モテ期、入りました
さて、今回は余談から入りましょう。
以前、ワダツミと名乗る上位龍が登場したのを覚えておられるでしょうか。
彼は自分で言っていたように、大昔からオオヤシマを守護する八大龍王の一角で、島国であるオオヤシマを囲む海を守護している関係で最も眷族が多く、戦闘能力も他の七体より強く設定されています。
この物語には直接関係ございませんので詳細は割愛させていただきますが、その起源は旧世界まで遡り、彼らの行動原理も、その頃に設定されました。
「えっと……。ねえ、クラリスちゃん。これって、ピンチだよね?」
「ええ、間違いなくピンチよ、ヤナギちゃん。でも……あの真ん中の人は好みかも」
彼らの行動原理は、オオヤシマを守護し、そこに住むオオヤシマ人の人数を一定に保つこと。
そこには異国人や亜人は含まれてはおらず、オオヤシマ人を一定以下にしかねない驚異が現れた場合は、容赦なくその驚異を排除します。
それこそ、設定された人数を割らないならば、オオヤシマ人すら巻き込んで。
「は、八大龍王……。それが三人も……」
ナゴヤを出たクラリスたちは、クラーラが寝てるならアツタ神宮に寄っても意味がないと素通りし、路銀を稼ぎつつ (稼いだのはハチロウとヤナギですが)一週間かけてシズオカ地方を横断し、カナガワ地方の手前の宿場町であるヌマズの娼館を訪ねようとした矢先に、ハチロウが震える声で言った三人の龍王が立ち塞がりました。
「目的はあたし、だよね」
「左様。拙者は八大龍王が一角、雷龍王 タケミカヅチ」
「同じく八大龍王、剛龍王 タヂカラオ」
「そしてオレが、風龍王 タケミナカタ!」
クラリスの問いに、三人の龍王は名乗ることで答えました。
クラリスは宿場町を壊さないための配慮なのか、ヒト型になっている三人に対してすぐさま殴りかかれるよう軽く腰を落としていますが、妙な違和感を感じています。
殺気の類いを、まるで感じないのでございます。
ナゴヤで得た情報が確かなら、自分達はお尋ね者。なのでこの龍王たちは、自分達をどうにかしようとしてこの場に集まったと考えるのが自然なのに、仕掛けてくる様子が欠片もないのでございます。
「そなたがワダツミの片腕を落とした娘で、間違いないな?」
面倒だから、こちらから仕掛けるか。
と、クラリスが考え始めたのを見計らったようなタイミングで、ワダツミやベンケイ以上に大きく、左肩から右わき腹まで伸びる五本の傷跡が刻まれたムキムキの上半身を惜しげもなく晒しているタヂカラオが、クラリスに問いました。
「そうよ。もしかして、敵討ち?」
「いいや、違う。違うが、先ほども言った通り、拙者たちはそなたに用がある」
クラリスが問い返すと、今度は西欧諸国で言うところのナイトに相当するオオヤシマ特有の職業、サムライと似た出で立ちをしたタケミカヅチが答えました。
自分達ではなく自分に用がある? 何だろう。と、疑問は浮かびますが、一番有力な敵討ちを即座に否定されたので、龍王たちが自分に何を求めているのかが想像できませんでした。
「オレたちは、そなたに求婚しに来たのだ!」
その答えは計らずも、オオヤシマの伝統武道であるカラテ、それを学ぶ者たちが好んで着る白いカラテ着に身を包んだタケミナカタが教えてくれました。
ですが、クラリスは意味がわからず……。
「あ、球根が欲しいの? じゃあハチロウ君、球根出して」
「クラリスお姉ちゃん。球根じゃなくて求婚だよ。字が違うよ」
「え? 違うの?」
「うん。この人たち、クラリスお姉ちゃんと結婚したいんだってさ」
ハチロウに冷静にツッコマれ、さらにわかりやすく教えてもらったのに、クラリスの頭は理解しようとしません。
「クラリスちゃん、モテモテだね~」
「え? あたし、モテてるの?」
「ダ、ダメニャ! モテてないニャ! クラリスお姉さまは、うちと結婚するんだニャ!」
そう、クラリスは男性からモテたことがないので、自分に言い寄る男性が存在したことが信じられないのでございます。
まあ、クラリスは自分から言い寄ったことしかなく、かなり特殊な初体験だったので仕方がないと言えば、仕方がないのかもしれません。
「あのぉ、一応確認するんだけど、クラーラじゃなくてあたしと結婚したいん……だよね?」
「「「その通り!」」」
恐る恐るの確認に、龍王たちは声を揃えて肯定しました。
それを聞いて、震わせるほど気を良くしたクラリスは、ハチロウの木偶人形の腕の中で眠り続けるクラーラを振り返って…… 。
「モテ期、入りました」
と、これでもかと自慢げに言いました。
読んでいただけるだけで光栄なのですが、もし「面白い!」「続き読みたい!」など思って頂けたらぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!
ぜひよろしくお願いします!




