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三国志演義

三国志演義・赤壁大戦~三江の大殲滅~【孫呉の章・前編】

作者: 霧夜シオン

この台本は故・横山光輝氏、及び吉川英治氏、北方謙三氏の著作した三国志や各種


ゲーム等に、作者の想像を加えた台本となっています。その点を許容できる方は是


非演じてみていただければ幸いです。


なお、人名・地名に漢字がない(UNIコード関連に引っかかって打てない)場合、


遺憾ながらカタカナ表記とさせていただいております。


何卒ご了承ください<m(__)m>


なお、上演の際は漢字チェックをしっかりとお願いします。

また、金銭の絡まない上演方法でお願いします。



ある程度はルビを振っていますが、一度振ったルビは同じ、または他のキャラの


セリフに同じものが登場しても打ってない場合がありますので、注意してくださ


い。

三国志演義・赤壁大戦~三江の大殲滅~【孫呉の章・前編】



作者:霧夜シオン


所要時間:約50分


必要演者数:人(8:0)

       (7:1)

       

※これより少なくても一応可能です。時間計測試読の際は人で兼ね役しました。


はじめに:この台本は故・横山光輝氏、及び、吉川英治氏の著作した三国志や各種

     ゲーム等に、作者の想像を加えた台本となっています。その点を許容で

     きる方は是非演じてみていただければ幸いです。

     なお、人名・地名に漢字がない(UNIコード関連に引っかかって打てな

     い)場合、遺憾ながらカタカナ表記とさせていただいております。何卒

     ご了承ください<m(__)m>


     なお、上演の際は漢字チェックをしっかりとお願いします。

     また、金銭の絡まない上演方法でお願いします。

     

     ある程度はルビを振っていますが、一度振ったルビは同じ、または他の

     キャラのセリフに同じのが登場しても打ってない場合がありますので、

     注意してください。



●登場人物


孫権そんけん・♂:あざな仲謀ちゅうぼう

     兵法家、孫氏の末裔とされる孫堅(そんけんの次男。

     亡き兄、孫策そんさくとは違い、内政に秀でている。碧眼紫髯へきがんしぜんという南方人の身

     体的特徴を持ち、この呉の国始まって以来の国難に立ち向かう。

     二十代後半。


周瑜しゅうゆ・♂:あざな公謹こうきん

     呉の前主、小覇王しょうはおう孫策そんさくと同年代の若き英傑。孫策そんさく臨終りんじゅうの際に軍事を

     託され、水軍都督すいぐんととくとして日夜強力な水軍建設にあたっている。

     非常な美青年で美周郎とあだ名される。

     妻に当時絶世の美女、江東こうとう二喬にきょううたわれた小喬しょうきょうをもつ。

     音楽にも堪能たんのうで当時の歌にも、「曲に誤りあり、周朗(周瑜)かえりみる」

     という歌詞があるほど。


張昭ちょうしょう・♂:あざな子布しふ

     江東こうとう二張にちょうと称される賢人の一人で、孫策そんさくの頃から呉につかえる。

     内政を主に担当しており、孫策そんさく臨終りんじゅうの際に「内事ないじ決せずんばこれ張昭ちょうしょう

     に問え、外事騒乱がいじそうらんの際はこれ周瑜しゅうゆに問え。」と遺言され後事こうじを託される

     ほどの人物。


魯粛ろしゅく・♂:あざな子敬しけい

     本格的に頭角とうかくを現したのは孫権そんけんの代から。周瑜しゅうゆ推挙すいきょされ孫権そんけんつかえる

     。非常に優れた人物で、赤壁せきへきの戦いでは陸上部隊を預けられる。


顧雍こよう・♂:あざな元歎げんたん

     今作では出番がほとんどなく、印象も薄いが、演義でも正史でも非常に

     優れた人物だったと伝わる。

     孫権そんけんからの信頼は厚く、おおやけの場では穏やかな表情と言葉つきであった

     が、正しいと思った事は遠慮なく発言したという。


黄蓋こうがい・♂:あざな公覆こうふく

     程普ていふ韓当かんとうと同じく孫権そんけんの兄や父親の代からつかえる最古参さいこさんの将であり、

     赤壁せきへきの戦い最大の功労者の一人。


程普ていふ・♂:あざな徳謀とくぼう

     韓当かんとう黄蓋こうがいと並んで最古参さいこさんの将。初めは周瑜しゅうゆを認めていなかったが、後

     に和解。副都督ふくととくとして赤壁せきへきの戦いに参戦することとなる。


諸葛謹しょかつきん・♂:あざな子瑜しゆ

      魯粛ろしゅく推挙すいきょされ、孫権そんけんつかえる。演義ではあまり目立った活躍は描か

      れてないが、三国志の作者である陳寿ちんじゅに「呉はその虎を得たり」と評

      されるほどの優秀な人物で、孫権そんけんの信頼も非常にあつかったという。

      諸葛亮しょかつりょうの実の兄。


諸葛亮しょかつりょう・♂:あざな孔明こうめい

      臥龍がりゅううたわれる賢人。劉備りゅうびの軍師として曹操そうそうに対抗するべく孫権そんけん

      同盟、孫権そんけん曹操そうそうを戦わせるに至る。

      後に中国史上屈指の名宰相めいさいしょうとして名を残す事になる。


孫権軍部将・♂♀不問:今作は結構出番多いかも。


ナレーション・♂♀不問:雰囲気を大事に。


※演者数が少ない状態で上演する際は、被らないように兼ね役でお願いします。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


ナレ:曹操そうそうはついに南方攻略の軍をおこし、荊州けいしゅうの国境に実質八十万の軍を百万

   と唱え、大規模な陣を展開する。

   呉の柴桑城さいそうじょうでは、曹操そうそうから突き付けられた最後通牒さいごつうちょうを前に、家臣達が二派には

   分裂、降伏こうふくか決戦かの激論が日夜にちや交わされていた。


張昭:我が君、曹操そうそうみかどをいただき、自身に逆らう者は朝廷の敵として攻撃できる

   大義名分を得ております。また実力も十分、百万の軍勢を国境沿いに展開し

   ております。


顧雍:対して我が軍は十万程度が関の山、これでは城壁に向かって卵をぶつけるよ

   うなもので無謀としか申せませぬ。


張昭:ここは無念ながら一時降伏し、機会を待つほかありますまい。


程普:何を言われる! 我が呉は孫堅そんけん様、孫策そんさく様をはじめ、建国以来まだ他に屈し

   た事は一度もない!


