ね? 教えた通りの人でしょ?/え、ええ……
お姉さまには、白いドレスが一番似合う。
それはお姉さまを目にした客の反応が物語っていたし、お姉さま自身も白を気に入ってた。
何て言うか、他の色だとお姉さまの美しさに負けちゃうのよ。
赤でも駄目。
青でも駄目。
黒でも黄色でも紫でも、お姉さまの美しさの前では邪魔でしかなかった。
真っ白なキャンバスに落とされた絵の具が映えるように、白だけがお姉さまの美しさを際立たせた。
「お姉……さま?」
あたしとクラーラの前で背を向けて立っている白いロングドレスを着た人は、そんなお姉さまとそっくりな後ろ姿をしていた。
あたしと同じブロンドだけど、あたしの髪とは比べるのも罪だと思えるほど煌びやかに輝く長いブロンドが風に弄ばれている様が、仕事終わりに窓辺で葡萄酒を飲みながら黄昏ていたお姉さまと良く似ている。
そんな彼女に、さっきまでタムマロと戦っていた人たちも、マタタビちゃんたちも見惚れてしまっている。
「お姉さま……なんでしょ?」
あたしがもう一度訪ねると、お姉さまに良く似た人は、ゆっくりと振り向いて微笑んでくれた。
ああ、やっぱりお姉さまにそっくり。
切れ長な瞳も、触ると吸い付きそうなほど潤んだ唇も、長い睫毛も、形の良い鼻も耳も、全部お姉さまと同じ。
笑顔のまま右拳を振り上げる仕草も……ん? 右拳を振り上げた? それってまさか……。
「お、お姉さま、ちょっと待っ……べぇっ!?」
「寒い! つうか空気薄い! 呼ぶなら呼ぶで、もうちょっと場所を考えてくんない!?」
思わずお姉さまって呼んじゃったけど、あたしの脳天をぶん殴ったこの人は、お姉さまで間違いない。
だってあたしの本能が、この人の機嫌を損ねちゃ駄目だって激しく警鐘を鳴らしているもの。
「せ、聖女様? え? 成功した? 本当に聖女さ……まばぁふ!」
「惚けてる暇があるなら、アンタはとっとと回復しなさい! じゃないと、思いっきり殴れないでしょうが!」
「は、はいっ!」
いや、殴ったよ?
お姉さまはクラーラの右頬を手加減なしで殴ったよ? しかもグーで。
まあ、そのおかげで正気に戻ったのか、クラーラは慌てながらも死者蘇生魔法を唱え始めた。
でもさ、クラーラ。ちゃんと聞いてた?
回復したらもう一発殴られるよ?
お姉さまって、やると言ったことは何がなんでも絶対にやる人だから……とか思っている内に回復したクラーラは、今度は左頬をやっぱり殴られた。
「ク、クラリス。一つ確認したいことが……」
「聞きたいことはわかる」
「じゃ、じゃあ、この人はやっぱり……」
「うん、お姉さまで間違いない」
あたしの答えを聞いたクラーラは、殴られたばかりの左頬を手で押さえながら、絶望したような瞳をあたしに向けた。
うん、まあ、お姉さまを聖女と呼んで崇拝しているクラーラなら、そうなるだろうなとは思ってた。
実際、お姉さまは黙って微笑んでれば聖女って呼ばれても納得しちゃうくらい綺麗な人だけど、性格はぶっ壊れてるもの。
いくらあたしから大まかにお姉さまのことを聞いてたって、実物のインパクトは桁違いさに絶望に近い感情を抱いても仕方ないわ。
「さて、お馬鹿な妹分たちには後で改めて説教するとして……」
説教ではなく折檻では?
とは、タムマロの方へ体ごと向いたお姉さまには口が裂けても言えない。
言えば今度は、蹴りが飛んできそうだから。
「久しぶりね、偽善者。私のこと、覚えてる?」
お姉さまに問われても、タムマロは何も言わなかった。ただ、面付きの兜のせいで表情はわからないけど、体の微妙な動きから動揺していることだけはわかる。
「その兜、取ったら? そんな物被ってたら、私の顔がよく見えないでしょ」
そう言いながら、お姉さまはタムマロの方へゆっくりと移動し始めた。
タムマロはお姉さまの言葉に従って、ノロノロと兜を脱いだ。
「老けたわね。今、何歳だっけ?」
「23だよ。君が死んで、もうすぐ7年になる」
「そう、そんなに経ったんだ。それなのに、アンタは私を忘れられないわけ?」
「忘れられる訳がない。だって僕は、君ほど美しい人を他に知らない。君と比べたら、他の女性は全てそこらに転がっている石ころだと思えるほど、君は美しいんだから」
タムマロの言葉を聞いて、あたしの胸が裂けた気がした。
裂けてなんかないのに、心臓を真っ二つにされたような衝撃が、あたしの胸に走った。
でも、二人から目が離せない。
それは、他の人も同じみたい。
みんな一様に、お姉さまとタムマロを見守っている。
「ずいぶんと誉めてくれるじゃない。今まで抱いた女たちより、死人である私の方が良いって言うの?」
「ああ、君が良い。他はいらない。君が他の女との関係を切れと言うのなら、僕は彼女たちを殺してまわるよ」
「そう、アンタの気持ちは、良くわかったわ」
言っていることは物騒だけど、長い間離れ離れになっていた恋人同士が再会したような雰囲気が二人を包んでる……と、他の人たちは思っているでしょうね。
でもあたしは、この場にいる誰よりもお姉さまのことを知っている。
タムマロよりもずっと深く、お姉さまを理解している。
だから、ロングドレスの裾から見えていたお姉さまの右足が消えたことにも驚かなかったし、タムマロの顔が不意の痛みで歪んだことにも驚かなかった。
「ぬぅ……がっぁ………!?」
タムマロが変なうめき声をあげながら、股間を押さえて地面に両膝を突き、土下座のような格好をした。
お姉さまはそのタムマロの頭を、股間を蹴りあげた脚でそのまま踏みつけた。
ええ、お姉さまはあんな甘い雰囲気でも関係なく、容赦なく男の股間を笑顔のまま全力で蹴れる人です。
「怖っ! 何よ殺してまわるって! アンタ忘れたの? 私、ただの娼婦よ? そんな私を一回抱いたくらいで入れ揚げて、他の女は邪魔だから殺す? もう一度言うけど怖っ! 言っとくけど、私って人殺しはNGだから! つうかさ、アンタ、私の妹分を手篭めにしたよね? 何してくれてんの!? あの子と竿姉妹になっちゃったじゃない! いやまあ、娼婦やってりゃどっかの誰かと竿姉妹になってるなんてざらにあるわよ? でもさ、知ってる子と竿姉妹って気分が悪いのよ! 例えばアンタ、あそこで大口あけたままアホ面晒してる爺さんとかデカ男と穴兄弟だったらどんな気分になる? なんか気不味いでしょ! 今の私はね、そんな気分なの! って、聞いてんのか腐れ偽善者!」
お姉さまはタムマロが動けないのを良いことに、何度も何度も頭を踏みつけながら罵詈雑言を吐き続けた。
そんなお姉さまを、他の人たちと同じようなアホ面で見ていたクラーラに……。
「ね? 教えた通りの人でしょ?」
と、お姉さまを指差しながら言ったら、クラーラはお姉さまから目を離さずに……。
「え、ええ……」
とだけ、答えた。
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