さあ、御高覧あれ!
冷静な時に限りますが、クラリスには戦いに挑む際、初めから終わりまでシミュレートする癖があります。
クラリスに心意六道拳を伝授したクォンからすれば、それは悪癖でしかありません。
何故なら心意六道拳とは、基本的に一撃必殺。
故に、気合を入れるために技名を叫ぶのも、一撃で大量の魔力を消費するのもデメリットにはなりません。
敵が如何に多くても、敵が如何に巨大で強大でも、二の手を打たずに終わらせるのが、心意六道拳においては理想にして極地。
クォンですらその極地には至っていませんが、心意六道拳の使い手である二人は、それを目指しています。
「駄目だな、あたしは。今でもこんなんだってお爺ちゃんに知られたら、きっとぶん殴られちゃうよ」
「何の話でござるか?」
「何でもない。ただの、独り言よ」
と、答えながらクラリスは、いつものように爆発的にではなく、穏やかに流れる川のように静かに、ゴールデンクラリスを発動しました。
「ほう……。これは、聞いていた以上でござるな。ワダツミは、魔力は多いが垂れ流しているだけで制御はできていないと、言っていたが、これでは真逆でござる」
「ワダツミのおっちゃんとやり合ってから、どんだけ経ってると思ってるのよ。あたしだって、それなりに成長するわ」
以前のクラリスは、膨大な量の魔力にあかせて、ただ放出していただけでした。
ですが今は、タケミカヅチの言った通り真逆。
上位龍の攻撃に耐えられるだけの魔力を身にまとい、それ以外の魔力は放出せずに、体の内側で練り上げています。
「お爺ちゃん……あたしの師匠はさ、戦いの時は何も考えるなって言うの」
「その師は、本当に師でござるか? 戦いにおいて、自身や敵の動きを観察も予測もせず、ただ本能だけで戦うなど愚の骨頂。それはもう、技とは呼べぬ」
「そうね。武術って、本来はすっごく頭を使うもんなんだと思う。でも、お爺ちゃんが目指しているのは、その先なんだとも思うの」
「興味深い。そなたの師が目指す武とは、如何なるものなのでござるか?」
「今、見せてあげるわ」
と、言ったのに、クラリスは何もしようといません。
ただ、立っているだけです。
タケミカヅチが反射的に、無手なのに居合の構えを取ってしまうほどクラリスの自然体は不自然でした。
それを戦いの合図と察した両者は……。
「……八大龍王が一角、関東地方守護役。雷龍王 タケミカヅチ。推して参る!」
「心意六道拳皆伝。異種超級二等武神、クラリス。只今見参」
お互いに名乗り、名乗るなり、タケミカヅチは動きました。
いえ、ほとんどの人間には、タケミカヅチが動いたようには見えませんでした。
自身の体を電に変えて、光に迫る速度でクラリスの眼前まで移動し、「轟雷一閃! 雷霆万鈞!」と、言いながら、プラズマ化するほどの電流を纏わせた右手振り抜いたタケミカヅチを視認できていたのは、相対しているクラリスと、観戦しているマタタビ、そして、残りの龍王たちだけでした。
「心意六道、奧伝の二。明鏡止水」
その技は、相手を圧倒的な力で叩き潰すことを前提に創られた心意六道拳の中では異質な技。
相手の攻撃を真綿のように優しく受け止め、勢いを完全に殺して無力化する。
自信を死に至らしめる攻撃を前にしても恐れず、ひるまず、かと言って猛らず、力まず、無に近い平常心を保て初めて成しえる、無敵の防御術。それを使って、クラリスは万物を切り裂くタケミカヅチの攻撃を受けきりました。
そして……。
「かぁ~らぁ~のぉぉぉぉぉ! 心意六道! 穿岩拳!」
拳の先に球形の魔力の塊を作り、叩きつける穿岩拳を、タケミカヅチの腹に叩きつけました。
ですが、さすがは龍王。
岩を楽々と粉砕する穿岩拳をまともに食らったのに、それに堪えるどころか電を纏わせた両腕を振り上げて、反撃しようとしています。
ですが、それはクラリスも承知の上。
クラリスは最初から、穿岩拳だけで倒せるとは微塵も考えていませんでした。
なので……。
「プラス! 海流双掌舞!」
叩きつけた魔力の塊に、海流双掌舞を覚えることでできるようになった魔力を流体のように扱う技法をプラスし、拳の先から魔力の竜巻を発生させてタケミカヅチを吹き飛ばして体のあちこちを切り裂きました。
ですが、それで終わりではございません。
タケミカヅチは飛ばされながら再び居合の構えを取り、着地と同時に切り込む気でしょう。
それに対して、クラリスは左手を軽く開いて前に出し、右手は固く握って弓のように後ろへ、肘ごと引きました。
「心意六道、穿岩拳。プラス、海流双掌舞」
クラリスは先ほどと同じように、拳の先に作った魔力の塊を、海流双掌舞の要領で回転させ、拳の先から肘までを、水のように回転する魔力で覆いました。
ですが、これが通用しないのは、先ほどの一合で証明されています。
なので、クラリスは……。
「さらに、雷霆万鈞をプラス!」
さて、長らく出ていなかったので私も忘れていましたが、クラリスも天贈物保持者です。
そのギフトの名は、『痛みの代価』。
目で見て、実際に体験した武術を覚えることができるギフトです。
そのギフトのおかげで、クラリスは雷霆万鈞を覚え、さらに、応用することができるようになりました。
「重ね束ねて、合わせて混ぜて練り上げる! さあ、御高覧あれ! これなるは二大龍王と、我が師であるクォン・フェイ・フォンの業の合わせ技! そぉ~のぉ~名ぁ~もぉぉぉぉぉ……!」
タケミカヅチは、その時点で勝ちを諦めていたのかもしれません。
無駄に喋るクラリスは、タケミカヅチからすれば隙だらけ。
なのに彼は、斬り込む気になれませんでした。
右腕に纏わせた黄金の魔力を、回転させることでどこまでも圧縮し、プラズマどころか光に換えているクラリスを目にして、タケミカヅチは、避けては駄目だと思ってしまったのでございます。
そんなタケミカヅチの心情など知らないクラリスは……。
「閃火雷轟! 神滅龍烈破ぁぁぁぁぁ!」
遠慮なく、万物を素粒子レベルまで分解する破壊光線を、タケミカヅチへ放ちました。
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