あたしを壊して……
建物が揺れ続け、戦闘音らしきものが、かれこれ30分は鳴り続けています。
音が近寄ったり遠ざかったりを繰り返しているのを聴いて、クラリスは、まるで時間稼ぎでもしているような違和感を覚えました。
「マタタビちゃん、外の様子がわかる?」
「さすがに、ここからじゃわからないニャ。それよりお姉さま、さっきから、凄く辛そうなんニャけど……」
「ああ、大丈夫大丈夫。ちょっと、お腹が空いただけだから」
「ほ、本当ニャ?」
「ホントホント! でもこの格好で居続けるのは少し恥ずかしいから、そこのボタンを適当に押して出してくれないかな?」
「わ、わかったニャ!」
マタタビの不安を少しでも和らげようと、クラリスは表情筋を駆使して笑顔を作りました。
ですが、それが限界だったのかその笑顔は、マタタビがクラリスの閉じ込められている円筒上の機械の操作台と格闘を始めたのを確認するなり、苦痛に歪みました。
「これ……ヤバイかも」
魔力が涌き出る端から吸いとられるその苦痛は、空腹と感じが似ています。
今はまだ、マナの壺から涌き出た分を吸いとられているだけで済んでいますが、もしそれ以上の量を吸いとられ始めると、クラリスが本来持っている魔力も吸われ、それすら尽きてしまうと、体は細胞の一つ一つから魔素を集めて魔力を作ろうとするため、体は痩せ細っていきます。
そうなる前に、クラリスはここから出たいのですが……。
「う~……。わかんないニャ。これかニャ? それともこれ?」
マタタビでは、この機械を操作するのは無理そうです。
クラーラがここまで来てくれるのかと最初は期待していましたが、一度戦闘音が止み、再び鳴り出したのを鑑みると、戦闘は次の段階に入ったと考えられるのでそれは無理そう。
ならば一か八か、自身の魔力を使ってこの機械を破壊しようかと考え、そうしようとしたのですが……。
「うわぁ……。よりにもよって、アンタが来るとは……」
「そんなに嫌そうな顔をしないでくれよ。これでも、急いで来たんだよ?」
背中に荷物と、右手に見慣れない剣を提げたタムマロが現れました。
しかも扉を開けず、クラリスがうつむいた一瞬で、突然現れたのです。
「随分と、魅力的な格好だね。触手凌辱が好みだったっけ?」
「馬鹿なこと言ってないで、さっさとここから出して。マジでしんどいんだから」
「わかったわかった。じゃあマタタビちゃん。そこを代わってくれるかな?」
マタタビと交代するなり、タムマロは操作盤をちょちょいと操作して、クラリスを包んでいた保護液を廃液し、次いで蓋を開けました。
支えがなくなったクラリスが倒れそうになりましたが、それも手際よく、抱き抱えて床に寝かせました。
「……これ、抜いて。自分じゃ怖くて抜けない」
「僕がやって、良いのかい?」
「アンタなら、あたしよりも上手くできるでしょ?」
クラリスは、挿管された三本のチューブを抜いてくれと、タムマロから目をそらしながら言いました。
怖くて抜けないのも本当ですが、実際はそれらを抜く体力も残ってなかったからでございます。
「わかった。じゃあマタタビちゃんは、一足先に脱出して。経路はこの紙に書いてある。二人の荷物も、僕が回収しておくから」
「でも、お姉さまが……」
「クラリスは君に、情けないところを見せたくないんだ。だから、早く」
「わかった……ニャ」
タムマロに説得されたマタタビは名残惜しそうに何度もクラリスを振り返って、タムマロが開けた扉から外に出ました。
そして、マタタビが遠ざかったのを確認したタムマロは扉を閉め、体を起こせないクラリスの前に膝をつきました。
「本当に、僕がやって良いんだね?」
「良いから……やって。お腹が中から冷えてきてるから、本当に早く抜いて」
「わかった。できるだけ見ないようにするから」
「見ても良いから、確実に抜いて。あ、できるだけ、優しくしてね」
「はいはい、わかったよ」
タムマロは言われた通りできるだけ優しく、傷つけないように慎重に、三本のチューブを抜きました。
その間にクラリスは、尿道に挿管された物を抜かれた時は「ん……」と、声を何とか我慢しましたが、肛門に挿管された物を抜かれた時はたまらず、「あ、ちょっ……!」と、何かを言いかけて慌てて口を両手で塞ぎました。
その順番が良かったのか、その真ん中に挿管された物を抜く時はすんなりといきました。
理由はご想像にお任せいたします。
あまり詳しく言うと、色々と問題がありますので。
「うっ……ぐすっ。無理矢理二つの処女を奪われるし、タムマロなんかに全部見られちゃうし。今日は人生で、二番目に最悪な日だわ」
「ちなみに、一番は?」
「お姉さまが亡くなった時に決まってるじゃない。言わせないでよ、馬鹿」
「ごめん」
それからしばらく、無言が続きました。
タムマロが差し出したマントにくるまって寝ころび続けるクラリスと、そんなクラリスから背を向けて胡坐をかいたタムマロは、規則的な機械音と不規則な戦闘音が奏でる無骨なメロディーを楽しんでいるかのように、無言でい続けました。
「ねえ、タムマロ」
「なんだい?」
「アンタなら、言わなくてもわかってるんでしょ?」
「まあ……ね」
その静寂を、クラリスは破りました。
クラリスは考えたのです。
何度も「いや、タムマロはない」と脳内で否定し、「いやいや、あんな機械よりは絶対にマシ」だと何度も考え直した末に、タムマロに抱いてもらおうと。
機械に凌辱された記憶を、血の通った人間に凌辱された記憶に書き換えようと考えたのでございます。
けっして好きではなく、むしろこの世の誰よりも大嫌いだと思い込んでいるタムマロに抱かれれば、機械に凌辱された記憶よりも鮮明に、確実に記憶に残ると考えたのでございます。
「お願い……します。滅茶苦茶にしてください。何も考えられないくらい、あたしを壊して……」
嗚咽交じりの懇願に、タムマロは応えました。
滅茶苦茶にしてくれと頼まれたのに繊細に、何も考えられないくらいにと頼まれたのに丁寧に、クラリスを抱きました。
そんなタムマロに不満を抱きながらも、クラリスは身を任せ続けました。
読んでいただけるだけで光栄なのですが、もし「面白い!」「続き読みたい!」など思って頂けたらぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!
ぜひよろしくお願いします!




