三国志演義・赤壁大戦~三江の大殲滅~【孫呉の章・前編】
この台本は故・横山光輝氏、及び吉川英治氏、北方謙三氏の著作した三国志や各種
ゲーム等に、作者の想像を加えた台本となっています。その点を許容できる方は是
非演じてみていただければ幸いです。
なお、人名・地名に漢字がない(UNIコード関連に引っかかって打てない)場合、
遺憾ながらカタカナ表記とさせていただいております。
何卒ご了承ください<m(__)m>
なお、上演の際は漢字チェックをしっかりとお願いします。
また、金銭の絡まない上演方法でお願いします。
ある程度はルビを振っていますが、一度振ったルビは同じ、または他のキャラの
セリフに同じものが登場しても打ってない場合がありますので、注意してくださ
い。
三国志演義・赤壁大戦~三江の大殲滅~【孫呉の章・前編】
作者:霧夜シオン
所要時間:約50分
必要演者数:人(8:0)
(7:1)
※これより少なくても一応可能です。時間計測試読の際は人で兼ね役しました。
はじめに:この台本は故・横山光輝氏、及び、吉川英治氏の著作した三国志や各種
ゲーム等に、作者の想像を加えた台本となっています。その点を許容で
きる方は是非演じてみていただければ幸いです。
なお、人名・地名に漢字がない(UNIコード関連に引っかかって打てな
い)場合、遺憾ながらカタカナ表記とさせていただいております。何卒
ご了承ください<m(__)m>
なお、上演の際は漢字チェックをしっかりとお願いします。
また、金銭の絡まない上演方法でお願いします。
ある程度はルビを振っていますが、一度振ったルビは同じ、または他の
キャラのセリフに同じのが登場しても打ってない場合がありますので、
注意してください。
●登場人物
孫権・♂:字は仲謀。
兵法家、孫氏の末裔とされる孫堅(そんけんの次男。
亡き兄、孫策とは違い、内政に秀でている。碧眼紫髯という南方人の身
体的特徴を持ち、この呉の国始まって以来の国難に立ち向かう。
二十代後半。
周瑜・♂:字は公謹。
呉の前主、小覇王・孫策と同年代の若き英傑。孫策の臨終の際に軍事を
託され、水軍都督として日夜強力な水軍建設にあたっている。
非常な美青年で美周郎とあだ名される。
妻に当時絶世の美女、江東の二喬と謳われた小喬をもつ。
音楽にも堪能で当時の歌にも、「曲に誤りあり、周朗(周瑜)顧みる」
という歌詞があるほど。
張昭・♂:字は子布。
江東の二張と称される賢人の一人で、孫策の頃から呉に仕える。
内政を主に担当しており、孫策の臨終の際に「内事決せずんば是を張昭
に問え、外事騒乱の際は是を周瑜に問え。」と遺言され後事を託される
ほどの人物。
魯粛・♂:字は子敬。
本格的に頭角を現したのは孫権の代から。周瑜に推挙され孫権に仕える
。非常に優れた人物で、赤壁の戦いでは陸上部隊を預けられる。
顧雍・♂:字は元歎。
今作では出番がほとんどなく、印象も薄いが、演義でも正史でも非常に
優れた人物だったと伝わる。
孫権からの信頼は厚く、公の場では穏やかな表情と言葉つきであった
が、正しいと思った事は遠慮なく発言したという。
黄蓋・♂:字は公覆。
程普、韓当と同じく孫権の兄や父親の代から仕える最古参の将であり、
赤壁の戦い最大の功労者の一人。
程普・♂:字は徳謀。
韓当、黄蓋と並んで最古参の将。初めは周瑜を認めていなかったが、後
に和解。副都督として赤壁の戦いに参戦することとなる。
諸葛謹・♂:字は子瑜。
魯粛に推挙され、孫権に仕える。演義ではあまり目立った活躍は描か
れてないが、三国志の作者である陳寿に「呉はその虎を得たり」と評
されるほどの優秀な人物で、孫権の信頼も非常に篤かったという。
諸葛亮の実の兄。
諸葛亮・♂:字は孔明。
臥龍と謳われる賢人。劉備の軍師として曹操に対抗するべく孫権と
同盟、孫権と曹操を戦わせるに至る。
後に中国史上屈指の名宰相として名を残す事になる。
孫権軍部将・♂♀不問:今作は結構出番多いかも。
ナレーション・♂♀不問:雰囲気を大事に。
※演者数が少ない状態で上演する際は、被らないように兼ね役でお願いします。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ナレ:曹操はついに南方攻略の軍を興し、荊州と呉の国境に実質八十万の軍を百万
と唱え、大規模な陣を展開する。
呉の柴桑城では、曹操から突き付けられた最後通牒を前に、家臣達が二派に
分裂、降伏か決戦かの激論が日夜交わされていた。
張昭:我が君、曹操は帝をいただき、自身に逆らう者は朝廷の敵として攻撃できる
大義名分を得ております。また実力も十分、百万の軍勢を国境沿いに展開し
ております。
顧雍:対して我が軍は十万程度が関の山、これでは城壁に向かって卵をぶつけるよ
うなもので無謀としか申せませぬ。
張昭:ここは無念ながら一時降伏し、機会を待つほかありますまい。
程普:何を言われる! 我が呉は孫堅様、孫策様をはじめ、建国以来まだ他に屈し
た事は一度もない!
