受難
《エスプ・ヴィレ》にある冒険者ギルド、その受付にて。
「ようこそ、エスプ・ヴィレ冒険者ギルドへ、本日はどのようなご用件でしょうか? クエストの受注はあちらの掲示板から、冒険者登録はこちらで承ります」
感じのいい受付嬢に案内され、アクトたちは冒険者の登録に臨んでいた。
「三人、登録を頼む」
「はい、かしこまりました。まず、登録の前に説明事項があります。大事なことですので、ちゃんと聞いてくださいね。冒険者の登録が完了すると、冒険者カードというものを発行し、お渡しいたします。これは身分証の代わりにもなります、大きな都市などへ入る際に必要となりますので、失くさないようお気をつけください。万が一、無くしてしまった場合、再登録の手続きが必要となりますので、ご了承ください。そして冒険者にはクエストを受注する権利が与えられます。達成することで報酬が支払われます。また、受注できるクエストには制限がございます、ランク制度というものです。各ランクは色によって識別されていて、上から順に、『黒』『赤』『翠』『蒼』『白』となっております。冒険者登録を済ませた方は一律『白』から始めて頂いております。クエストも冒険者のランクに準じて受けることができるようになっております。一定数のクエストを達成されますと、昇格クエストというものを受注できますが、強制ではありません。大まかな説明は以上です、詳しいことはこれからクエストを受けていく中で説明していきますね。それではこちらの水晶に魔力を通してください」
丁寧すぎる説明というものは、時に退屈な時間に変わってしまう。
例に漏れず、アクトはほとんど聞いていないようで、早く掲示板の方に行きたいようだった。
マリアとテアドラも、聞いている振りに近い様子なので、アクトのことを叱るつもりはないようだ。
受付嬢が示した水晶に、それぞれが魔力を通していく。
この世界において、魔力は持っていて当然の才能とされている。
極々稀に、一切の魔力を持たず生まれてくる者もいるようだが、どのような扱いを受けているのかなど、想像するまでもない。
アクトとマリアは実戦でも魔法を使うことから、当然のように魔力を有している。
テアドラにしても、戦闘の殆どが物理攻撃ではあるけれど、それでも身体強化や武器に魔力を纏わせるくらいのことはできる。
魔力量に差はあれど、誰でも持っている。
三人の目の前の水晶が、それぞれの魔力に反応し、眩い光を放つ。
「ありがとうございます、では順に名前とクラスをここに記入してください。そこまでして頂きましたら、登録の手続きは完了となります」
アクトは自分の前に出された用紙を見て、一瞬悩んでしまう。
自分のクラス、つまりは役割のことだけれど、言い換えればジョブや職業といったものの方が伝わりやすいだろう。
「なあ、師匠……俺のクラスって何?」
「うむ、そうだな。魔法で牽制しつつ前線で戦える……魔法剣士とでも書いておけば問題なかろう」
「なんか、大層なクラスだな。名前負けしねえように強くならなきゃな」
「フッ、幾らでもそのチャンスはあるさ。活かすのはお前次第だがな」
アクトは、テアドラに言われた通り魔法剣士と書き込み、用紙を受付嬢に提出した。
マリアとテアドラも、既に書き終わっていたらしく、アクトが提出を済ませたの見て期待を抑えられない表情をしている。
「アクト様、マリア様、テアドラ様。こちらがあなたたちの冒険者カードです。カードの外枠の色が、現時点でのあなたたちのランクを示しています。早速何かクエストを受注されますか?」
待ってましたと言わんばかりに、アクトのテンションは上がる。
カードを受け取り、一人足早に掲示板へと駆けて行ってしまう。
「全く、アクトったら慌てすぎよ」
「こういうところは昔から変わらんな」
マリアたちもアクトの後を追いかける。
掲示板には、数えきれない程のクエストが貼られていて、見たことも聞いたこともない魔物の名前も幾つも見られる。