黄蓋:そうじゃ、陸兵なぞ恐れるに足らず、水上ではものの役には立たぬわ!

   我が呉の水軍をもってすれば勝てぬ事などない!


張昭;しかし、曹操そうそうは先ほど荊州けいしゅう降伏こうふくさせ、その水軍をそっくり吸収しておる。

   けっしてこちらが有利とは申されまい。


顧雍:たとえ勝ったところで、呉の軍船兵馬ぐんせんへいばの半分以上を失う事はまぬがれぬ。

   呉の国の繁栄はんえい安泰あんたいを保って他日たじつすには、やはり降伏しかありますまい

   。


張昭:勇気と無謀は違いますぞ、黄蓋こうがい殿。


黄蓋:なんじゃと!?


程普:張昭ちょうしょうッ! お主こそ、軍事にうとい身をもって何を言うか!!


孫権:やめよ!! 双方控そうほうひかえぬか!


黄蓋:は、ははっ・・・。


張昭:も、申し訳ございませぬ・・・。


孫権軍部将:申し上げます。ただいま魯粛ろしゅく様がご帰還きかんなされました。


孫権:おお、荊州けいしゅうの様子を探らせていた魯粛ろしゅくが戻ったか! すぐにこれへ!


ナレ:時間は少しさかのぼる。曹操そうそうより最後通牒さいごつうちょうが届く前、孫権そんけんは呉の重臣の一人

   である魯粛ろしゅくを呼んで、親しく意見を問うていた。


孫権:魯粛ろしゅくよ、いよいよ曹操そうそうが南方への野望をむき出しにしてきた。

   曹操そうそうに付いた方が得策とくさくか、それとも劉備りゅうびと結んで曹操そうそうに対抗したら良いか?

   そちに何か良い策があれば、遠慮なく申し述べよ。


魯粛:はっ。まずはわたくしが荊州けいしゅう劉表りゅうひょう弔問ちょうもんの使者としておもむき、その足で

   ひそかに江夏こうか劉備りゅうびの所へ立ち寄ってきます。そして彼に援助を与える密約を

   結んで参ります。


孫権:なに、そんな事をしたら曹操そうそうは怒って攻め込んで来るのではないか?


魯粛:いえ、違います。劉備りゅうびの勢いが衰えたので、曹操そうそうは呉へほこを転じたのです。

   劉備りゅうびが勢いを取り戻せば、曹操そうそうは背後のうれいができますから、呉へ思い切

   った侵攻しんこうを行う事が出来ないでしょう。


孫権:ふうむ、なるほどな・・・。


魯粛:また曹操そうそう劉備りゅうび双方の軍備の実情を見てくる必要があります。それも我が呉

   にとっては必要不可欠な情報でしょう。


孫権:よし、わかった。さっそく弔問ちょうもんの使者にってくれい。


魯粛:ははっ。


ナレ:こうして魯粛ろしゅく荊州けいしゅうへ向かい、江夏こうか劉備りゅうびの元をひそかに訪れて一人の人物と

   共に戻ると、彼を客舎きゃくしゃに休ませて急ぎ登城とじょうしたのである。

   

魯粛:我が君、ただ今戻りました。


孫権:魯粛ろしゅく荊州けいしゅうへの使者、大儀たいぎであった。して、曹操そうそう劉備りゅうび双方の軍の実情はど

   うであったか?


魯粛:それも含めて、わたくしの意見は後ほど申し上げたく存じます。

   ・・・して、この騒ぎはいったい何事でございますか?


孫権:・・・これを読め。曹操そうそうからの最後通牒さいごつうちょうだ。


魯粛:ははっ、拝見いたします。


ナレ:と共に劉備りゅうびを討つか、それともの百万の軍と無謀に戦って滅亡をつかみ

   取るか、即刻回答あるべし。

   という、懐柔かいじゅうと威圧を織りまぜた内容であった。

   

魯粛:この為の評議ひょうぎでございましたか・・・。


孫権:そうだ。早朝から今に至るまでな・・・。


魯粛:なるほど・・・。

   しかし、我が君におかれましては、だいぶお疲れになられているご様子。

   ここは休息なされてはいかがでしょうか?


孫権:そうだな・・・、よし、しばらく休息する。一旦いったん、部屋へ引きあげる。


   【二拍】


   ・・・魯粛ろしゅく、そちは後で報告すると申したな。ここでなら言えるであろう。

   申してみよ。


魯粛:はっ。諸将の半分以上が降伏こうふくに傾いているようですが、わたくしは反対でご

   ざいます。彼らは自己の保身しか頭にありません。呉の国や我が君のお立場

   など、考えてもいないでしょう。


孫権:な、なにッ、どういうことか!?


魯粛:彼らは降伏こうふくしたとしても、功績を重ねれば州やぐん太守たいしゅぐらいになれる将来

   は約束されます。

   しかし、我が君は違います。反乱を恐れて権力からほど遠い位置に遠ざけら

   れ、せいぜい車一輌くるまいちりょう馬数頭うますうとう従者十人じゅうしゃじゅうにんも許されれば、降伏こうふくした君主の待遇たいぐう

   としては関の山でしょう。


孫権:ぬ、ぬううう・・・・・!!


魯粛:ましてや天下の覇業はぎょうを行わんとする夢は、間違っても二度と持つことはでき

   ますまい。


孫権:そんな事は承服しょうふくできぬ! 兄上や父上が命を掛けて築いたこの国を、むざむ

   ざ曹操そうそうに渡すことなどできるものか!!


