何をする気なのクラーラ!/あの人形を分解します
クラリスとクラーラ、そしてマタタビが案内されたのは、墜落した場所からさらに上流、センツウ山の麓に建てられた、長者屋敷と呼ばれている異質な建物でした。
どのように異質かと言いますと……。
「これ、何で出来てるの? 石……じゃあないよね?」
「コンクリートですね。世界各地にある遺跡でよく使われている素材です。建築様式も、よく似ています」
「え~っと……。たしか大昔って、やたらと区画が整理されてて、こんな四角い建物ばっかりだったんだっけ?」
「はい。魔術を学ぶ者なら、誰しもがいずれ行き着き、突き当たる壁。古代カガク文明の遺跡です」
「それって、世界は何度も滅びてるとかいう、眉唾話のやつだよね?」
「眉唾ではありません。各地に存在する遺跡や民話、伝承。それらを総合して考えると、最長でおよそ1500年前、最短で600から700年前に、世界規模の文明が確実に一度滅びているのです。アメリア国の先住民族、ホッピー族に伝わる神話ですと、その文明は空の居住区が落ちてきて滅んだんだそうです」
「前の文明は、空に町を造ってたってこと?」
「空は空でも、もっと上。スペースと呼ばれている領域です」
「スペースって?」
「あなたでもわかるように言うなら、星が浮かんでいるところですね。オオヤシマ語だと……宇宙でしたか」
話を聞いたクラリスは「ウッソだ~」と、苦笑いしながら言いつつ、夕日で赤く染まった空を見上げました。
ここで余談……と言うよりは補足をしておきましょう。
クラーラはクラリスでは理解できないと思って言わなかったのですが、魔術を学ぶ者がどうして滅びた古代文明に行き着くのか。
それは魔術が、元は古代文明の霊子力理論だからでございます。
詳しくは割愛しますが、クラーラが古代カガク文明と呼んだ世界は、ひょんな事から霊子エネルギーの運用方法を発見し、それまでに類を見ないほどの発展を遂げました。
もっとも、最後はクラーラが語った通りになったそうですが。
「さあどうぞ。遠慮なくお入りください」
近隣に住む者たちから、『長者屋敷』と呼ばれている建物から生じた会話に夢中になっていた二人を待ちかねたのか、クシナダは両側へ開いたガラス製の扉の前で振り返って、三人を呼びました。
その光景を見て、クラリスは目をまん丸に見開いて固まってしまいました。
「ねえ、クラーラ。今、扉が勝手に開いたよ」
「生きている遺跡ではよくある機能ですね。上の方に人を感知する仕掛けがあって、それが反応すると扉が開くんです」
「へぇ、じゃあ、珍しくはないんだ」
「珍しくはないですが、あそこまで状態が良いものは珍しいですね。あの扉自体に魔力を感じませんから魔道具の類いではないのですが、どういう仕掛けで動いているのかはいまだに解明されていません」
二人が話の種にした扉は、いわゆる自動ドア。
クラーラが言った通り、魔道具ではありません。
ただし、動かすための電気は、長者屋敷の地下にある霊子力タービンで発電しています。
その事にクラーラは気づいているのですが、気づいたせいで胸糞が悪い気分になったので、クラリスには話しませんでした。
「クラーラ? どうかしたの?」
「何でもありません」
「あるよね? だって、怒ってるじゃない」
「怒ってません。ただ、気に食わないだけです」
クラーラは、学生時代に遺跡の調査に参加したことがありますし、禁書庫を漁っていた頃に、古代文明の研究資料にも目を通しています。
なので小綺麗ではありますが、クシナダにうながされるまま足を踏み入れた長者屋敷の玄関ホールの様式にも見覚えがありますし、地下で回り続けている霊子力タービンを回す霊子力の発生源が人、もしくはそれに準ずる生物だと察しがついています。
クラーラが気に食わないのは、その霊子力タービン。
敵を容赦なく消し炭にし、魔術理論を実証するためにクラリスを実験台にしたり、魔法が世界に及ぼす影響に酔いしれるクラーラですが、これだけは受け入れられないのです。
「あ、博士、ちょうど良いところに。この人たちが、空から墜ちてきた人たちです」
「それだけの霊子力を垂れ流しておったら、奥におっても気づくわい。のぉ? テナヅチ」
「生み出される霊子力量が異常な数値じゃねぇ。その精製量なら、その金髪娘一人で霊子力タービンを1000年は回せそうじゃ。のぉ? アシナヅチ」
クシナダが博士と呼んだ二人は、車椅子と呼ぶよりは車輪のついた生命維持装置と呼んだ方がしっくり来るほどゴツい車椅子に乗った老人。
