第3話 スキル
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シリウスは、ディルフィナにやってきたときに馬車を置いた場所まで戻ってきた。
サリアは黙って後ろを付いて歩いてきたが、向かった場所に疑問を覚える。
「奴隷は探さないの?」
「ああ、そのことか……実は最初からこの場所にいないことは分かっていた」
「そうなんだ」
「なんだ、怒らないのか?」
「怒らない。もう、私はシリウスを信じてる」
「いいのか? 俺がサリアを騙して、裏切るかもしれないぞ」
「いいの。私が信じるって決めたから。今度はちゃんと、自分で決めたから後悔しない」
「そうか、まあ、好きにしろ……」
シリウスは自分の馬車に戻ってくると、荷台から衣服を取り出しサリアに渡す。
「お前さんが、元々着ていた服だ。綺麗にしておいたから、これに着替えるといい」
「温かい……まるで干したてみたい」
サリアが受け取った服は、どれもこれも太陽で干したようにふわふわでいい香りがしていた。
「そいつは良かった。それじゃ、着替えてくれ」
サリアは馬車の荷台に入ると受け取った服に着替える。
「よし、後は全身の汚れと髪だな……こっちに来るといい」
シリウスはサリアを近くまで呼ぶと、頭を撫でる。
すると、不思議な光にサリアの髪が包まれ、埃や泥で汚れ、ボロボロだった髪は綺麗な金色を取り戻し、丁寧に結わかれた状態へと変化する。
更に、シリウスが顔を撫でると、そこもまるで水で洗われたように綺麗になった。
「す、すごい……どうやったの?」
「これか? これは俺の能力だ」
「能……力?」
不思議な顔をしているサリアに対して、シリウスはまた頭を撫でると。
「詳しいことは馬車に乗りながら話してやる。とりあえず移動するぞ」
そういうと、シリウスは自分の服を触る。
するとサリアの髪や肌と同じように光に包まれ、今までのパッとしない商人服から、美しい装飾の付いた服へと変わった。
同じ要領で髪にも触れ、だらしなく伸びていただけの黒髪は金色の短い髪に変わる。
「手品みたい」
「手品ではないな……なにせ、種も仕掛けもないのだから」
そう言って馬車に乗り込むシリウスの後をサリアも付いて行く。
サリアが乗ったのを確認すると、シリウスは馬を叩き、馬車は走り出す。
「おい、どこに向かう」
入ってきたと同様に入り口で番兵に止められ、声をかけられる。
「我々はこれから西へと向かいます」
「西か……西だと?」
「はい、我々は西の国から、この商業街を見学に来たのですが、お目当てのものがなかったので、国に帰ろうかと……」
話をしながらシリウスはお金の入った袋を番兵に手渡す。
「これが身分証です」
「ほうほう……問題ないな。行っていいぞ」
番兵は袋の中身をニヤニヤと見ている。
「ありがとうございます」
シリウスは馬車を走らせる。
「これから西へ向かうの?」
「ああ、そうだ。例の少年はまだ西から移動していないはずだからな」
「そうなんだ」
「何かあるか?」
「ううん。ちょっとお腹空いたくらい」
「そうか……これでも食え」
そういうとシリウスは腰にあった袋から、茶色の塊をサリアに差し出す。
「鹿肉を干したものだ、この辺じゃ珍しいものだが、結構うまいぞ」
サリアは鹿肉をジロジロ眺めたり、匂いをかいだりしていたが意を決して噛り付く。
「お、おいしい……」
「気に入ってくれたようで良かった。繊維がしっかりしているから良く噛んで食うんだぞ」
「うっ……うぅ……」
シリウスが注意する前に、サリアは鹿肉を喉に詰まらせたようだった。
「言わんこっちゃない。ほら水を飲め」
サリアは受け取った水筒を勢いよく傾け、水を飲む。
「っは……はぁ……はぁ……死にそうだった」
「慌てて食うからだ。次は気を付けろ」
「うん……ありがとう」
馬車もしばらく進み、サリアのお腹も膨れた頃、何の前触れもなくシリウスが口を開く。
「そういえば、さっきの俺の能力の話をしよう」
「うん、気になる」
「なんだ、気になっていたのか。てっきり興味がないから、聞いてこないのかと思っていたぞ」
「なんとなく聞き辛かった」
「そういう時は、すぐに聞くことだな。後回しにすればするほど聞きづらくなるからな」
「だってシリウスが後で教えるって」
「俺は教えるなって言ってない、後で話してやるって言ったんだ」
「……そんなのずるい、屁理屈」
「おいおい、俺がいつ話すかどうかなんて、俺が決めることだ。そう思わないか?」