魯粛:もちろんでございます。

   なお、曹操そうそう劉備りゅうび双方の軍については、江夏こうかより劉備りゅうび軍の軍師である諸葛亮しょかつりょう

   殿を連れて参りましたゆえ、親しく会っておたずねいただければと存じます。


孫権:おお! 臥龍がりょう先生の名は聞いておる。我が国に仕えている諸葛謹しょかつきんの弟であっ

   たな。

   よし、明日連れてまいれ。それと、今日の評議はこれで解散するむねを伝えて

   おくのだ。


魯粛:ははっ。


ナレ:孫権そんけんはまだ若い。消極的な意見には迷いを抱くが、積極論せっきょくろんには本能的に血が

   たぎった。

   そして次の日。諸葛亮しょかつりょう魯粛ろしゅくの案内で柴桑城さいそうじょうに連れられてきた。

   だが会議場に孫権そんけんの姿はなく、呉の重臣達が一堂にかいしていた。


張昭:これはこれは臥龍がりょう先生。ようこそ呉の国へ参られました。それがしは内政を

   任されております、張昭ちょうしょうあざな子布しふと申す者です。


魯粛:(な・・・我が君もいるものと思っていたが、何故・・・?)


諸葛亮:劉皇叔りゅうこうしゅくの使いとして参りました、諸葛亮しょかつりょうあざな孔明こうめいです。


張昭:(こやつめ・・・弁舌べんぜつをふるって我が君を曹操そうそうと戦わせようとして来たな・

    ・・、そうはいかぬぞ。)

   時に、劉備りゅうび殿が先生を得られた事は、魚が水を得たようだと喜ばれたそうで

   すが、実際はどうですかな? 曹操そうそう軍の前では荊州けいしゅうも手に入れられず、逃げ

   回って江夏こうかに身をひそめる有様ありさま。どう贔屓目ひいきめに見ても、うわさほどではないと言

   わざるを得ませぬなあ?


魯粛:(これはいかん・・・降伏こうふく派の重臣達が総出そうで諸葛亮しょかつりょう殿をやりこめようとし

   ておる・・・! 急ぎ我が君にお知らせせねば・・・!)


ナレ:魯粛ろしゅく中座ちゅうざした後、会議場では諸葛亮しょかつりょうを追い返すべく呉の重臣達が次々と

   論戦を仕掛けていった。

   一方、孫権そんけんの待つ奥の部屋では。


孫権:・・・遅い。魯粛ろしゅくは何をしておるのだ・・・?


魯粛:も、申し上げます・・・!


孫権:魯粛ろしゅくではないか。・・・? 諸葛亮しょかつりょうはいかがした?


魯粛:そ、それが・・・てっきり我が君も会議場におられるものと思い、そこへ案

   内したところ、張昭ちょうしょう殿をはじめとする重臣達が論戦を・・・!


孫権:な、なにィ!? ぬうう、困ったものだ・・・!

   やむをえん、黄蓋こうがい! 今すぐに会議場へ行き、重臣どもをしずめ、諸葛亮しょかつりょう

   連れて参れ!


黄蓋:ははっ、ただちに!


ナレ:黄蓋こうがいめいを受けて走って行った。一方、会議場では諸葛亮しょかつりょう弁舌べんぜつ張昭ちょうしょう

   を散々(さんざん)に論破ろんぱし、もう誰も口を開かなくなっていた。


諸葛亮:先ほどから皆様方の口を通してこの国の学問の程度を察するに、そのあま

    りの低さに驚かざるを得ませんな。この観察は、ご不平ですか?


張昭:う、うぬぬぅ・・・・・、む? 黄蓋こうがい殿?


黄蓋:諸侯しょこうはいったい、何をしているのじゃ!! 諸葛亮しょかつりょう先生は当世とうせい第一の英雄!

   この賓客ひんきゃくに対していたずらに無用な口を開いて愚問難題ぐもんなんだいを並べるなど、呉の

   恥ではないか!! 我が君の顔に泥をるものである、つつしまっしゃい!!


   諸葛亮しょかつりょう先生、最前からの重臣達の無礼ぶれい、何とぞお許し願いたい。

   我が君におかれてはすでに部屋を清め、お待ちしております。

   せっかくの金言玉論きんげんぎょくろん、どうか主君孫権しゅくんそんけんにお聞かせくだされ。


ナレ:馬鹿な目を見たのは、むきになって諸葛亮しょかつりょうに論戦を仕掛けた降伏こうふく派の諸将だ

   った。

   それからの諸葛亮しょかつりょうに対する丁重ていちょうさは国賓こくひんの扱いと言ってよく、黄蓋こうがい魯粛ろしゅく

   が先頭に立ち、孫権そんけんの待つ部屋へ案内した。


魯粛:我が君、諸葛亮しょかつりょう殿をお連れしました。


孫権:うむ。

   そちが臥龍がりょう先生か、遠路御苦労えんろごくろうであった。

   まず、こちらへ掛けられよ。

   (うむぅ・・・流れるような優雅な所作しょさ・・・それにあの眼・・・底が知れ

   ぬ。)


   【二拍】


   茶でもきっしながら、気楽に語ろうではないか。

   新野しんやでの戦いは先生にとって初陣ういじんであったそうだな。

   曹操そうそう軍は自軍を百万と唱えているが、これは本当であろうか。


諸葛亮:あの戦いは撃退げきたいこそしましたが、敗れたと言っても差支さしつかえありませぬ。

    将の数は五指ごしに足りず、兵も数千ほど。しかも新野しんやの地は守るに適さな

    い土地でしたゆえ。

    また、百万の兵数も言い過ぎではないでしょう。


孫権:むうう・・・さすがに数は誇張こちょうしていると思っていたが・・・。


諸葛亮:袁紹えんしょうを滅ぼした時すでに四、五十万、それに荊州けいしゅう降伏こうふくさせた時に

    二、三十万・・・これに直属の兵が二十万。

    そう考えれば百万は実数じっすうと言って良いでしょう。


孫権:では、有能な将や、先生のような人物は曹操そうそう軍にはどれほどいますか?


諸葛亮:武勇に優れた将、知略にひいでたる臣・・・私などのような者はますはか

    て、車に乗せるほどおりますな。


孫権:・・・では、呉は戦った方が良いか、それとも戦わぬ方が良いだろうか?


諸葛亮:ははははは・・・。


孫権:!・・・ッ実は魯粛ろしゅくが先生の才を高く買っている。できることなら我が呉の

   進むべき道をお教え願いたい。


諸葛亮:申し上げたき事はございますが、しかし、御心みこころにかなうかどうか・・・

    、かえって迷いの元になるかもしれませぬな。


孫権:構わぬ、申されよ。


諸葛亮:では・・・、偉大なる父兄のこころざしを継ぐのであれば、我が君と共に曹操そうそう

    倒すべく立ち上がるべきです。しかし、勝ち目がないと思われるなら、

    ただちに降伏こうふくすべきでしょう。


孫権:ッ、降伏こうふく、だと・・・・!


