泣かないで/もう泣きません
タムマロたちが宿へ到着したのは、クラーラとアリシアが部屋に籠り、オハナの糸を売りに三人がでかけたため、暇をもて余したクラリスがクォン、ついでにマタタビと一緒に、腕立て伏せをしている最中でした。
「ほら! マタタビちゃん頑張って! One more set!」
「ぐっ……ニャニャニャニャ! 頑張るニャ! 強くなって、クラリスお姉さまのお役に立つのニャ!」
「良いぞマタタビ! その粋じゃ!」
暑苦しい……。
と、言ったのは私ではなく、三人の筋トレ風景を見せつけられたタムマロです。
「おおっ! タムマロではないか! お前も混ざるか?」
「遠慮しておきます。それより、アリシアはどこに?」
「隣の部屋で、クラーラの嬢ちゃんと何やらしておる! これ! クラリス! 顎が下がって来ておるぞ!」
「わかってるぅぅぅぅぅ!」
腕立て伏せの回数はすでに千回を超えているのですから、そろそろやめてくれないでしょうか。
本当に見ていて暑苦しいですし、タムマロが連れている少女も、奇妙な生き物を見るかのような目で三人を見ていますし。
「ん? タムマロや。その子が、お前が探していた子か?」
「ええ、チバでようやく見つけました。ほら、自己紹介して」
「え、えっと、フセと言います。よ、よろしく……」
フセと名乗った7~8歳くらいの女の子は、言い終えると同時にタムマロの後ろに隠れてしまいました。
その様子を見て機嫌が悪くなったクラリスは腕立て伏せをやめて、食って掛かりました。
「ったく、次から次へと手を出すわね。まさか、そんな幼女にまで手を出すロリコンだとは思ってなかったわ」
「誤解しないでくれクラリス。僕はロリコンじゃないし、手も出してないよ」
「あら、それにしちゃあ随分な懐かれようじゃない」
「まあ、色々あったからね」
胡散臭い。
と、思いながらクラリスは、笑顔のまま肩をすくめたタムマロへ向ける目を細めました。
槍玉に上がったフセはと言いますと、「タムマロ様なら、私は……」などと言いながら頬を赤く染めていますので、会話の内容を理解して、さらに満更でもないようです。
「ところで、アンタは何をしに来たのよ。まさか、新しい彼女を紹介しに来ただけなんじゃないでしょうね」
「まさか。君たちに、新しい情報を与えようと思って来たんだ」
「新しい情報? それって、アマテラスが両性具有だったかもって話?」
「そっちもだけど、ここにアマノイワトがあったかもって情報も……」
「あ、そっちはいらない。お姉さまを蘇らせる手段なら、クラーラがなんとかしちゃったから」
「何だって? それは本当かい?」
「うん。だって、クラーラがそう言ってたもん」
クラリス話を聞いてタムマロの表情から笑顔が消え、視線だけをクォンへと向けました。
その行動を不審に思ったクラリスは、何があっても良いように身構えようとしましたが……。
「うぐぇ……! お、お爺ちゃん!?」
する前に、クォンによって首根っこを掴まれて、床に押さえ付けられてしまいました。
「予定を繰り上げる。で、ええな? タムマロ」
「ええ、クラリスを適当に痛め付けて、アリシアとマタタビを回収して予定の場所へ。僕は、他の三人を捕獲してきます」
「わかった。では、すまんな、クラリス。少しだけ痛くするぞ」
「ちょ、どういうことよ! 説明してよお爺ちゃん!」
「それはできん。心意六道、巨掌鞭打!」
手の平から魔力を放出する巨掌鞭打をなんとかゴールデン・クラリスを発動して耐えましたが、ゼロ距離からのクォンの一撃はクラリスを地面にめり込ませ、ゴールデン・クラリスの防御を貫いて身体のあちこちに裂傷を負わせました。
しかも打点の中心が首根っこだったため、衝撃は脳にまで達して意識は朦朧としています。
そんなクラリスを、マタタビを気絶させて脇に抱えたクォンは見下ろして……。
「ワシは六合目で待っておる。傷が癒えたら来るがよい」
と、言い残して、寄って来たアリシアと共に去って行きました。
その代わりとばかりに、シスターベールがなくなり、服もあちこち焼け焦げたクラーラが顔を覗かせました。
「ク、クラリス。生きていますか?」
「かろうじて……かな。その様子じゃあ……」
「ええ、あのアラサーの行き遅れ、いきなり炎大槍魔術をぶっ放してくれやがりました。一応、防御術式は間に合いましたがご覧の有り様です」
と、説明しながら、クラーラはクラリスの横に膝を突いて上級治療魔術をかけ始めました。
「対物理、対魔力防御は? 使ってなかったの?」
「アレって、使っている間は触覚が鈍るんです。それに、あの年増は一応師匠ですから、警戒していませんでした」
段々と尻すぼみしていったクラーラの声を聴いて、師匠から受けた突然の仕打ちに傷ついているんだろうな。と、クラリスは思いました。
それは間違いなかったのですが、クラーラを落ち込ませた理由の大半は……。
「クラーラ、大丈夫?」
「大丈夫です。あなたの傷が癒えたら、すぐに出発します」
「クラーラは、どうしてこんなことになったのか、知ってるの?」
「ええ、知っています」
「だったら説明してよ。あたしだけ蚊帳の外なんて我慢できない」
蚊帳の外どころかクラリスは中心人物なのですが、事情を全く知らないクラリスからすれば、蚊帳の外にされていると感じても仕方がないでしょう。
ですが、クラーラは説明できませんでした。
いえ、したくありませんでした。
それこそ……。
「ごめん……なさい。もう少しだけ、待ってください」
涙を流して、謝るほど。
クラーラのその反応を見たクラリスは……。
「うん、良いよ。クラーラが話せるようになるまで待つから、泣かないで」
痛む体に鞭打って、クラーラを抱きしめました。
クラリスのその行動に面食らったクラーラはクスっと一笑いしてから……。
「ええ、わかりました。もう泣きません」
と、一言だけ返しました。
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