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前編

「ダメっすよ先パイ、酒飲んでるんスから……」

「あぁん? ……ったくしゃ〜ねえなぁ、じゃあタクシー使うかぁ」

「《代行》で良いんじゃないスか?」


 そう言って後輩のタクは電話し始めた。

 新年会の四次会が終わり、時刻はすでに明け方近くになっている。

 生ビール三杯にハイボール五杯、

 カクテル六杯、

 それにポン酒とウィスキーのちゃんぽん。

 それを二ダース、だ。


 俺もタクも、ここまで参加した奴はみんなべろんべろんに酔っ払っていた。自分の車も代わりに運転してくれる《運転代行》サービスなら、商店街にマイカーを置き去りにして行く心配もない。俺は笑った。


「禁酒法の時代に生まれなくてホント良かったなぁ!」

「ホントっスね」

「タク、お前明日の花見も来るんだろ?」

「ヤ、俺明日と明後日早番だから。今日も大分飲んだし、パスします」

「はぁ?? 来ないつもり??」


 酔っ払った勢いで、俺は凄んだ。タクは慌てて顔の前で手を振った。

「スィアセン、カミさんがうるさいんスよ。勘弁してください……」

「っるセェ! 人生と花見にパスはねーんだよ!」

「ホントスィァッセン! 代わりの奴、参加させますから!」

「代わりだぁ??」

「はい」


 タクは真顔で頷いた。コイツは何杯飲んでも酔わない奴だった。

「知らないんスか? 《花見代行》サービスっスよ。最近地方(こっち)でも始まってて。俺の代わりに、酒めっっちゃ強い奴参加させますンで」


 ぐわんぐわんと揺れる脳みそに、聞きなれない単語が飛び込んで来る。瞬間、俺は頷いていた。

「バッキャロー、知ってんよそんくらい。アレだろ? 《花見代行》サービスだろ?」

 俺も使ったことあるし。そう吐き捨てると、タクは長い後ろ髪を掻きあげて苦笑いをしていた。本当は何も知らなかった。だけどなんとなく、知ったかぶりをしてしまった。


「今日はもう、早く帰って寝て下さい。と言っても、もう朝スけど……」

「何言ってんだ。もう寝てるよ!」

 しばらく待っていると、代行車がやってきた。扉が閉まる時、俺はタクに喚いた。

「《就寝代行》の奴が、今俺の代わりに寝てんだよ!」

「ハハッ……」


 ……それから朝まで記憶がない。気が付いたら、俺は玄関先で、スーツ姿のまま倒れ込んでいた。

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