諸葛亮:配下の諸大将しょだいしょうの勧めに従って曹操そうそうの軍門にひざを折り、あわれみをうので

    あれば、いかに彼と言えども無慈悲むじひな事は致しますまい。


孫権:!(こ、こやつ、あなどっているのか!?)

   では・・・・・なぜ、劉備りゅうび殿は曹操そうそう降伏こうふくしないのか?

   


諸葛亮:我がきみ劉皇叔りゅうこうしゅく漢王室かんおうしつの一族、その徳は世をおおい、民達もしたっておりま

    す。事がならぬ時は天命てんめいであるが、曹操そうそうごと逆臣ぎゃくしん降伏こうふくするものでは

    ありませぬ。そのような進言をしたらたちどころに首をはねられます。


孫権:ッッ、諸葛亮しょかつりょうッ!!

   黙って聞いておればなんだその物言いは!

   人の立場などどうでもよいと言うのか!!

   稀代きだいの賢人と呼ばれるから意見を求めたのに、その程度の事なら誰でも言え

   るわ!

   ッ!!!


ナレ:孫権そんけんは、怒りをあらわに荒々しく席を立って奥へ隠れると、周りに当たり

   散らしていた。

   しばらくすると、魯粛ろしゅくが息せき切って彼の後を追ってきた。


孫権:くっ、何だあの横柄おうへいな態度は!!? をコケにするにもほどがあるでは

   ないか! 他国へ使いに来てあのような真似のできる奴がいるとはな!!


魯粛:【息を切らして】

   我が君、ご短慮たんりょですぞ! まだ諸葛亮しょかつりょうは胸の内を話しておりませぬ。

   曹操そうそうつ計略は軽々しく言わぬ、なのになんと度量のせま御方おかただと申し

   ておりました。


孫権:な、なにッ!? の度量がせまいと言ったのか・・・!?

   だが、なんという無礼な態度か・・・!


魯粛:そのような事にこだわっている場合ではございませぬ!

   呉の国がほろぶか否かの瀬戸際せとぎわですぞ!


孫権:むうう・・・・・!

   確かに国の興亡に関わる重大時に、腹を立てて席を立ったのは大人げなかっ

   た・・・。

   魯粛ろしゅく諸葛亮しょかつりょうはどこにおる。 


魯粛:はい、あの場にまだそのまま待たせております。


孫権:よし、誰も近づけるな。


ナレ:今やおのれの首筋へ刃を当てられた、そんな瀬戸際せとぎわに追い詰められているに等し

   かった。

   その焦りが自分をして、あのような態度をとらせたのかもしれない。

   孫権そんけんは長い回廊かいろうを歩きながら、己をかえりみつつ諸葛亮しょかつりょうの元へ戻った。


孫権:先生、先ほどは失礼いたした。

   どうか、曹操そうそうつ為の大いなるはかりごとをお聞かせ願いたい。


諸葛亮:いえ、私こそ国王の威厳をおかす無礼ぶれい、死罪にあたいします。


孫権:先ほど奥へ退しりぞいた後によく考えてみたのだが、曹操そうそうが長年の敵として見て

   いるのは劉備りゅうび殿であった。


諸葛亮:お気づきになられましたか。


孫権:しかし、我が呉は久しく実戦の体験がない。曹操そうそうの精鋭と互角に戦えるで

   あろうか。


諸葛亮:兵の数は問題でありません。ようは国のあるじである呉侯ごこう貴方あなた様に戦う気

    があるかどうかにかかっております。


孫権:我が心はすでに決まった。も呉の孫権そんけんだ、なんで曹操そうそうなどの下に立つも

   のか!


諸葛亮:ならば勝利をつかむはずしてはなりませぬ。曹操そうそう軍は百万といえど、

    すでに遠征に次ぐ遠征で兵は疲れております。

    さらに荊州けいしゅう水軍すいぐんを得たとはいえ、それを操るのは北国ほっこくの兵、水に慣れぬ

    者がほとんどです。


孫権:確かにそうだ! 我が呉には他国にない、無敵の水軍がある!


諸葛亮:いま曹操そうそう軍の出鼻でばなをくじけば、彼に心ならずも従っている荊州けいしゅうの軍が必ず

    内紛ないふんを起こすでしょう。これによって曹操そうそうが北へ敗走する事、目に見え

    るようでございます。その背後を追撃し、我が君主、劉備りゅうびと力を合わせ

    、呉の国の周囲を固めるのです。


孫権:うむ! はもう迷わん!

   先生はひとまず客舎きゃくしゃへ戻って休みたまえ。

   魯粛ろしゅく!! 即刻兵馬そっこくへいばを整えよ! 曹操そうそう軍を粉砕するのだ!! 諸将に開戦を

   伝えよ!!


魯粛:ははっ!


   【三拍】


   諸公しょこう、ご主君は開戦を決断された! すぐに出陣の準備を整えられよ!


張昭:な、なんじゃと!?


黄蓋:おおっ、ついに開戦とご決断あそばされたか!!


顧雍:ば、馬鹿な・・・何かの間違いではないのか?


程普:さすがは我が君じゃ! 先代せんだいや先々せんせんだいに劣らぬご気性きしょうのお方よ!


張昭:ぬうう、あの諸葛亮しょかつりょうめにそそのかされたに違いない!

   いかん! すぐに我が君をおいさめせねば・・・!


   【三拍】


   我が君! 臣張昭しんちょうしょう僭越せんえつながらおいさめしたい事がございます!


孫権:っ・・・なんだ、張昭ちょうしょう


張昭:恐れながら、河北かほくに滅んだ袁紹えんしょうとご自身を比べてみてくださいませ。

   あの袁紹えんしょうですら、曹操そうそうに敗れたではありませぬか。しかもその当時は、

   まだ現在のように強大になっていなかったにもかかわらずです。


孫権:むむむ・・・。


顧雍:どうか、お考え直し下さりませ。諸葛亮しょかつりょうごときの弁舌べんぜつに耳を傾け、

   国のすえを誤られませぬよう。


孫権:いや、諸葛亮しょかつりょうの意見だけでは・・・。


張昭:劉備りゅうびは今、手も足もでない、追い詰められたネズミのようなもの。

   我が君を説きふせ、ていよく利用しようとしておるのです!


