悪い夢でも見た?/悪夢と言えば、悪夢ですね
いつもの夢。
と、クラーラは目の前に広がる景色を見て、そう嘆息しました。
以前は、大量にクラリスの魔力を吸収した時だけでした。それが、片翼の腕輪を手に入れてからと言うもの、魔力をチャージするために、前以上にクラリスと首輪を通して繋がっていなければならなくなったために、三日に一度は見るようになったのです。
魔王城の、ここはベランダでしょうか。
眼下には、千人は楽に運動できそうなほどの広場。その向こうには壁が広がり、真ん中には正門と思われる巨大な門があります。
そのさらに向こうには真っ白な雪の大地が続き、朝日に照らされ始めた地平線だけが、黒く染まっています。
「魔王様。最後の、お別れに参りました」
「もう、そんな時間か」
「はい、あたいは今日、予定通り死にます」
その景色を見つめる魔王の後ろから、ハスキーな声をした女性が声をかけました。
魔王は振り返りませんでしたが、クラーラはそれが四天王の一人、フローリストだと察しました。
そして二人の台詞から、連合軍が魔王城に攻勢を仕掛けた日の朝だとも。
「よくもまあ、あんなに集めたものね。何人くらいいるんだっけ?」
「あたいが放った子蜘蛛たちの調べによると、ざっと100万人です」
「100万……か。人間ってホント、無駄なことをするわね。あんな数じゃ、ぜんぜん足りないってのに。フローリストも、そう思わない?」
「はい。ですがそれは、魔王様が御自身の情報をひた隠しにしてきた成果でもあります。恩名すら漏らさぬ情報統制のおかげか、魔王様の存在を疑問視する者までいますから」
魔王は、人間には悪行として、魔族と呼ばれることがある亜人たちには善行として広まっている数々の所業の割に、伝わっている情報が少ない。
彼女を崇拝する亜人たちですら、名前を知りません。
それは全て、彼女が徹底して隠蔽していたから。
黄金の魔力を持ち、全ての武道と魔道を極めた女好きとしか伝わっていないため、直接会ったことがあるタムマロ以外の人間は、魔王を男だと思っているほどです。
「フローリスト、避難は問題ない?」
「はい。四軍から選出した決死隊、1万を除いた全てで、一般市民を『アルカディア』へ移送しています」
「理想郷とは、名ばかりだけどね」
「牧畜には適しています。それに、あの地方の有力者も協力的ですので、悪いことにはならないかと」
「チンギ・スーハン。だったっけ」
「はい。人間ではありますが、信用に足る人物です」
まさかここで、その名前が出てくるとはクラーラは予想していませんでした。
その名前が出てくるとは言うことは、アルカディアとは今で言うゲン国。ならば、ツシマでクラーラが沈めた船に乗っていたゲン軍の兵士たちの中には、魔王軍の生き残りたちもいた可能性が高い。
そこまで考え至っても、罪悪感を欠片も感じていないクラーラとは対照的に、魔王の胸中は罪悪感で満ちています。
「あと何回……いえ、いつまで続くのかしら」
「彼女が気づいてくれたなら、あるいは……」
「そうね。それに賭けるしかない……か」
そう言って魔王は視線を、しわがれた右手に持った紅い宝石に落としました。
それは、クラーラにとって信じられない物でした。
「どうして、魔王がアレを……」
「ん? 起きたの? クラーラ」
そこで目が覚めたクラーラは、日課である朝のトレーニングをしていたクラリスに声をかけられました。
いつものクラーラなら、「朝っぱらから暑苦しい」と苦言の一つも言うのですが、今日はそういう気分ではないようです。
「クラーラにしては早起きじゃない。悪い夢でも見た?」
「ええ、まあ。悪夢と言えば、悪夢ですね」
身を起こしたクラーラは、クラリスの嫌味兼朝の挨拶に適当に答えながら、先程まで見ていた夢の内容を吟味していました。
そして吟味し続け、マタタビが朝食の仕度を済ませる頃には、信じたくない結論に至っていました。
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