない世界に戻れ、と。

 ロクでもないことにしかならない。


「でも、世界博覧会には今後を考えてるって展示もあるみたいだな……」


 話を現状に戻すとしようか。

 良介は今、ちゃんと許可を得て長坂空港を離れ───

 長坂万里山に建設された、世界博覧会会場までやって来ていたのだ。


 今は開場待ちの待機列に並んでいる真っ最中だ。


「開会初日だけあって、凄い人の数だ……地面が3分、人が7分ってところか?」


 アホみてーな人口をしているこの世界の、極東の辺境扱いとはいえ地域国家の都市で行われる国際イベントなのだ。

 鎖国の都合上、客の大多数が葦原人となっていたが、それでも日本では見たことのないような人波が形成されていた。


「お盆と年末のイベントよりも凄いな。でも、酷いのは……」


 ぎゅううううっ!

 一歩進むたびに、そこら中でおしくらまんじゅうのような押し合いが発生した。

 この葦原人どもは、他人を押し除けることに何の躊躇いも持たないのだ。


「ブツブツうるせぇんだよ、こらっ」


 と、良介の独り言に隣のおやぢがキレた。


「とぅっ、専守防衛っ」


 拳を振り上げて向けて来たため、良介は肘を畳んで伸ばし、おやぢの顎に叩きつけた。


「はうあっ」


 あっ、一撃で伸したっ。

 気を失ったおやぢに気づいた周囲は、これ幸いとばかりに。


「よーし、ひとり分空いたぞっ、外に放り出せっ」


「そーれっ、そーれっ」


 群衆がなんか一丸となっておやぢを掲げると、こんな時ばかり協力して流していき───


「よいしょぉ!」


 最終的に列の外へ放り出した。

 どうやら類似する揉め事は所々で起きているらしく、倒れ伏す人影はひとつふたつではなかった。


「こわ……」


「げへへ、列で揉め事起こして伸されるような輩は、こうなって当然なのさ」


「うーん、現代人が失った能動(アグレッシブ)だ」


 これをアグレッシブで片付けるべきなのか?

 ジジイからチビに至るまで、武士通り越してチンピラメンタルと考えられるが。


 聴覚が遥か前方のゲートから、何らかの拡声器を介した声を捉えた。


 志村良介はスーパーナンパ人間である。

 通常なら音としか認識出来ない距離でも、女の子の声は正確に聞き取ることができる。


「これより、入場を開始します! 整列し、和を乱さぬよう進んでくださいっ!」


 腕時計を一瞥すると、午前9時ちょうど。

 開場時間である。


「うおおおおっ、世博開場だ、いっけぇっ!」


「どわわっ!」


 開場の知らせが列に届くと、猛烈な勢いで人が前へ前へと歩き出した。

 良介はイキっているが、結局現代日本人。

 その異様な熱気に押されて、されるがままに前進するしかなかった。


───な、なんとか内臓は圧迫されてないけど……

一歩間違えたら死人が出るぞっ⁈


 こんなところで、こんな死に方をしては死んでも死にきれない。

 なんとか押し潰されないように、後方からの圧力を押し留め、時にかわし。


 2時間後、ようやく良介は入場ゲートまで辿り着いた。


「つ、ついた……押される割に進む距離短過ぎだろ」


「チケットを拝見します」


 ゲートに立つモギリは、人ではなかった。

 なんか人間の四肢が生えた魚、マンボウのような───

 中学生が悪ふざけで教科書に書き込む落書きのような生物が、モギリをしているのだ。


「は、はい」


「確認しました。ようこそ、葦原世界博覧会へ!」


「どうも……」


 馬鹿みたいな外観のくせに、態度は丁寧である。

 葦原にはごく少数だが、いわゆる亜人と呼ばれる存在がいることは確認していた。

 しかしまさか、こんなのもいたとは。


「……もっとこう、可愛い女の子を期待してたんだけどな。

例えば、ウマ(・・)の耳と尻尾とか」


 ダメだ、お前がそういった女の子と会うとロクなことにならん。


「な、なんだよロクなことって」


 規約違反だ。


 それはさておき、世界博覧会だ。

 会場には各国や国際機関のパビリオンが出展している。


 さてさて、宗治郎からは各パビリオンへ出入り可能なとくべつチケットをもらっている。

 最初はどこへ向かう?


「うーん、そうだな……」


 チケットを一瞥すると、顔を上げて入場ゲート周辺を見渡す。

 ゲートの辺りには葦原関係のパビリオンが集中していた。


 すると、ひとつだけ妙に人気のないパビリオンが映っ───

 ま、待て、正気かお前は?


「別にいいじゃないか、ダメって言われてないし」


 そういう問題ではないだろう、だってそこは───

 不倶戴天(ふぐたいてん)の天敵と敵視されている、葦原政府のパビリオンではないか───!

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