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だったら……。クラーラ!/ええ、わたくしもムカつきました

 お姉さまに殴られ……もとい、背中を押してもらって、気持ちが楽になった気がする。

 タムマロを殺す覚悟はまだ決まらないけど、クラーラと一緒に旅を続ける未来は選んだ。

 だから、今のあたしはタムマロを殴れる。

 殴ってあたしをこっぴどくフったのを謝らせて、歴史をループさせるのもやめさせる。


「気をつけなさい。タムマロは複数の神具を持っているわ」


 身だしなみを整えて立ったあたしたちに、アリシアさんが忠告してくれた。

 転生特典に加えて複数の神具……か。

 その時点で、タムマロがスズカ以上だってことは容易に想像できる。

 問題は神具の能力なんだけど、アリシアさんは「説明が長い!」と、お姉さまに殴られるのを恐れているのか、説明しようかどうかを悩んでるっぽい。


「殴んないから教えてあげなさい」

「あ、はい。あの鎧は『キンコウ』。装備者にとって都合の良い展開を引き寄せ、身体能力を爆発的に上昇させます。そして今、ウスミドリで斬った空間から取り出した剣は『ソハヤの剣』。装備者が悪だと認定した者の物理的、魔力的防御を無効化する能力があります。他にも複数所持していますが、タムマロが持つ神具で最も強力で警戒すべきなのが『アクラ王』。これは真の姿となった魔王を倒した神具です」


 魔王の真の姿と言うと、あたしが言うところのクラリス・クラーラか。

 クラーラはアリシアさんの説明を聞くなり、「対神用決戦大魔術(トリプルシックス)を使った魔王を倒せたと言う事は、その神具も龍脈の力を使えると仮定できますね」と、ブツブツ言い始めた。


「終わった?」

「は、はい。とりあえず重要なモノは……」

「あっそ。じゃあ、二人はさっさと行きなさい」


 まるで猫でも追い払うように右手でシッシとやるお姉さまに急かされたあたしとクラーラは、チラリと視線を合わせてコクリとうなずき、数歩前に出た。

 そして……。


「あたしはクラリス。心意六道拳皆伝。異種超級至等武神いしゅちょうきゅうしとうぶしん、クラリス」

「わたくしはクラーラ。ブリタニカ王立魔術院所属特級魔術師。序列二位。真理の魔女、クラーラ」


 あたしとクラーラは、タムマロをしっかりと見据えて名乗った。

 もう、あたしの身体は震えていない。

 凄くリラックスしてる。

 今までで一番、身体の調子が良い。

 お姉さまを呼び出すのにかなりの魔力を使っちゃったけど、それが問題に思えないくらい、あたしは絶好調。

 それは、隣のクラーラも同じみたい。

 だからあたしたちは……。


「ほら、かかって来なさいよ三流勇者」

「フルボッコにして差し上げます」


 と、挑発した。

 されたタムマロはと言うと、股間の痛みが治まったのか涼しい顔をして兜をかぶり、右手にソハヤの剣、左手にウスミドリを持って構えた。

 だけど、仕掛けてくる様子はない。

 ウスミドリの能力なら、距離なんて関係ないのに振ろうともしない。

 だったら、クラーラを攻撃される前に……。


「|その町は悪徳の町《That town is a town of vice.》……」

「ちょ、ちょぉ! その呪文って……」


 クラーラは初手から広域殲滅魔法(ソドム)をぶっ放すつもりだ。

 しかも、こんな大して広くない山頂で。

 そんなことをしたら、お姉さまたちまで巻き込ん……あ、それは心配しなくても良さそう。

 ウズメさんが翼の生えたドラゴンに変身して、背中にお姉さまたちを乗せてすでに逃げ始めている。

 だったら、あたしがすべきことは……。


「詠唱の邪魔をさせない!」


 だからあたしは、タムマロに突っ込んだ。

 邪魔をしようとすれば詠唱が始まる前にできたはずなのにそれをしないタムマロが不気味ではあるけど、今のあたしにはそれくらいしかできないから……。


「チッ……。これは予測済みですか。ならば演技はやめです。詠唱省略。広域殲滅魔法(ソドム)!」  

「へ?」


 今まさに、あたしがタムマロへと右拳を打ち出そうとしてるのに、クラーラは構わずソドムをぶっ放した。

 上空に描かれた魔方陣から飛び出した複数の火球は、この山頂どころかフジ山そのものを根っこから吹っ飛ばそうとしているかのように殺到してる。

 このままアレが一発でも着弾すれば、あたしとタムマロははもちろんクラーラ自身も消し炭になる。

 そんなわかりきってることをクラーラがする?