シリウスはサリアの返事を聞こうと振り向く。
するとサリアは顔を膨らませて怒っていた。
「屁理屈」
「……今回は俺の負けだ。俺が後で言うと言ったからな、それをお前さんが待っていることも考えてやらなきゃいけなかったな。すまんすまん」
「いいよ。許してあげる」
「……ま、まあ、いいだろう。で、さっきの話なんだが……」
「許してあげたんだから、お礼は?」
「はぁ?」
今まで気取ったような話し方をしていたシリウスも思わず大声を上げる。
「お前さん、思っていたよりも神経が太いようだな……」
「お礼は?」
「はいはい。許していただきありがとうございます……これで文句ないか?」
「うん」
シリウスはこの先の事を考えると少しだけ頭が痛かった。
「さて、やっと本題だ。俺の能力は『着せ替え人形遊び』という。内容は、対象の髪、体、衣服を自分の知識にあるものに変化させるというものだ。さっき見せたのがそれだな。髪を綺麗にしたり、衣服を新品に変えたり、体の汚れを取り除いたり……まあ、戦いにはあまり役に立たないものだがな」
シリウスの説明を受けて、サリアは不思議そうな顔をしていた。
「もしかして、サリアはスキルについて何も知らないのか?」
「スキル……?」
「ああ、スキルだ」
いまいちピンと来ていないサリアに驚きながらもシリウスは更に説明を続ける。
「スキルってのは自分の魔力を消費して使う能力のことだ。サリアは鑑定をしてもらったことはないのか?」
「記憶にない」
「そうか……まあ、今時はそういう育て方をする奴もいるか……」
「その鑑定をすると分かるの?」
「そうだ。鑑定をするとその者にだけ、自分のスキルについて知ることが出来る」
「自分しか分からないんだ」
「むしろ、多くの人間に知られるとスキルを求めて争いになりかねないからな」
「そうなの?」
「ああ、世の中にはレアスキルと呼ばれるものが存在している。例えば、金を生み出す、空が自由に飛べる、人を癒せる、空間を生み出す……他にも色々とあるが、代表的なのはこんなところだな。今のようなスキルを持つ者を奪いあって過去には戦争になったこともある。それぐらいスキルってやつは重要なんだ」
シリウスが必死に説明している中、サリアは興味なさそうに荷台の隙間から見える空を見ていた。
「で、そのスキルなんだが誰でも使えるものでもないんだ」
「そうなの? その人の能力なんのに?」
「スキルを自在に使いこなすには魔力操作を覚える必要がある」
「まりょく……そうさ?」
「そうだ。この世のありとあらゆる場所で使われているエネルギーのことだ。もちろん、俺達のような人間もこのエネルギーを体内に持っている」
「……この話は長くなる?」
「まあ、長いな」
「分かった」
そういうとサリアはしっかりと正座で座りなおすと、シリウスの背中を見つめる。
「いいよ、話して」
「あ、ああ……で、その人間が持つエネルギーを自由自在に扱うために必要なのが魔力操作だ。体内の魔力を自在に出し入れしたり、完全に体内に留めたり、自分の体の自己治癒力を上げたりできる」
「うん」
「ちなみ、これからサリアにもこの魔力操作をやってもらうんだが、いいか?」
「ううん? 私も?」
「強くなるために一番早い方法だ」
「分かったやる」
「良い返事だ。まず、魔力は何もしてなくても常に体から溢れている。この溢れている魔力をコントロールするための行う、四つの基本動作がある。一つ目は自身の体内の魔力を体に纏わせる『地固』。二つ目は自身の体から溢れる魔力を抑える『止水』。三つ目は体内の魔力を大量に放出する『放風』。四つ目は自身の体の魔力を活性化させる『癒火』。これらは太古の昔に存在していた魔法という技の真似をして名付けられた。名前にあまり意味はないと思っていてくれ」
「うん」
「それじゃ、今説明した奴を一つずつ試していってくれ」
「……どうやるの?」
「そんなもの感覚だ、感覚。頭にイメージして、実際に体を動かす。それだけで出来る」
サリアは思った、シリウスは人に教えるのが得意じゃないんだと。
シリウスが振り返るとサリアがどこか可哀想なものを見る目で自分を見ていることに気付く。
「わ、分かった。次の町の宿についたらちゃんと教える。だから、そんな目で俺を見るな」
そして馬車は、農耕の町インダスへと入っていた。
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