早……く、行ってぇぇぇぇ!/必ず、助けに戻ります
価値観の相違。
それは時として、とんでもない過ちとなることがあります。
例えば、クラリスの名前。
クラリスにとって、名前はどんな金銀財宝よりも価値があり、侮辱されようもなら相手を殺すことも躊躇いません。
もし、クラーラが先にキレていなければ、タカマツの酒場でクラリスの名前を嗤ったチンピラたちはクラリスによって皆殺しにされていたでしょうし、ヒミコがクラリスを厚待遇で迎えていなければ、名前を騙ったクラーラも五体満足ではいられなかったはずです。
「クラーラ、援護よろしく! ただし、中級魔術までにとどめてよ! 本っ当ぉぉぉぉに、ガス欠寸前だから!」
「はいはい、わかりましたから、さっさとお行きなさい」
その価値観の相違が、戦場となったここでも起きています。
ただしそれは、クラリスの魔力残量に起因したものではありません。
「ちょっ……! どうしてクラーラを狙うの!? 目の前にはあたしがいるのよ!?」
「当機の目標はあなたで間違いないのですが、あの二人を人質にした方が効率的だと判断しました」
クラリスとクシナダは、激しい格闘戦の最中。
クラリスの放つ拳と蹴りをクシナダは時に受け、時に捌きつつ、隙を見て右手から魔力弾をクラーラへ撃っています。
それ自体は、マジカルパッケージに設定した自動回避機能が回避してくれているのですが、回避頻度が高く、しかも少年を背負った状態なので、魔術を使う余裕がクラーラにはありません。
その状況をどうにかしようと思ったクラリスは……。
「だったら……! 心意六道! 光身散界! 影六つ!」
等分した魔力を分身とし、四方八方から敵を打つ光身散界を使用し、クシナダがクラーラを攻撃する余裕を奪い取りました。
ですがこの技は魔力を等分、今回の場合ですと、本体であるクラリスを合わせて七等分するため、魔力の消費量は他の技の非ではありません。
ただでさえ、前日の神話級魔法に始まった魔力消費から回復しきっていないクラリスの魔力残量は少ないのに、魔力を等分してしまうこの技は自殺行為に等しいのですが……。
「クラーラ!」
「わかっています! 土よ、風よ、木々たちよ、彼の者を拘束しなさい! 上級複合拘束魔術!」
その甲斐あって、クシナダの拘束に成功しました。
さて、冒頭でも言いましたが、価値観の相違は時として、とんでもない過ちとなることがあります。
この時点で、クラリスもクラーラも勝ちを確信しています。
それは慢心ではなく、現状と自分達の戦力を元に導き出した純然たる事実。
さらにクラーラは、会った時のアシナヅチ、テナヅチの反応とクシナダの言動から、クラリスを捕まえようとしていることも確信しています。
それらに加え、クシナダが現代魔術では製造不可能なほど精巧で高性能な魔道人形であること。
その価値は計り知れず、彼女を売るだけで孫の代まで遊んで暮らせるだけの金銭が得られ、構造を解析し、量産を可能にすれば子々孫々、未来永劫、遊んで暮らせる富と栄誉が手に入るでしょう。
なので、屋敷自体に強力な兵装があろうと、クラリスとクシナダを巻き込むような攻撃はしてこないと、クラーラは考えていました。
「何? あれ。屋上に、でっかい傘が出てきたんだけど……」
それは、傘のような見た目ではありますが、立派な兵器。
しかも迎撃用ではなく、攻撃用の兵器です。
その射程と威力は神話級魔法に匹敵し、最大出力で撃てばチュウカまで続く一本道が作れるほど強力です。
「や、ヤバい……」
その脅威に最初に気づいたのは、それを知っているクシナダではなく、クラリスでした。
傘……パラボナアンテナに似た形状をした砲身の中央に魔力が集まっているのを、屋敷に近かったがゆえにクラーラより先に察知したクラリスは……。
「心意六道、最大出力波紋平傘! 十六枚!」
先に使った波紋平傘よりも巨大な障壁を、現在の魔力で作れるだけ作って前方へ展開しました。
それを待っていたかのようなタイミングで、パラボナアンテナから放たれた魔力弾……いえ、魔力光線は波紋平傘に防がれました。
しかし、防げたものの、魔力の照射は続いています。
それは上級魔術を楽々と弾き返す強度の傘を一枚一枚、徐々に貫きながら、クラリスたちへと迫っています。
「クラー……ラ」
傘が四枚貫かれた時、クラリスはクラーラの名を呼びました。
それは、どうにかしてくれと言う呼びかけではありません。
「待ってる……からね」
傘が十枚貫かれると同時に、クラリスはそう言いました。
クラリスは暗に、クラーラに逃げろ、そして折を見て助けに来いと言っているのです。
ですがクラーラは、動こうとしません。
迫る光の槍に怯えて腰を抜かした少年を抱きしめているだけで、動こうとしません。
「早……く、行ってぇぇぇぇ!」
クラーラは悔しかったのです。
あの老人二人がクラリスを狙っているとわかっていながら、自分の勝手な決めつけでそれを許そうとしている事実が、クラーラのプライドをかつてないほど傷つけました。
唇を嚙み切るほど歯を食いしばらなければ動けないほど、体を震えが襲いました。
それでもクラーラは怒りを押さえつけ、普段からクラリスの魔力を貯めていた魔石を五つ取り出して少年をしっかりと抱き抱え……。
「必ず、助けに戻ります」
と、言い残してマジカルパッケージを発動し、光に包まれたクラリスを置いてその場を去りました。
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