クラーラと一緒に旅するのが、楽しかったから/クラリスと一緒に旅をするのが、楽しかったからです
聖女再誕は、わたくしが知る全ての魔術、魔法を駆使して編み上げた、聖女様をこの地上に再び甦らせる大魔術。
どれだけの魔力を消費するのか不明なことと、聖女様が呼び掛けに応えてくれるかわからないのだけが不安材料でしたが、クラリスの記憶を設計図として魔力で身体を造り、龍脈と接続して半永久的に存在し続けることを可能にしたこの魔術は、とりあえずは成功したと言って良いでしょう。
「相変わらず、人の頭を踏むのが上手いなぁ。あれって実は、手加減無しで踏まれてるように見えるけどあんまり痛くないの。あたしも小さいころは、お姉さまの機嫌悪い時に良く踏まれてたけど、痛かったことは一度もないのよ?」
いや、どうでも良い。
あれを見て、わたくしも踏んでほしいかもとほんの少しだけ考えましたけど、今はどうでも良いです。
「あの、クラリス。いくつか確認したいのですが、よろしいですか?」
「良いよ。何?」
「聖女様は……その、空気を読んだりは……」
「しない。さっきの見たでしょ? 客が相手なら多少は読むだろうけど、そうじゃないならガン無視よ」
「で、では、あの口調は?」
「お姉さまの素。お姉さまって、目茶苦茶口が悪いのよ。女将さんのこともクソババア呼ばわりだったし、チンピラもドン引きするくらい手も早……いぃぃぃだぁぁぁい! お姉さま! 石を投げないで! 顔面を狙って投げないで!」
どうやら聖女様の耳は地獄耳みたいですね。
しかも、それなりに距離が離れているのにクラリスの説明を聞き取るばかりか、クラリスの顔面へ的確に石を命中させるほどのコントロールも持っている。
もしわたくしがクラリスに抱かれたままだったら、わたくしも被害を受けていたでしょう。
「なぁにが痛いよ! さっき殴った時も思ったけどアンタ硬すぎ! 何を食ったらそんなに硬くなんのよ!」
「い、いや、これは魔力が多いせいで……」
「あっそ。じゃあクラーラ。クラリスの魔力を封じなさい。私が殴ってもダメージが通るように徹底的に。あ、それと、このまま殴ると私も手が痛いから、何か魔術をかけて」
「えっと、でしたら鉄拳魔術などいかがでしょう。これは拳の表面を、鉄を主成分とした金属でおおう魔術で……あっはぁぁぁぁん! ちょ、ちょっと聖女様!? どうしてわたくしにまで石をお投げになるのですか!?」
「説明が長い!」
いや、キレて石を投げつけるほど長くない。
と、反論したら火に油でしょうから言わないでおきましょう。
それはともかく、わたくしの肩をポンと叩いて笑顔で「なかーま」とか言ってるクラリスがムカつくんですけど?
「す、少し落ち着かんか? 見たところかなり高位の女神のようじゃから、こんな場所に呼び出されて憤慨する気持ちはわからないでもないのじゃ……がぁっふ!」
「うっさい! つうか、ババア言葉がウザイ! ロリババアとか誰得なのよ!」
龍王にも容赦なく跳び蹴り、からの踏んづけ……。
ウズメの容姿が幼いせいで、絵面がヤバイです。
と言うか今、けっこうな距離を跳びませんでした?
