さあ! 拳で語り合いましょ!
クラリスが、クォンが垂れ流す魔力を辿って到着した六合目。
そこで、上半身裸で腕組みをしたクォンは待っていました。
そんなクォンに、高速移動用魔術から降りるなり言われたのは……。
「なんじゃその格好は! 年頃の娘がはしたない!」
服装へのダメ出しでした。
と、言うのも、シマネでの一件からクラリスが着続けていた蒼いチャイナ服がクォンの一撃でボロボロになったため、クラリスは以前着ていた黒いスケベキョンシーを着ていたのです。
その服装を見たことがなかったクォンは、見るなりまるで父親のように叱ってしまったのですが……。
「お爺ちゃんが服をボロボロにしたんじゃん!」
当然、クラリスは反論しました。
男を覚えてから羞恥心が芽生えたクラリス的にも、夜以外はこの服はできれば着たくはなかったのです。
どうして夜以外なのかは察してあげてください。
「ふん、まあよい。それよりもクラリス、お前に言いたいことがある」
「何よ。裏切ってごめんなさい。って、言っても5~6発殴らなきゃ許さないよ」
「裏切る? 馬鹿なことを言うではない。 ワシは裏切ってなぞおらぬ」
「マタタビちゃんを拐っておいて? あ、もしかして、あたしは仲間ってわけじゃないから、あんな事をしても裏切りにはならないって言うつもり?」
「いいや、違う。確かにワシは、タムマロに手を貸した。じゃがそれは、全てワシの望みを叶えるためじゃ。まあ、結果だけを見れば、お前を裏切ったことになるがのぉ」
「お爺ちゃんの、望み? それって……」
それが何なのか、クラリスは何となくわかりました。
それは、心意六道拳を学んだクラリスだからこそわかることでした。
「今のあたしと、本気で戦いたいってことね」
「その通り。お前はオオヤシマへ来てからの一年足らずで、ブリタニカ王国にいた頃とは比べ物にならんくらい強くなった。龍王の半身を消し飛ばしたのを見たときなぞ、感動で身体が震えたわい」
「アレ、見てたんだ。でも、お爺ちゃん相手には使わないよ。だって、殺したくないもん」
「馬鹿者。ワシは、あの技の威力を見て感動したのではない。ワシが感動したのはあの技の工程。気を巧みに操って収束させたあの工程こそが、ワシが何十年も費やしてやっとたどり着いた境地の一つ。それをお前は、たった数度の戦いでモノにした。今のお前は、ワシが全力で戦うに価する」
「褒めすぎだよ。でも……」
嬉しい。と、クラリスは思いました。
クォンに認めてもらって、誇らしいとも思いました。
でも、今のクォンは敵。
そう自分に言い聞かせて、クラリスは魔力を練り始めました。
「勝負じゃ、クラリス。見事ワシに買ったら、一等の称号をくれてやる」
クォンはそう言って、赤い魔力を全身に纏いました。
それに応えるように、クラリスもゴールデン・クラリスを発動し……。
「心意六道拳皆伝。異種超級二等武神、クラリス」
と、自然体のまま名乗りました。
そしてクォンも、腕組みをしたまま……。
「心意六道拳開祖。並種一級一等武神、クォン・フェイ・フォン」
名乗りを上げ、次いで二人同時に……。
「さあ! 拳で語り合いましょ!」
「さあ! 拳で語り合おうぞ!」
と、叫んで、申し合わせでもしていたかのように瞬天新地でお互い同時に距離を詰め、拳乱烈脚で殴り合いを始めました。
「ほうっ! 拳乱烈脚に海流双掌舞を混ぜたか!」
クラリスは拳と脚に纏わせた魔力を回転させ、クォンの攻撃を受け流しつつ、一撃の威力を底上げしていました。
ですが、それはクォンも同じ。
魔力の操作は、ワダツミから直接海流双掌舞をコピーしたクラリスの方が上手いようですが、素の格闘技術はクォンの方が数段上なので有利にはなりませんでした。
贔屓目に見て、かろうじて拮抗している程度でしょう。
そしてクォンは、その拮抗を崩すために……。
「ならば、こうじゃ! 心意六道! 光翼斬掌! 乱舞!」
両手の魔力を刃に変え、目にも止まらぬ斬撃を何十回も連続で繰り出しました。
それに対するクラリスは……。
「心意六道、極小回転波紋平傘」
手の平サイズの波紋平傘、しかも海流双掌舞と同じ回転を加えたモノを両手の平に生み出し、クォンの斬撃を全て捌ききりました。
そこでクォンは、異常に気付きました。
「クラリス、お前……」
「どうしたの? お爺ちゃん。手が止まってるよ」
見た目は以前から知るクラリス。
違うのは、魔力を垂れ流すのではなく制御しているくらい。
そこだけ見れば、操気術の技量がクォンに並んだ程度。
なのに、纏っている雰囲気がまるで違う。繰り出す拳や蹴りに、殺気の類いがまるでない。でも、手加減しているわけでもやる気がないわけでもない。
魔力の流れは自然過ぎて逆に不自然さを感じさせました。
技量と言う意味では、今だクォンの方が数段上ですが、至っている境地はクラリスの方が上だったのでございます。
「お前を弟子にして、正解じゃった」
「あたしも、お爺ちゃんが師匠で良かった」
クラリスは、勝利を確信していました。
クォンは、敗北を受け入れていました。
だから二人は、右拳にありったけの魔力を集め始めました。
「クラリス。今この時より、お前は極致に至った者。至等を名乗るがよい」
「うん、わかった」
クラリスが至った極致。
それは天衣無縫。
天衣無縫とは、文章や詩歌に技巧などの形跡が全く見られず自然な様という意味で、流れるようで非常に美しく、少しの抵抗も感じないこと。
その他にも、人柄において飾り気がなく、素直で嫌みがないという意味もあり、まるで子供のように無邪気で純粋であることを意味しています。
それはクォンが、人生のほとんどを費やしても今だ到達できていない極致でした。
「いつか、ワシがその極致に至った時につけようと思っていた名がある」
「何て名前?」
「心意六道、極伝。天衣無縫。今のお前は正にそれじゃ。お前は技を繰り出しておるのではない。お前の動きそのものが技に昇華されておる。相手の動きを察し、水のように自然に、巧みに、違和感なく反応しておった。正直、勝てる気がせんよ。いくら技を練ろうと、力を鍛えようと、人は決して自然には勝てん」
クォンには、クラリスがまるで山のように見えていました。
体はクォンとは比べるまでもなく小さく、細いのに、山のように雄大で堅牢。なのに威圧感はなく、そこに在るのが当然のように違和感がありません。
「じゃが、ワシもタダでは負けん。せめて一矢、報いさせてもらう」
「良いよ。あたしも、全力でお爺ちゃんを殴る」
二人はどちらからともなく、笑顔を浮かべました。
クラリスもクォンも、まるで孫と祖父が久し振りに会ったかのように屈託のない笑顔で、右腕を折り畳み、肘を限界まで引きました。
そして同時に……。
「「心意六道! 穿岩拳!」」
魔力を纏わせた拳同士を、打ち付け合いました。
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