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良いよね?/まあ、良いでしょう

 生きた幽霊との邂逅。

 存在自体が矛盾しているその存在と、二人はあっさりと出会うことができました。

 いえ、出会うと言うと語弊がありますね。

 二人と大差ない年齢に見える青髪の少女は、クラリスが放つ魔力に引き寄せられるように、二人の前に現れたのですから。


「あなたは、いつから誘蛾灯(ゆうがとう)になったのですか?」

「なった覚えはない。で、どう? やっぱりギフト?」

「彼女が知識と自我を保ったままこの世に留まっていられるのは、おそらくギフトによるものです。ですが、あの体を構成しているのは魔力のようです。それを、魔法で維持しています。彼女のギフトでできるのは、現世に留まるだけなのでしょう」

「それで、魔力で体を作ってるのね。でも、その割には……」


 幽霊に対抗する術のない二人が、どうして幽霊を簀巻きにして見下ろしていられるのか。

 それはまぁ……当の幽霊が間抜けだったと言いますか、オブラートに包まずに言うなら、馬鹿だったからでございます。


「ねえ、クラーラ。あたしには、この幽霊さんと普通の人との違いがわかんないだけど」

「違い? ほとんどありませんよ? 今の彼女は、必要もないのに内臓どころか細胞の一つ一つまで具現化しています。なので、食事も排泄もできますし、おそらく妊娠も可能です」

「いや、この人って幽霊だよね? そこまでする必要があるの?」

「それは、予想でしかないのですが……。先にも言いましたが、彼女のギフトはあくまでも自我と知識を保ったまま、この世に存在し続けるだけ。物理的な影響を与えるためには、魔術なりで体を作る必要があります」

「その理屈はわかった。で、どうして不必要にリアルに体を作る必要があるの?」

「そこが馬鹿なのです。彼女は魔力だけで、人体を再現するとんでもない魔法が使えます。ですが、調整ができないのです。おそらくは誰かに習うか、この城に死蔵されるなりしていたその魔法を見つけるなりしてそれを習得しましたが、わたくしのように調整や改良ができないのです。しかも、自分の意志でオンオフもできないご様子。ここ十数年ほど目撃情報がなかったのも、今のように捕まってしまうから隠れ回っていたからでしょう」


 クラーラは興味なさそうに解説しましたが、実際は興奮の坩堝。

 これは、オオヤシマで言うところの棚から牡丹餅? それとも、犬も歩けば棒に当たる? 豚に真珠かしら。などと、段々と意味が離れて行っているのにも気づかないくらいことわざを脳内で呟いて、彼女を目にすることで覚えた神話級魔法、『人体再現魔法(イザナミ)』で何ができるかを考えています。


「性転換の方法は、もう必要ありませんね……」

「いや、急に何を言い出してくれちゃってるの?」

「すみません。独り言です」

「いや、そうだけどそうじゃないよね? この魔法を使えば、生やしたお姉さまを作れるからだよね?」


 その通り。

 少し現実逃避したい気分になりましたし、クラーラも危ない妄想に浸り始めたので、少し余談に入ります。

 幽霊が常時使っているイザナミは、ヒメジ城の真下から湧き上がる龍脈からの魔力を使っていますので、術者本人が解除しない限り発動し続けます。しかも、使用者が幽霊などの、現世の理から離れた者ならば龍脈からの魔力を使用した場合に生じるデメリットも関係ありません。

 ですが、龍脈の力を利用している都合上、魔法を解除しない限りその場所から移動できなくなるのです。

 彼女がエヒメ城に身を潜め続けているのはこのため。

 魔法の解除もできず、かといってエヒメ城から出ることもできない。

 なので彼女は、一縷の望みをかけて小規模の龍脈並みの魔力を有するクラリスに、接近したのでございます。


「あ、あの……。わっちはどうなるのでしょうか」

「大丈夫ニャ。クラーラお姉さまはともかく、クラリスお姉さまは酷いことはしないニャ」

「ちょっとマタタビちゃん。それじゃあ、クラーラお姉ちゃんが酷いことをするみたいじゃないか」

「そう言ってるんニャけど?」

「クラーラお姉ちゃんは酷いことなんてしないよ!」

「いやいや、ハチロウは仲間になってからまだ日が浅いから知らニャいんだろうけど、クラーラお姉さまは残虐非道で傍若無人ニャ。きっと用済みになったら、この人を消し炭にしちゃうニャ」


 クラーラが妄想の世界から戻って来るまで手持ちぶさただからか、自分はこれからどうなるのか不安になった幽霊を、マタタビとハチロウがなだめ……脅し? とにかく、話し相手になりました。

