じゃあ、行こうかクラーラ/ええ、行きましょうクラリス
クラリスとクラーラは知ることがないのですが、墜ちようとしていた星が虹色の光に包まれて消滅したその光景は、後の人々に奇跡として語り継がれました。
まあ、それも当然でしょう。
アシナヅチ、テナヅチ両博士がスサノオに搭載していたアメノムラクモで誘導した資源衛星は、クラリスとクラーラの二人が破壊するまで、肉眼でも見えるくらいの距離まで接近していたのですから。
「凄かったニャ! こう……ピカーっとなってドカーってなって、それでシュパーンって感じだったニャ!」
「ごめん、マタタビちゃん。ちょっと何言ってるかわかんない」
クラリス・クラーラから放たれた、|超長距離二重螺旋破星拳が資源衛星を破壊する光景を見た人の大半が、両手を広げてピョンピョンと跳び跳ねながら語るマタタビと同じ感想を口にしていたのですが、クラリス・クラーラを解除してマタタビ、ハチロウと合流したクラリスにはわかりません。
わかりませんが、破壊に成功したことは十二分に理解できました。
「でも、本当に凄かったです! 僕、あんなに綺麗な空は、今まで見たことがありませんでし……っぷ!」
「まあまあ、もっと誉めて良いのですよ? お返しに、たぁ~っぷりと甘やかして差し上げますから♪」
クラリスと違って、ハチロウに手放しで誉められたクラーラは「綺麗な空?」と、脳裏をよぎった疑問を即消去して、ハチロウの頭を胸の谷間で包みました。
見ようによっては、食べているようにも見えますね。
「ところで、アレはどうするんだい? 中にある霊子力バッテリーだけ取り出すかい?」
「ちょっとタムマロ、アレ呼ばわりは失礼じゃない?」
「ああ、ごめん。じゃあ、クシナダの処遇はどうするんだい? って、言い直そう」
霊子力タービンを回すために、地下拉致されていたハチロウの兄弟たちを救出して来たタムマロが顎で指し示した先にいたのは、頭部が破壊されて両膝を突いたスサノオの下で、スサノオを見上げているクシナダでした。
相変わらずの無表情ですが、何故かその立ち姿からは哀愁を感じさせます。
「ねえ、クシナダさん」
クラリスは、クシナダに声をかけました。
恐る恐るではなく、まるで久しぶりに会った友人に声をかけるように、陽気に。
「あたしたちと、一緒に行かない?」
「一……緒に? どういう意味ですか?」
「言葉通りだよ。あたしたちの仲間にならない?」
「正気ですか? 当機はあなたに、酷いことを……」
「されたけど、それはあのお爺ちゃんとお婆ちゃんの命令だったんでしょ? だったら、あたしは恨まないし怒らない。それに、報いは当人たちに受けてもらったし」
クラリスの申し出を聞いて、ハチロウが窒息寸前になっているのにも関わらず、胸で愛撫し続けているクラーラは「まさか、人形にまで欲情したんじゃ……」と疑い、マタタビは「ラ、ライバル出現ニャ?」と、対抗心を燃やし始めました。
そんな二人をよそに、クシナダが出した答えは……。
「当機は、行けません」
「理由を聞いても、良いかな?」
「当機は、彼から離れたくないのです」
NOでした。
ですが、クラリスは残念に思っていません。
むしろ、安心しています。
「そっか。じゃあこれからは、彼とここで暮らすんだね?」
「はい、両博士が残したデータを元に、彼を可能な限り復元したいと考えています」
「さっすが、何年も待っただけあって彼にゾッコンだね」
「ぞっこん? それは、どういう意味ですか?」
「彼のことしか考えられない。彼なしじゃ生きていけないって感じ……かな?」
言ったクラリス自身、自信がなかったらしく、視線でタムマロに「合ってるよね?」と、確認しました。
確認されたタムマロは、「だいたい合ってる」と首肯することで答え、次いでクシナダに視線を移して問いました。
「魔力……霊子力はどうやって補給するつもりだい? スサノオを動かしたせいで、君の霊子力バッテリーは空に近いだろう?」
「それは……」
当然の質問だと、手足を痙攣させ始めているハチロウに気づいていないクラーラは思いました。
クラリスは、「あ、そういえばそうだ」と失念していましたが、オロチ兄弟が解放された今、クシナダには魔力を補給する手立てがありません。
「そこで、僕から提案がある。イチロウ君にはここへ来るまでに交渉したんだけど、オロチ一族とその集落の住民をここに住まわせてくれるなら、定期的に霊子力を提供してくれるそうだ」
「この霊子力研究所に……ですか?」
「そう。ここは一見、住みづらそうに見えるけど、研究所の中には3Dプリンターや各種工作機械も揃ってるし、植物プラントまである。狩猟採集が主な生活基盤である彼らからすれば、喉から手が出るほどの好環境だ」
「だから、ここに集落を作ると?」
「そういうこと。ただし、機械の操作方法を彼らは知らないから、それをレクチャーする必要もある。それでも、君は人と敵対せずに霊子力を補給する手段を得られる。良い交換条件だと、僕は思うけど?」
「それは確かに」
タムマロは交渉の体を装っていますが、これは半ば脅迫です。
機械の操作方法など、その気になればタムマロが教えられます。
なのにわざわざ、クシナダにそうしろと提案したのはその手間を省くため。
もし、クシナダが断れば、タムマロが機械の操作方法を教え、代わりにクシナダは、後顧之憂を絶つために破壊されることになったでしょう。
「じゃあ、交渉成立だね。いやー、良かった良かった」
勝手に話をまとめたタムマロを横目で見ながら、交渉と言う名の脅迫だと気づいたクラリスとクラーラは「どこが勇者だ極悪人」と、同時に呟いていました。
「さて、茶番も終わったことですし、そろそろヨナゴへ向けて出発しませんか?」
「それは構わないけど、その子……ハチロウ君だっけ? は、どうするの? 連れて行く気?」
「逆に聞きますが、連れて行かないのですか? ハチロウちゃんはそこの猫より頼りになりますし、何より可愛い。わたくし的には、連れて行かない理由がありません」
本人や兄弟たちの了承を得たのかとか、クラーラの胸に食われているハチロウが死にかけているなどなど、色々とツッコミどころはあるのですが、クラリスはタムマロが無駄ににこやかなのを見て、すでに根回し済みなんだと察して、クラーラの言葉にショックを受けて泣いてしまったマタタビを慰め始めました。
そして、マタタビが泣き止むとクラリスは……。
「じゃあ、行こうかクラーラ。新しい仲間と一緒に」
「ええ、行きましょうクラリス。ハチロウちゃんも、外の世界を見たがって……あら? ハチロウちゃん? ハチロウちゃん!? どうしたのでしょう。ハチロウちゃんが窒息しています!」
「そりゃあそうでしょ」
などと問答をしながら、四人はクシナダとオロチ兄弟に見送られて、ヨナゴへ向けて歩き出しました。
そんな四人をクシナダたちと見送っていたタムマロは、「あと二人か。先は長いな……」と、誰にも聞こえないように呟いていました。
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