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魔王にだって負けないもん/神にだって負けません

「殺してやる! 殺してやる殺してやる殺してやる! ぶっ殺してやる!」


 シスターのような見た目とはかけ離れたセリフを、これまたシスターが浮べているとは思えないほど怒りに染まった顔で叫びながら、クラーラはハチロウの魔力を使って攻撃を続けています。

 しかも、ヤマタノオロチの制御まで奪って。

 その攻めは、普段のクラーラの戦い方とは逸脱し、ヤマタノオロチの外見も相まって、本能のままに戦っているようにしか見えません。


「お姉ちゃん、落ち着いて! そんなに魔術を連発されたら……!」


 ハチロウの忠告も、今のクラーラには届きません。

 クラーラの頭にあるのは、老人たちを惨たらしく殺すことだけ。

 クラリスの救出すら、今のクラーラは考えていません。

 

「ハチロウちゃん! もっと魔力を! もっと強力な魔術じゃないと、あの木偶の坊には効きません!」


 クラーラは、さらに魔力を要求しました。

 ですがハチロウの魔力総量は、クラリスとは比べ物にならないくらい少なく、水属性の青い魔力と木属性の緑色の魔力なので、使える魔術の種類も数も制限されます。

 それすら、今のクラーラは忘れています。

 そこまでやっても、魔力供給用のケーブルがあるせいで棒立ちに近く、魔力弾による射撃しかしてこないスサノオの装甲を傷つけられないばかりか足踏みすらさせられず、ヤマタノオロチの体も、徐々に崩れ始めています。


「もう……無理。これ以上は……」

「どうしたのですかハチロウちゃん! もっと魔力をくれないと、術式が維持……!」


 できません。と、続けるよりも早く、ハチロウに限界が訪れました。

 ヤマタノオロチは頭からボロボロと崩れ始め、クラーラとハチロウは地面に投げ出されてしまいました。

 しかも悪いことに、スサノオの近くへと。


『霊子力残量も把握できんとは、無知、無能に加えて蒙昧じゃったか。のぉ? テナヅチ』

『察してやれアシアヅチ。友人があんな目にあわされて、頭に血が昇ったんじゃろうて。まあ、それでも無能に変わりはないがな』


 老人二人は、投げ出された際に身体を地面に打ち付けてしまい、その痛みにうめくクラーラを嘲笑いました。

 その嘲りは、クラーラの怒りにさらなる拍車をかけましたが、痛みで冷静さを取り戻したクラーラはそれを無視し、状況を把握し始めました。


「敵との距離は約50メートル。あの木偶の坊から感じる魔力的に、ジジイとババアは乗り込んでいるようですね。あの二人をぶち殺す絶好の距離ですが、今のわたくしには……」


 魔力がない。

 ハチロウは魔力切れを起こしかけているので、これ以上魔力を吸うなどもっての他。

 腕輪の魔力を使えば攻撃はできますが、スサノオの装甲に施してある対魔力障壁を破れるほどの魔術は使えません。

 使えませんが……。

 

「まだですか、タムマロ様。今なら……」


 スサノオは、クラリスから奪い続けている魔力で動いています。なので当然、クラリスを救出すれば対魔力障壁も消失する。

 クラーラの見立てでは、障壁さえどうにかしてしまえばスサノオごと老人たちを葬れそうなのですが、絶好の距離にあっても、クラリスの救出はまだ成されていません。

 

「お姉ちゃん……ごめんなさい。僕がもっと強かったら……」

「ハチロウちゃんのせいではありません。わたくしが冷静を欠かなければ……」

 

 もっと長く戦えた。

 そう続けようとして、異変に気づきました。

 これだけ無防備なのに、老人たちが何もしてこない。

 魔力弾を一発撃ち込めばそれで終わりなのに、スサノオは沈黙しています。


「もしかして、タムマロ様がクラリスを? だったら……!」


 またとないチャンス。

 クラーラは腕輪の魔力を使って、上級魔術を使おうとしました。

 ですが……。


「させません」

「お姉ちゃん、危ない!」


 詠唱を始めようとしたところで、クシナダが剣に変えた右腕で斬りかかって来ました。

 斬撃自体は、ハチロウがなけなしの魔力で作った植物の防壁で防がれましたが、クシナダはそれを力ずくで薙ぎ払い、クラーラの鼻先に切っ先を突きつけました。


「チェックメイトです。大人しく降伏してください」

「嫌です! あのジジイとババアは、絶対に殺します!」

「そうですか。では、仕方ありません」


 クシナダは、クラーラを両断しようとゆっくりと右手を持ち上げました。

 ですが、言葉は発していないのに口が動いています。

 口の動きだけで「誘導する通りに逃げろ」と。

 それに気づいたのは、クラーラではなくハチロウでした。


「みんな! 僕に力を貸して!」


 ハチロウが地面に両手を突いて叫ぶと、クシナダの足元の草や木の根が急激に成長し、再び防壁を作りました。

 本来なら、魔術ではなくただ成長させただけの植物など障害にならないのですが、クシナダは数秒ほど、何もしませんでした。

 その隙に……。


「逃げるよ! お姉ちゃん!」

「え? ちょっ……。どういうことですか?」

「良いから早く!」

 

