ようやく、半分と言うことですか
マタタビがタヂカラオと親交を深め、クラリスとタケミカヅチが始めて良いか迷っている間も魔王の記憶を見続けていたクラーラは、タムマロの計画を八割方看破していました。
ですが……。
(わかりません。そんな事をしても、タムマロ様は聖女様と結ばれないのに……)
タムマロの動機が、わからないのでございます。
クラーラに言わせれば、タムマロがやろうとしていることは、一言で言えば無駄。
時間と労力の浪費でしかなく、何も実を結びません。
(聖女様と結ばれる。それは唯一、嘘偽りないタムマロ様の想いのはず……)
「さあ魔王様! もっとペースを上げるニャ!」
「ちょ、ちょっと待って、シルバーバイン。もう歳なんだから手加減し……」
「何をおっしゃるニャ! 魔王様はまだ60歳! まだまだ若いニャ! ワンモアセットニャ!」
「人間より長寿の亜人の60代と一緒にしないで! もう本っ当に限界なの! 無理なの! 腕がプルプルしてるの!」
「無理とか限界とか言えてるうちは、まだ平気ニャ! 今日鍛えた筋肉は、後々絶対に魔王様の役にたつニャ! 筋肉は裏切らないニャ! だから鍛えるニャ!」
(あーーっ! もうっ! うるさいし暑苦しい!)
と、苦情を言ったところで、腕立て伏せを続ける二人の耳に届く訳もなく、クラーラは上下するシルバーバインの顔を見ながら、なんとか思考をまとめようとしています。
(とっとと場面が変わってくれないでしょうか。こんなにうるさくて暑苦しくて見ていて不快な場面では、おちおち推理もしていられません)
しばらく続きそうなので、ここで余談を挟みましょう。
この世界には、ひとまとめに亜人とか魔族と呼ばれている人種がいくつもあります。
この物語で出てきた種族で言うと、マタタビでお馴染みの妖猫族と、霊子力精製用培養人間の末裔であるオロチ族、フローリストに代表される魔蜘蛛族。八大龍王も亜人の部類に入るのですが、彼らは少し毛色が異なりますので除外します。
他にも様々な種族が存在しますが、その大元は一つ。
旧世界の科学者たちが、永遠に近い寿命を得るために創造した長耳族でございます。
本来なら、エルフは旧世界の科学者や為政者たちが脳を移植して長寿を得るための新しい身体だったのですが、それが成される前に世界が滅びてしまったため、その目論見は水泡に帰しました。
ですがその前に、他者の脳を移植しても拒絶反応を一切起こさないほど寛容な免疫機能は、それだけで科学者たちの探求心を刺激し、エルフは様々な動物と掛け合わされました。
その実験体の末裔が、今で言う亜人種。
種族によって数十年ほど差はありますが、人間をはるかに上回る長寿と身体性能を持った亜人種が誕生したのでございます。
(あ、ようやく、場面が変わりましたね。ここは……ああ、初めて見た記憶です……いや、違う。これは違う。これは、展開こそ初めて見た魔王の記憶と同じですが……)
魔王に抱かれている人物が違う。
以前見た記憶では、魔王に抱かれていた人物はシスターのような服装をしていました。
なのに、今回は全く違う服装でした。
「よくも……! よくも……!」
胸を大きく切り裂かれた人物を抱く女性が、涙で視界が揺らぐ瞳で、鎧武者を睨みながら言いました。
それに答えるように、鎧武者は仮面のせいでくぐもった声で……。
「今回は、君でいってみよう」
と、期待に胸を膨らませた少年のように瞳を輝かせて言いました。
その言葉の意味を理解したクラーラは……。
(ようやく、半分と言うことですか)
と、魔王の記憶の膨大さに辟易しながらも、とことんまで見てやると、決意を固めました。
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