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(二)

こんにちは!

商店街に不穏な空気が流れ始めます。

前書きってどんな事を書くのか全然わかりません。


なので日記を書こうと思います!

今日もでっかいうんこがでました!

快調です!



 今日もいつものように花を売る。


 昨日に引き続き、雨である。雨はあまり好きじゃない。気分も沈むし、何せよお客さんが少ない。「いいこと」があまりできないのだ。まあ、制作や資材管理、その他諸々で、時間が過ぎるのは早いのだが。


 ランチ終わりどき、遠くの方から甲高い声が聞こえた。

 スーパーから帰って来たであろうおばさま方三人が来たのだ。

 こういう主婦たちを、私はこう呼んでいる。「噂バーズ」と。


 今日はどんな噂話を聞かされるのだろうか。営業中だっていうのに、この話を聞く時間だけは苦手だ。その上雨だ。もう気分は最悪。こんなところでそんなに面白くもない話をたらたら話していないで、早く帰って旦那の帰りを待て、噂バーズよ。


 そんなこと口に出せるはずもないので、営業スマイルで出迎える。


「華ちゃーん! お疲れ様、今日も雨酷いわねえ、お花大丈夫?」

「そうよ華ちゃん、雨に濡れてお花駄目にしないように気をつけるのよ?」


 大きなお世話だ。私は花屋だぞ。誰に向かってアドバイスなんかしているんだ。


「みなさんも雨の中ご苦労様です。お花気をつけないとですね、いつもありがとうございます。」


 営業スマイルキープでその場を乗り切る。私ってやつは思ってもいないことをよくスラスラ言えるな。


「いえいえいいのよそんなこと、気にしないで!」

「あ、ねえそういえば華ちゃん、ちょっと心配してることがあるんだけど」

「そうよそうよ! そうだったわ、これはもうビックニュースよ!」

 始まった、噂パーティー。


「華ちゃんの上のマンションに住んでる人の誰か、——人殺しらしいわよ」


 は?


 ……何を言っているのかわからない。一瞬混乱した。たとえ話のネタがなくなったからといって作り話を持ってきたとしても、作って良いものと悪いものがあるだろう。本当にこの人たちは来る度来る度私を困らせる。


「そうなのよ! 大変でしょ?大事件でしょ⁉︎」

「それは、本当なんですか?こんな平和な街にそんな、上の方々もとっても良い人達ですよ。私もずっと前からこの店でやっていますが、その話は聞いたこともありません……」


 流石に私もバカじゃない。ここに七年もいて、否定しない方がおかしい。もし仮に本当だとして、それを喜んでこの人達と盛り上がって話すような内容ではない。話してはいけない。そもそも、噂バーズの話は、ほとんど誰かが流した嘘だということがわかっている。この人達も長いことここに住めばそのくらいわかるだろうに、一向に釣られては広め、釣られては広めの繰り返しだ。流石に学習してほしい。


「本当なのよ! これだけは、だから華ちゃんが心配だってみんなで話をしていたのよ」

「そうよ、何かあってからじゃ遅いんだから、何か怪しい人がいたら、誰の家でも良いから逃げるのよ」

「この街の看板娘に何かあったら、お喜久さんになんて言われるか」

「そうだ! お喜久さんに相談しなさい! この街ではお喜久さんが一番頼りになるわ」

 その一番頼りになる人もこのマンションに住んでいるんだが。


 お喜久さんこと、桜喜久さんは、この街のお母さん的存在であり、私が来る何十年も前からここの二〇二号室に住んでいる。みんなから慕われており、とても穏やかで静かなおばあちゃんだ。

 そんなお喜久さんが住んでいるこのマンションに人殺しがいると、この人達は言っているのだ。私なんかと話していないで、あなたたちがお喜久さんに相談でもなんでもすれば良いのに。一番頼りになるんだろう?まあ、どうせ嘘だろうが。

 善意で私を心配してくれているのは伝わってくるが、心配の元が嘘まみれなので、もう何も思わない。またやってるよ、その程度だ。

 そんなこと口が滑っても言えないので、作り笑顔で会話を必死に終わらせようとする。


「心配してくれてありがとうございます。お喜久さんに相談してみます。でも、もしその話が本当だとして、気をつけるのは私だけじゃないです。横井さんたちも、気をつけて下さいね。みなさんに何かあったら私も心配なので、何かあったら頼ってくださいね。困った時はお互い様です」

 心配そうな顔は得意だ。この街で過ごすうちに身につけた。

「華ちゃーん! 私たちが絶対守ってみせるわ! 華ちゃんはここにいなくてはいけないんだもの!」

「そうよね! 困った時はお互い様よね! ありがとう華ちゃん!」

「私たちも気をつけるわ、ありがとう!」

「何かあったらうちに来なさいね!」


 そんなことを話しているうちに夕方に差し掛かり、噂バーズも帰っていく。お騒がせな人達だ、本当に。ああ、いけないいけない、仕事を片付けなければ。噂バーズに構っている暇はないんだ。

