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リメンバー・クラリス/リメンバー・クラリス

 クォンがアリシアを巻き込んで盛大に戦線を離脱した今、まともに戦えるのはクラリスだけ。

 なのにクラリスが戦闘態勢を取らないのは、タムマロを殺す覚悟が決まっていないのもありますが、彼が持つウスミドリの能力を考えると、離れた途端にまたクラーラが斬られる危険があると思ったからです。

 まあ、離れていようがいまいがウスミドリの能力の前では関係ないのですが、クラリスはクラーラを離そうとしません。


「別れは済んだかい?」

「済んでない」

「じゃあ、早く済ませるといい。フローリストにギフトを渡している間くらいは、待ってあげるよ」

「させない。クラーラにも、もう手は出させない!」

「手は出させない? どうやって? クォン老師に勝って調子に乗ってるんだろうけど、その程度じゃ僕をどうこうすることはできやしない。もちろん、僕を睨んでいるその四人でも同じだ」


 それくらいは、クラリスにもわかっていました。

 手負いだったとは言え、タムマロはクォンを軽くあしらった。

 しかも、小脇に兜を抱えたままで。

 本気を出さずにクォンを倒したタムマロは、今のクラリスよりもはるかに強い。

 それが嫌と言うほど理解できたからこそ、余計にでもクラリスはクラーラから離れられなくなったのでございます。

 そんな、打つ手がないに等しいクラリスたちとタムマロの間に、何かが降ってきました。

 その落下物は地面に軽くクレーターを作り、少し遅れて、派手な格好をした幼女が天女ようにゆっくりと降りて来ました。

 

「ほれ見ろワダツミ。あちきが言った通り、タイミングはバッチリじゃったろうが」

「だからと言って落とすなウズメ! 我でなければしばらく動けなくなっていたぞ……って、乗るなアバズレ! どうして我の肩に座る!」


 落下物はワダツミでした。

 そして彼の肩に舞い降りた幼女ことウズメは、クラリスたちを一瞥(いちべつ)してからタムマロへと視線を向けました。


「ひさしぶりじゃなぁ、タムマロや。統一戦争の時以来じゃったか?」

「僕が魔王討伐のためにオオヤシマを出た時以来ですよ」

「おお、そうじゃったか。どうも歳のせいか、最近物忘れが酷くてのぉ」


 見た目は幼いですが、年季の入ったババア言葉のウズメは軽い調子で話しかけていますが、話しかけれているタムマロの顔には緊張の色が見えます。

 そんなタムマロの心情を知ってか知らずか、ウズメは目を鋭く細めて……。


「あちきら八大龍王は、お主をオオヤシマの脅威と認定した。古い付き合いではあるが、討たせてもらう」

「僕がオオヤシマの脅威? ご冗談を。僕はオオヤシマに何かするつもりはありません」

「とぼけるでないぞタムマロ。お主がやろうとしていることは、この芸龍王ウズメは先刻承知じゃ」

「だったら何ですか? 僕がやろうとしているのは、クラリスを過去へ送って魔王にすることだ。その後の行いは彼女の選択。僕は関係ない」

「関係大有りじゃたわけ者。お主のその行いが、この世界に歪みとして蓄積され続けておる。正味な話、限界は近い。例えるならば、真っ直ぐ張った糸の一部分が何度も何度も(もつ)れ絡まった状態じゃ。これ以上歴史のループを繰り返せば、この世界そのモノが消滅しかねん」


 ウズメはその事実を、他の龍王たちやその眷族を通して得られる情報と自身が持つ知識と、歴史のループにすら気づける超感覚を元に導き出しました。


「だから、僕を殺すと?」

「説得したところで、お主はやめんじゃろう?」

「ええ、まあ。ですが、あなたたち二人でも……」

「お主に敵わんのはわかっておる。じゃが、あちきの呼び掛けに応えてくれたオオヤシマに住む亜人の各種族を、他の龍王たちが率いてここへ向かっておる。さらにこの二人も加われば……」

