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第6話 城壁都市エリダノス

皆さん、お越しいただきありがとうございます。少しでも楽しんでいただければ幸いです。

 薄っすら明かりが差し込む早朝。

 昨晩の喧騒が嘘のように静まり返った酒場に長い黒髪の男がカウンターに突っ伏す様に眠っていた。


「おーい、兄ちゃん起きろー」

「ん……ああ……」


 酒場のマスターに体を揺さぶられ、シリウスは目を覚ます。


「シリウスさん、大丈夫か?」


 マスターからコップに入った水を差し出され、反射でそれを飲む。


「まずい!」


 シリウスは慌てて起き上がると、一目散に二階へと向かう。

 借りた部屋の扉を勢いよく開けると、ベッドで寝たいたはずのサリアはベッドの縁に腰掛けて座っていた。

 シリウスが入ってくるのを確認すると視線を上げる。


「しりうすぅ……」


 シリウスを見たサリアは大声で泣きながらシリウスに抱きついた。

 

「すまなかった……いつ目覚めたんだ?」

「ヒグッ……夜中……騒がしいなって……エグッ、思って……目開けたら……ヒグッ、シリウスがいなくて……ヒグッ……で、でも……すぐも、もどって……くるかもって思って……ヒグッ……ずっと……待ってて……それで……」


 泣いているサリアをしゃがみ抱きしめ、シリウスは頭を撫でる。


「すまない……俺は……」

「いいよ……ゆるすよ……」

「その……すまないサリア」


 サリアはシリウスの顔を両手で掴む。


「違う……ありがとうでしょ……」

「そう……だったな」


 サリアは涙を浮かべたまま、シリウスに笑顔を向ける。

 シリウスはそんなサリアの涙を拭く。


「私もごめん……シリウスのこと信じられなかった」

「かまわん……どんなにサリアが俺を嫌っても……俺はお前さんの味方だ」

「うん。ありがとう」


 二人はしばらく見つめあう。


「よし、そろそろ行くか」

「うん」


 二人は部屋を出て、一階に降りる。


「あら、シリウス。あんたこんな可愛い彼女がいたのね!」


 昨日と違い静かな酒場に響く大声。


「サリアは、仲の良いただの友人だ」

「……だれ?」


 サリアはシリウスの影に隠れる。


「あたしは、この酒場の亭主のただの女房だよ。そんな警戒しないでおくれ。まあ、ちょっと医者の真似事はしてるけどさ……」

「お医者さんなの?」

「違うよ! まあ、昔は野戦病院で看護婦をしててね、だからちょっと人より怪我に詳しいだけさ」

「そうなんだ」


 普通に会話はしているがサリアはシリウスの後ろから出てくる気配はない。


「ってか、もう行くのかい? なんなら今夜も一杯あんたとやろうと思ってのにさ」

「もう勘弁してくれ……酒はそこまで好きじゃないんだ」

「そうかい? その割には結構いけてたけどね」

「ふーん、私を放ってお酒飲んでたんだ……一人で楽しんでたんだ……」

「あ? いや、違うんだサリア。俺は無理やり飲まされただけでな」

「別に……怒ってないし」

 

 そういいながらもサリアはさっさと酒場から出て行こうとしてしまう。


「おい、待て。サリア」

「あらー、あたしなにか言っちゃいけない事、言っちゃったみたいだね……次来た時は、安くし溶くからまた来ておくれ」

「もう、二度と来るか! サリア、待ってくれ!」


 リリアは満足そうにシリウスの背中を見送る。


「中々、面白い男だね」




 シリウスが外に出ると、サリアがものすごい速さでシリウスの後ろに隠れる。


「一体どうし――」


「「おはようございます。兄貴!」」


 シリウスが視線を上げると、ゴルゴアと昨日の酒場の客の何人かがシリウスのことを待ち構えていた。


「なんなんだ、お前たち」

「俺達、気付いたんです。昨日兄貴が俺達のために優しく諭してくれたことを……兄貴みたいな男はは中々いねえって、だから俺達は兄貴の背中を見て、兄貴みたいな男になろうって決めたんです。だから俺達を……」


