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歯ぁ、食いしばれ!

 クラリスがスズカ山の山頂に着くなり目にした光景は、地元住民に『カガミ岩』と呼ばれている巨石に張り付けにされ、よほど恐ろしかったのか、髪の毛が真っ白になってしまったマタタビと、マタタビのモノと思われる血のりがついた大通連を握るスズカの姿でした。


「ねえ、無傷で返すって、言わなかった?」

「いやぁ~、わたしもそうしようと思ってたんだけど、この害獣の目がシルバーバインにソックリでムカついちゃってさ」

「だから、刺したの? 何度も何度も、その子を刺したの」

「うん♪ 面白かったよ? 刺す度にニャーニャーわめいて、お姉さま助けてって何度も繰り返してたわ。あ、そうだ、でも安心してね。まだ、生きてるから」


 マタタビの惨状とスズカのセリフで、クラリスはかつてないほど激怒しています。

 なのに、魔力は一切漏れていません。

 

「その子、目の前で両親を殺されてるの」

「だから? シルバーバインに両親を殺された人は、キュウシュウには大勢いるわ」

「その子はずっと、辛い目に遭ってきたの。そのせいで、人間恐怖症にまでなっちゃったわ」

「だから何よ。シルバーバインがやった事に比べれば……」


 その先を、スズカは言うことができませんでした。

 何故なら今まで溜め込んだ怒りを爆発させるようにゴールデン・クラリスを発動し、一瞬で間合いを詰めたクラリスに……。


「シルバーバイン、シルバーバインってうっさいのよ! その子はシルバーバインじゃない! その子はマタタビちゃんよ!」


 殴り飛ばされたからです。

 ですが、スズカは三明の剣の加護でノーダメージ。飛ばされはしましたが、涼しい顔をしてクラリスを見ています。


「ヤナギちゃん、いる?」

「うん、いるよ」


 スズカから目を離さずにクラリスが呼ぶと、ヤナギは答えながらスズカ山の龍脈に接続して人体再現魔法(イザナギ)を発動し、マタタビのすぐそばに普通のサイズで実体化しました。


「マタタビちゃんをお願い。その子を連れて、山を下りて」

「わかった。魔術は使えないけど、応急処置くらいはできるから安心して」

「任せた」


 ヤナギがマタタビを連れて山を下ったのを気配で確認したクラリスは、両手の指をボキボキと鳴らしながらゆっくりと、スズカへと歩を進めました。

 スズカも同じように、小通連を左手で鞘から抜きながら、クラリスへと歩を進めています。

 そして……。


「心意六道拳、皆伝。異種超級二等武神、クラリス……」

「第四天魔王が一子。天の魔焰 立烏帽子(たてえぼし)、スズカ・ゴゼン……」


 互いに、相手に叩きつけるための激情を抑え付けた静かな声で同時に名乗りを上げ、次いで……。


「「くたばれクソ女っ!」」


 と、同時に叫びながらクラリスは魔力を纏わせた右拳を突き出し、スズカは大通連を振り下ろしました。

 さて、前回のお話を思い出して頂きましょう。

 スズカが振り下ろした大通連は、防御概念切断魔法(エクスカリバー)と同性能。ですがエクスカリバーとは違い、使用者の魔力を消費しません。

 ただ振るだけで、防御と言う概念ごと対象を切り裂きます。

 なので当然、伝説級相当の魔力を纏わせたクラリスの拳であろうと、何の抵抗もなく斬れます。いえ、斬れるはずでした。


「なっ……! どうしてわたしの大通連で斬れないの!? 何なのよ、その拳は!」

「別に変ったことはしてないわ。ただ私は、魔力を出し続けているだけ」

「障壁を、斬られる端から張りなおしてるって言うの!?」

「アンタがそう言うんなら、そうなんでしょうよ」


 鍔迫り合い……と、この場合も言うのでしょうか。

 防御ごと相手を斬るスズカの大通連と、ただ魔力を放出し続けているだけのクラリスの拳は拮抗しています。

 その拮抗を最初に破ったのは……。


「心意六道! 拳乱烈脚(けんらんれっきゃく)!」


 目にも止まらぬ速さで相手を殴り、蹴り続ける拳乱烈脚を使ったクラリスでした。

 ですが、スズカはクラリスに殴られ、蹴られて宙を舞い、されるがままになっているのに余裕の笑みを浮べています。

 

「最初に殴った時にも思ったけど、硬いわね。ギフト? いや、その剣の能力ね!」

「ご明察! 頭が悪そうな見た目のクソビッチのクセに、勘は良いじゃない!」

「誰がビッチよ! アンタだって、そんな短いスカートはいて恥ずかしくないの!? 下着とか丸見えじゃ……って、はいてないじゃない! 露出狂か変態女!」


 以前まで、スズカよりも露出度の高い服で、オマケにたまに下着を着けずに暴れていた変態が何か言っていますが、一々ツッコんでいたら話が進みませんので無視いたします。


「アンタ速いし、適当に殴っているように見えるけどちゃんと急所を狙ってるし、腰も入ってる。そして、わたしじゃなかったら耐えられないその魔力。ええ良いわ、認めてあげる。アンタは、タムラマル様の嫁足り得る」


