何のために、こんなことを?
クラリスが三龍王から求婚されてお馬鹿なことをしている間、クラーラはひたすら、魔王の記憶を見続けていました。
(わたくしでなければ、とっく発狂していたでしょうね)
と、時間の感覚を忘れてしまうほど、何度も何度も繰り返し似たような場面を見続けているクラーラは、声にならない声で感想を口にしました。
(はぁ……。また、この場面ですか)
クラーラが見ている……と、言うよりは魔王が見ている光景は、何度も見た場面の一つ。
亜人の集落を襲ったどこかの国の騎士団を、魔王と四天王が撃退している場面です。
(四天王たちが、以前見た魔王城での記憶よりも若くて服装が貧相な以外は、特に目新しさはないんですよね、この記憶)
その記憶では、エイトゥスと思われる青年が植物を操る魔術で防壁を作ったり、拘束したり貫いたりして侵攻を遅らせ、シルバーバインと思われる17~8歳くらいの妖猫族の少女が、背中の足が欠損していないフローリストとともに左右から挟撃し、騎士団に満足な攻撃をさせずに虐殺しています。
「ウィロウ! 住民たちをこっちに! パンデモニウムまでの門を開くわ!」
「かしこまり! まっかせといて!」
この頃のウィロウは、口調が軽かったのですね。ここまで軽いと、外見も相まってヤナギと同じ人物に思えてきます。
と、クラーラは感想を抱きながら、飽きるほど見たその光景を見続けています。
(この状態ではギフトが機能しないのが、残念でなりませんね)
魔王の記憶には、クラーラですら知らない魔術、魔法が多く登場しました。
魔王が地面に両手を突くなり、魔方陣と共に現れた石造りの門もその一つです。
ギフトが使えないので術式の解析は出来ませんでしたが、その門は現在地と特定の場所、この場合だと、パンデモニウムと呼ばれる場所を物理的な距離を無視して繋ぐ転移魔術だと、クラーラは推察しました。
(この頃の魔王は、いくつくらいなのでしょうか。肌艶的に、二十代前半? ああでも、亜人だったら参考になりませんか。それでも……)
若いことに変わりはない。
自分に、魔道を極められるギフトがあると知ってから、それまでの人生を魔道に捧げてざっと8年か9年。
たったそれだけの年月で、自分は世界中のどの魔術師よりも多くの魔術、魔法を覚えて行使できるようになった。
なのに、魔王には全く及ばない。
仮に魔王が二十代前半だとして、自分が同じくらいの歳になるまでに魔王の域に至れるのか。と、クラーラは記憶を見る時間が増えるにしたがって、自信を失い続けています。
(そろそろ、潮時ですかね)
これ以上見続けていても、タムマロの企みに繋がりそうな情報は得られそうにない。
ですが、自身にかけた時限式覚醒魔術が発動するまでは、眠りから覚めることができません。
なので、記憶を見続けるくらいしかやることがないのですが、大した違いのない記憶を見続けても無駄。と、クラーラは考え始め、そこでようやく、矛盾に気づきました。
(大した違いが……ない? それはおかしい。どうして、マナの壺に記録された故人の記憶なのに、些細な違いが?)
それは、記憶の中の登場人物のセリフや、魔王の視点の角度、その他諸々の、小さすぎて見落としてしまうほど細かな違い。
その意味に気づいたクラーラは……。
(何のために、こんなことを? タムマロ様は、いったい何がしたくて、こんなことを……)
それまで以上に混乱し、タムマロの企みが何なのか、余計にでもわからなくなってしまいました。
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