孫権:た、確かにそうかもしれぬが・・・!


顧雍:そんなやから口車くちぐるまに乗せられては、たきぎ背負せおって火の中へ飛び込むようなも

   のですぞ!


孫権:ぬっ、ぬぅう・・・・!


張昭:我が君! 火中かちゅうくりを拾ってはなりませぬ!


孫権:ッ、か、考えておく! 熟慮じゅくりょする!


ナレ:一時は開戦を決断した孫権そんけんだったが、張昭ちょうしょう降伏こうふく派の必死の説得にあって

   再び迷いのふちに沈む。だが、母である呉夫人ごふじんから、亡き兄・孫策そんさく臨終りんじゅう

   際に言い残した、「内政の問題は張昭ちょうしょうたずね、外患がいかんうれいは周瑜しゅうゆに問え」

   の言葉を思い出し、周瑜しゅうゆを急ぎ柴桑城さいそうじょうへ呼び寄せる使者を出したのである。

   その頃、ハ陽湖ようこの水軍演習場では。


周瑜:よし、本日の演習はこれまでだ!


   【二拍】


   今日まで天下に並ぶもの無き水軍建設にあたってきたが・・・

   だいぶ意にかなうものが出来上がってきたな・・・。


孫権軍部将:周都督しゅうととく! こちらにおわしましたか!

      我が君からのご使者にございます!


周瑜:そうか。用向きは大体分かっているが・・・城への招集であろう。


孫権軍部将:ご推察の通り、急ぎ柴桑さいそうの城まで参るようにとの事です。


周瑜:わかった。すぐに参上するむねを伝えて使者を返すように。


孫権軍部将:ははっ。それと、魯粛ろしゅく様が官邸かんていまでお越しでございます。


周瑜:なに、魯粛ろしゅくが・・・? わかった、急ぎ戻ろう。


   【二拍】


   いま、曹操そうそう荊州けいしゅうと我が呉の境に布陣し、最後通牒さいごつうちょうを突き付けている

   と聞くが・・・。


魯粛:おお、周都督しゅうととく。突然の来訪をどうかお許し願いたい。


周瑜:久しぶりだな、魯粛ろしゅく。何かあったのかね?


魯粛:先ほど、我が君からの使者があったでしょう。それについてなのですが・

   ・・。


ナレ:魯粛ろしゅくは城内で諸将の意見が降伏こうふくと決戦で真っ二つに割れている事、それに

   ついて自分の考えと、諸葛亮しょかつりょうが使者として呉に来ている事などを詳しく

   語った。


周瑜:なるほどな・・・よし、その諸葛亮しょかつりょうをここへ連れてきたまえ。

   柴桑さいそうへ出発するのは、彼の腹の内を探ってみてからでも遅くはあるまい。

   それまで登城とじょうを延ばして待っているゆえ。


魯粛:承知しました。では、ただちに・・・。


周瑜:うむ。


   【二拍】


   ・・・魯粛ろしゅくがここまで来るようでは、城では相当もめているな・・・。


ナレ:魯粛ろしゅく周瑜しゅうゆの言葉に力を得て、柴桑さいそうへ引き返していった。

   昼を過ぎたあたりから、降伏こうふく派と決戦派の諸将が入れ替わり立ち替わり周瑜しゅうゆ

   の元へやってきた。

   初めの客は、降伏こうふく派の張昭ちょうしょう張紘ちょうこう顧雍こよう歩隲ほしつなどである。


張昭:都督ととく、突然お騒がせして申し訳ない。


周瑜:これは珍しい。張昭ちょうしょう殿はじめ、重臣一同じゅうしんいちどうそろって参られるとは何事かな?


顧雍:その前に、先ほど魯粛ろしゅくとすれ違いましたが・・・ここへ来ておったのですか

   ?


周瑜:うむ、そうだが・・・それがいかがなされた?


張昭:実にけしからん奴じゃ。あやつめ、諸葛亮しょかつりょうに踊らされて国を滅ぼし、

   民達を苦しめようと画策かくさくしておる。

   この重大事に、都督ととくはどういう意見をいだいておられるか?


周瑜:皆の意見は曹操そうそうとは戦わぬがよいと、そう思われているのだな?


顧雍:いかにも。我らの考えはそこに一致しております。


周瑜:ふむ、同感だな。私も早くからここは戦うべきではなく、曹操そうそう降伏こうふくするの

   が呉の国の為だと思っていたところだ。


顧雍:おおお、都督ととくも同意見とあれば、もはや事は決まったようなもの!


周瑜:明日、柴桑さいそうの城にて我が君に申し述べよう。

   今日のところは、ひとまず引きあげられるとよい。


張昭:おうおう、では、お待ちしておりますぞ!


ナレ:四名の降伏こうふく派は喜んで帰っていった。しばらくすると、今度は黄蓋こうがいをはじめ

   とする、呉のそうそうたる武将達が訪ねてきた。


黄蓋:周都督しゅうととく殿はおられるか、黄蓋こうがいでござる!


周瑜:おお、老将軍がた、もう日も暮れようという時分じぶんにいかがなされたのです?


黄蓋:うむ、国家の一大事について、都督ととくの考えをうかがいたくまかり越した。


周瑜:曹操そうそうのことですな。城では降伏こうふくと決戦に分かれていると聞きますが?

   

黄蓋:先先代せんせんだい孫堅そんけん様に従って建国して以来、この命は国にささげておる。

   だが今、我が君は身の安全をはかる文官どもの弱音に惑わされ、降伏こうふくに傾きつ

   つある! それが無念でならぬのじゃ!


周瑜:なるほど。つまり老将軍がたは、この屈辱にはとうてい耐えられぬと。


程普:おう、たとえこの身が引き裂かれようと、断じて曹操そうそうに屈するつもりはござ

   らぬ!


周瑜:では、他の将軍方も決戦を覚悟なされておるのですな?


程普:うむ!ここにおる黄蓋こうがい韓当かんとうも、この首が落ちようと曹操そうそうには降伏こうふくせぬ覚悟

   じゃ!