黄蓋:そうじゃ、陸兵なぞ恐れるに足らず、水上ではものの役には立たぬわ!
我が呉の水軍をもってすれば勝てぬ事などない!
張昭;しかし、曹操は先ほど荊州を降伏させ、その水軍をそっくり吸収しておる。
けっしてこちらが有利とは申されまい。
顧雍:たとえ勝ったところで、呉の軍船兵馬の半分以上を失う事は免れぬ。
呉の国の繁栄と安泰を保って他日を期すには、やはり降伏しかありますまい
。
張昭:勇気と無謀は違いますぞ、黄蓋殿。
黄蓋:なんじゃと!?
程普:張昭ッ! お主こそ、軍事に疎い身をもって何を言うか!!
孫権:やめよ!! 双方控えぬか!
黄蓋:は、ははっ・・・。
張昭:も、申し訳ございませぬ・・・。
孫権軍部将:申し上げます。ただいま魯粛様がご帰還なされました。
孫権:おお、荊州の様子を探らせていた魯粛が戻ったか! すぐにこれへ!
ナレ:時間は少しさかのぼる。曹操より最後通牒が届く前、孫権は呉の重臣の一人
である魯粛を呼んで、親しく意見を問うていた。
孫権:魯粛よ、いよいよ曹操が南方への野望をむき出しにしてきた。
曹操に付いた方が得策か、それとも劉備と結んで曹操に対抗したら良いか?
そちに何か良い策があれば、遠慮なく申し述べよ。
魯粛:はっ。まずはわたくしが荊州へ劉表の弔問の使者として赴き、その足で
密かに江夏の劉備の所へ立ち寄ってきます。そして彼に援助を与える密約を
結んで参ります。
孫権:なに、そんな事をしたら曹操は怒って攻め込んで来るのではないか?
魯粛:いえ、違います。劉備の勢いが衰えたので、曹操は呉へ矛を転じたのです。
劉備が勢いを取り戻せば、曹操は背後の憂いができますから、呉へ思い切
った侵攻を行う事が出来ないでしょう。
孫権:ふうむ、なるほどな・・・。
魯粛:また曹操、劉備双方の軍備の実情を見てくる必要があります。それも我が呉
にとっては必要不可欠な情報でしょう。
孫権:よし、わかった。さっそく弔問の使者に発ってくれい。
魯粛:ははっ。
ナレ:こうして魯粛は荊州へ向かい、江夏の劉備の元を密かに訪れて一人の人物と
共に戻ると、彼を客舎に休ませて急ぎ登城したのである。
魯粛:我が君、ただ今戻りました。
孫権:魯粛、荊州への使者、大儀であった。して、曹操、劉備双方の軍の実情はど
うであったか?
魯粛:それも含めて、わたくしの意見は後ほど申し上げたく存じます。
・・・して、この騒ぎはいったい何事でございますか?
孫権:・・・これを読め。曹操からの最後通牒だ。
魯粛:ははっ、拝見いたします。
ナレ:余と共に劉備を討つか、それとも余の百万の軍と無謀に戦って滅亡をつかみ
取るか、即刻回答あるべし。
という、懐柔と威圧を織りまぜた内容であった。
魯粛:この為の評議でございましたか・・・。
孫権:そうだ。早朝から今に至るまでな・・・。
魯粛:なるほど・・・。
しかし、我が君におかれましては、だいぶお疲れになられているご様子。
ここは休息なされてはいかがでしょうか?
孫権:そうだな・・・、よし、しばらく休息する。予も一旦、部屋へ引きあげる。
【二拍】
・・・魯粛、そちは後で報告すると申したな。ここでなら言えるであろう。
申してみよ。
魯粛:はっ。諸将の半分以上が降伏に傾いているようですが、わたくしは反対でご
ざいます。彼らは自己の保身しか頭にありません。呉の国や我が君のお立場
など、考えてもいないでしょう。
孫権:な、なにッ、どういうことか!?
魯粛:彼らは降伏したとしても、功績を重ねれば州や郡の太守ぐらいになれる将来
は約束されます。
しかし、我が君は違います。反乱を恐れて権力からほど遠い位置に遠ざけら
れ、せいぜい車一輌、馬数頭、従者十人も許されれば、降伏した君主の待遇
としては関の山でしょう。
孫権:ぬ、ぬううう・・・・・!!
魯粛:ましてや天下の覇業を行わんとする夢は、間違っても二度と持つことはでき
ますまい。
孫権:そんな事は承服できぬ! 兄上や父上が命を掛けて築いたこの国を、むざむ
ざ曹操に渡すことなどできるものか!!
魯粛:もちろんでございます。
なお、曹操・劉備双方の軍については、江夏より劉備軍の軍師である諸葛亮
殿を連れて参りましたゆえ、親しく会ってお訊ねいただければと存じます。
孫権:おお! 臥龍先生の名は聞いておる。我が国に仕えている諸葛謹の弟であっ
たな。
よし、明日連れてまいれ。それと、今日の評議はこれで解散する旨を伝えて
おくのだ。
魯粛:ははっ。
ナレ:孫権はまだ若い。消極的な意見には迷いを抱くが、積極論には本能的に血が
たぎった。
そして次の日。諸葛亮は魯粛の案内で柴桑城に連れられてきた。
だが会議場に孫権の姿はなく、呉の重臣達が一堂に会していた。
張昭:これはこれは臥龍先生。ようこそ呉の国へ参られました。それがしは内政を
任されております、張昭、字を子布と申す者です。
魯粛:(な・・・我が君もいるものと思っていたが、何故・・・?)