「二人? ああ、クォン老師とアリシアですか」


 タムマロがチラリとウズメの後ろを見ると、斜面を転がり落ちたはずの二人が山頂に顔を出したところでした。

 泥だらけではありますが、ダメージ自体は回復しているようです。


「二人が加わっても僕を止められない。他の龍王たちまで加わったらさすがに厳しいですが、ならば到着する前に事を済ませれば良いだけのこと。10分もあれば十分ですよ。5分であなたたちを倒して、残りの5分でクラリスたちを過去へ送る」


 ウズメがワダツミの肩から降り、クォンとアリシアが戦列に復帰してもなお、タムマロの能力は勝利への道筋を彼に示しました。

 ですが、彼には誤算がありました。


「皆様に、お願いがございます」

「クラーラ! じっとしてなきゃダメ!」

「大丈夫です。血は足りませんが、傷自体は癒えていますので」


 それは、クラーラの行動。

 クラーラは傷こそ癒えていますが、かなりの量の血を失ったままです。

 そのせいで意識は朦朧としていますし、そんな状態では、気圧も酸素濃度も低いフジ山の山頂では呼吸もままなりません。

 なのにクラーラは、死者蘇生魔法(アスクレーピオス)で失った血液を取り戻すことも、生存領域確保魔術(ハビタブルゾーン)を使うこともしません。

 その行動がタムマロの能力に彼女は魔術が使えず、故に脅威にならないと予想させたのでございます。


「3分でかまいません。この場をどうにかできそうな人を呼びますので、わたくしとクラリスの詠唱が終わるまでの時間を稼いでください」

「え、詠唱? あたし、呪文なんて知らないよ?」

「大丈夫。知らなくても良いのです」


 クラーラは抱かれたまま、クラリスの左手に右手を重ねました。

 するとも手を通して、クラリスの頭に呪文が流れ込んで来ました。


「この呪文、もしかして……」

「ええ、あなたとわたくしなら、きっと聖女様も応えてくれま……」

「何をする気か知らないけど、させるわけがないだろ?」


 クラーラが言い終えるより先に、タムマロはウスミドリを振ろうとしました。

 ですが、その行為は……。


「それはこっちのセリフじゃタムマロ!」

「ちぃ……! 死に損ないの糞ジジイが……!」


 タムマロの行動を予期して殴りかかったクォンによって妨害されました。

 それを開戦の合図にしたのか他の三人も攻撃を開始し、ヤナギは幽体化して、タムマロの計画のキーマンであるフセに取り憑いてクラリスたちの元へと退避しました。


「さあ、クラリス。一緒に願いましょう」

「うん、わかったよクラーラ。一緒に呼ぼう」


 二人は瞳を閉じて、お互いの魔力を重ねた手へと送り始めました。

 すると、二人の魔力は混ざり合い、触発し合って乗倍され、保有している量以上の魔力となって、天まで届く黄金の柱となりました。


「「我ら、天にまします一柱に、願い(たてまつ)る。

 助けてとは申しません。

 救ってくれとも申しません。

 我らはただ、あなたの姿を見たいだけ。

 我らはただ、あなたの声を聴きたいだけ。

 我らはただただ、あなたにもう一度会いたいだけ。

 だからどうか、応えてください。

 どうか、愚かで弱い我らを叱ってください」」


 その呪文は、術式と言うよりは想いでした。

 強制力は全く無く、何をさせたいのかも記されておらず、発動するかどうかも私次第(・・・)

 なのにクラリスとクラーラは、私が応えると信じて疑わずに……。

 

「「聖女再誕(リメンバー・クラリス)」」


 静かに、呟くように発動のための最後の呪文を唱えました。

 さて、それではしばらく、語り部としての職務を放棄させて頂きましょう。

 なんせ可愛い妹分に呼ばれてしまいましたし、あの馬鹿にも一言二言言ってやりたい気分ですので。


 

 

読んでいただけるだけで光栄なのですが、もし「面白い!」「続き読みたい!」など思って頂けたらぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!

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