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F-2無双(仮)  作者: 穀潰之熊
第三部 世博停戦

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95 世博展示飛行「THE DEMON LORD’s CIRCUS」

央暦1970年3月14日

長坂 長坂空港

葦原国大和幕府空軍第1航空団『彰義隊』第1中隊『ペンギン』

志村“Chase”良介二等空尉


 あの戦いから一夜が明け。

 良介らペンギン隊の面々は宿から空港に駐機している機体のもとへ戻って来た。


 先頭を歩き、ペンギン隊を搭乗機へ案内する飯釜に良介は尋ねた。


「で、飯釜さん。開会式の展示飛行ってどうなるの?」


「端的に述べれば、開会そのものに変更はない。

だが開会式及び展示飛行は4日後に延期となった。

其方らの機体の修理整備に時間が要るからな」


 あの戦闘で、良介の乗るF-2は三式弾の至近弾を受けた。

 被弾したというほどの被害はなかったが、それでも中身はどうなっているのかは、蓋を開いて確かめる必要があった。

 民間の業者は門外漢、停戦中とはいえ敵である政府軍の整備など問題外。


 故に、呼び寄せた斗米基地整備隊によるオーバーホールは必須だった。


「がああああっ、※◇■◇◆!」


「あー、◇◆、◇◆、◇◆……」


 というわけで、機材ごと突然呼び出された上に長時間飛行を経て不機嫌な整備隊は、文面に残せないほどの悪態をつきながらペンギン隊各機及び、御料機の整備点検を行っていた。


「うーん、現場ではとんでもなく汚い言葉が飛び交っている……」


「そりゃ、本来の現場放り出してとんでもない案件やらされてるわけだしな」


 色々な意味で拒否できないのもまた、彼らの苛立ちを助長していることだろう。

 整備の経験もあるボスは、斗米基地整備隊の面々に同情的な視線を向けていた。


 慌ただしい現場だが、良介も自分の仕事をしなくてはならない。

 いかにも機嫌が悪そうで近づきがたい様子の機付長に、良介は歩み寄った。


「よっ、機付長。565号の調子はどう?」


「……ああ、一つ言わせてもらう。お前、よくもまあこいつ降ろせたな?」


 機付長の手渡した書類には、F-2の損傷箇所が羅列されていた。

 良介も、思わず顔が引きつってしまうほどにボロボロである。


「う、うーん。俺もちょっと引いた……」


「ったく。兵装もぎ取られた上に、三式弾の至近弾だぁ?