「師匠! 俺たちは白ランクのクエストしか受けられないってことだよな? だったら討伐系のクエストを受けていこうぜ」
「待ってよ、アクト……条件とか期間とかちゃんと見て決めなさいよ?」
「アクト、早るのはわかるが、実際にクエストを受注するのは明日にしないか? この街を拠点に活動していくことになるんだ、装備の新調や回復薬の補充を先に済ませた方が良かろう」
「なんでだよ、せっかく冒険者になれたんだぜ? クエストを受けるだけなら今やってもそう変わらないだろ? どんなクエストを受けるかくらいは今決めておこうぜ」
心に決めたものがある者は、ぶれない……良くも悪くも。
アクトは掲示板の前を離れる気はないらしく、マリアとテアドラも、そうなったアクトがどれだけ説得しても動かないことを昔から知っている。
確かに、どちらの言い分も間違ってはいない。
しかし、心躍る展開に目を輝かせる者に、現実的な意見は届きにくいものだ。
結局、三人はこの場でクエストを受注していくことにしたようだ。
アクトは変わらず目を輝かせながら、掲示板の端からクエスト票を見ている。
マリアとテアドラも、何もしないというわけにはいかず、同様にクエストを見比べていく。
「あ……これ……」
マリアが声を上げ、一つのクエストを指差した。
それは掲示板の上の方に押しやられ、もはや殆どの冒険者たちの目に入らないのではないのかという疑念さえ抱いてしまうくらい端にあった。
《推奨ランク:黒 竜の討伐 場所:指定なし 期限:なし》
古びたクエスト票だけれど、その討伐対象はアクトたちにとって無視できないものだった。
「竜……やっぱりあるんだな、討伐クエスト!」
「推奨ランクは黒……か。まだまだ先だな」
道なりは確かに遠いかもしれないけれど、明確な目的地があれば、人は迷子にはならないものだ。
アクトたちにとって、その目的地が遥か先にあるというだけで、現在地との距離をどう捉え、どう埋めていくのかはその者次第なのだ。
「なんか……改めてクエストとして目にすると、実感湧いてきて少し怖いね」
マリアは声を落として、竜の討伐クエストの用紙から目を逸らし、その先で一つのクエストを見つける。
「このクエスト……私たちにちょうどいいんじゃない?」
マリアが見つけたクエスト、それはアクトの希望に沿った討伐系のクエストだった。
《推奨ランク:白 ゴブリンの討伐:十五体 場所:アブダ平原 期限:なし》
「ゴブリンかよ、村で幾らでも狩って来た相手か……でもまずはこういうのをコツコツやっていくしかねえのかな。期限の指定もないし、一発目はこれにするか」
三人はクエスト票を掲示板から剥がし、受付に持っていく。
受注の際、細かな注意事項が幾つかあったけれど、アクトの耳にはあまり入っていなかった。
先ほど見た、竜の討伐クエストに意識が向いてしまっている様子だった。
そのままクエストに関する説明は終わり、三人は一旦ギルドを出て、宿に向かうことにした。
「今日はこのまま自由行動にしよう、アクトもマリアも初めての街だ。ゆっくり過ごすといい。俺は鍛冶屋に用があるから、このままここで別れるとしよう。夕飯の時間には戻る。二人も多少の手持ちはあるのだろう? 散策するのもいいだろう」
「そうですね、アクトさっき面白そうなお店を見つけたんだけど、行かない?」
「仕方ねえな、付き合ってやってもいいぞ」
「何よ、偉そうに。でも、絶対アクトも気に入るよ」
「では、また後でな」
テアドラは、一旦そこで別れ、鍛冶屋へと向かっていった。
残された二人は、テアドラの行った方向とは逆へと歩き出した。
「で? どこに行くつもりだよ?」
「ん? いいからいいから、それにしても二人で歩くのも久しぶりだよね」
「あー、そういえばそうだな。村にいた頃は大体いつも師匠もいたからな」
「テアドラさん、この旅について来てくれてよかったね」
「ああ、やっぱり師匠はすげえよ。俺だっていつかあれくらい強くなってみせるさ」