諸葛亮:劉皇叔の使いとして参りました、諸葛亮、字は孔明です。
張昭:(こやつめ・・・弁舌をふるって我が君を曹操と戦わせようとして来たな・
・・、そうはいかぬぞ。)
時に、劉備殿が先生を得られた事は、魚が水を得たようだと喜ばれたそうで
すが、実際はどうですかな? 曹操軍の前では荊州も手に入れられず、逃げ
回って江夏に身をひそめる有様。どう贔屓目に見ても、噂ほどではないと言
わざるを得ませぬなあ?
魯粛:(これはいかん・・・降伏派の重臣達が総出で諸葛亮殿をやりこめようとし
ておる・・・! 急ぎ我が君にお知らせせねば・・・!)
ナレ:魯粛が中座した後、会議場では諸葛亮を追い返すべく呉の重臣達が次々と
論戦を仕掛けていった。
一方、孫権の待つ奥の部屋では。
孫権:・・・遅い。魯粛は何をしておるのだ・・・?
魯粛:も、申し上げます・・・!
孫権:魯粛ではないか。・・・? 諸葛亮はいかがした?
魯粛:そ、それが・・・てっきり我が君も会議場におられるものと思い、そこへ案
内したところ、張昭殿をはじめとする重臣達が論戦を・・・!
孫権:な、なにィ!? ぬうう、困ったものだ・・・!
やむをえん、黄蓋! 今すぐに会議場へ行き、重臣どもを鎮め、諸葛亮を
連れて参れ!
黄蓋:ははっ、ただちに!
ナレ:黄蓋は命を受けて走って行った。一方、会議場では諸葛亮が弁舌で張昭達
を散々(さんざん)に論破し、もう誰も口を開かなくなっていた。
諸葛亮:先ほどから皆様方の口を通してこの国の学問の程度を察するに、そのあま
りの低さに驚かざるを得ませんな。この観察は、ご不平ですか?
張昭:う、うぬぬぅ・・・・・、む? 黄蓋殿?
黄蓋:諸侯はいったい、何をしているのじゃ!! 諸葛亮先生は当世第一の英雄!
この賓客に対していたずらに無用な口を開いて愚問難題を並べるなど、呉の
恥ではないか!! 我が君の顔に泥を塗るものである、慎まっしゃい!!
諸葛亮先生、最前からの重臣達の無礼、何とぞお許し願いたい。
我が君におかれてはすでに部屋を清め、お待ちしております。
せっかくの金言玉論、どうか主君孫権にお聞かせくだされ。
ナレ:馬鹿な目を見たのは、むきになって諸葛亮に論戦を仕掛けた降伏派の諸将だ
った。
それからの諸葛亮に対する丁重さは国賓の扱いと言ってよく、黄蓋と魯粛
が先頭に立ち、孫権の待つ部屋へ案内した。
魯粛:我が君、諸葛亮殿をお連れしました。
孫権:うむ。
そちが臥龍先生か、遠路御苦労であった。
まず、こちらへ掛けられよ。
(うむぅ・・・流れるような優雅な所作・・・それにあの眼・・・底が知れ
ぬ。)
【二拍】
茶でも喫しながら、気楽に語ろうではないか。
新野での戦いは先生にとって初陣であったそうだな。
曹操軍は自軍を百万と唱えているが、これは本当であろうか。
諸葛亮:あの戦いは撃退こそしましたが、敗れたと言っても差支えありませぬ。
将の数は五指に足りず、兵も数千ほど。しかも新野の地は守るに適さな
い土地でしたゆえ。
また、百万の兵数も言い過ぎではないでしょう。
孫権:むうう・・・さすがに数は誇張していると思っていたが・・・。
諸葛亮:袁紹を滅ぼした時すでに四、五十万、それに荊州を降伏させた時に
二、三十万・・・これに直属の兵が二十万。
そう考えれば百万は実数と言って良いでしょう。
孫権:では、有能な将や、先生のような人物は曹操軍にはどれほどいますか?
諸葛亮:武勇に優れた将、知略に秀でたる臣・・・私などのような者は桝で量っ
て、車に乗せるほどおりますな。
孫権:・・・では、呉は戦った方が良いか、それとも戦わぬ方が良いだろうか?
諸葛亮:ははははは・・・。
孫権:!・・・ッ実は魯粛が先生の才を高く買っている。できることなら我が呉の
進むべき道をお教え願いたい。
諸葛亮:申し上げたき事はございますが、しかし、御心にかなうかどうか・・・
、かえって迷いの元になるかもしれませぬな。
孫権:構わぬ、申されよ。
諸葛亮:では・・・、偉大なる父兄の志を継ぐのであれば、我が君と共に曹操を
倒すべく立ち上がるべきです。しかし、勝ち目がないと思われるなら、
ただちに降伏すべきでしょう。
孫権:ッ、降伏、だと・・・・!