周瑜:私も同じ考えです。もとよりこの周瑜しゅうゆも、曹操そうそうなどに降伏こうふくするつもりはあり

   ませぬ。


程普:おお! 都督ととくも決戦の覚悟であられたか、これは心強い!


周瑜:すべては明日、我が君の御前ごぜんで決します。老将軍がた、ひとまずここは・・

   ・。


黄蓋:おう、このような時間に訪問した事を許されよ!

   では明日、お待ちしておるぞ!


ナレ:呉の譜代ふだいの武官たちが意気揚々と引きあげて行くと、今度は決戦、降伏こうふくのい

   ずれにも属さず迷っている中立派、諸葛謹しょかつきん、カンたく朱治しゅち呂範りょはんらが訪問し

   てきた。


諸葛謹:折り入って、国家の一大事について周都督しゅうととくにお目にかかりたく、まかり越

    しました。


周瑜:諸葛謹しょかつきん殿か。貴公の弟である諸葛亮しょかつりょうは、あるじ劉備りゅうびの使者として呉と

   軍事同盟ぐんじどうめいを結んで曹操そうそうに対抗しようとやって来ておるようだが。


諸葛謹:・・・それゆえ、わたくしの立場は非常に苦しく、困っております。

    孔明こうめいの兄だと見られておりますから、心ならずも論争には加わらず、外か

    ら眺めているわけです。


周瑜:その立場は分かるが、兄弟のじょうはわたくしごとに過ぎん。

   諸葛亮しょかつりょうはすでに他国の家臣、貴公は呉の重臣だ。家庭の問題とは違うぞ。


諸葛謹:確かに、そうではありますが・・・。


周瑜:して、貴公の呉の重臣としての意見は、決戦か? それとも降伏こうふくにあるのか

   ?


諸葛謹:・・・・・降伏こうふくは安く、戦うは危うい。呉の安泰あんたいを考えるのであれば、

    戦わぬ方がよいかと・・・。


周瑜:ふむ・・・なるほど。弟の諸葛亮しょかつりょうとは反対と言うわけか。なるほど、苦悩し

   ているようだ。ともあれこの重大事は、明日我が君の御前ごぜんにて決する。

   今日のところは帰りたまえ。


諸葛謹:・・・承知しました。では明日、柴桑さいそうにて・・・。


ナレ:その後も、呉の名だたる武官ぶかん文官ぶんかんがやってきては帰っていった。

   それは実におびただしい往来だった。

   夜がけても客の来訪は止まなかったが、言っている事は降伏こうふくか、決戦か、

   その二つを繰り返しているに過ぎなかった。

   そこへ、魯粛ろしゅく諸葛亮しょかつりょうを連れて戻ってきたと召使いが耳打ちしていった。


周瑜:【小声】

   そうか。ここではまずいから、奥の部屋へ通しておくのだ。


   【普通に】

   諸将しょしょうよ! ここでいくら議論しても仕方があるまい。すべては明日、我が

   君の御前ごぜんで決するゆえ、帰って熟睡しておく方が、皆にとってどれほど意義

   があるかしれん。私ももう休ませてもらう。どうかお引き取り願いたい。


   【二拍】


魯粛:みな、帰ったようですな。

   諸葛亮しょかつりょう殿は奥へ案内しておきました。


周瑜:おお魯粛ろしゅく柴桑さいそうとの往復、ご苦労だったな。

   さっそく会おう。


   【三拍】


   お待たせいたした。

   貴殿が諸葛亮しょかつりょう殿か。

   私が呉の水軍都督すいぐんととくを務めている周瑜しゅうゆあざな公謹こうきんと申す。

   以後、お見知りおき願いたい。


諸葛亮:こちらこそ、周都督しゅうととく雷名らいめいはかねてからうかがっておりました。

    劉備りゅうび軍の軍師ぐんしを務めております、諸葛亮しょかつりょうあざな孔明こうめいにございます。


周瑜:さあさあ、まずはくつろいでいただいた上で、語り合うと致そう。


ナレ:周瑜しゅうゆ諸葛亮しょかつりょう、二人は互いをどう見たのか。互いの腹をどう察したのか。

   かたわらにいる魯粛ろしゅくを含めて余人よじんには知る限りではなく、

   まるで十年の知己ちきのようなやり取りが交わされた。

   酒宴となり、酒がほどよく回った頃。


魯粛:それで・・・、都督ととくのお考えは決まりましたか?


周瑜:(諸葛亮しょかつりょうは確かにとてつもない才能を持つ人物だが、つかえている劉備りゅうびの力

   は弱い。これと組んで曹操そうそう相手に勝ち目があるかどうか・・・よし。)


   うむ。

   ・・・国を安全に保つためには、ここはやはり降伏こうふくしかあるまい。


魯粛:えッ!? これは思いがけぬお言葉、孫策そんさく様、孫堅そんけん様が命を掛けて築いた

   この呉の国をむざむざ曹操そうそうの手に献じるというのですか!?


周瑜:しかし、民を戦火から守り、呉の国を滅亡から救うには仕方ないのではな

   いか?


魯粛:それは臆病風おくびょうかぜに吹かれた者の言い分です!

   呉の精鋭が長江ちょうこう要害ようがいとして守れば、たとえ曹操そうそうと言えどたやすく踏み込め

   ますまい!


諸葛亮:・・・ふふふ・・・・・はっははははは・・・!


周瑜:諸葛亮しょかつりょう殿、何がそれほどおかしいのですか?


諸葛亮:いや、失礼。魯粛ろしゅく殿があまりに時勢にうといのでついおかしくなりまして

    ・・・。


魯粛:なッ、それがしが時勢じせいうといと申されるのですか!?

   それは聞き捨てなりませぬ。さ、わけをお聞かせ願いたい!


諸葛亮:周瑜しゅうゆ殿が降伏しようと言われたのは時勢じせいにかなった道理です。

    まあ、よく考えてごらんなさい。曹操そうそう戦上手いくさじょうずは、いにしえの孫子そんしにも

    勝ります。

    かつて彼に対抗できた、あるいは彼よりも力を持っていた袁紹えんしょう呂布りょふなど

    も滅ぼされ、我が主君しゅくん劉皇叔りゅうこうしゅくも今や江夏こうかに落ちのびて、明日をも知れま

    せぬ。


魯粛:そんな事は分かっています。諸葛亮しょかつりょう殿! あなたはこの呉に降伏こうふくを勧めに

   来たとでもいうのですか!? 我が君はどうなるというのですか!?