「「舎弟にして下さい!!!」」


「ま、まて、俺を慕うのは勝手だが、舎弟にする気はないぞ」

「心配しないで下さい。俺達が目指すのは兄貴の背中! 俺達は勝手に兄貴についていきます!」

「いや待て、付いてくる気か?」


「「そのつもりです!!!!」」


「駄目だ、駄目だ。付いてくるつもりなら、力ずくでも止めることになるぞ」


「「構いません! 是非、兄貴の鉄槌を俺達に!!」」


 それからゴルゴア達を説得するために、かなりの時間を有したことは言うまでもない。




「はあ……やっと開放された」


 疲れた顔で、シリウスは馬車に乗り込む。


「騒がしい人達だったね」

「あれを騒がしいと言ってしまったら、大抵の人間は寡黙と変わらない」

「うーん、そうなのかな」

「そういうものさ」


 シリウスは馬車を走らせる。




「できるようになったか?」


 インダスの町を出てから、またしばらく馬車を走らせる。

 その間に魔力操作を覚えようとサリアは練習をしていたが、未だに成果はなかった。


「うまくいかない……シリウスの教え方が悪い」

「そんなことないだろう」


 昨日の宿でサリアは眠る前、シリウスからある程度コツなどを聞いたのだが……


「結局は感覚だ。全身を巡る血液を意識して、それを思いっきり開放する……そうすれば魔力操作の基本動作の一つ、『放風』が出来れば後はそれを留めるだけだ」


 宿屋でした説明と同じ説明をシリウスはするのだが、その『放風』の感覚すらサリアは掴んでいなかった。


「意識……血液の流れ……」


 繰り返し挑戦はしているが、いまいちイメージが沸いてこない。

 下手すれば、一生魔力操作が出来ないかもしれない……そんな悪いイメージばかりが沸いてくる。


「サリア!」

「はい」


 突然力強く名前を呼ばれたサリアは驚く。


「大事なのは感覚、イメージだ。そんな苦しそうな顔をしてやるもんじゃない……ゆっくりと時間をかけて徐々に進めていけばいい」

「でも、早く力が欲しい」

「気持ちは分かるが、焦りは禁物だ。なに、相手は逃げない。ゆっくりと力を蓄え、奴等に復讐をしてやろう」

「分かった、頑張ってゆっくりやる」

「いや、そこは頑張らなくていいぞ」


 そしてしばらくはサリアの小さなうめき声だけが馬車の中から聞こえるだけになった。




「見えてきたな」


 シリウスの声に反応して、馬車から顔を出すサリア。

 しばらく見ないうちに周りの景色は広い田園風景から、いつの間にか木々と山が見えるようになっていた。


「何が見えるの?」


 サリアが聞くとシリウスは、あれだ。と指差す。


「なにあれ……」


 シリウスが指差したのは街道を塞ぐように設置されている巨大な石造りの壁だった。

 壁からは高い塔が四本建っており、その上には数人の人が辺りを見回しているように見える。


「あれは、城壁都市エリダノスだ。この辺から魔物のが出没するようになるから、異常があった際にすぐに周囲に知らせるための場所だ。もちろん都市としての最低限の機能も備えている」

「魔物……?」

「大陸の東側に住んでいるサリアには馴染みないだろうが、大陸の西側にはまだ魔物が多く生息している。大抵はダンジョンから漏れ出した奴ばかりだから、強くはないが……数が多いから厄介だ」

「ダンジョン?」

「そうか……若い奴はダンジョンも馴染みがないか……ダンジョンってのは魔物の住処のことだ。東側のダンジョンはギルドによって封鎖管理がされているから問題ないんだが、西側や北側は未だにギルドの管理が追いつかず、ダンジョンから定期的に魔物があふれ出してくる」

「そうなんだ……」

「まあ、今時そんな事を教える人間もいないからな。多くの人間は安全な大陸の東側や南側に住んでいる。だから魔物についてもダンジョンについても知っててもお伽噺程度のだろう」

「シリウスはなんでも知ってるね」

「まあな、旅をする上で地理だけじゃなく、歴史なんかも必須事項だからな。知識はありすぎて困ることはない、何でも知ることが大事だ」

「私も、もっと勉強する」

「おう、どこかで落ち着けたら、俺が色々と教えてやる」

「楽しみ」


 そんな話をしながら、二人は城壁都市エリダノスへと近づいていく。

 馬車が近づくと、番兵が数名やってくる。


「止まれー! 身分証を見せろ!」

「どうぞ」

「ふむ……奴隷商か、この先にはなにをしに向かう」

「西の国に用事がありまして」


 そういうと、シリウスは荷台に視線を一瞬動かす。


「なるほど……荷台を確認するぞ」


 後ろのカーテンが開かれ、番兵はサリアのことを見る。


「この女は?」

「依頼された品物です」

「なるほど……だが、縛ってもいないし、服も綺麗だ……一体どうしてだ?」

「世の中には傷を嫌うお客様もいらっしゃいます。特に生娘であればあるほどに値段は高くなりますので、我々も生きるために必死なのですよ」

「まあ、そうか……お前ら奴隷商と揉め事を起こすと上からまた何か言われるからな……ちょっと待ってろ」


 そう言うと番兵は一度離れ、また戻ってくる。


「これは滞在証と通行証だ。失くさないようにしろよ」

「ありがとうございます」

「よーし行け……かいもーん!!」


 番兵が合図を送ると、城壁に設置された大きな観音開きの門が開き、馬車は都市の中へと進む。

 中は商業街のような活気はないが、整備された石畳の地面と石造りの建物が規則正しく並び、王都に近い街の造りをしている。

 

「よし、今晩はここに止まるとするぞ」

「うん、ここはお風呂あるといいな」

「そうだな、熱いシャワーぐらいあるといいのだがな」


 こうして二人は街でまた一晩を過ごすことにしたのであった。

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