 その会話を聴いていたクラリスは、ガタガタと全身を震わせ始めた幽霊が発した、ある一言に反応しました。


「ねえ、あなたって、もしかして生きてた頃は遊女だった?」

「そ、そうだけど……。どうしてそれを?」

「だって、『わっち』って言ったじゃん。それって、廓詞(くるわことば)で言うところの『わたし』でしょ?」


 クラリスはあえて『遊女』と言いましたが、要は娼婦と同じ。各が高くなると、芸事も披露する『花魁(おいらん)』と呼ばれるようになります。

 オオヤシマでは、娼婦ではなく遊女や女郎(じょろう)と呼ぶのが一般的で、娼館も遊郭(ゆうかく)と呼ばれています。

 クラリスはそれを知っていたのですが、ブリタニカ語では娼館も遊郭も『Brothel(ブロッセル)』なため、クラーラに説明するためにあえて、耳に馴染んでいる娼婦と娼館で統一していたのでございます。

 

「あなたも、遊女?」

「見習い……オオヤシマで言うところの禿(かむろ)だったけど、水揚げ前に放免になったの」

「いいなぁ……。わっちなんか、この髪のせいで早くから客を取らされてた」

「珍しい髪色だもんね。ブリタニカ王国でも見たことないもん。あ、そうだ。名前、何て言うの? あたしはクラリス」

「わっちはヤナギ。よろしくね、クラリスちゃん」


 二人はともに娼館育ち。

 それで意気投合し、娼館あるあるで談笑を始めてしまいました。

 聞くに耐えない内容なので詳細は省きますが、男性が聞いたら幻滅すること間違いなしでしょう。


「じゃあ、ヤナギちゃんは梅毒で?」

「うん、18で死んじゃった」

「酷い遊郭だね。梅毒なんて、ブリタニカ王国だったら注射一本で治る病気だよ? 柳ちゃんは売れっ子だったのに、治療とかしてもらえなかったの?」

「わっち、具合が良かったようで客の回転が早かったの。だからお店としては、治療する時間も惜しかったそうで……」

「悪い店に当たっちゃったんだね。うちの店なら、大切に使ってもらえたのに……」


 長く娼婦をするくらいなら、早くに死んで楽になるのも選択肢としては有り。と、言ったら身も蓋もないですが、ヤナギは後者を強制的に選択させられました。

 ですが、捨てる神あれば拾う神ありと申します。

 不幸な死に方をしたヤナギに、とある人物が救いの手を差し伸べました。


「たまたま、本当にたまたまだったの。幽霊になって、たださ迷うだけの存在になったわっちは、引き寄せられるようにここへ来て、オサカベ姫様と出会ったの」

「それで、その魔法を?」

「うん。だけどその代わり、ここから動けなくなっちゃって」


 オサカベ姫は最初、ヤナギの身の上話を聞いて、純粋に第二の人生を歩ませてやろうと魔法を教えました。

 ですが、誤算が一つ。

 ヤナギに魔法を教える過程で、オサカベ姫の噂を聞いて無駄な正義感を働かせた転生者の一人に、退治されてしまったのです。

 そのせいでヤナギは魔法の解除方法を学べず、十数年も隠れ続けなければならなくなりました。


「そのオサカベ姫って、何か悪さをしてたの?」

「何でも、お坊さんを驚かしたら階段から落ちて死んでしまったのを、蹴り殺したと間違って広がっちゃったんだって」

「それで退治されちゃちゃんだ」

「うん……。でもまあ、不可抗力とは言え死なせちゃったのは確かだから、退治した人を一概に悪く言うこともできなくてさ」


 龍脈に縛られたまま、ヤナギはヒメジ城に隠れ住むことを選びました。

 幸いにも、魔力で作られた体は龍脈と繋がっている限りは栄養補給を必要としませんので、飢えることはありませんで……。


「ちょっ!? ヤナギちゃん、男だったの!?」

「え? いえ、わっちは女ぁぁぁ!? どうしてわっちの体に、こんなモノが!?」


 私の話を中断させたのは、ヤナギの股間から着物を押し広げてをそそり起った一物でした。

 それはもう、女なら思わず叫んでドン引きする大きさです。


「う~ん、じっくりと見たことがないので、いまいち形と大きさがわかりません。クラリス、それであってますか?」

「デカイよ! ワダツミのおっちゃんよりデカイし、形がコケシじゃん! ってか、これやったのクラーラだったの!?」

「術式に介入して、生やせるかどうか実験してみました。では、これならどうです? これなら何度も見ていますので、自信があります」


 言うなり、ヤナギから生えた肌色のコケシはどんどん縮み、着物で隠れてしまいました。

