よくも! わたくしのクラリスを!
クラリス(ついでにマタタビも)救出作戦。
作戦と大げさに銘打ってありますが、クラーラとハチロウが囮として正面から堂々と攻め、その隙にタムマロが潜入してクラリスとマタタビを救出するだけなので、内容は単純です。
単純故に、アシナヅチとテナヅチもすぐに気づいて屋敷内、及び半径10キロメートルの範囲のセキュリティーレベルを上げたのですが、今のところタムマロは見つかっていません。
まあ、それは当然でしょう。
クラーラがハチロウの、クラーラ監修改良型ヤマタノオロチの頭部の一つに乗って屋敷を攻撃し始めてそろそ10分経ちますが、タムマロはまだ、警戒されている範囲内にすら入っていないのですから
「ハチロウちゃん、もっと激しく動いても大丈夫です」
「うん! わかったよお姉ちゃん!」
改良型ヤマタノオロチは 八つの頭と尾を生やしているのは改良前と同じですが、全高を18mまで縮小して植物の密度を高めたヒト型。
それゆえに、改良前ではできなかった高機動、高速戦闘を可能とし、長者屋敷からの砲撃を難なく回避し続けています。
当たらなければどうと言うこともない。と、言うヤツですね。
「そう、そこ、もっと右へ。そして速く。それを何度も繰り返してください」
「あの勇者が、金髪のお姉ちゃんを助ける時間を稼ぐんだよね!」
「ええ、そうです。なのでできるだけ長く、奴らの目をわたくしたちに向けさせます」
本当なら、クラーラ自らクラリスを助けに行きたかった。
クラリスが捕まってしまったのはクラーラが迂闊だったからですし、もっと言えば、魔力を大量に消費させたせいです。
なのでクラーラにしては珍しく、罪悪感を覚えていたのです。
『このままじゃあ、らちが明かんのぉ、テナヅチや』
『そうじゃのぉアシナヅチ。相手のサイズも丁度ええし、アレを試さんか?』
『アレをか? じゃが、まだあの娘の魔力に耐えるための改修が済んでおらんぞ?』
『相手は所詮、ASの出来損ない。有線でも余裕じゃろう』
二人の会話がスピーカーを通じて外に響くと、砲撃が止まりました。
クラーラはその会話で、自分達に敵の意識を完全に向けさせられたと確信しましたが、同時に不安も覚えました。
確かに、老人たちが言った通り、クラーラが手解きをしたとは言えハチロウのヤマタノオロチはASには遠く及びません。
ハチロウがもっと魔術の勉強をすれば、後々ASに匹敵するほどのモノになるでしょうが、今は老人たちが言った通り出来損ない。
不安に思ったのは、「サイズが丁度いい」という台詞。
その台詞が、クラーラにしたくもない予想をさせました。
「……まったく、旧世界のカガクとやらは、とんでもないですね」
そしてその予想は、当たってしまいました。
長者屋敷の正面の地面が左右に割れ、そこからリフトアップされて出てきたのは、全高20mほどの、銀色の巨人。
ですがASではなく、全てが機械で構成された物でした。
それを、警戒範囲外から眺めているタムマロが「サ〇バスターっぽいロボットだな」と、言っていますが無視します。
「装甲には対魔力障壁。背中から伸びた羽を見るに飛行も可能そうですが、伝説級相当の魔力を腰部の管で常時補給しているようなので飛ばれる心配はありませんね。ですが、目に見えるだけの武装だけでも脅威。右手の大剣は近づかなければ良さそうに思えますが、刀身には遠近問わず敵を両断する術式が刻まれていますし、各部には、屋敷の迎撃兵装以上の威力がありそうな砲身が目立たないようにいくつも。並の巨人が相手ならば、束になっても敵いそうにありませんね」
『ほう? 低能の割には正確な分析じゃな。のぉ? テナヅチ』
『さすがに、見える範囲でしか分析できていないがのぉ。エネルギー源にも言及しておったら、及第点をくれてやったぞ? のぉ? アシナヅチ』
「言うまでもないと思って言わなかったのですが……。魔力はどうせ、地下にある霊子力タービンを回しているハチロウちゃんのご兄弟から搾取しているのしょう?」
『アレらは霊子力タービンを動かすための貴重な家畜じゃ。この、対魔王用人型決戦兵器『スサノオ』を動かすための霊子力は……』
そこでアシナヅチが台詞を一旦止めると、スサノオの前の空間が四角く切り取られたように真っ黒に染まり、次いで、円筒状の機会の中で苦痛に顔を歪めたクラリスを映し出しました。
『お前は低能で無能じゃが、連れは優秀じゃなぁ。改修が間に合わなかったばかりに、この小娘をスサノオに搭載できなかったのが残念でしょうがない。のぉ? テナヅチ』
『なぁに、現状でもなんら問題はない。もし、このスサノオに勝てる者がおるとすれば、それは魔王か神くらいのものじゃろうからなぁ』
老人二人の会話は、クラーラの耳には一切入ってきませんでした。
クラーラは、宙に映し出されたクラリスに、釘付けになっていました。
そんな彼女の口から零れ出たのは、クラリスを利用されたことに対する怒りや侮辱されたことへの反論でもなく……。
「ふ、ふふふ……」
笑いでした。
「あは、あはははははははは!」
クラーラは、腹を抱えて笑いました。
アシナヅチとテナヅチが不審に思って攻撃を躊躇うほど何の脈絡もなく笑い出し、嗤い続けています。
「これは傑作です! 散々好き勝手して、嫌だと言うわたくしにもいっぱい迷惑をかけた性欲魔人が、機械に凌辱されるなんて傑作じゃないですか! ざまぁみろ。いえ、おめでとうと言ってあげますよ!」
腹を抱えていた両手を天へと掲げて叫んだクラーラの顔は笑っていました。
ですが瞳からは、大粒の涙が筋になって流れていました。
そして、急に腕から力を抜いてダランと垂らし、同じく頭も、表情が見えないほど深く落としたクラーラは……。
「よくも……」
と、呟きました。
それを皮切りに……。
「よくも、よくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくも……!」
両手で頭を抱え、振り回しながら同じセリフを絞り出し続けました。
そして最後に、それまで感じたこともない怒りに身も心も震わせながら、クラーラは叫びました。
何の打算もなく、魂から湧き出てくるくるような激情に流されるまま……。
「よくも! わたくしのクラリスを!」
と、叫びました。
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