手繰り寄せた運命
さて、50代って昔はほぼ寿命の年代。
同じ世代の人達を見ると、違和感を覚えずにいられない。
人それぞれだけど、毎日仕事して、家に帰り、奥様の手料理を食べ、そろそろ子供が結婚。という世界からは逸脱しているようだ。
時間軸も変わってしまっているのかもしれない。
第1章 死ぬ程ってどのくらい?
「うううッ?うわあぁぁghw%#*」
喉の奥に強い違和感と、感じた事の無い吐き気。
喉を抑えても止まらない。
早くこの違和感を取ってくれ。
ブラックアウトした視界の向こう側から声がする。
「先生に確認したら管を外します。」
(管?)
「どうでもいいから!!何とかしてくれ」
声にならない。
視界が更に暗くなり、ふと思い出す。
確か、俺は倒れたはず.......。
(死ぬほど苦しい)
むせかえり、何度か声にならない声をあげた後
ようやく、器官から管が抜かれる。
「グホッ」咳と共に喉に鈍い痛みが残る。
声は……。かすれて声にならない。
知らない空気。
「〇〇さん、覚えてますか?」
「今病院です。心肺停止で運び込まれたんです。」
「名前言えますか?」
そうだ、俺は倒れたんだ。
看護師さんの問いかけに首を振って答えていたが、頭では別の事を考えていた。
倒れて、どうした?どうなった?
自宅で?
誰が救急車を呼んでくれた?自分で呼んだのか?
論理的に考える。
俺は、一人暮らしだがシェアハウスの1階に住んでいる。
シェアハウスの廊下で倒れ、運良く2階に住んでる高橋さんに見つけられたようだ。
携帯は、手に持っていたはず.......
部屋の電気はどうした?
コタツの上のミカン大丈夫かな?
頭の中に、救急隊員に囲まれ手当を受ける自分が俯瞰的に浮かぶ。
そうだ、倒れて今病院に来ている。
夕方に倒れたから、今は深夜か?
時間を考えると手術前?
手術は今からなのか?
先程の苦しみよりキツイのは嫌だな。
呼吸器の管を抜いたあとは、死ぬほど楽だ。
ならば今のうちに、
ならば、今のうちに少し眠らないと。
瞼は、少し重い。
このまま闇に身をゆだねよう。