聖女様の体は、クラリスの記憶を元に造られているはず。と、言うことは、聖女様の身体能力はかなり高かったことになるのですが……。
「ヤッベ、盛り過ぎたっぽい」
この阿保クラリス。
自分の思い通りの聖女様が造れると思って、身体能力を盛りましたね。
しかも、かなり高く。
でなければ、止めに入ったワダツミやクォン様があんなに細い手や足で殴り蹴るされたくらいで吹っ飛ばされる訳がありませんもの。
「さて、じゃあ改めて、アンタらに説教するとしますか」
「「ひぃっ……!」」
聖女様の怒りの矛先がわたくしたちに戻った恐怖で、思わず情けない悲鳴を上げてクラリスと抱き合ってしまいました。
それに加えて、わたくしもクラリスも腰が抜けてしまったらしく、逃げることもできません。
そんなわたくしたちの様子が愉快なのか、聖女様はニヤニヤしながらわたくしたちへと歩み寄って来ました。
来ましたが……。
「や、やめてくれニャ! これ以上、お姉さまたちをイジメないでほしいニャ!」
「そ、そうです! あなたがお姉ちゃんたちとどんな関係なのかは知らないけど、もうやめてあげて!」
もう数歩で聖女様の射程に入るというところで、マタタビとハチロウちゃんが体を恐怖で震わせながら間に割って入りました。
それを見るなりわたくしはハチロウちゃんを、クラリスはマタタビを引き寄せて抱きしめ、守るように聖女様から背を向けていました。
「あのさ、そんなことされたら、私が子供だろうが平気で殴るクソ野郎みたいじゃない」
みたいではなく、そうなのでは?
実際、聖女様は見た目が完全に幼女のウズメを手加減なしで殴ってたじゃないですか。
「はいはい。わかった。わかりました。その二人は絶対に殴らないから、取りあえずこっちを向いてくれない? じゃないと、話もできないじゃない」
聖女様の言葉に従って、わたくしとクラリスは一度視線を合わせ、次いでハチロウちゃんとマタタビを聖女様の射程外へ逃がしてから、聖女様の方へ体ごと視線を向けました。
すると、聖女様は膝を折って、へたり込んだわたくしたちと視線の高さを合わせました。
そして、クラリスの瞳を真っすぐ見て……。
「クラリス」
「は、はい……」
「アンタさ、どうしてこんなところまで来たの?」
「それは……その、お姉さまともう一度会いたくて……」
嘘つけ。
犯したいとか言っていたじゃやないですか……と、思ったら、聖女様はわたくしの方を見ました。
「クラーラ。アンタは?」
「えっと、その……。聖女様ともう一度会いたくて……」
あ、これは正直に言えません。
クラリスが「嘘つけ。犯されたがってたじゃない」と、言いたげな視線が痛いと感じてしまうほど、自分が咄嗟についた嘘に罪悪感を感じていますが、絶対に本当の事は言えません。
言えば殴られそうですもの。
「いや、アンタらさ、犯したいとか犯されたいとか言ってたよね? 私、最初からずっと見てたから知ってるのよ?」
聖女様のお言葉で、わたくしとクラリスはピシッ! と音が鳴ったかのように固まってしまいました。
冷や汗がだらだらと流れているのも感じます。
「クラリス。アンタには、あのままブリタニカで安穏と暮らすこともできたはずよ。なのに、どうしてこの未来を選んだの?」
「それは……」
「クラーラ。アンタもよ。アンタには、学者として生きることもできた。なのに、どうしてこの未来を選んだの?」
「わたくしは……」
わたくしとクラリスは、聖女様の質問に、すぐには答えられませんでした。
ですが、答えは決まっていたのです。
わたくしもクラリスも、先に言ったように聖女様ともう一度お会いしたかった。
お姿を見たかった。
お声を聴きたかった。
だから、それまでの生活の全てを捨てて、ここまで来ました。
ですが、いつの頃からでしょう。
わたくしにとって、聖女様を蘇らせることは二の次になっていたように思います。
それはおそらく、わたくしの中でクラリスの存在が大きくなったから。
憧れ、崇拝した聖女様よりも、クラリスがわたくしにとって大切な存在になったからです。
だからわたくしは、聖女様に殴られる覚悟で……。
「クラーラと一緒に旅するのが、楽しかったから」
「クラリスと一緒に旅をするのが、楽しかったからです」
本音を言ったら、隣から似たようなセリフが聴こえました。
でも、驚きはしませんでした。
それは、クラリスも同じようです。
わたくしたちは同時にクスリと笑い、そして聖女様の瞳を真っすぐ見つめ返しました。
そんなわたくしたちの答えに満足したのか、聖女様は「うん、うん」と頷きながら……。
「じゃあ、あの馬鹿をさっさとぶっ倒してきなさい」
と、右手の親指で聖女様に蹴られた股間を押さえながらなんとか立とうとしているタムマロ様を指さして言いました。
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