諸葛亮:配下の諸大将の勧めに従って曹操の軍門に膝を折り、憐れみを乞うので
あれば、いかに彼と言えども無慈悲な事は致しますまい。
孫権:!(こ、こやつ、予を侮っているのか!?)
では・・・・・なぜ、劉備殿は曹操に降伏しないのか?
諸葛亮:我が君劉皇叔は漢王室の一族、その徳は世を覆い、民達も慕っておりま
す。事がならぬ時は天命であるが、曹操の如き逆臣に降伏するものでは
ありませぬ。そのような進言をしたらたちどころに首をはねられます。
孫権:ッッ、諸葛亮ッ!!
黙って聞いておればなんだその物言いは!
人の立場などどうでもよいと言うのか!!
稀代の賢人と呼ばれるから意見を求めたのに、その程度の事なら誰でも言え
るわ!
ッ!!!
ナレ:孫権は、怒りをあらわに荒々しく席を立って奥へ隠れると、周りに当たり
散らしていた。
しばらくすると、魯粛が息せき切って彼の後を追ってきた。
孫権:くっ、何だあの横柄な態度は!!? 予をコケにするにもほどがあるでは
ないか! 他国へ使いに来てあのような真似のできる奴がいるとはな!!
魯粛:【息を切らして】
我が君、ご短慮ですぞ! まだ諸葛亮は胸の内を話しておりませぬ。
曹操を討つ計略は軽々しく言わぬ、なのになんと度量の狭い御方だと申し
ておりました。
孫権:な、なにッ!? 予の度量が狭いと言ったのか・・・!?
だが、なんという無礼な態度か・・・!
魯粛:そのような事にこだわっている場合ではございませぬ!
呉の国が亡ぶか否かの瀬戸際ですぞ!
孫権:むうう・・・・・!
確かに国の興亡に関わる重大時に、腹を立てて席を立ったのは大人げなかっ
た・・・。
魯粛、諸葛亮はどこにおる。
魯粛:はい、あの場にまだそのまま待たせております。
孫権:よし、誰も近づけるな。
ナレ:今や己の首筋へ刃を当てられた、そんな瀬戸際に追い詰められているに等し
かった。
その焦りが自分をして、あのような態度をとらせたのかもしれない。
孫権は長い回廊を歩きながら、己を顧みつつ諸葛亮の元へ戻った。
孫権:先生、先ほどは失礼いたした。
どうか、曹操を討つ為の大いなる計をお聞かせ願いたい。
諸葛亮:いえ、私こそ国王の威厳をおかす無礼、死罪に値します。
孫権:先ほど奥へ退いた後によく考えてみたのだが、曹操が長年の敵として見て
いるのは予と劉備殿であった。
諸葛亮:お気づきになられましたか。
孫権:しかし、我が呉は久しく実戦の体験がない。曹操の精鋭と互角に戦えるで
あろうか。
諸葛亮:兵の数は問題でありません。ようは国の主である呉侯、貴方様に戦う気
があるかどうかにかかっております。
孫権:我が心はすでに決まった。予も呉の孫権だ、なんで曹操などの下に立つも
のか!
諸葛亮:ならば勝利をつかむ機を外してはなりませぬ。曹操軍は百万といえど、
すでに遠征に次ぐ遠征で兵は疲れております。
さらに荊州の水軍を得たとはいえ、それを操るのは北国の兵、水に慣れぬ
者がほとんどです。
孫権:確かにそうだ! 我が呉には他国にない、無敵の水軍がある!
諸葛亮:いま曹操軍の出鼻をくじけば、彼に心ならずも従っている荊州の軍が必ず
内紛を起こすでしょう。これによって曹操が北へ敗走する事、目に見え
るようでございます。その背後を追撃し、我が君主、劉備と力を合わせ
、呉の国の周囲を固めるのです。
孫権:うむ! 予はもう迷わん!
先生はひとまず客舎へ戻って休みたまえ。
魯粛!! 即刻兵馬を整えよ! 曹操軍を粉砕するのだ!! 諸将に開戦を
伝えよ!!
魯粛:ははっ!
【三拍】
諸公、ご主君は開戦を決断された! すぐに出陣の準備を整えられよ!
張昭:な、なんじゃと!?
黄蓋:おおっ、ついに開戦とご決断あそばされたか!!
顧雍:ば、馬鹿な・・・何かの間違いではないのか?
程普:さすがは我が君じゃ! 先代や先々代に劣らぬご気性のお方よ!
張昭:ぬうう、あの諸葛亮めにそそのかされたに違いない!
いかん! すぐに我が君をお諫めせねば・・・!
【三拍】
我が君! 臣張昭、僭越ながらお諫めしたい事がございます!
孫権:っ・・・なんだ、張昭。
張昭:恐れながら、河北に滅んだ袁紹とご自身を比べてみてくださいませ。
あの袁紹ですら、曹操に敗れたではありませぬか。しかもその当時は、
まだ現在のように強大になっていなかったにもかかわらずです。
孫権:むむむ・・・。
顧雍:どうか、お考え直し下さりませ。諸葛亮ごときの弁舌に耳を傾け、
国の行く末を誤られませぬよう。
孫権:いや、諸葛亮の意見だけでは・・・。
張昭:劉備は今、手も足もでない、追い詰められたネズミのようなもの。
我が君を説きふせ、体よく利用しようとしておるのです!