 一つ気になるのが、あの話が本当だとして、私はその時何を考え、どんな行動ができるのか、わからない。やはり本当にお喜久さんに相談しなけばならないのだろうか。

 人に頼るのは、あまり得意ではない。私が猫をかぶっているせいで、お喜久さんともそんなに深い話をしたことがないし、ただすれ違い様に挨拶をする程度だ。そんなあまり関わりもないやつから急に相談されて、ちゃんと話を聞いてくれるのだろうか。

 私自身、表向きは人と関わっていても、人を信じること自体苦手だから、あのお喜久さんですら、深く関わり裏切られた時の事を考えると怖くなる。だから私はその状況が来ることが少し怖い。


 誰にも頼れない時は、どうすれば良いのだろうか。もし誰かが助けてくれた時、相手にどんなことをすれば良いのだろうか。もし誰かが困っていたら、私はその人を助けられるのだろうか、誰も信じられないのに——    


 そんなことを考えながら、仕事にとりかかる。なんて不安定な日なんだ。しっかりしろ、私。


 考え事をしながら仕事なんて本当はしてはいけないのだが、そのおかげで、時間が経つのが早く感じた。小学生が帰ってくる時間帯になり、一瞬また商店街が騒がしくなる。


 黄色いブーツに黄色い帽子、カラフルな傘を差し、カラフルなランドセルを背負ったちっこい者たちが、水たまりで遊びながら帰ってくる。


「はっけよーい、のこった!」

「もー、やめてよ、水がかかるでしょ。これだから男子は、ねー、渚ちゃん」

「ほんとよねー、どうしてあんなに子供なんだろうね、めいわくしちゃう」

 ほんとに小学生の会話なのだろうか。私が小学生の時はこんな会話してなかったような。いや、案外していたのかもな、女の子の方が大人びているというし。


「渚のやろう、かあちゃんみたいなこと言いやがって、おまえはおれのかあちゃんじゃねーだろうが!」

「耳が痛い! あんたたちがうるさいからいけないんでしょ!」

「ふん! べつにわるさしてないんだからいいだろ!」

「してるじゃないの、わたしたちに水かかってるのよ」

「う、うるせえ! そもそもてめえ、家とおりすぎてるだろ! なんでついてきてるんだよ!」

「ち、違うわよ! あんたたちが悪さしないか見てあげてんじゃないの! べ、別にあんたと一緒に帰りたいとか、そんなんじゃないんだからね!」


 うわあ。


「お、おまえ、恥ずかしいこと言うなよ!」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」

 その他の傍観者を置いて、二人して走っていってしまった。店の前でどんな恋愛ストーリーを繰り広げているんだ。

 このピュアピュアキッズのお陰で、残された傍観者たちの気持ちが今わかった。例えるならば、これ、おまえにやるよ、喉、乾いてんだろと言われ嬉しかったのに、あと数ミリしか残っていないペットボトルの飲みカスを渡された時と同じ感情だ。

 まあ、不安定だった日を面白い日にしてくれてありがとう、小学生たちよ。

 

 小学生たちがゾロゾロ帰っていく中、閉店の時間に差し掛かる。

 閉店作業に差し掛かって十分ほど立った後、花を店の中に入れるため、外に出た時、思いもよらぬ人が端の方で花を見ていた。


 美術館にいた青年だ。


 ——驚いた。こんなところで出会うとは。会いたいなと思った次の日に叶うなんて、何かドッキリでも仕掛けてあるのか?いやいや、こんなちっさい街でそんなテレビ番組みたいなことあるわけがない。冷静に考えよう。まず彼はここの街の人間で、たまたま花屋に……。たまたま花屋に、ね。そういうことだよ。……いや、どゆこと。

 まあ、とりあえず、私が美術館で彼を見ていたことを悟られぬよう、あたかも初めて会ったかのごとく、閉店だと言い話しかける。


「お客様、閉店のお時間になるのですが、何か気になる花がございますか?」

「あ、ごめんなさい。そうですね、気に、なるのかな。よくわからないんですが、この花うちにも咲いていて、とっても綺麗だなと思って。すみません。お店、閉まりますよね、帰ります」


 まずい、帰ってしまう。閉店だと自分で言ったくせに、だいぶ矛盾しているな。

 彼はあの絵を見てどんな事を考えていたのか、あの絵の何を見ていたのか。知りたいのに、彼が帰ってしまう。このチャンスを逃すのか? このまま会えなくなるかもしれない。そんなことが一瞬頭に余儀ってしまった。この人が、どんな人かわからない、人を深く知るのが怖いはずなのに、気になってしまう、この人のことが知りたいと思ってしまった。咄嗟に出た言葉で、自分で自分を驚かせた。


「あの、お客様!」

「はい!」

 彼はびっくりして、声が裏返った。申し訳ないがその姿を見て、また会えるかもと思ってしまった。根拠はないが、そんな気がしただけだ。


「また、是非お越しくださいね」


 私はまた会いたいという思いを胸に、思わず言ってしまった。今話せなくても、いつかきっと話せることを期待

して。人を引き止めることは滅多にないのにな。


「——ありがとうございます、また来ます」


 彼は驚いた顔をした。なぜだろう。

 帰る時の彼の顔が、少し悲しそうに見え、私の期待は、一瞬で不安に塗り替えられてしまった。

実は今九話まで書き終わっています。


次回をお楽しみに!

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