「ふふっ、本当に変わらないわね」
二人はのんびりと街を歩いていく。
昼時を過ぎても、街の喧騒は収まらず、多くの人で賑わっている。
《エスプ・ヴィレ》は中立都市を模した街であり、多くの種族が滞在し、街に根付く文化も多様性に富んでいる。
服装や食文化、ありとあらゆるものが統一されることなく、自由に存在することを許され、その表情は実に伸び伸びと明るいものが多かった。
マリアは、屋台で串焼きを二本買い、一本をアクトに渡し、二人並んで食べ歩きしながら街の雰囲気を楽しんでいる。
「この串焼き、美味いな。何の肉なのかわかんねえのが怖えけど、美味いからいいっか」
「なんかよくわからない肉の塊が、お店の奥にぶら下がってたね。それにしてもこの街、さっきからいろんな人種、種族の人を見かけるけど、すごいね」
アクトたちは周囲の景色に目を配りながら歩いていくけれど、それは同時にアクトたちも周囲の目に晒されていることを意味している。
もし仮に、ここにテアドラが居たのであれば、その執拗な視線に気が付いたかもしれないけれど、居ない者に縋っても詮ないことである。
「やあやあ、お二方! 初めてのエスプ・ヴィレは楽しんでもらえてますか? まあ私の街という事はないので、全く的外れな挨拶ではあるんですけれどね。おやおや? どうしたんですか? どうして私から距離を取ろうとしているのです? 私は決して怪しい者じゃございませんよ! 歯牙ない商人に過ぎませんよ……お二人には、私の自慢の商品を見てもらいたくて声をかけたに過ぎませんから!」
唐突に声を掛けられたこともそうだけれど、アクトたちがその者を警戒した理由、それは発言と格好によるものだった。
外見だけで判断すると、その者は男というか男の子なのだろう、年齢はアクトたちよりも若干若く見える。
そして無視できない発言。
彼は今、何の迷いもなくアクトたちに対して、「初めての」と言ったのだ。
アクトもマリアも、この街に来て関わった者は数えられる程度である。
しかも、この街に来るのが初めてであるということは口にはしていない。
「あー、間違えちゃいましたかね。まあ気にしないでもらえると助かります。とにかく私の商品、見るだけ見てみませんか? 見るのはタダですからね!」
そんな二人の態度を気にした様子もなく、彼は更に距離を詰めてこようとする。
「ちょ、ちょっと待って! いきなり何なんだよお前……」
堪らず、アクトが彼の動きを制する。
違和感を通り越して、軽い恐怖さえ抱きかけた程だ。
村から出たことのない二人にとって、様々なことが初めての経験なのだ。
それは、素晴らしいものもあれば、当然苦いものとなってしまうものだってある。
「おやおや、失礼……私としたことが、焦って名乗るのを忘れていました」
「いや、そういうことじゃねえけど……」
「私はスペと言います、ただのスペです。スペと気軽に呼んでください。商人ということは先程言いましたし……後何か聞きたい事はありますか? 今の私はとても機嫌が良いので何でも答えてしまいそうですよ?」
「……怪し過ぎんだろ、何で俺たちに声をかけて来たんだよ」
「あ、それはお二人が良いカモ……良い表情をして街を闊歩しているのが目に付きまして! 装備を見るに、まだまだ駆け出しの冒険者と推測しているのですが、どうです? 駆け出しの冒険者必須のアイテムも多く取り揃えてますよ?」
「おい、今カモっつったか?」
「いやいやいやいや、滅相もございませんよ。例えば、お二方は冒険において最も大事なことはご存じですか?」
「最も大事なこと……?」
スペの態度は胡散臭いの一言に尽きるものではあったけれど、最後の質問がアクトたちの耳に引っかかった。
冒険者にとって最も必要なもの。
共に戦う仲間、旅を支える武器や装備など、挙げ始めれば枚挙にいとまがないけれど、ここでスペが求めている答えはそのどれでもなかった。