 ですが、赤面したヤナギの様子を見るに、縮んだだけで何かが生えているのは確実。

 そこでクラリスは、ヤナギを立たせて着物を盛大にめくりました。そこに生えていたのは……。


「あ、可愛い。子供のチンチンだね」

「皮も被って確かに可愛いけど、届きそうにないですね」

「どこに?」

「どこにって、奥。わっち、当ててグリグリされるのが好きなの」

「あ、わかる! 男は大して気持ちよくないんだろうけど、無駄に突かれるより気持ち良いよね!」

「そうなのよ! ほら、男って激しく突けば女も気持ちいいって思ってるじゃない?」

「そうそう! 突けば良いってもんじゃないのよね! なのに男って、猿みたいに腰を振ることしかしないから、下手なのに当たったら痛いだけよ! でもまあ、早く済ませてくれるのは、ありがたいって言えばありがたいけど」


 タムマロしか男を知らないクラリスが知ったかぶっていますが、そろそろおやめなさい。

 経験のないマタタビは「何の話?」と、首を傾げ、知識だけはあるクラーラは、「あなた、処女ではないですが男性経験はありませんよね?」と、いぶかしんでいるだけですが、自分のとそっくりなモノを他人に生やされたハチロウが羞恥で死にかけています。


「で、どうです? 感覚とかあります?」

「ある……けど。今までなかったから、本当にこんな感じなのかはわかんない」

「ふむふむ、なるほど」


 話を正常にもどしましょう。

 クラーラはクシナダの術式に介入し、ヤナギの体に男性器を作りました。

 ですが本来なら、クラーラにはない男性器を再現することなどできません。

 なのにクラーラは、形と大きさはともかくとして、感覚はおろか射精まで可能な男性器を再現しました。

 その一助となったのは、学生時代に禁書庫で見つけて無駄と断じた男性器を小さくする禁術、『男性器縮小魔術ロスト・オブ・プライド』。

 無駄としか思えない魔術ですが、この魔術は人体の一点だけとは言え細胞単位で変化させるため、細部まで構造と機能自体が術式に組み込まれています。

 それ故に、一役かいました。

 もしクラーラが人並みに男性器を見た経験があったなら、形も再現できていたでしょう。

 

「じゃあ、思いがけない収穫もあったことですし、帰りましょうか」

「それは良いけど、ヤナギちゃんはどうするの?」

「死ぬことはないのですから、放っておけばいいのでは?」

「良くないよ! せめて、城から出られるようにしてあげて!」


 クラリスに言われて、クラーラは面倒くさがりながらもヤナギに魔法の解除方法を教えました。

 ですが当のヤナギは、自由になったのにその場を離れようとしません。


「あの、クラリスちゃんにお願いがあるんだけど……」

「良いよ。何?」

「わっちの姉を探すのを、手伝ってくれないかな?」

「うん、良いよ」

「いやいや、良いの? 姉さんがどこにいるのかも、生きてるのかさえもわかんないんだよ? それに、わっちには払える報酬が……」

「報酬なんていらないよ。だって、クラーラがすでに魔法をゲットしちゃったじゃない」


 あまりの安請け合いっぷりに、ヤナギだけでなくクラーラも呆気にとられてしまいました。

 ですが、偶然とは言えクラーラが魔法を得たのは確か。なので、クラーラは「嫌だ。面倒くさい」と表情でアピールしはしましたが、声に出してまで反対はしませんでした。


「じゃあ、とりあえずはヤナギちゃんがいた娼か……遊郭に行ってみようか。どこの遊郭?」

「えっと、フクハラだけど……」

「じゃあ、とりあえずはそこへ行こう。良いよね? クラーラ」


 良いよね? と、問われたクラーラは、内心嫌だと思いながらも、ヤナギを連れ歩けばじっくりと魔法の改良と実験ができると思い直し……。


「まあ、良いでしょう」


 と、あくまでも不承不承の体を装って、了解しました。

 ですがそれは、クラーラなりの現実逃避だったのかもしれません。

 何故ならヤナギの外見は、和装と洋装の違いはあるものの、以前見た魔王の記憶に出てきたウィロウと、そっくりだったからでございます。


 

読んでいただけるだけで光栄なのですが、もし「面白い!」「続き読みたい!」など思って頂けたらぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!

ぜひよろしくお願いします!

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