それに機体負荷も尋常じゃねぇ。主翼は折れる寸前、機関は焦げ付いてやがった」


 燃料ギリギリまで推力増強装置(オーグメンター)を吹かし、ほぼ音速の状態でハイG機動を繰り返したのだ。

 一度の機動に耐えても、二度三度四度五度ともなれば空中分解の危機である。


 エンジンの耐熱性能だって限界はある。

 長時間高出力、オーグメンターの熱に晒されれば、過熱(オーバーヒート)して焦げるどころか融解までしかねない。

 ましてや装備したての三次元推力偏向ノズルは、ほぼ完了しているとはいえ調整中だ。


 ある程度、F-2の部品は調達の目途が立っているとはいえ───


「……用途廃止?」


「そこまでいかないように、何とか持ち直してやる。

ただ! ……一日二日じゃ無理だ。それと合衆国の支援もいる」


 要するに、エラが錬成する部品が必要という事だ。

 相変わらず派手にぶっ壊したものである。


 エラは合衆国ルートで世界博覧会の開会式に参加する予定となっていた。

 彼女も遠からず、この長坂空港までやって来る事だろう。


「っつーわけで、お前の機体はしばらくお預けだ。

支援が着くまでの間は他の機体に集中する。文句言うなよ?」


「もちろん。助かったよ、ありがと……

開会式は4日後に延期らしいけどさ、間に合う?」


「ハッキリ言おう。無理!」


 必要なことだけを告げると、機付長は足早に御料機の方へと向かっていった。


「うーん。そうなると、俺だけお留守番?」


 幕府側の心労が減って何よりではないか。

 肩を怒らせて歩く機付長の背中を見送ると、良介は改めて被害について書かれた書類へ視線をやった。


「……これが自腹だったらと思うと、背中が凍るな」


 イグルベ中隊は、そうらしいな。

 彼らはお前と違って馬鹿みたいな無茶はしないから、その心配はないが。


「そういえば、イグルベの連中もこっちに来てるんだよな?」


 幕府と契約を結んでいるイグルベ傭兵中隊は、報酬さえ積めばいつどんなところでも飛ぶのがウリだ。

 その柔軟さから、幕府からの増援第一弾としてここ長坂空港までやって来ていた。


 視線を周囲に巡らせて───最低限の塗装で、銀色に輝く機体があった。

 その傍らに、あの大柄な黒い肌がある。

 どうやら中隊のメンバーで話し合っている様子だ。


 勘のいい事に、良介の視線に気付いたリックは片手を挙げて会釈した。


 ペンギン隊の他メンバーは、整備隊との会話で忙しそうだ。

 暇つぶしに、良介は彼らの輪の中に歩み寄った。


「よう、イグルベ。悪いね、わざわざ長距離を」


「仕事だからな。それにしても、よくもまあT3を食らって生き延びたもんだ」


 リックは腕を組みながら、素直に称賛した。

 彼らイグルベ中隊もまた、先湊で三式弾の威力を目撃している。

 そのうえ脱出した搭乗員も、あの破壊力で犠牲になっていた。


「あれは本当に運が良かった。

やらなかったら、敵機にやられてたけど」


「まったく、賭けに強い奴だ。カジノへ行くとき一緒に来てくれ。

ひと稼ぎしよう……葦原にカジノってあるのか?」


「ないよ……少なくとも、表向きには」


 一部の神を祀る神社が賭場になっているという話だが───

 良介はそういった手合いと関わり合いになる気はなかった。

 ただでさえ政治や利害関係で迷惑をしているのに、賭博という利害関係バチバチの業界と関わってしまえば、どうなることやら。


「良介」


 声を振り返ると、あくりが背後に。

 どうやら整備隊との話し合いが終わったらしい。


「大助、機体はどうだった?」


「うむ。機体は被弾と負荷で用途廃止寸前、機関もそう何度は飛べない。

しかし逼迫した状況故、仕方がなかっただろうとも言われた」


「被弾してたの⁈ 俺聞いてないんだけど……」


 私も良介の記憶を参照したが、彼女はそんな事は言っていなかった。

 問題なく任務をこなしていたため、全く気付けなかったのだ。


「実のところ、私も気づいていなかった。

整備によると、破壊した誘導弾の破片が食い込んでいたらしい。

燃料庫に穴が開き、わずかながら流出していたそうだ」


「……言われてみれば、燃料の消耗がちょっと早すぎる気はしてたんだ」


 嘘つけ、特に気にせずスルーしてたくせに。

 本人も自覚出来ていなかったのだから、どうしようもないが。


「よう、ファイターレディー。大変だったな」


「気遣い、感謝する。そちらこそ、遠路はるばるかたじけない」


 あくりは良介で半身を隠しながら、リックらイグルベの面々に一礼した。


───そういう挨拶をするときは、一歩前に出た方がいいんじゃないのか?


 気丈に振舞っているが、どうもあくりは人見知りをするきらいがある。

 イグルベには少々失礼だが、彼女なりにお前に甘えているのだろう。


 こういう癖は、無理矢理矯正してもいい事はない。

 本人が慣れるのを待とう。


「……今回の展示飛行と斗米への帰路で、用途廃止を勧められた」


「そっか……」


 あくりの操るP-104は真田藩空軍時代からの搭乗機だ。


 P-104は50年代の設計のため陳腐化しつつある機体だった。

 さらに中央政府たる幕府空軍はフラネンスとの関係を強化するため、P-86旭光の後継機にP-104ではなくオロールを採用していた。


 では、葦原のそこら中で採用されているP-5C、五式打撃戦闘機は何なのか?