 スズカは殴られ続けることで得たクラリスの情報を口に出しながら、あろうことか小通連を投げ捨てました。

 そんなことをすれば反則レベルの防御は消え、クラリスの拳をモロ受けることになるのですが……。


「うっわ! 何よその再生速度! キモいんだけど!」

「凄いでしょ! でもこれ、相応に痛いからさっさと終わらせるわ!」


 スズカは大通連でいくつかはクラリスの攻撃を受け流していますが、受けきれなかった攻撃はあえて受け、顕明連の回復能力で瞬時に破損部を再生させて、クラリスと切り結んでいます。服は再生されませんが、所謂ゾンビアタックですね。

 しかも……


「小通連!」


 投げ捨てたことで三本に増え、宙を舞ってクラリスに襲い掛かる小通連と連携して。

 現状、クラリスとスズカは互角。

 一進一退を繰り返しているように見えます。

 ですが、二人には明確な差があります。

 スズカにはどれだけ攻撃を受けて体を破損し、血を流しても、即座に失った質量ごと回復させる顕明連があります。

 対するクラリスには、魔力が薄い部分を斬られて傷と出血量が増えているのに、回復する手段がありません。

 このまま今の戦いが続けば、先にクラリスの方が動けなくなるでしょう。

 それは戦っているクラリス自身、痛いほど理解しているので……。

 

「心意六道! 爆華っ! 双道掌!」


 爆華双道掌でスズカを吹き飛ばして距離を取り、次いで……。


「回復できないくらい、切り刻んでやる! 心意六道! 光糸格子(こうしごうし)!」


 両手、十本の指から細く長く魔力を伸ばして糸と成し、敵を拘束したり切り刻んだりする時に用いる光糸格子でスズカを切ろうとしたのですが、小通連を手元に戻して防御力を復活させたスズカには効きませんでした。

 効きませんでしたが……。


「そんなの、承知の上よ! 心意六道! 瞬天新地(しゅんてんしんち)!」


 足裏に集中した魔力を推進剤にして、一瞬で相手との距離を詰める瞬天新地を使い、スズカの眼前まで戻りました。

 そして……。


「かぁ~らぁ~のぉぉぉぉぉ! エクスっ……! カリバーぁぁぁぁぁ!」

「エクスカリバーですって!? アンタ、そんな魔法まで使えたの!?」


 右手を振り上げ、出発に前にクラーラにかけてもらっていた防御概念切断魔法(エクスカリバー)を発動しました。

 ですが、今はクラーラがいないので発動しかできず、制御もできませんのでその効果はほんの一瞬。それこそ、振り上げた右手を振り切れるかどうかと言うほど短い時間です。

 しかも大振りなので、小通連を手元に戻して思考速度が三倍になっているスズカなら回避、からの反撃も容易。

 

「残念だったわね。わたしが相手じゃなけりゃあ、今のでアンタが勝ってたわ」


 スズカは紙一重でエクスカリバーを左肩をねじり込むように躱し、回避の都合で前に出すことになった小通連で、ガラ空きになっていたクラリス右脇腹を貫きました。

 ですが、勝負は着いていません。

 何故なら……。


「いいえ、あたしの勝ちよ」

「負け惜しみを言うな。今のアンタに何が……って、あれ? 三明の加護が……消えてる? どうして……」


 スズカは、三明の加護が消えていると気づくと同時に、腰が軽くなっていることにも気づきました。

 そう、クラリスの狙いは最初から、スズカ本人ではなく顕明連の破壊。

 エクスカリバーは決着を着けるためではなく、スズカの回復能力と防御力を奪うために使ったのでございます。


「歯ぁ、食いしばれ! 心意六道! 龍顎(りゅうがく)……!」

「ヤ、ヤバっ……!」


 クラリスは龍顎破砕(りゅうがくはさい)でスズカの頭を消し飛ばそうとし、スズカは焦りながらも的確に、大通連でクラリスの首を撥ねようとしました。

 しましたが……。


「はい、二人ともそれまで」

「タ、タムマロ!?」

「タムラマル様!?」


 横から割って入ったタムマロが、クラリスの拳にはヒミコ特製の護符を張り付けて魔力を封印して受け止め、スズカの大通連は手首を掴んで止めました。


「久しぶりだね、スズカ」

「は、はい! お会いしたかったですタムラマル様!」

「僕もだよ。とりあえず、刀を納めてくれないかな?」

「あっ……はい! 失礼いたしました!」


 息がかかるような距離でタムマロにいさめられたスズカは、大通連どころかクラリスの脇腹を刺していた小通連まで、勢いよく引き抜いてしまいました。

 

「こらこら、そんなに勢いよく抜いたら……あ、やっぱり」

「やっぱり。じゃ、ないわよ三流勇者。とっとと治癒魔術をかけて」

「はいはい、わかったよ」


 スズカが無造作に小通連を抜いたため、クラリスの傷口は余計に広がってしまい、派手に血を滴らせて両膝を突いてしまいました。

 