「冒険をしていく中で最も大事なもの、それは……地図ですよ」
「地図……。アクト、私たち確かに地図持ってないね」
「おやおや、そちらの方はアクトさんというのですね、重畳です、はい! 話を戻しますか……地図は馬鹿にできないんですよ。あるのとないのでは旅の質は段違いのもとなるんですよ? 冒険者の方はクエストを受けますよね? その道中、想定外の魔物に襲撃されてしまったら、未発見の遺跡や魔物の巣を見つけてしまったら? その正確な位置をどうやってギルドに伝えます? 賢明で聡明であられるお二方なら、理解できますよね?」
挑発に近い態度であるけれど、その言葉には説得力があった。
アクトもマリアも、スペの言葉の意味は理解できたし、地図が必要だということも納得しているけれど、目の前の胡散臭い商人から購入することに抵抗があるようだ。
「わっかりましたよ! そこまで言うのであれば、実物をお見せしましょう! ちなみに、私が提供する地図は最高の精度で作られたものですよ! さあ、ご覧ください!」
いや、何も言っていない……と言う言葉は飲み込む二人だったけれど、スペが差し出してきた地図は実際かなり精巧に描かれていて、アクトたちが村で見ていたものとは似ても似つかぬものだった。
それに加えて、クーヴェル村で流通していたものよりも、遥かに広範囲を記していた。
「うお、これすげえぞ!」
「何これ、これが地図なの?」
良くも悪くも素直な二人の反応は、スペに一つの確信を与えることになった。
「私は怪しくとも、嘘は言いませんよ? この地図よりも正確なものは何処にもないでしょう! どうです? 本来は金貨五枚と交換していくつもりだったのですが……この出会いを祝して銀貨三枚で売りましょう!」
この世界の通貨に関して、ここで一度簡単に説明をしておくことにしよう。
上から「聖金貨」「白金貨」「金貨」「銀貨」「銅貨」「鉄貨」と分類されており、百枚ごとに一つ上の貨幣に繰り上がる仕組みになっている。
銅貨百枚で、銀貨一枚と交換できるといった具合である。
そして、現実的な話として、中堅冒険者、緑ランク相当の実力を持つ者で、その稼ぎは月に銀貨三十枚程度が平均となっている。
そこで、スペが提示した金額をもう一度見てみた時に、到底駆け出しの冒険者に持ちかける商売ではないことがわかる。
「高すぎるだろ、俺たちそんな金持ってねえよ」
「スペさん、地図見せて頂いてありがとうございました。私たちはこれで……アクト、行こう?」
当然の反応だったけれど、スペは納得がいかないようだった。
「ちょーっと待ってくださいよ! 今日中にこれを売り捌かないと、極悪なうちの元締めに殺されてしまうんです! どうか私を助けると思って、サクッと銅貨三枚払っちゃいません?」
明らかな嘘であることは、アクトにさえわかったのだけれど、スペの勢いと圧に押し負けそうになっている。
しかし、どれだけ説得されようと、仮にアクトたちがその地図を所望していたとしても、二人の所持金では到底買えないことに変わりはないのだ。
「スペ、いい加減にしなさい。それに誰が極悪な元締めですって?」
困り果てていた二人に、手を差し伸べる者がいた。
何処から現れたのか、いつの間にそこに居たのか、誰にもわからないけれど、その男は当然のようにそこに立っていた。
「ジェ、ジェジェ……ジェーン様、どどどどうしてここに?」
「スペ、常々言っていた筈ですが、まだ理解されていないようですね。残念です、本当に。人に迷惑をかけてはいけないと何度言えば伝わるんでしょうか……そちらのお二人とも、うちの従業員が失礼いたしました。この子は、持って帰ってくる物だけは一流なのですが、人間性に欠陥が多々ありまして。こちらの地図、無料で差し上げます。迷惑を掛けた分だと思って受け取っていただけますか?」
端正な立ち居振る舞いのまま、冷たい視線をスペに向ける男。