 ハチロウはクラーラの手を引いて、一目散に逃げました。

 それを確認したかのようなタイミングで、クシナダは魔力弾による攻撃を始めました。

 ですが当てるつもりがないのでしょう、二人の進行方向よりも少し前に着弾するように攻撃しています。


「ハチロウちゃん! 誘導されています! きっと、誘導された先に罠か何かが……!」

「大丈夫! 僕を信じて!」


 ハチロウはクラーラの手を引いたまま、ギフトで活性化させた植物の波に乗って、クシナダの誘導に従い続けています。

 それは数十分にもおよび、最後の誘導弾が着弾した時には、二人はクシナダと会敵した場所。つまり、スサノオの正面50メートルほどの位置まで戻っていました。

 ですが、二人の正面にはスサノオ。 

 後ろにはクシナダ。

 正に前門の虎、後門の狼です。


『何を遊んでおるKN-08! さっさとコアユニットと接続しろ!』

『そうじゃぞKN-08! 出力は下がってしまうがこの際仕方がない。お前をコアユニットに接続して、戦闘機動試験を行う!』


 クラーラが、やはり罠だったのかと冷や汗を流したのをしり目に、老人二人の罵倒に近い命令に従い、クシナダは二人を追うのをやめてスサノオへと向かいました。

 その時です。

 クラーラとスサノオの間の地面が、黄金の光に吹き飛ばされました。

 そして、そこから現れたのは……。


「クラ……リス?」


 クラーラに背を向けて立つクラリスが、クラーラには別人に見えました。

 装いはいつもの黒いスケベキョンシーではなく、両側に大きくスリットが入っているものの、遥かに露出度が低い蒼いチャイナドレス。なので、恰好は違います。

 クラーラが別人のように感じたのは、クラリスの纏う雰囲気が数日前とは違っていたからです。

 その背中は縋りつきたくなるほど頼もしく、大地を踏みしめる両足は、千年生きた大樹のように力強い。

 握りしめた両拳は、降りかかる災厄を払うどころか破壊しつくしそうなほど雄々しい。


「クラーラ。あいつを倒す方法、クラーラなら思いついてるんだよね?」

「え、ええ。まあ……」


 クラリスは背を向けたまま、クラーラに問いました。

 クラーラは自信なさげにうつむいて、答えました。


「じゃあ、やろう」

「ですが、まだ試していませんし、あなたにどんな影響が出るかもわかりません」

「それでもやろう。だって……」


 現状、クラリスが保有している魔力は、多めに見積もって上級魔術数発分。

 クラーラが保有している魔力は、魔王が腕輪に込めた伝説級一発分。

 クシナダを鳩尾部分に設けられた動力部に搭載し、対魔力障壁を再展開したスサノオに対抗するには不十分。

 仮に、防御という概念ごと切り裂くエクスカリバーを使ったとしても、スサノオに一太刀浴びせるのが精々でしょう。

 だからこそ、クラリスはそれを十二分に理解しているクラーラに、方法を問うたのです。

 自分にどんなリスクがあろうと、クラーラが示す方法なら必ず勝てると信じて。


「あたしとクラーラなら、きっと魔王にだって負けないもん」


 クラリスは、クラーラに満面の笑顔で言いました。

 その笑顔を見て、クラーラの不安は吹き飛びました。

 魔王が残した魔術を使用した場合、龍脈から吸い上げる魔力は自然物で構成した身体を通して使います。

 しかし、その身体の制御にクラリスの魔力を使う都合上、どうしてもクラリスに、術式を通して龍脈からの魔力が少量ながら流れ込んでしまうのです。

 それが、クラーラにとっての懸念事項でした。

 ですが、それはクラリスの笑顔で、不安と一緒に吹き飛んでしまったのです。 

 

「ええ、わたくしとあなたなら、神にだって負けません」


 だからクラーラは、クラリスの瞳を真っすぐと見返して、宣言しました。

 


 

 

読んでいただけるだけで光栄なのですが、もし「面白い!」「続き読みたい!」など思って頂けたらぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!

ぜひよろしくお願いします!

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