じゃあ、山頂で会いましょ/ええ、また後で
「クラーラ。タムマロは山頂にいるの?」
「常にハチロウちゃんにかけている居場所特定魔術の反応は山頂からしていますが、タムマロ様がいるかどうかまでは確認できません。ですが、間違いなくそこにいますが……」
二人は傷を癒して着替えた後、クラーラが高速移動用魔術で造った木馬に乗って出発しました。
現在は4合目あたりでしょうか。
「今はタムマロ様よりも、六合目と八合目にある魔力反応をどうにかすべきかと」
「六合目にいるのはお爺ちゃんだね。じゃあ、八合目にいるのは……」
「行き遅れのブラコン年増でしょう。そちらはわたくしがどうにかしますので、クラリスはクォン様をどうにかしてください」
「オッケー。はなからそのつもりよ」
五合目を半ば通りすぎたあたりで、クラリスは前方からよく知る魔力を感じました。
感じるなり、体内で魔力を練り始めたクラリスは……。
「じゃあ、山頂で会いましょ」
と、言ってからゴールデン・クラリスを発動し、高速移動用魔術を上回る速度で文字通り飛んで行きました。
それを見送ったクラーラは、声が届かないのは承知の上で……。
「ええ、また後で」
と、言いました。
そして曇天飛翔魔法の術式を改良したものと、本来なら水中で使う生存領域確保魔術とさらに二つの術式を高速移動用魔術に加えて飛翔能力を与えた天空飛翔魔術で、六合目と七合目を飛び越えて一気に八合目へと至りました。
そこで待っていたのは予想通り……。
「飛行を可能にする魔術まで創っていたなんて、さすがに驚いたわ。そっちを研究成果として提出した方が良かったんじゃない?」
「この魔術は、飛行中はずっと上級相当の魔力を消費します。他に使える人がいないのなら、提出するだけ無駄でしょう?」
「相変わらずの傲慢っぷりね。もう少し御しやすい性格なら、私の共同研究者にしてあげたのに」
「共同研究者? ゴーストライターの間違いでは? 実際、あなたでは学生時代にわたくしが書いた論文を理解できませんでした。この天空飛翔魔術の術式ですら、あなたでは理解できないでしょう」
クラーラは事実を突き付けただけで挑発したつもりはなかったのですが、天空飛翔魔術から降りしながら放ったクラーラの言葉は、アリシアの顔から表情を奪いました。
「腹立たしい子ね。本当に腹立たしい」
「自分以上の魔術師が、目の前にいるのがですか」
「ええ、そうよ。あなたが現れるまで、私はブリタニカ王国……いえ、世界最高の魔術師だった。でもあなたは、私からその地位を奪い去った。あれ程腹立たしいことはなかったわ。無いに等しい程度の魔力しか持たないあなたが、私をはるかに超える魔道の才を持っていたんだから」
「それは御愁傷様です。ですが、あなたが頭角を現したと同時に、あなたと同じ気持ちになった人もいたのでは?」
「ええ、そうよ。だから私は嫉妬心を押さえ付けて、あなたの論文を読み漁った。でも、理解できなかった。私の才能は、あなたの足元にも及ばなかった」
そこで、アリシアは血が滴るほど強く唇を噛み締めました。
それを冷めた瞳で見ていたクラーラは……。
「だから、タムマロ様の計画に協力したのですね?」
と、冷静に問い掛けました。
見返りはおそらく片翼の腕輪とクラーラが持つギフト、魔道の極みだと予測して。
「ええ、そうよ。私はあなたのギフトとその腕輪を頂く。そして再び、世界最高の魔術師として返り咲く!」
「無駄なことを……」
そうは言ったものの、クラーラはアリシアの気持ちが痛いほどわかりました。
かつてのクラーラもそうだったからと言うのも理由一つですが、魔術師とは基本的に、向上心と探求心の塊。
さらに上を目指せる方法があるのなら、どんな犠牲を払ってでも手に入れようとする人種です。
それが痛いほど理解できるからこそ、クラーラは真摯にアリシアと向き合っているのでございます。
だから二人は……。
「ブリタニカ王国立魔術院所属一級魔術師。聖剣の魔女、アリシア・ペンテレイアは、あなたに魔道戦を申し込む!」
「ブリタニカ王国立魔術院所属特級魔術師。虚言の魔女、クラーラ。その申し出、慎んでお受け致します」
魔術師同士による伝統的な決闘法である魔道戦を、選択しました。
そしてクラーラがアリシアの申し出を受けると同時に、二人は魔力の鎖で繋がれました。
これが、魔道戦唯一にして絶対のルール。
魔道戦とは本来、魔術師同士が互いの研究成果を奪い合うために制定されたルールで、勝った側は負けた側から設定した賞品を必ず得られるようになっています。
その理由が、この魔力の鎖。
この鎖は互いを拘束するためのモノではなく、有無を言わさず勝負がついた瞬間に、賞品を徴収するための呪いを付加するモノでなのです。
そして少しの沈黙のあと、二人は同時に……。
「「|彼の者は剣の虜囚《He is a prisoner of the sword.》……」」
剣聖再現の詠唱を始めました。
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