 タムマロが黙って見てる?

 ならばこれは、クラーラからのパス。

 ソドムを、今まさにウスミドリの能力でどこかへ飛ばそうとしているタムマロをぶん殴れってことよ。


「心意六道! 穿岩……!」

「発動キャンセル! からの! 炎大槍魔術(フレイム・ランス)!」

「ふぇ!? 違うの!?」


 クラーラの言葉通りに、ソドムは霧散してキャンセルされた。

 それと同時に突き出したモーニングスターの先端から放たれた炎の大槍は、あたしごとタムマロを包み込んだ。

 でも、不思議と熱くない。

 上級魔術をまともに食らえばゴールデン・クラリスを使ってたってそれなりのダメージは負うのに、あたしはまったくダメージを負っていない。

 つまり、ここまでがパスってわけだ。

 

「ったく! あらかじめ言っといてよね! 心意六道! 巨神踏破! かぁ~らぁ~のぉぉぉぉぉ! |爆華!双道掌《ばっか!そうどうしょう》! 光翼斬掌(こうよくざんしょう)! 乱舞! さぁ~らぁ~にぃぃぃぃぃ! 閃火雷轟(せんからいごう)! 神滅龍烈破(しんめつりゅうれっぱ)ぁぁぁぁぁ!」

 

 あたしはベンケイのオジサンの時には出し損ねた対軍用コンボ、からの閃火雷轟神滅龍烈破を叩き込んだ。

 これがまともに当たって堪えられる生き物はいないはずなんだけど……。


「さすがは腐っても勇者。堪えるどころか無傷か」

「当たれば僕でも、ただでは済まなかったよ。だから全部、ウスミドリの能力で他所に飛ばした」

「へぇ……。ちなみに、どこへ?」

「トーキョー。国会議事堂へ」

「いやいや、そこってたしか……」 


 この国の中枢だったはず。

 そんな場所へ、アレを全部送ったら、建物どころか中にいる人たちまで……。


「この国は、転生者たちのせいで僕が元居た世界並みに腐り始めていたからね」

「無関係の人もいたはずよ。その人たちまで、巻き込んだの?」

「おいおい、勘違いするなよクラリス。僕は君の攻撃の矛先を変えただけ。やったのは君だ。いやはや、さすがは未来の魔王。自前の魔力だけでとんでもない破壊力だ。もし、魔王になった君と戦った時に、僕がマナの壺を奪うのに失敗していたらと思うとゾッとするよ」

 

 マナの壺を奪った……ね。

 こいつは、本当に奪ったと思ってるんだろうか。

 魔王になったあたしが、倒されるために差し出したとは考えないんだろうか。

 いや、考えないんじゃない。

 きっとタムマロは、考えられなくなってるんだ。

 タムマロはきっと、今も歴史をループさせることしか考えていない。

 たぶん、お姉さまと再会してその想いが強くなってる。

 だから、率先して攻めてこない。

 タムマロの転生特典と神具の能力を考えたら、あたしとクラーラを倒すことくらい造作もないはずなのに、タムマロは計画を遂行するために手加減せざるを得ないんだ。


「だったら……。クラーラ!」

「ええ、わたくしもムカつきました」

 

 あたしに気づける程度のことなら、当然クラーラも気づく。

 気付けばあたし同様、タムマロをぶん殴りたくなる。

 しかも、本気になったタムマロを。

 そのためにあたしはクラーラの元まで下がって、手を繋いだ。

  


 

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