クラーラって、熱くなると馬鹿だよね/あなたにだけは、言われたくありません
オオヤシマには、『アマノイワト』と目されている場所が複数あります。
五人が向かっているのは、その内の一つ。キョウト地方のフクチヤマの山中にある古代遺跡です。
旅路は順調で、何事もなければ翌日の昼には着く距離まで来ているのですが……。
「あのぉ……。クラーラ、あたし、お腹が……」
「その辺に生えている草でも、食べたらどうですか? あなたなら、お腹を壊すこともないでしょう?」
「いやぁ、さすがに壊しちゃうかなぁ。だから、ね?」
「何が、ね? なのですか? 言っておきますが、お昼までまだ時間がありますので、食料は渡しません」
「んな殺生な!」
「殺生ではありません。あなたが感情に任せて娼館を破壊したせいで、路銀が尽きるどころか借金までしてしまったのですよ? そのおかげで、行って帰るのに必要な分しか保存食を買えなかったのですから、節約するのは当然ではないですか」
「そ、それはわかってるし、反省もしてるけど……」
空腹に堪えられそうもないクラリスが、一悶着起こしそうです。
ですが、何だかんだでクラリスとの付き合いが長いクラーラは慌てることなく……。
「ハチロウちゃん。何かありますか?」
「手持ちの種はニンジンとキュウリと……あとは大根かな。キノコでも採ってこようか?」
「昼食前にそこまで時間をかけたくはありませんので、クラリスの口に大根でも突っ込んどいてください」
「うん、わかった」
「わかるな! せめて調理して! 大根を丸々口に突っ込まれたら裂けちゃうでしょ!」
「何かしら咀嚼していれば、空腹も紛れるでしょう? だから大人しく、大根を咥えて歩きなさい」
とりつく島もないクラーラの対応に若干腹を立てながらも、クラリスはハチロウから大根を受け取って噛り始めました。
「ごねんニャ、クラリスお姉さま。うちが動ければ、クラリスお姉さまを空腹にさせずにすんだのに……」
「マタタビちゃんのせいじゃないよ。食糧をケチるクラーラが悪いんだから、気にしないで」
いつもなら、クラリスが「お腹がすいた」と言う前にマタタビは狩りをしながら先行し、焼き鳥なり焼き魚なりを用意して、クラリスのお腹を満たします。
ですが先の一件で、マタタビは人間恐怖症が悪化し、クラリスから離れられなくなっていました。
そのせいで空腹を味わう羽目になったクラリスは……。
「あのクソアマ、今度会ったら絶対にぶっ殺してやる」
仲良く一緒に、タムマロに抱かれていたくせにこの言い草です。
そんなクラリスを横目で見ながら、クラーラは「殺気立ってきたので、少し早いですが昼食にしますか」と、ため息混じりに考えていたのですが、前から小人サイズの体に羽を生やしたヤナギが飛んで来たので、一旦は保留しました。
「たっだいま~。ちょこちょこっと、情報収集してきたよ♪」
「ご苦労様です。それで、何かわかりましたか?」
「詳しいことはわからなかったけど、どんな魔物なのかはわかった」
「十分です。種族がわかれば、対策も容易ですから。で、種族は?」
「この先にある村の人たちの話だと、蜘蛛の魔物みたい。しかも、上半身は人間だってさ」
「ふむふむ、アラクネと特徴が似ていますね。近縁種でしょうか。もしくは、生き残り?」
「村の人たちは絡新婦って呼んでたよ」
ヤナギの報告を聞いて、クラリスは「うぇ、蜘蛛かぁ。虫は苦手なんだよね……」と、言いながら露骨に顔をしかめましたが、クラーラの反応は真逆でした。
テンションが上がったせいで鼻息が荒いですし、心なしか、瞳もキラキラと輝いています。
「もし、アラクネの近縁種なら好都合。生き残りなら最高! 糸を吐かせるだけ吐かせて解剖すれば、人と蜘蛛の特徴を併せ持てる謎の解明に一役買いますね。いや、飼い殺しにして、糸をひたすら吐かせるのも有りか……」
「ちょっとクラーラ。嬉々として怖い事を言わないでくれない?」
「だって、アラクネですよ!?」
「だから何よ。珍しい魔物なの?」
「魔物ではありません! れっきとした亜人の一種族です! 良いですか? アラクネが体内で作る糸は人間が作るどの糸よりも強靭で切れにくく、たった1メートルで金貨10枚もの値が付く超希少品なのです! あ、どうして希少品かと言いますと、アラクネは数いる亜人種の中でも強力な部類に入り、数も少なかったからです。ちなみに、かつての魔王四天王の一人である『紅い瞳のフローリスト』もアラクネです」
「あ~……。わかった。わかってないけどわかったから、少し落ち着……」
「けるわけがないでしょう! だって、フローリストを最後に絶滅したと言われていたアラクネと思われる個体がこの先にいるのですよ!? もうそれだけで、わたくしの知識欲に火が点きました。バーニングです!」
知識欲がバーニングしてしまったクラーラの相手はクラリスに任せるとして、少し、フローリストについて語りましょう。
彼女はかつての四天王の中で、最も残忍で卑劣でした。
自分はけっして表には出ず、物理的、精神的罠を張り巡らせて、相手が絶望し、苦しむ様を心の底から楽しんでいました。
ですが、弱かったわけではありません。
その糸に切れない物はなく、魔王やエイトゥスほどではありませんでしたが魔術も操り、二本の腕と八本の足を巧みに使った独特の格闘術は、タムマロ達を魔王城に突入させるために相手を買って出たクラリスの師、クォン・フェイ・フォンに、瀕死の重傷を負わせて戦線を離脱させたほどでございました。
そうそう、同じ四天王の、ウィロウの姉としても知られていますね。
「とにかく! 依頼の達成条件は討伐ですが、捕獲します。絶対に捕獲します! 良いですね? 異論はありませんね? あっても却下ですけどね!」
「はいはい。わかったからご飯にしようよ。クラーラが長々と何時間も語ってくれたせいで、すっかり夕方だよ?」
「あら、本当ですね」
クラリスは何かを諦めたような表情で、クラーラは心底不思議そうに空を見上げると、一番星が輝いていました。
それを確認した二人は、黙って野宿の準備を始めつつ……。
「クラーラって、熱くなると馬鹿だよね」
「あなたにだけは、言われたくありません」
と、互いに一言だけ、ため息交じりに文句を言いました。
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