じゃあ、おやすみ。クラーラ/ええ、おやすみなさい。クラリス
フローリストを殺害してすぐ、クラーラごとフローリストを燃やしたのに謝りもせず、タムマロは姿を消しました。
クラーラが防御魔術を使っていると知っていたからそうしたのでしょうが、文句の一つも言わず、灰になってしまったフローリストを見下ろすクラーラの頭の中は、今まで得た情報を整理するのに必死で、タムマロが姿を消したことにも気づいていません。
「あれ? あたし、寝てた……って、クラーラ!? どうしたのよそれ、血まみれじゃない!」
「ああ、起きたのですか。ですが、今は忙しいので静かにしてください」
クラリスは慌ててクラーラに駆け寄ろうとしましたが、クラーラは右手で制して、再び思考の海に戻りました。
アワジに流れ着いてから……いえ、タムマロと出会ってからスズカの一件までは、タムマロの計画通り。
ですが、今回の一件は違う。
タムマロの計画では、自分達は本来、ここでフローリストではなく別の人物と会う予定だった。
そこまでは、タムマロとフローリストの会話で推察できました。
ですが、誰と会わせたかったのかがわからない。
しかも、予定が狂ったはずなのに、タムマロはむしろ歓迎していたように、クラーラには見えました。
「タムマロ様は、わたくしたちに聖女様を甦らさせて、横取りするつもりなんだとばかり思っていましたが……」
クラーラは、違う気がしています。
今の時点でわかることは、聖女様を甦らせる方法のヒントを与えつつ、自分たちを鍛える。それはほぼ、間違いないとクラーラは思っていますが、どうにも納得がいきません。
そもそも、甦らせるだけなら、方法をタムマロが探して来てクラーラに教えるだけで済むのです。
なのに、そうしない。
神と争う可能性があると言っていましたので、そのために対神用決戦大魔術を習得させるために、こんなに回りくどいことをしているのかとも考えましたが、それも少し違う気がしているのでございます。
「情報が足りません。かと言って、タムマロ様を問い質したところで、素直に教えてくれるとは思えません。ならば……」
魔王の記憶を見るしかない。
と、クラーラは結論したのですが、ここで問題が一つ。
魔王の記憶を見るためには、大量の魔力をクラリスから吸わなければなりません。
ですが、古代魔法を連発したり、長時間かけて片翼の腕輪をチャージするのならともかく、消費もせずに魔力を吸い続ける行為は、いくら魔力の扱いに長けていると言っても、そもそも魔力を貯め込める器が一般人以下のクラーラではすぐにあふれてしまい、最悪、体が弾けてしまう自殺行為なのです。
「腕輪は……ほぼ満タン。古代魔法を使うような状況でもない。どうにかして、大量の魔力を消費しなければ……」
「たっだいま~。山を下りたとこにあった村に、宿をとってきたよ~……って! クラーラちゃんどうしたの!? 血まみれじゃない!」
「それはさっき、クラリスが同じことを言ったのでもう……」
結構です。と、続けようとして、ヤナギに視線を向けました。
ヤナギは、有事の際は龍脈と接続して普通の人間サイズで実体化しますが、普段はクラーラが与えた魔石で実体化できる程度の大きさでしか体を作っていません。
つまり魔力さえあれば、常時普通のサイズで実体化できます。
そのことを、ヤナギ以上に理解しているクラーラは……。
「ヤナギ。普通のサイズで、行動したくないですか?」
「そりゃあしたいけど、龍脈と繋がっちゃったらその場所から動けなくなっちゃうし……」
「では、したいのですね?」
「どちらかと言えば」
「では、叶えてあげましょう」
と、提案し、懐から搾取の首輪を取り出しました。
ですがそれは、クラリスとクラーラが身に付けている物とは違い、緑色の宝石がはめ込まれています。
「これは?」
「改良中の、搾取の首輪です。まだ、この腕輪ほどの魔石は作れていませんが、それでも今の三倍は魔力を吸うことができます」
ただし、圧縮が中途半端なので、いつ爆発するかわからない危険物。
だからクラーラは身に付けていなかったのですが、死んでいるヤナギなら首輪が爆発しようと問題ないと判断して、それを渡したのでございます。
「ちょっとクラーラ。それって、あたしが吸われる魔力の量が増えるってことじゃないの?」
「増えません。何故ならしばらくの間、わたくしは完全睡眠魔法を使って眠るからです」
なので、最初に神話級の魔力を使っても、それ以降はヤナギが体のガワを実体化する程度の魔力しか使わないから、いつもより消費は少ない。と、クラーラは説明しました。
ですが、クラリスはクラーラの行動がわからず、納得しかねています。
「クラーラが眠ることと、この状況は関係があるの?」
「あります。むしろ、もう二度とこのような状況にならないよう、わたくしは眠るのです」
「あたしが、寝てるクラーラにイタズラするかもしれないのに?」
「……しょ、処女さえ奪わないでくれるなら、イタズラ程度は許容します」
嫌そうに顔を歪めながらも言ったクラーラの言葉を聞いてクラリスは、これはただ事ではないと察し、覚悟の強さを感じました。
「わかった。でもせめて、これからどこを目指すのかと、いつ起きるのかくらいは教えておいて」
「とある筋から、ヤナギの姉がトーキョーにいるとの情報を得ました。なので、トーキョーへ向かってください。着くまでには、起きるつもりです」
クラーラは、クラリスの目を真っすぐ見ながら言いました。
クラリスも、クラーラの瞳を見つめ返しました。
二人の瞳には、お互いに対する疑念など微塵もありません。
クラリスは、クラーラの行動が自分たちのためなのだと信じ。クラーラは、クラリスなら自分がいなくても大丈夫だと、信じています。
だからなのか、二人は……。
「じゃあ、おやすみ。クラーラ」
「ええ、おやすみなさい。クラリス」
と、軽く挨拶を交わしました。
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