あれ、図体だけね/ええ、中身はスカスカです
「なんか、殺風景な部屋ね。ベッドくらいしかないじゃない」
「それに、白一色で目が痛くなりそうだニャ」
が、一晩すごした部屋に対する、クラリスとマタタビの感想でした。
ですが、不満たらたらな二人とは対照的に、クラーラは静かなものです。
いや、不満はあるようですね。
ただしその不満は部屋にではなく、自尊心をズタボロにしてくれた、アシナヅチとテナヅチに対してでございます。
「ねえ、クラーラ。お爺ちゃんとお婆ちゃんからの依頼、どうするの? 受ける?」
一頻り、部屋への文句を言い終えたクラリスは、アシナヅチとテナヅチからの依頼を受けるかどうかを、ベッドの上に正座して壁を睨み続けていたクラーラに聞いたのですが、反応はなし。
まるでわずかなシミでも探しているかのように、クラーラは真っ白な壁を見続けています。
「クラーラお姉さま、どうしちゃったんだニャ?」
「自分よりも上の人がいるって知って、ショックを受けてるんじゃない? ほら、クラーラって自信過剰だから」
「でもでも、それに見合うだけの……」
「知識も技術もあるよ。だから余計に、上がいるって知ってショックなのよ」
マタタビは必死に弁護しようとしていますが、クラリスは容赦なく、クラーラに追い討ちをかけます。
当のクラーラは、両膝をこれでもかと握りしめながら、わめき散らして八つ当たりしたいのを必死に我慢しています。
「で、どうすんの? 受ける? 受けない?」
「受けます。魔石の加工法も、霊子力バッテリーとやらも、わたくしにとっては必要な知識ですから」
クラーラは悔しさを必死に押さえ付け、未知の知識を得ることを選択しました。
これが、数少ないクラーラの美点の一つ。
知識欲に素直で、知らないことはどんなに屈辱でも教えを乞う。クラーラを魔道の天才足らしめているのは、ギフトよりもこの考え方が理由として大きいのでございます。
「毎年ここを襲ってくるヤマタノオロチ……か。聞いた限りだと、ドラゴンなんだよね?」
「あの二人の話では、ヤマタノオロチは一つの胴体に八つの頭、八つの尾を持ち、目はホオズキのように真っ赤。体にはコケやヒノキ、スギが生え、八つの谷と八つの丘にまたがるほど巨大で、その腹はいつも血でただれている。ヒドラの近縁種だと思いますが、いくらなんでも巨大すぎます」
「普段は縮んでるんじゃない? ほら、ワダツミのおっちゃんだって小さくなれたし」
「おそらく、違います」
「そうなの?」
「ええ、オオヤシマでは、八とは単なる数字ではなく、数が多いという表現にも用いられます。なので、あの年寄りどもが語った特徴は八つ首のドラゴンの形態を表しているのではなく、ヤマタノオロチという名の一族と、その居住地を表しているのではないでしょうか」
「回りくどくない? あたしらは、そろそろここを襲ってくるヤマタノオロチの迎撃を依頼されたんだよ?」
「何か、別の目的があるんですよ」
クラーラは曖昧な言い方でうやむやにしましたが、その目的にも察しがついていました。
物欲しそうな目でクラリスを見ていた二人。
霊子力タービンを1000年は回せるというセリフ。
それらから、あの二人がクラリスの魔力を狙っているとクラーラは考えました。
「あの二人は信用なりません。なので、ここで出される食事には、口をつけないでください」
「水は?」
「水も駄目です。欲しければ、魔力で精製してあげますから言ってください」
先日の疲れが取れていないばかりか、魔力も回復しきっていないのにここまで我慢を強いられたら、普段のクラリスなら食って掛かります。
ですが……。
「わかった。クラーラの言う通りにする」
クラーラの瞳と物言いが真剣なので、クラリスは素直に言うことを聞くことにしました。
それで話が一段落ついたと思ったのか、マタタビは恐る恐る二人に……。
「ね、ねえお姉さま方。ちょっと前から、地面が揺れてるニャ」
少し前から感じていた異常を、二人に教えました。
それが合図になったわけではないのですが、三人にあてがわれた部屋に、けたたましい音が鳴り響きました。
「ちょっ……! 何よこの音!」
「まるで、怪鳥の鳴き声ですね。うるさいことこの上ありません」
二人は耳を塞いでうるさく感じる程度で済んでいますが、聴覚が二人より勝れているマタタビは耳を塞ぐと言うよりは押さえ込み、オマケに転げ回って苦しんでいます。
それを見かねた二人は、音の発生源である天井のスピーカーに……。
「心意六道! 龍顎破砕!」
「屹立せよ。ウィンドピラー」
クラリスはアッパーカットのような動作とともに魔力を上へ放ち、クラーラは魔術で天井ごとスピーカーを破壊しました。
それで音は止んだのですが、二人が二人とも容赦なく、遠慮なく破壊したせいで天井に空があらわれ、それを察したクシナダが、相変わらずの無表情で部屋に来のですが……。
「破壊音が聴こえましたが、大丈夫です……か?」
視線はすぐに、4階建てなのに空が見える天井に固定されました。
人ではなく、霊子力で動く人形のクシナダにそんな反応をさせた二人はと言うと……。
「ちょっと、クシナダさん! さっきの音は何なの!? あたしの可愛いマタタビちゃんが泣いちゃったじゃない!」
クラリスは泣いてしまったマタタビを抱きかかえて逆ギレし、クラーラは……。
「魔力を吸うのを阻害された時は驚きましたが、建物自体には対魔力対策は施されていないのですね」
と、破壊の跡を見ながら分析しています。
そんな二人の反応に、クシナダに搭載してある人工知能は一時フリーズしましたが、すぐに今が切迫した事態だということを思い出して……。
「天井のことは、今は追求しません。それより今は……」
「ヤマタノオロチが来たのでしょう? はいはい、行きます行きます。ね? クラリス」
「うん、行く行く。こんな何もない部屋にいるより、でっかいドラゴンをぶっ飛ばす方がよっぽど楽しいから……ねっと!」
言うが早いか、クラリスはマタタビを下ろし、代わりにクラーラを抱えて両足から魔力を放出して、天井の穴から外へ出ました。
そんな二人を待っていたのは……。
「クラーラの嘘つき。お爺ちゃんとお婆ちゃんが言った通りのドラゴンじゃない」
「あらあら、こんなに大きなドラゴンが存在するだなんて、夢にも思いませんでした」
アシナヅチとテナヅチが説明した通りのドラゴンが、八つの首を掲げて長者屋敷に迫る光景でした。
普通の人ならパニックを起こして逃げ惑うのでしょうが、二人は不自然さを感じさせるほど落ち着いています。
「あれ、図体だけね」
「ええ、中身はスカスカです」
それは二人が、クシナダの正体を見破った時のように、ドラゴンの体を流れる魔力を見て張りぼてだと気づいたからでございます。
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