(四)
こんにちは!
まずは小説を最後まで書き切ることが目標なので、小説を載せてモチベをあげていますw
引き続き、よろしくお願いします!
店の名物のサンドイッチが届いても、食べることなく話は続く。この話が終わるまで、食べる事を忘れてしまうほど、心に沁みる内容だったのだ。
「拓巳さんの、お父さんの、ですか?」
「はい、すでに他界してしまったのですが」
これはやはり、聞いてはいけない話だったみたいだ。
「あの、拓巳さん。もし話したくない内容でしたら、話さなくても大丈夫ですよ。すみません、空気の読めないような事をしてしまって」
「いえ、話したいです。——少し、重い話になってしまうかもしれませんが、それでも聞いていただけますか?」
「……拓巳さんが大丈夫なのであれば、聞かせてください」
「ありがとうございます」
そう言って、拓巳さんは話し始める。拓巳さんの家族のこと、幼少期の頃のこと。
「絵描きとして活動していた父は、母の力を借りて生活していました。そこそこ収入はあったものの、家庭を支えるほどのお金は入ってこなかったようです。なので母が昼夜とパートを掛け持ちして働いていました」
伊代子さんの旦那さんの話はあまり聞いた事がなかったので、これにも軽い衝撃を受けた。だからあんなに毎日忙しそうにしていたのか。
「父は絵に夢中で、母は父に夢中でした」
この言葉を聞いて拓巳さんが幼少期にどんな生活をしていたのか、パッと思い浮かんでしまったのが、悲しくなった。
「生活するので精一杯。父と母は、僕が一人でなんとかなってしまう六歳あたりから関心を示さなくなり、僕は一人ぼっちになったと、感じてしまったのです。忙しかったのももちろんあるのでしょうが」
あの息子さんの話ばかりする伊代子さんが、拓巳さんに関心がない? 腑に落ちないというか、あの姿をみると信じられないように思えるが。やはり、表向きだけではわからないものだ。
「僕はそんな中、父と母に関心を示してもらえるよう、テストも、運動も頑張りました。ですが、百点をとっても、徒競走で上位の成績をとっても、振り向いてくれることはありませんでした。その状態が、私が十六になるまで続きます。アルバイトができるようになるまでは、毎日お小遣いを貰って、コンビニやスーパーに出向き、それで食い凌いでいました」
そんな過酷な生活を十年も続けていたなんて、出会った時は思いもよらなかった。
「ですが、父が私に対して一度関心を示してくれるような、そんなことが一瞬だけあった気がしました。絵を描きたいから作業場に来いと言われたんです。その時は雑用でもさせられるのかと思っていたんですが、そうではありませんでした」
その時の拓巳さんの表情が、すこし明るくなり、嬉しそうでもあった。小さい時の記憶を引っ張り出し語る彼が、子供の頃に戻ったような、そんな気がした。
「父は僕を描くつもりで呼んだんです。『そこに座ってじっとしていろ』そう言われたのが、あの頃はとても嬉しかったんです。やっと僕に関心を示してくれた、そう思いました。今思えば、口調はとても荒い父でしたね。——そうやって描いてくれた作品が、あの絵というわけです」
「そうだったのですね……」
言葉が続かない。こんな時、なんと言ったらいいのかわからない。下手に言葉を足しても、いいものが出てくる気がしないので、私は黙り込んでしまう。
「はい。それで、私はその一瞬だけの出来事を、家を出てからもしばらく忘れてしまっていたんです。そしてある時から、母から手紙をもらうようになりました。あの関心がなかった母が、僕に贈り物を送ってきたんです。最初は信じられませんでしたが、心当たりのある事がたくさんあったので、信じることにしました。——二十通目を超えたあたりからの手紙の内容に、父が亡くなったことと、あの時の絵のこと、絵が飾られている美術館があること、その美術館の住所が書いてありました。それで帰れるようになった僕は、あの絵を見にいくことにしたんです。本当に、あの時僕に関心があったのか、あの時父は何を考えて絵を描いていたのか。その事を確かめようと思いました」
そうか、それで知ってあの美術館に出向いていたのか。こう話を聞くと、まるで伊代子さんの関心がお父さんから拓巳さんに移ったように思える。そんなこと、本人が一番感じていることだろうな。手紙を送るようになったのだって……
