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執事セオドアの献身

 オフィーリアの婚約者が決まったと知ったセオドアが第一に思ったことは「排除」だった。


(どう始末しよう?)

 

 まるで屋敷内に出てきた害虫を駆除するように考える。

 実際、セオドアにとってオフィーリアに近付く男達は害虫でしかなかった。

 

 まず始めに、駆除する対象を調べ上げることにした。

 粗を探してみればあっさりと出てきた。

 婚約者となった男はどうやら年上の家庭教師と、一時的ではあるものの関係を持ったことがあると分かった。若いが故の衝動といったところだろうか。

 

 セオドアは薄ら笑いを浮かべた。


(お前のようなクズにお嬢様の婚約者を名乗る資格などない)


 一時の関係で終わっていたらしい家庭教師の女性に接触し、まずは金や新しい仕事先を見せた。

 それから虚言により婚約者の男が貴方への想いを捨てきれていないのだとそそのかせば、女の表情が喜色に浮かぶ。

 あとは手順を教えれば、瞬く間に婚約者は堕ちた。

 婚約はあっけなく解消された。


 計画通りの手順であったセオドアに、一つだけ憂いが生じた。

 愛するオフィーリアの表情が曇ってしまった。

 それはセオドアにとって苦痛であった。

 彼女は見当違いにも「自分には魅力がなかった」と諦めた口調でセオドアに告げる。

 そんなわけがない。

 この世の中で誰一人としてオフィーリアに敵う女性などいない。


「あの男には見る目がなかったのです。お嬢様は誰よりも愛らしく可愛いご令嬢ですよ」


 真実を告げてもオフィーリアは照れた様子を見せるだけ。きっとお世辞を言われたのだと思っているのだろう。

 今はそれでも構わない。

 それで少しでも彼女の気持ちが晴れてくれるのなら、セオドアには充分だった。




 数年後、またしても婚約者が現れた。

 セオドアは二度目の害虫駆除を始めることにした。


 その頃にはセオドアの資産もより潤沢となったため、隣国で別の名前を作り爵位を授かった。

 自国で身分を築き上げても孤児である過去が邪魔をし男爵位止まりであったため、ならば隣国で爵位を得ることにしたのだ。

 隣国で得た名前を使い貿易により隣国の国益をあげた。

 褒章として爵位を与えられるまで計算の範囲だった。

 オフィーリアを迎え入れるために爵位が必要だと教わり、その爵位を手に入れるまでに数年を要した。それでも実現できたことに、彼を見守っていた執事長は何も言えなかった。


 しかし準備をしている間に新たな婚約者が出てきてしまった。

 新たな婚約者を調べてみれば、前回の婚約破棄が痛手だったのか慎重に選ばれた青年らしく陥れる術が見当たらなかった。

 品行方正、真面目でオフィーリアとも年が近い。爵位もあるがセドリアン家よりも立場は低いので従いやすい。婚約者の一族からしてみれば爵位も資産もあるセドリアン家と繋がれることが光栄であり、全くもって叛意するような意思はみられない。


 セオドアは考えた。

 ならば、破綻する契機を男に与えよう。


 婚約者の友人を遠回しに賭博の道へ落とす。

 友人を勝たせ、良い気分にさせながら友人を勧誘してほしいと促す。陥落した友人は婚約者である男を誘う。

 ギャンブルをしてみないか、と。


 真面目な青年ではあったが友人の勧めを断り切れない気弱さがあったため、付き合いという名目で参加した。

 罠に掛かったのだ。

 あとは最高の頂まで昇らせてから底辺まで叩き落すだけだった。

 男は一瞬にして天国と地獄を味わった。

 気が付けば自身の家の資産以上の借金を背負っていたことにはセオドアも驚いた。

 セオドアとてそこまで堕ちると思っていなかったが、どうやら日頃真面目に生きていた分、発散する衝動が大きかったのだろう。

 真面目な男の末路は悲惨だったが、救いの手が出るとも限らないためセオドアは次の策に進む。


「遠方の国まで行けば借金を消す術がある」

「貴方の持つ知識を買いたいという者がいる。家族と別れることにはなるが、家族に送金できる手筈は用意するから付いてきてほしい」


 冷静であれば断りそうな誘いでも、窮地に立たされた男は素性も知れない輩の誘いに乗った。

 婚約者の男はその足で遠方に向かう馬車に乗って逃げるように出て行った。

 

 そして婚約は破棄された。


 目論見通りに進んだというのに、事態はセオドアの思う方向には進まない。

 

 オフィーリアに『呪いの令嬢』という異名がついた。

 オフィーリアは引きこもるようになってしまった。


 セオドアは気付かないふりをした。

 自身の行動によってオフィーリアが引きこもるようになったことを、むしろ喜ぶべきことなんだと受け止めた。

 彼女が外に出歩くことがなくなったから、セオドアは毎日彼女の隣に立てる。

 オフィーリアが別の男に視線を向けることもない。

 オフィーリアの愛らしい唇がセオドアの名前だけを呼んでくれる。


 これ以上ない幸福だ。


 けれど、日が経つにつれオフィーリアの心が沈んでいく。


(一刻も早くオフィーリアお嬢様を妻に迎えたい)


 手筈は整ったのだ。

 資産を得て、隣国ではあるが爵位もある。

 あとは正式にセドリアン家に願い出て承諾を得られれば良い。

 執事長には事情を説明している。勿論、婚約者に対して行ったことは伏せているが。

 ふさぎ込むオフィーリアが唯一心を許す男性がセオドアであることは屋敷の者誰もが知っている。


 あと一歩というところで、第三の転機が訪れた。

 三人目の婚約が破棄された日、オフィーリアが告げた。


「私、修道院に入ろうと思うのです」

「……………………はい?」

 

 セオドアの天使は、いつだってセオドアの予想外な方向に進んでいく。


次話で最終話予定です。

別作品ですが、本日「転生した悪役令嬢は復讐を望まない」の2巻発売日です!

いつも読んでくださる皆様のお陰です。

ありがとうございます!


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