アクトとマリアも、その男の登場には多分に驚いているのだけれど、登場そのものよりも、ジェーンと呼ばれているその男の格好に見覚えがあった。
キモノと彼女は言っていた。
過保護な親父が作ってくれたのだと。
目の前の男がミーシャの父親かどうかは判断できないけれど、関係者である可能性はかなり高い。
「待ってくださいよ、これをあげるんですか? 私が命懸けで持ち帰ったこの地図を?」
「スペ、私の言葉が聞こえませんでしたか?」
男が少し声のトーンを落とした。
たったそれだけだった。
それだけのことで、その場は途轍もなく重い殺気で満たされる。
アクトとマリアは一瞬で戦闘態勢をとる。
それが自分たちに向けられていないことはわかる、頭では理解できているのに、本能が自らの命を守れと警鐘を鳴らしているのだ。
「地図を彼らに渡してください、いいですね?」
刹那、アクトとマリア、そしてスペの首は刎ね飛ばされ、胴を両断され、四肢を引き千切られてしまった……そう錯覚する程の明確な幻覚をその場にいた全員が同時に見たのだ。
「おや、失礼いたしました。そちらの方にまで飛ばすつもりはなかったのですが、巻き込んでしまって申し訳ない」
殺気は収まっており、男は柔和な雰囲気に戻っている。
アクトとマリアは、自分たちが生きていることをようやく自覚できたようで、顔には汗を浮かべている。
「スペ、私は何度も同じことを言うのは好きではないのです。わかってくれますね? ……では、私はこれで失礼いたします。お二人とも、この度はご迷惑をお掛けしてしまい申し訳ない。細やかながら、お二人の旅に一つでも多くの幸が訪れんことを」
男はそう言うと、またしても音もなく消えてしまった。
文字通り、比喩ではなく、目の前で完全に消失したのだ。
痕跡も残滓も一切残すことなく。
アクトはもちろん、マリアも彼から目を離してはいなかったのに、全く目で追えなかった。
「お、おぇ……。なんでここにジェーン様が……。今のは私の上司で、さっき話した元締めです。あの人を怒らせると本当に怖いんです、あああ、なんでこんなことになってしまったんだろう……。この地図のことは忘れてください、できれば私のことも忘れてあげてください」
「今の、ジェーンって言ってたけど、何者だよ」
「異常に強くて、絶望的に怖い私の上司です……はあ。では、私もこの辺で失礼しますね」
「スペっつったよな」
「へ? なんですか? なんでそんな目で私を見てるんですか? あなたも私から奪っていくんですか? この地図を手に入れるまでに、何度死にかけたのかあなたにはわからないでしょう?」
「え、でも地図を渡さないと、また怒られるんじゃないか?」
「うわあああああ、この人でなし! この世界には私の敵しかいないんだぁぁぁぁ! 何の交渉も交換も、何の困難も苦労もなく、私から奪うんですね! いいですよ、わかりましたよ、持っていけばいいんです。いつもこうだ、いつも私だけが不幸なんだ……」
ここまでくると、流石に不憫に見えなくもないけれど、アクトとマリアにとっては関係のないことである。
それに実際、地図の有用性は理解していた。
しかし、アクトには別の目的があった。
ミーシャのような純粋な強さとは違う気もするけれど、ジェーンがその関係者である可能性を加味したときに、この歪な縁を、手放すべきではないと直感で判断したのだ。
結局、散々文句を言いながらも、スペは地図を譲ってくれた。
帰り際、捨て台詞のような呪いの言葉のようなものを吐き捨てていたような気もするけれど、アクトもマリアも気にしないことにしていた。
それよりも考えなくてはならないこと、それはジェーンのことである。
対峙した二人の感想としては、戦ってはいけない相手と強制的に思わされたような感覚があったという。
力量差などという言葉では足りない程に、存在としての格が違う。
二人は、身体にのしかかる疲労感に耐えながら宿屋に向かった。
街は今日も賑わいの仮面を被り、数えきれない程の物語を紡いでいる。