「……どう、感じていたのですか」
「……」
少し考えているようだった。そんなにすぐ思いつくような感情ではないだろう。
「……正直言うと、わかりませんでした」
——何か、拓巳さんに引っ掛かる感情でもあるのだろうか。一つわからない理由があるとしたら、私と同じように、人を信じる事ができないから、絵を見て何かを感じていても信じたくないと心が拒否をしているのか。そんな悲しい可能性を考えてしまった。
「美術館に入って見た時からずっと考えていました。でも、わかりませんでした。見ればわかると思っていたのですが、うまくいきませんでしたね」
そう言って彼はにこりと笑う。
切ない顔だった。笑っていても、全く笑っていなかった。
「いつかわかる日が来るといいんですがね」
「私も、そう思います」
「そうですね。——黒澤さん、聞いてくれてありがとうございます」
「い、いえいえ、私が一方的に質問責めをしてしまったので、申し訳ないです」
「そんな、いいんですよ、またこうやってお話ししていただければと思います」
「はい、ぜひ」
「あ、黒澤さん、サンドイッチ……」
「……あ」
「あはは、食べましょうか」
彼の笑い声を初めて聞いた。私も嬉しくなった。
こうやって話をしたのも、人の踏み込んだ話を聞いたのも、初めてだ。少し怖かったが、案外簡単に乗り越えられるかもしれない。お喜久さんにも、こうやって相談すればいいのかな。話をした相手が拓巳さんだったから、なんてのもありうる。
サンドイッチはやはり美味しかった。街の外の人が来る気持ちもわかる。またこよう。
「美味しかったですね、また来ましょう」
「はい、とっても美味しかったです。今度来た時は僕がたくさん質問したいですね」
「どんとこいです、なんでも答えますよ」
そう言って私は力瘤を入れて主張する。
そして私たちは店を出て、商店街を通って店に戻ろうとする。そして、商店街の異様な雰囲気に気づくのに、そんなに時間はかからなかった。
——何かものすごく、目線を感じる。なんだろう。どうしてみんなこっちを見ているんだろう。そうして聞こえて来た言葉が、私の不安と緊張を掻き立てる。
「人殺し」
「あの人が?」
「嫌だねえ」
「ここに住まないで欲しいわ」
「華ちゃんが危ないんじゃない?」
「ちょっと、聞こえるわよ」
「陽ちゃん、近づいちゃダメよ」
——人殺しって、誰の事を言ってるの? そんな人、ここにはいないよ、みんな何を言っているのかわからない。そんなの嘘でしょ。
そうして、私は彼の顔を見てしまった。その表情は、暗く、遠くを見つめており、目に光が入っていなかった。
——怖かった。
私はその表情から、本当の事だと、悟ってしまった。
ぐちゃぐちゃな感情を抑え、二人で歩いていく。地獄のような時間だった。彼も気づいている。言われていること。私が気づいたこと。
そんな時間を耐え、ついに店の前に着く。彼は何事もなかったかのように挨拶をし、家に帰っていく。
「今日はありがとうございました。ではまた」
「は、はい、こちらこそ、ありがとうございました」
彼は、どんな気持ちで私と話をしていたのか、どんな事を考えながら、家族の話をしたのだろうか、私のことは、どう見えていたのだろうか。全てがわからなくなった。現実を見たくないがために、早々と自転車を走らせようとする。
「あの、華さん!」
その時、走り出す私を止めるように、誰かの声が聞こえる。
「か、叶ちゃん!」
この子は、竹本叶。この街には珍しい女子大生で、マンションの二〇一号室にお母さんと二人で住んでいる。ス○バが大好き。
「どうしたの? 何かよう?」
「あ、あの、ちょっと、お話があるんですけど、いいですか?」
「……うん、いいよ、場所移動しようか」
「はい」
少し緊張した様子の彼女から、大事な話なのだと察し、店の事務室に案内する。彼女からの大事な話なんて、私にはなんの心当たりもないが、なんだろう。
拓巳さんはこの時どんなことを思っていたんですかね。
書いていて悲しくなります。
自分本位の感情だけで小説を書いているので、人に読んでもらう、面白く読んでもらうことを意識したら、もっと頭を悩ませるのでしょうね。
それではまた!