「三流勇者とはなんたる暴言! タムラマル様に謝れクソビッチ!」

「良いんだよ、スズカ。クラリスのこれは、挨拶のようなものだから」


 と、スズカをなだめつつ、タムマロはクラリスを背中から抱き抱えるように左手を脇腹にそえ、治癒魔術を使い始めました。

 その様子を見たスズカは嫉妬して、「わたしも怪我しとけばよかった……」などと呟いています。


「これ、致命傷じゃないか。僕が来なかったら、どうするつもりだったんだい?」

「考えてない」

「スズカがやったことに腹を立てた気持ちはわかるけど、無茶しすぎだ。もう少し身体を大切にしてくれないと、僕が困る」

「べつに困んないでしょ? あ、それとも何? 都合の良いセフレがいなくなるから困るの?」


 クラリスは何の気なしに言ったのですが、クラリスの一言はスズカの心に大ダメージを与えました。

 それを、スズカの絶望したような表情から察したクラリスは……。

 

「な、な、な……今何て? セフレ? アンタ、タムラマル様と……」

「コイツが来た時だけだけど、定期的にヤってる」


 勝ち誇ったような笑みを浮かべながら、自分とタムマロが肉体関係だと認めました。

 その言葉の刃はスズカの心を容赦なく切り刻み、尻餅までつかせました。

 クラリスとの戦いでスカートもボロボロになっていますので、何がとまでは言いませんが丸見えになっています。

 

「クラリス、僕は君を、セフレだなんて思ってないよ」

「じゃ、じゃあ何よ。あたしはアンタを、セフレ以上に思ってないわ」


 と、言いつつもクラリスは、タムマロの真摯な眼差しに鼓動を跳ね上げ、赤面して顔をそらしてしまいました。

 そんな二人を見たスズカはさらに嫉妬し……。


「酷いですタムラマル様! わたしがいくら誘惑しても全く手を出してくれなかったのに!」

「いやだって、当時のスズカは9歳だったじゃ……」

「歳なんて関係ありません! わたしはいつでもウェルカムだったんですよ? 月のモノはまだ来ていませんでしたが、タムラマル様のお子を身籠る気満々でした!」


 なんだか痴話喧嘩の様相を呈してきましたので、少しばかり余談を挟みましょう。

 非常に希ですが、初潮前に妊娠することはあります。

 通常、初潮がないということは排卵が確立していないので、妊娠はいたしません。

 ただし、例外的に始めての排卵の時は排卵→初潮となりますので、非常に低いですが妊娠の可能性はありますので、そんな子を手篭めにしようと考えている人非人は注意してください。


「タムラマル様! 今度からヤりたくなったらわたしに言ってください! 絶対にその貧相な体つきの女よりも満足させてあげます!」

「誰が貧相な体つきよ! アンタだって、あたしと大差ないじゃない!」

「ありますぅ! アンタよりは確実に、オッパイがありますぅぅぅ!」

「どこがよ! あ、でも、形はあたしより良いかも……じゃなくて! あたしは成長期なんだから、これから大きくなるのよ! 実際、コイツに揉まれるようになってからトップが1cmも増えたし!」

「さらっと自慢すんな! アンタが揉まれてから大きくなったって言うんなら、わたしだってタムラマル様に揉まれたら大きくなるってことじゃない!」


 第二ラウンド……と、言っても良いのでしょうか。

 口喧嘩ではありますが、二人は呆れたタムマロを挟んで頭の悪い罵詈雑言を言い合っています。


「まあまあ、二人とも落ち着いて……」

「られるか! だいたい、アンタがあっちこっちに婚約者を作ってるのが悪いんでしょうが!」

「ちょ、ちょっと待って。あっちこっちにってどういうこと? タムラマル様には、わたし以外にも婚約者がいるの!?」

「そうなのよ! あたしも昨日知ったんだけど、イヨさんとも婚約してんのよコイツ!」

「イヨさんって……キュウシュウのイヨ姉さま!? 初耳ですタムラマル様!」

「だ、だって、イヨもスズカも自称婚約者じゃないか」

「あ、その言い方は酷い! 酷いよ! タムマロ!」

「自称だなんてあんまりです! わたしがこの八年余り、どんな思いで過ごして来たとお思いなんですか!」


 タムマロは下手を打ちました。

 確かに、イヨもスズカも自称婚約者です。

 ですが、自分は婚約者だと思い込んみ、想いを募らせながらすごしてきた者にそれを言ったら、発狂に近い取り乱し方をするのは必定。

 しかも、スズカの想いを共感してしまったクラリスまで敵に回す結果になりました。

 それに危機感を覚えたタムマロは、ジワジワと後ずさりし始めたのですが……。

 

「ちょっと、どこに行くつもりよ。まさか、逃げようってんじゃないでしょうね」

「逃がしません。せめて子種を頂戴するまでは逃がしません」


 二人が見逃すはずはなく、タムマロはウスミドリを抜く間も与えられず、捕まってしまいました。


読んでいただけるだけで光栄なのですが、もし「面白い!」「続き読みたい!」など思って頂けたらぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!

ぜひよろしくお願いします!

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