諸葛亮:まぁまぁ、話は最後までお聞きあれ。

    ここで戦わず、かといって降伏こうふくもせずに曹操そうそう軍を引き揚げさせる方法が

    ございます。


周瑜:!?・・・どういうことか、諸葛亮しょかつりょう殿。


魯粛:そ、そんな策があるというのですか!? お聞かせ願いたい!


諸葛亮:簡単なことです。

    一艘いっそう小船こぶねと二人の美女を贈り物とすれば、曹操そうそうは喜んで北へ引きあ

    げて行くでしょう。


魯粛:二人の美女、ですか・・・?


周瑜:・・・それは一体、誰と誰のことか?


諸葛亮:これは、隆中りゅうちゅうにいた頃に聞いた事です。

    曹操そうそう河北かほくを平定した後、銅雀台どうじゃくだいと言う楼台ろうだいを築きました。その豪華さ

    、華麗さは目を見張るばかりとか。


周瑜:銅雀台どうじゃくだいの事は存じておるゆえいい、誰を差し出せば良いのかと聞いている

   のだ!


   【二拍】


諸葛亮:この国に住まう、喬国老きょうこくろうの二人の娘です。

    姉を大喬だいきょう、妹を小喬しょうきょうといい、絶世ぜっせいの美女姉妹とか。

    曹操そうそうはどうしてもこの姉妹を手に入れたいとのことです。    


魯粛:な、なに!!? 江東こうとう二喬にきょうだと!?


周瑜:ッそんなのはちまたうわさにすぎないのではないのか?

   なにか、確証でもあると言われるか。


魯粛:(しょ、諸葛亮しょかつりょう殿は知ってて言っておるのか? 妹の小喬しょうきょう周都督しゅうととく

   の・・・)


諸葛亮:はい。曹操そうそうの子に曹植そうしょくという人物がおります。父親に似てをよく作る

    為、文学人ぶんがくじんの間で知られています。この曹植そうしょくに作らせた銅雀台どうじゃくだいの詩に、

    我、帝王とならば必ずや江東こうとう二喬にきょうを迎え、銅雀台どうじゃくだいの華とせんと暗に歌

    っています。


周瑜:その詩は覚えているのか。よければお聞かせ願いたい。


諸葛亮:文章の流麗りゅうれいなるを愛し、いつとなくそらんじております。

    では・・・。


ナレ:諸葛亮しょかつりょうは瞳を軽く閉じ、呼吸を整えると静かに見開き、んだ声でぎんじだ

   した。

   江東こうとう二喬にきょうのくだりまで差し掛かった直後、周瑜しゅうゆさかずきを取り落とした

   。


周瑜:!! ぬ、ぬうううぅぅぅ・・・!!


諸葛亮:周瑜しゅうゆ殿、いかがなされました?


周瑜:・・・許せぬ。


諸葛亮:は・・・今、なんと?


周瑜:許せぬと申したのだ! 曹操そうそうめ、奴の野望を必ずや叩きつぶしてくれる!!


諸葛亮:急にどうされたというのですか。むかし、漢王朝かんおうちょうの皇帝が愛娘まなむすめ匈奴きょうど

    異民族へ贈り、和平を保っている間に軍をきたえたという例もございます。

    民間の女性二人を差し出すだけで戦火をまぬがれるというのなら、こんな良い

    方法もございますまい。


魯粛:諸葛亮しょかつりょう殿は、まだご存じないのですか・・・?


諸葛亮:ご存じない・・・とは?


周瑜:姉の大喬だいきょうは今は亡き孫策そんさく様の、妹の小喬しょうきょうは・・・かくいうこの周瑜しゅうゆの妻

   なのだ!!


諸葛亮:! なんと・・・既に喬家きょうけからとついでいたと・・・これは、大変なご無礼

    をしました。どうか、お許し願いたい。


周瑜:いや、諸葛亮しょかつりょう殿の罪ではない。銅雀台どうじゃくだいの詩にまで歌っているという事は、

   公然とその野望を人にも語っているということだ!

   奴ごときに我が妻や孫策そんさく様の後家ごけをどうして生贄いけにえささげられようか!


諸葛亮:しかし、それでは曹操そうそう軍は引き上げませぬぞ。


周瑜:ならば戦うまでだ! 断固だんこ、決戦あるのみだ!!


魯粛:し、しかし先ほどは降伏こうふくとおっしゃっておられましたが・・・。


周瑜:あれほど二派にはに分かれて争い迷っているのだぞ。

   軽々しく本心を打ち明けてはならぬと、皆を試していたのだ!

   いやしくも亡き孫策そんさく様からの呉の未来を託され、水軍都督すいぐんととくとして今日までの

   修錬研鑽しゅうれんけんさんも何のためか!

   全てはこういう時の為ではないか!! 断じて曹操そうそうなどに降伏こうふくはせぬ!


魯粛:おお、さすがは都督ととく・・・!


諸葛亮:では、戦うおつもりで・・・?


周瑜:うむ、すでに決心はついていた。諸葛亮しょかつりょう殿もどうか、力を貸していただきた

   い。

   共に曹操そうそうを討ち、その野望をくじこうではないか!


諸葛亮:もちろん協力は惜しみませぬ。しかし、孫権そんけん殿をはじめ、他の重臣達が

    どう言うでしょうか?


周瑜:いいや、明日、柴桑さいそうへ参ったら自分から我が君を説得する。

   重臣たちなど問題にならん。開戦の号令あるのみだ!


魯粛:それを聞いて安心しました。

   では都督ととく、先に柴桑さいそうに戻ってお待ちしておりますぞ。

   諸葛亮しょかつりょう殿、参りましょう。


   【三拍】


周瑜:奴の口車に乗った形ではあるが・・・妻の事が無くとも、降伏こうふくすれば呉とい

   う国は滅亡する。初めから選択肢など無いのだ。

   亡き我が義兄あに孫策そんさくの為にも、必ずやこの戦いは勝たねばならん。

   そして諸葛亮しょかつりょう・・・奴の才は危険すぎる。いずれ・・・!