孫権:た、確かにそうかもしれぬが・・・!
顧雍:そんな輩の口車に乗せられては、薪を背負って火の中へ飛び込むようなも
のですぞ!
孫権:ぬっ、ぬぅう・・・・!
張昭:我が君! 火中の栗を拾ってはなりませぬ!
孫権:ッ、か、考えておく! 熟慮する!
ナレ:一時は開戦を決断した孫権だったが、張昭ら降伏派の必死の説得にあって
再び迷いの淵に沈む。だが、母である呉夫人から、亡き兄・孫策が臨終の
際に言い残した、「内政の問題は張昭に尋ね、外患の憂いは周瑜に問え」
の言葉を思い出し、周瑜を急ぎ柴桑城へ呼び寄せる使者を出したのである。
その頃、ハ陽湖の水軍演習場では。
周瑜:よし、本日の演習はこれまでだ!
【二拍】
今日まで天下に並ぶもの無き水軍建設にあたってきたが・・・
だいぶ意にかなうものが出来上がってきたな・・・。
孫権軍部将:周都督! こちらにおわしましたか!
我が君からのご使者にございます!
周瑜:そうか。用向きは大体分かっているが・・・城への招集であろう。
孫権軍部将:ご推察の通り、急ぎ柴桑の城まで参るようにとの事です。
周瑜:わかった。すぐに参上する旨を伝えて使者を返すように。
孫権軍部将:ははっ。それと、魯粛様が官邸までお越しでございます。
周瑜:なに、魯粛が・・・? わかった、急ぎ戻ろう。
【二拍】
いま、曹操が荊州と我が呉の境に布陣し、最後通牒を突き付けている
と聞くが・・・。
魯粛:おお、周都督。突然の来訪をどうかお許し願いたい。
周瑜:久しぶりだな、魯粛。何かあったのかね?
魯粛:先ほど、我が君からの使者があったでしょう。それについてなのですが・
・・。
ナレ:魯粛は城内で諸将の意見が降伏と決戦で真っ二つに割れている事、それに
ついて自分の考えと、諸葛亮が使者として呉に来ている事などを詳しく
語った。
周瑜:なるほどな・・・よし、その諸葛亮をここへ連れてきたまえ。
柴桑へ出発するのは、彼の腹の内を探ってみてからでも遅くはあるまい。
それまで登城を延ばして待っているゆえ。
魯粛:承知しました。では、ただちに・・・。
周瑜:うむ。
【二拍】
・・・魯粛がここまで来るようでは、城では相当もめているな・・・。
ナレ:魯粛は周瑜の言葉に力を得て、柴桑へ引き返していった。
昼を過ぎたあたりから、降伏派と決戦派の諸将が入れ替わり立ち替わり周瑜
の元へやってきた。
初めの客は、降伏派の張昭、張紘、顧雍、歩隲などである。
張昭:都督、突然お騒がせして申し訳ない。
周瑜:これは珍しい。張昭殿はじめ、重臣一同そろって参られるとは何事かな?
顧雍:その前に、先ほど魯粛とすれ違いましたが・・・ここへ来ておったのですか
?
周瑜:うむ、そうだが・・・それがいかがなされた?
張昭:実にけしからん奴じゃ。あやつめ、諸葛亮に踊らされて国を滅ぼし、
民達を苦しめようと画策しておる。
この重大事に、都督はどういう意見を抱いておられるか?
周瑜:皆の意見は曹操とは戦わぬがよいと、そう思われているのだな?
顧雍:いかにも。我らの考えはそこに一致しております。
周瑜:ふむ、同感だな。私も早くからここは戦うべきではなく、曹操に降伏するの
が呉の国の為だと思っていたところだ。
顧雍:おおお、都督も同意見とあれば、もはや事は決まったようなもの!
周瑜:明日、柴桑の城にて我が君に申し述べよう。
今日のところは、ひとまず引きあげられるとよい。
張昭:おうおう、では、お待ちしておりますぞ!
ナレ:四名の降伏派は喜んで帰っていった。しばらくすると、今度は黄蓋をはじめ
とする、呉のそうそうたる武将達が訪ねてきた。
黄蓋:周都督殿はおられるか、黄蓋でござる!
周瑜:おお、老将軍がた、もう日も暮れようという時分にいかがなされたのです?
黄蓋:うむ、国家の一大事について、都督の考えをうかがいたくまかり越した。
周瑜:曹操のことですな。城では降伏と決戦に分かれていると聞きますが?
黄蓋:先先代の孫堅様に従って建国して以来、この命は国に捧げておる。
だが今、我が君は身の安全を図る文官どもの弱音に惑わされ、降伏に傾きつ
つある! それが無念でならぬのじゃ!
周瑜:なるほど。つまり老将軍がたは、この屈辱にはとうてい耐えられぬと。
程普:おう、たとえこの身が引き裂かれようと、断じて曹操に屈するつもりはござ
らぬ!
周瑜:では、他の将軍方も決戦を覚悟なされておるのですな?
程普:うむ!ここにおる黄蓋も韓当も、この首が落ちようと曹操には降伏せぬ覚悟
じゃ!