お爺さんの方がアシナヅチで、お婆さんの方がテナヅチと申します。
「そっちの娘はシスターか? KN-08、ワシらはまだ、死ぬ気はないぞ」
「そうじゃぞKN-08。葬式はまだ早い」
「違います。こちらの方はクラーラ。魔術師だそうです」
「魔術師じゃと? テナヅチ、霊子量の数値は?」
「100に届かんよ、アシナヅチ。貧弱すぎる。今の時代の人間基準で最低レベル以下。下手をすりゃぁ、旧世紀の人間レベルじゃなぁ。逆に、そっちの娘は今の時点で100万を超えておる。数日もすれば一億を超えるじゃろう。こんな数値は、魔王以外では初めてじゃ」
ちなみに霊子量……この時代で言うところの魔力量は、一般人で100から300前後。
並の魔術師で1000前後。世界最高の賢者と呼ばれているアリシアで、100000ほどでございます。
「ねぇねぇ、お爺ちゃんお婆ちゃん。けーえぬまるはちって、誰のこと? そのお姉さんは、クシナダって名前じゃないの?」
「クシナダでも、間違いではない。正確には、八式霊子力バッテリー搭載型汎用アンドロイド、クシナダシリーズ。その八号機じゃな」
「は、はん……何?」
噂話程度しか古代文明の知識がないクラリスには、アシナヅチが言った言葉の意味が全く理解できませんでしたが、クラーラはおおよそ理解しました。
ですが理解できたが故に、イロイロと興味が湧いてしまいました。
「やはり、魔力をエネルギーにして動く人形でしたか。ですが、サイズに対して保有魔力量が多い。ざっと、魔術師100人分。アリシア様に匹敵するほどの量ですね。それほどの魔力を、どうやって収めている? 仮に、あのジジイが霊子力バッテリーと呼んだ物が魔石とするなら、搭載している魔石は軽く10メートルサイズになるはず……」
「クラーラ? さっきから、何をブツブツ言ってるの?」
「少し、黙っていてください。ならば、霊子力バッテリーとは魔石とは別物。いいえ、もしかしたら魔石を素材として、より多くの魔力を溜め込めるようにした物なのかもしれません。ならば……」
「ちょ、ちょいちょいちょいちょい! 魔力なんか吸って、何をする気なのクラーラ!」
「あの人形を分解します。分解して、霊子力バッテリーとやらを見てみます」
「駄目に決まってるでしょ!? つうかそれ、こないだヨシツネとの戦闘で使った魔術じゃないの!?」
クラーラの知識欲に火が着き、見た目的には完全に人であるクシナダを、容赦なく分解しようと剣聖再現を発動しようとしました。
ですが、それは叶いませんでした。
クラリスに止められた訳ではなく、テナヅチが手元のパネルを操作するなり生じた、結界のようなモノによって、魔力が吸えなくなったからでございます。
「その首輪は、そっちの娘が作ったのか?」
「そうだよ。クラーラお手製の、搾取の首輪改。って言うか、お爺ちゃんわかるの?」
「ワシはこれでも、この道の権威じゃ。それくらいは見りゃわかる。それが、素人が造ったにしてはマトモということものぉ」
アシナヅチの言葉で、知識欲と好奇心に満たされて興奮気味だったクラーラの表情が固まりました。
それに気づいたクラリスは、クラーラが怒りに任せて神話級魔法を使わないよう、手が届かない位置まで移動しました。
「どうやら見た目通り、頭の方も老いているようですね。わたくしが作ったこれは、現状で最高の……」
「有効範囲は半径200メートル。吸える霊子力量は、一度に10000が限界じゃろう? 確かに、組み込んであるプログラムは優秀じゃ。旧世界にも、そこまでのプログラムを組めた者は稀じゃった。じゃが、素材がいかん。形を整えただけの、無加工と言ってもいい霊吸石ではなぁ。なぁ、テナヅチよ」
「無茶を言うなアシナヅチ。この時代に、霊吸石を加工、圧縮する技術なんぞ、残っておるわけがなかろうが」
自信作である搾取の首輪改の性能を言い当てられて悔しい反面、自分が知らない魔道の知識を持つ二人に、クラーラは驚愕しました。
そんなクラーラの表情から察したのか、アシナヅチとテナヅチは……。
「ワシらの頼みを聞いてくれたら霊吸石……お前たちが魔石と呼んでいる物の加工法を教えてやる。のぉ? テナヅチ」
「加工法だけなどと、ケチ臭いことを言うなアシナヅチ。ワシらの頼みを聞いてくれたら、霊子力バッテリーの作り方も教えてやるわい」
と、ニヤリと笑って、魔道の天才というプライドをズタズタにされたクラーラに言いました。
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