 この辺りには、微妙に複雑な政治がある。


 大和幕府は超帝国冬天軍閥の夷俘島襲撃から、幕府軍単体では航空戦力を中心とした奇襲に対処するのは極めて困難という教訓を得た。

 そこで、各藩軍の空軍戦力の増強・整備の必要性が生じた。


 しかしここで、地方政府を束ねる中央政府という構造の問題が出てくる。


 幕府は藩空軍が高い対地攻撃能力を持つ事態を許容出来なかったのだ。

 理由は極めてシンプル、反乱の際に対応が複雑化するためだ。


 故に、純粋な対空戦闘を考慮した戦闘機には各藩の地理的事情を鑑みて裁量を与えた。

 戦闘機なら、上空を飛ばれてもSAM打ち上げときゃどーにかなる、という具合に。


 しかし対地攻撃機に関しては幕府空軍が採用し、さらにライセンス生産することで知り尽くしているP-5C、五式打撃戦闘機より高性能な機体の導入を禁じた。

 もっとも、この高性能という評価は主観的な部分が大きく、松後藩や北部藩の導入していたP-100サォ・ダールはP-5Cより高性能と見なされなかったようだ。


 そのような経緯を経て真田藩では、ある程度高性能かつ合衆国から安価に調達可能なP-104が、旭光に替わる後継戦闘機として選択肢に上がったのだ。

 もちろん高性能かつ安価という評価は、導入当時の評価。

 1970年となった今では、色々と変わってくることだろう。


 閑話休題。


 真田藩から部品を取り寄せるにしても、葦原で部品を製造しているわけではないので、在庫がなければ結局合衆国からの調達になる。

 その合衆国でも退役が決まっている機体なので、部品製造のラインもほぼ閉ざされていて調達コストが上がる。

 効率が悪いのだ、端的に言えば。


 とはいえ、これは効率の問題ではない。

 長年苦楽を共にした相棒との別れなのだ。


「結局機体は道具に過ぎない……だが、そういう問題ではないよな」


 傭兵であるリック達も、心当たりがあるかのように頷いた。

 彼らが遠いクルーヴィナ連邦の機体をわざわざ乗り続けているのは、完全な別機体の操縦を学んでいる暇がないのが主なのだろうが───

 やはり愛着と言う面も否めないのだろう。


「ああ……私にとって、あの機体は空への入り口だった」


 残念ながら、機械の問題は愛情で解決するとは限らない。

 それほどの強い想いがあったとしても、あの機体は長く飛んではならない。

 機体が墜落した時、傷つくのはパイロットだけとは限らないのだから。


「故に。展示飛行は、あいつが飛ぶ最後の花道とする所存だ」


「最高のフライトにしようぜ」


「ええ」


 思わぬ形で、開会式の展示飛行に重大な意味が加わってしまった。

 開会式延期含め、すべて政府軍急進派のせいなのだが。


「開会式は4日後か……その間、俺たちはどうすればいいんだろう?」


「そんなこと言いつつ、やる事は決まってるように見えるぞ?」


 リックは笑みを浮かべて、良介が小脇に抱える世界博覧会のガイドブックへ視線をやった。

 本当は開会式の後に時間を用意してくれるという話だったが───


「開会式の式典は延期となったが、開会そのものは予定通りと聞いた。

しかし良介、外出が許可されると思っているのか?」


「それは、指揮官に尋ねてみないとな……」


 良介は歩み寄ってくる月代(さかやき)の眩しい男へ視線をやる。

 幕府空軍総裁、松平宗治郎へ。

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