周瑜:私も同じ考えです。もとよりこの周瑜も、曹操などに降伏するつもりはあり
ませぬ。
程普:おお! 都督も決戦の覚悟であられたか、これは心強い!
周瑜:すべては明日、我が君の御前で決します。老将軍がた、ひとまずここは・・
・。
黄蓋:おう、このような時間に訪問した事を許されよ!
では明日、お待ちしておるぞ!
ナレ:呉の譜代の武官たちが意気揚々と引きあげて行くと、今度は決戦、降伏のい
ずれにも属さず迷っている中立派、諸葛謹、カン沢、朱治、呂範らが訪問し
てきた。
諸葛謹:折り入って、国家の一大事について周都督にお目にかかりたく、まかり越
しました。
周瑜:諸葛謹殿か。貴公の弟である諸葛亮は、主・劉備の使者として呉と
軍事同盟を結んで曹操に対抗しようとやって来ておるようだが。
諸葛謹:・・・それゆえ、わたくしの立場は非常に苦しく、困っております。
孔明の兄だと見られておりますから、心ならずも論争には加わらず、外か
ら眺めているわけです。
周瑜:その立場は分かるが、兄弟の情はわたくし事に過ぎん。
諸葛亮はすでに他国の家臣、貴公は呉の重臣だ。家庭の問題とは違うぞ。
諸葛謹:確かに、そうではありますが・・・。
周瑜:して、貴公の呉の重臣としての意見は、決戦か? それとも降伏にあるのか
?
諸葛謹:・・・・・降伏は安く、戦うは危うい。呉の安泰を考えるのであれば、
戦わぬ方がよいかと・・・。
周瑜:ふむ・・・なるほど。弟の諸葛亮とは反対と言うわけか。なるほど、苦悩し
ているようだ。ともあれこの重大事は、明日我が君の御前にて決する。
今日のところは帰りたまえ。
諸葛謹:・・・承知しました。では明日、柴桑にて・・・。
ナレ:その後も、呉の名だたる武官、文官がやってきては帰っていった。
それは実におびただしい往来だった。
夜が更けても客の来訪は止まなかったが、言っている事は降伏か、決戦か、
その二つを繰り返しているに過ぎなかった。
そこへ、魯粛が諸葛亮を連れて戻ってきたと召使いが耳打ちしていった。
周瑜:【小声】
そうか。ここではまずいから、奥の部屋へ通しておくのだ。
【普通に】
諸将よ! ここでいくら議論しても仕方があるまい。すべては明日、我が
君の御前で決するゆえ、帰って熟睡しておく方が、皆にとってどれほど意義
があるかしれん。私ももう休ませてもらう。どうかお引き取り願いたい。
【二拍】
魯粛:みな、帰ったようですな。
諸葛亮殿は奥へ案内しておきました。
周瑜:おお魯粛、柴桑との往復、ご苦労だったな。
さっそく会おう。
【三拍】
お待たせいたした。
貴殿が諸葛亮殿か。
私が呉の水軍都督を務めている周瑜、字を公謹と申す。
以後、お見知りおき願いたい。
諸葛亮:こちらこそ、周都督の雷名はかねてからうかがっておりました。
劉備軍の軍師を務めております、諸葛亮、字を孔明にございます。
周瑜:さあさあ、まずはくつろいでいただいた上で、語り合うと致そう。
ナレ:周瑜と諸葛亮、二人は互いをどう見たのか。互いの腹をどう察したのか。
かたわらにいる魯粛を含めて余人には知る限りではなく、
まるで十年の知己のようなやり取りが交わされた。
酒宴となり、酒がほどよく回った頃。
魯粛:それで・・・、都督のお考えは決まりましたか?
周瑜:(諸葛亮は確かにとてつもない才能を持つ人物だが、仕えている劉備の力
は弱い。これと組んで曹操相手に勝ち目があるかどうか・・・よし。)
うむ。
・・・国を安全に保つためには、ここはやはり降伏しかあるまい。
魯粛:えッ!? これは思いがけぬお言葉、孫策様、孫堅様が命を掛けて築いた
この呉の国をむざむざ曹操の手に献じるというのですか!?
周瑜:しかし、民を戦火から守り、呉の国を滅亡から救うには仕方ないのではな
いか?
魯粛:それは臆病風に吹かれた者の言い分です!
呉の精鋭が長江を要害として守れば、たとえ曹操と言えどたやすく踏み込め
ますまい!
諸葛亮:・・・ふふふ・・・・・はっははははは・・・!
周瑜:諸葛亮殿、何がそれほどおかしいのですか?
諸葛亮:いや、失礼。魯粛殿があまりに時勢に疎いのでついおかしくなりまして
・・・。
魯粛:なッ、それがしが時勢に疎いと申されるのですか!?
それは聞き捨てなりませぬ。さ、わけをお聞かせ願いたい!
諸葛亮:周瑜殿が降伏しようと言われたのは時勢にかなった道理です。
まあ、よく考えてごらんなさい。曹操の戦上手は、いにしえの孫子にも
勝ります。
かつて彼に対抗できた、あるいは彼よりも力を持っていた袁紹、呂布など
も滅ぼされ、我が主君劉皇叔も今や江夏に落ちのびて、明日をも知れま
せぬ。
魯粛:そんな事は分かっています。諸葛亮殿! あなたはこの呉に降伏を勧めに
来たとでもいうのですか!? 我が君はどうなるというのですか!?