ナレ:周瑜しゅうゆは未明にハ陽湖ようこつと、早朝に柴桑さいそうへ到着し、そのまま登城とじょうした。

   孫権そんけん以下、文武百官ぶんぶひゃっかん威儀いぎを正して彼を迎えた。


孫権:事態は険悪を極めている。もはや一刻の遅れも許されぬ。

   都督ととくけいの思う所を遠慮なく述べてくれい。


周瑜:その前に、すでに評議は何十回となく開かれたと聞き及びます。

   諸将の意見はどうなっておりますか?


孫権:それが、張昭ちょうしょうをはじめとする降伏こうふく派と程普ていふらの決戦派に分かれ、議論は

   並行をたどるばかりで一向に決まらぬ。

   ゆえに都督ととくの意見を欲しておるのだ。


周瑜:なるほど・・・、では。

   降伏こうふく派の方々に一言申ひとこともうす。

   なぜ曹操そうそう降参こうさんせねばならぬのであろうか? 我が呉は先先代せんせんだい孫堅そんけん様よ

   り三世さんせいた強国、曹操そうそうごとき成り上がりの風雲児ふううんじとはわけが違う。

   貴公らの考え、私にはいささか理解しかねる。


張昭:あいや、曹操そうそうの強みは皇帝をようしている事で、その命令はすなわち勅命ちょくめいとな

   ります。これに逆らうのは逆賊となりますぞ。この大義名分たいぎめいぶんにはどうしよう

   もありますまい。


周瑜:はっはははは! 曹操そうそうが皇帝を軽んじておる事など世間周知せけんしゅうちの事実ではない

   か。彼が偽りの大義を唱えるなら、我らは漢王室かんおうしつをないがしろにする逆賊と

   して、奴を討ち倒さねばならん!


張昭:し、しかし、曹操そうそう軍は百万とごうしております。名分はともかく、その兵力と

   軍備、この実力差を都督ととくはどうお考えですか。


周瑜:戦は兵の数で決まるものではないし、大きい船が常に小さい船に必ず勝つと

   は決まっておらん。問題は兵の士気と作戦だ。

   御身おんみはさすが文官のおさ、軍事には暗いな。


張昭:う、うぐぐぬぬ・・・・・。


周瑜:我が君、曹操そうそうの強い事は確かですが、それも陸兵だけの事で、馬上でこそ口

   はきけても、水上では我が呉の水軍に対しては為すすべはありますまい。

   また、より重要視すべきは国の周囲の状況でなければなりません。

   我が国は南方は海、長江ちょうこうが東方に天然の要害をなし、西方もまた、何の憂い

   もございませぬ。

   それにひきかえ、曹操そうそう北方平定ほっぽうへいていもつい昨日のこと、その残党がすきをうかが

   っている事は言うまでもありません。しかも本拠地ほんきょち許昌きょしょうを遠く離れての戦

   の連続・・・、その危うさは兵法を知る者なら、誰が見ても分かります。

   いわば曹操そうそうは、この地にみずから首を埋める墓を探しに来たも同然です。


孫権:うむ・・・うむ、確かにそうだ!


周瑜:【張昭達へ向けて】

   にもかかわらず、この千載一遇せんざいいちぐうの機会を逃すばかりか、曹操そうそうの軍門に屈して

   国を捧げると論じるなど、まことに言語道断ごんごどうだん臆病沙汰おくびょうざたと言うほかない!!


張昭:そ、そんな・・・!


周瑜:我が君、まずは数万の兵と船をおさずけ下さい。

   口先ではなく行動で示し、降伏こうふくを唱える諸将の臆病風おくびょうかぜを我が呉より一掃いっそうして

   ごらんにいれます!


孫権:うむ、よく言った、周瑜しゅうゆ

   今、曹操そうそうと正面切って戦う事の出来る者は、ただ一人のみ。

   袁紹えんしょう劉表りゅうひょうなどのみじめな前例にならう気はない!

   けい大都督だいととくとして全軍を率いよ!

   魯粛ろしゅくには陸軍を預ける!

   誓って曹操そうそうを討つのだ!


周瑜:もとより国の為には命を惜しまぬ覚悟です。

   しかし、開戦を御決意あそばされた以上、我が君が少しでも迷われますと

   士気にさわります。


孫権:うむ、分かっておる。


   【剣を抜くSE】


   曹操そうそうの首を斬る前に、まず我が迷いから断つッッ!!!


ナレ:孫権そんけんは立ち上がるや否や、目の前の机を一刀の元に両断して見せた。

   そして諸将を見渡すと剣を高々とかかげ、声高らかに宣言した。


孫権:今日以後、二度とこの事は評議ひょうぎせぬ。汝ら諸将、また一兵卒いっぺいそつに至るまで、

   曹操そうそう降伏こうふくするなどと言う者あらば、この机と同じものになると心得よ!!


孫権役以外:【大歓声】


孫権:周瑜しゅうゆ、我が剣をさずける。命令にそむく者あらば斬り捨てよ。

   必ずや勝利するのだ!!


周瑜:ははっ! 我が君より曹操そうそう打倒だとうの任をたまわったからには、軍律を第一とし、

   功ある者は賞し、罪ある者は罰します。

   諸将は明朝みょうちょうまでに出陣の準備を整え、長江ちょうこうのほとりへ参集さんしゅうせよ!


周瑜役以外:おうッ!!


ナレ:断は下った。周瑜しゅうゆ、そして君主孫権くんしゅそんけんより開戦は宣言されたのである。

   風雲は急を告げ、長江ちょうこう一帯にかつてない規模の戦乱を呼ぶ。

   一方、呉へつかわした使者を斬られた曹操そうそうは、荊州けいしゅう侵攻の折に降伏こうふくした蔡瑁さいぼう

   と張允ちょういんを呼び出し、出陣を命じるのであった。



END【中編に続く】




おはこんばんちわー、作者のシオンであります。

・・・1年かけて書き上げた各陣営から見た赤壁の戦い、その孫権軍サイドからのうpとなりました。

ついにレッドクリフを台本棚に並べることができるのか・・・(´;ω;`)ウッ…

例によって、間違いなく初心者向けの台本ではないですね、ええ(;´Д`)

もしツイキャスやスカイプ、ディスコードで上演の際は良ければ声をかけていた

だければ聞きに参ります。録画はぜひ残していただければ幸いです。

ではでは!


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