諸葛亮:まぁまぁ、話は最後までお聞きあれ。
ここで戦わず、かといって降伏もせずに曹操軍を引き揚げさせる方法が
ございます。
周瑜:!?・・・どういうことか、諸葛亮殿。
魯粛:そ、そんな策があるというのですか!? お聞かせ願いたい!
諸葛亮:簡単なことです。
一艘の小船と二人の美女を贈り物とすれば、曹操は喜んで北へ引きあ
げて行くでしょう。
魯粛:二人の美女、ですか・・・?
周瑜:・・・それは一体、誰と誰のことか?
諸葛亮:これは、隆中にいた頃に聞いた事です。
曹操は河北を平定した後、銅雀台と言う楼台を築きました。その豪華さ
、華麗さは目を見張るばかりとか。
周瑜:銅雀台の事は存じておるゆえいい、誰を差し出せば良いのかと聞いている
のだ!
【二拍】
諸葛亮:この国に住まう、喬国老の二人の娘です。
姉を大喬、妹を小喬といい、絶世の美女姉妹とか。
曹操はどうしてもこの姉妹を手に入れたいとのことです。
魯粛:な、なに!!? 江東の二喬だと!?
周瑜:ッそんなのは巷の噂にすぎないのではないのか?
なにか、確証でもあると言われるか。
魯粛:(しょ、諸葛亮殿は知ってて言っておるのか? 妹の小喬は周都督
の・・・)
諸葛亮:はい。曹操の子に曹植という人物がおります。父親に似て詩をよく作る
為、文学人の間で知られています。この曹植に作らせた銅雀台の詩に、
我、帝王とならば必ずや江東の二喬を迎え、銅雀台の華とせんと暗に歌
っています。
周瑜:その詩は覚えているのか。よければお聞かせ願いたい。
諸葛亮:文章の流麗なるを愛し、いつとなくそらんじております。
では・・・。
ナレ:諸葛亮は瞳を軽く閉じ、呼吸を整えると静かに見開き、澄んだ声で吟じだ
した。
詩が江東の二喬のくだりまで差し掛かった直後、周瑜は盃を取り落とした
。
周瑜:!! ぬ、ぬうううぅぅぅ・・・!!
諸葛亮:周瑜殿、いかがなされました?
周瑜:・・・許せぬ。
諸葛亮:は・・・今、なんと?
周瑜:許せぬと申したのだ! 曹操め、奴の野望を必ずや叩き潰してくれる!!
諸葛亮:急にどうされたというのですか。むかし、漢王朝の皇帝が愛娘を匈奴の
異民族へ贈り、和平を保っている間に軍を鍛えたという例もございます。
民間の女性二人を差し出すだけで戦火を免れるというのなら、こんな良い
方法もございますまい。
魯粛:諸葛亮殿は、まだご存じないのですか・・・?
諸葛亮:ご存じない・・・とは?
周瑜:姉の大喬は今は亡き孫策様の、妹の小喬は・・・かくいうこの周瑜の妻
なのだ!!
諸葛亮:! なんと・・・既に喬家から嫁いでいたと・・・これは、大変なご無礼
をしました。どうか、お許し願いたい。
周瑜:いや、諸葛亮殿の罪ではない。銅雀台の詩にまで歌っているという事は、
公然とその野望を人にも語っているということだ!
奴ごときに我が妻や孫策様の後家をどうして生贄に捧げられようか!
諸葛亮:しかし、それでは曹操軍は引き上げませぬぞ。
周瑜:ならば戦うまでだ! 断固、決戦あるのみだ!!
魯粛:し、しかし先ほどは降伏とおっしゃっておられましたが・・・。
周瑜:あれほど二派に分かれて争い迷っているのだぞ。
軽々しく本心を打ち明けてはならぬと、皆を試していたのだ!
いやしくも亡き孫策様からの呉の未来を託され、水軍都督として今日までの
修錬研鑽も何のためか!
全てはこういう時の為ではないか!! 断じて曹操などに降伏はせぬ!
魯粛:おお、さすがは都督・・・!
諸葛亮:では、戦うおつもりで・・・?
周瑜:うむ、すでに決心はついていた。諸葛亮殿もどうか、力を貸していただきた
い。
共に曹操を討ち、その野望をくじこうではないか!
諸葛亮:もちろん協力は惜しみませぬ。しかし、孫権殿をはじめ、他の重臣達が
どう言うでしょうか?
周瑜:いいや、明日、柴桑へ参ったら自分から我が君を説得する。
重臣たちなど問題にならん。開戦の号令あるのみだ!
魯粛:それを聞いて安心しました。
では都督、先に柴桑に戻ってお待ちしておりますぞ。
諸葛亮殿、参りましょう。
【三拍】
周瑜:奴の口車に乗った形ではあるが・・・妻の事が無くとも、降伏すれば呉とい
う国は滅亡する。初めから選択肢など無いのだ。
亡き我が義兄・孫策の為にも、必ずやこの戦いは勝たねばならん。
そして諸葛亮・・・奴の才は危険すぎる。いずれ・・・!
ナレ:周瑜は未明にハ陽湖を発つと、早朝に柴桑へ到着し、そのまま登城した。
孫権以下、文武百官は威儀を正して彼を迎えた。
孫権:事態は険悪を極めている。もはや一刻の遅れも許されぬ。
都督、卿の思う所を遠慮なく述べてくれい。
周瑜:その前に、すでに評議は何十回となく開かれたと聞き及びます。
諸将の意見はどうなっておりますか?
孫権:それが、張昭をはじめとする降伏派と程普らの決戦派に分かれ、議論は
並行をたどるばかりで一向に決まらぬ。
ゆえに都督の意見を欲しておるのだ。
周瑜:なるほど・・・、では。
降伏派の方々に一言申す。
なぜ曹操に降参せねばならぬのであろうか? 我が呉は先先代の孫堅様よ
り三世を経た強国、曹操ごとき成り上がりの風雲児とはわけが違う。
貴公らの考え、私にはいささか理解しかねる。
張昭:あいや、曹操の強みは皇帝を擁している事で、その命令はすなわち勅命とな
ります。これに逆らうのは逆賊となりますぞ。この大義名分にはどうしよう
もありますまい。
周瑜:はっはははは! 曹操が皇帝を軽んじておる事など世間周知の事実ではない
か。彼が偽りの大義を唱えるなら、我らは漢王室をないがしろにする逆賊と
して、奴を討ち倒さねばならん!
張昭:し、しかし、曹操軍は百万と号しております。名分はともかく、その兵力と
軍備、この実力差を都督はどうお考えですか。
周瑜:戦は兵の数で決まるものではないし、大きい船が常に小さい船に必ず勝つと
は決まっておらん。問題は兵の士気と作戦だ。
御身はさすが文官の長、軍事には暗いな。
張昭:う、うぐぐぬぬ・・・・・。
周瑜:我が君、曹操の強い事は確かですが、それも陸兵だけの事で、馬上でこそ口
はきけても、水上では我が呉の水軍に対しては為すすべはありますまい。
また、より重要視すべきは国の周囲の状況でなければなりません。
我が国は南方は海、長江が東方に天然の要害をなし、西方もまた、何の憂い
もございませぬ。
それにひきかえ、曹操は北方平定もつい昨日のこと、その残党が隙をうかが
っている事は言うまでもありません。しかも本拠地の許昌を遠く離れての戦
の連続・・・、その危うさは兵法を知る者なら、誰が見ても分かります。
いわば曹操は、この地にみずから首を埋める墓を探しに来たも同然です。
孫権:うむ・・・うむ、確かにそうだ!
周瑜:【張昭達へ向けて】
にもかかわらず、この千載一遇の機会を逃すばかりか、曹操の軍門に屈して
国を捧げると論じるなど、まことに言語道断な臆病沙汰と言うほかない!!
張昭:そ、そんな・・・!
周瑜:我が君、まずは数万の兵と船をおさずけ下さい。
口先ではなく行動で示し、降伏を唱える諸将の臆病風を我が呉より一掃して
ごらんにいれます!
孫権:うむ、よく言った、周瑜!
今、曹操と正面切って戦う事の出来る者は予、ただ一人のみ。
袁紹や劉表などのみじめな前例にならう気はない!
卿は大都督として全軍を率いよ!
魯粛には陸軍を預ける!
誓って曹操を討つのだ!
周瑜:もとより国の為には命を惜しまぬ覚悟です。
しかし、開戦を御決意あそばされた以上、我が君が少しでも迷われますと
士気にさわります。
孫権:うむ、分かっておる。
【剣を抜くSE】
曹操の首を斬る前に、まず我が迷いから断つッッ!!!
ナレ:孫権は立ち上がるや否や、目の前の机を一刀の元に両断して見せた。
そして諸将を見渡すと剣を高々とかかげ、声高らかに宣言した。
孫権:今日以後、二度とこの事は評議せぬ。汝ら諸将、また一兵卒に至るまで、
曹操に降伏するなどと言う者あらば、この机と同じものになると心得よ!!
孫権役以外:【大歓声】
孫権:周瑜、我が剣をさずける。命令にそむく者あらば斬り捨てよ。
必ずや勝利するのだ!!
周瑜:ははっ! 我が君より曹操打倒の任を賜ったからには、軍律を第一とし、
功ある者は賞し、罪ある者は罰します。
諸将は明朝までに出陣の準備を整え、長江のほとりへ参集せよ!
周瑜役以外:おうッ!!
ナレ:断は下った。周瑜、そして君主孫権より開戦は宣言されたのである。
風雲は急を告げ、長江一帯にかつてない規模の戦乱を呼ぶ。
一方、呉へつかわした使者を斬られた曹操は、荊州侵攻の折に降伏した蔡瑁
と張允を呼び出し、出陣を命じるのであった。
END【中編に続く】
おはこんばんちわー、作者のシオンであります。
・・・1年かけて書き上げた各陣営から見た赤壁の戦い、その孫権軍サイドからのうpとなりました。
ついにレッドクリフを台本棚に並べることができるのか・・・(´;ω;`)ウッ…
例によって、間違いなく初心者向けの台本ではないですね、ええ(;´Д`)
もしツイキャスやスカイプ、ディスコードで上演の際は良ければ声をかけていた
だければ聞きに参ります。録画はぜひ残していただければ幸いです。
ではでは!