第6話 メタモルフォーゼ②
第6話~
ミノタウロス(?)が再び光に包まれたかと思うと、その光が一気に弾け、その中から今度はルアの姿が現れた。
「はぁ、はぁ……あっ……え?ぼ、ボク……何を…………。」
頻りに自分の体と辺りの状況をキョロキョロと見渡すルア。どうやら自分が何になり、何をしていたのか……まったく覚えていないらしい。
そんな彼に、レトが歩み寄った。
「うふふっ、ボクちゃん……かっこよかったわよ?あ~んなにムキムキなオーガを一瞬で倒しちゃったんだもの~。」
きゃっきゃっとはしゃぎながら、レトがルアに言った。
「ボクが……オーガを倒し……た?」
「そうよ~?ボクちゃんが倒したの。変身してね。」
訳がわからずに混乱するルアに、レトは順を追って話し始めた。
「私がボクちゃんに与えた能力は、あらゆる種類の♂に変身する能力なの。」
ここで初めて……レトが御褒美と称して与えた能力が明らかになった。
「使い方はさっき教えた通り、なりたいものの事をよ~く頭で思い浮かべて、メタモルフォーゼって唱えるだけ……簡単でしょ?」
「なりたいものを思い浮かべて……メタモルフォーゼ……。」
再びなにかを思い浮かべて、ポツリとメタモルフォーゼと口にしたルアだったが、一向に変身する気配がない。
「あ、あれ?」
「残念だけど~、メタモルフォーゼは短時間に何回も使える物じゃないわ。その証拠に……今とっても疲れてるでしょ?」
「うん……。」
図星だった。ルアはミノタウロスから戻った直後から、えもいわれぬ倦怠感に襲われていたのだ。
「時間をおけばまた変身できるようになるわ。お楽しみはまたそのときにとっておきなさい?」
しゃがんで、ポンポン……とレトはルアの頭を撫でながら、まるで母親のように言った。
そんな時…………
「んに~、あいたたた…………。」
オーガに吹き飛ばされて気絶していたクロロが、瓦礫の中からむくりと体を起こした。
「あら、クロロちゃんがお目覚めね。本当はもっとボクちゃんと一緒にいたかったけど~……今回はここでお別れね。」
レトはスッと立ち上がると、ルアに向かって手を振りながら別れを告げた。
「それじゃ、またね~ボクちゃん?また今度ゆ~っくりお話しましょ?うふふふっ♪」
「あっ!!ちょっとまっ…………あぁっ、行っちゃった。」
ルアが呼び止めようとしたが、それよりも先にレトはルアの前から姿を消した。
まだまだ聞きたいことがあったのに……と、ルアがガックリと肩を落としていると……。
「ハッ!?ルアちゃん!?」
クロロがルアの姿を見つけると、彼女はもといたところから一瞬でルアのもとに駆けつけ、彼の体を何度も何度も触り始めた。
「ルアちゃん大丈夫っ!?怪我してない!?」
「あ、う、うん……大丈夫。」
「それなら良かった……。ルアちゃんに何かあったら由良さんに殺されちゃうところだったよ。」
ホッと胸を撫で下ろしたのも束の間、クロロはまたハッとした表情を浮かべて辺りを見渡し始めた。
「ハッ!?そういえばオーガはっ!?」
ルアを自分の背中に隠すようにして、短刀を構えながら辺りを警戒するクロロ。そんな彼女におずおずとルアは言った。
「あ、あの……オーガ、ボク倒しちゃったみたいです……。」
「はにゃっ!?ルアちゃんが!?オーガをっ!?」
「う、うん……ほらあそこ……。」
そう言ってルアが指差した先には大木の根本でぐったりとしているオーガの姿があった。
それを目の当たりにしたクロロはあんぐりと口を開けて固まった。
「…………!!ま、マジ?」
オーガの生死を確認するために、クロロは恐る恐る近付き、短刀でつついてみるが何の反応もない。
「ほ、ホントにルアちゃんがやった?」
クロロの問いかけにルアはコクりと頷く。
そしてクロロは少し考えるような素振りを見せたが、次の瞬間にはケロリとした表情を浮かべた。
「ん~まぁいっか!!ルアちゃんが無事ならそれで全部オッケー!!」
そう割り切った彼女にルアは問いかけた。
「く、クロロさんは大丈夫……なの?オーガにその……吹き飛ばされてたけど……。」
「私?全然大丈夫だよ~?ちょっと頭打って飛んでただけ。心配ご無用~っ!!」
「ならいいんだけど……。」
元気にそう答えた彼女に、ルアはホッと胸を撫で下ろす。
「にししし~♪それよりもルアちゃ~ん。今日はボーナスいっぱい貰えるぞ~?なんせオーガ倒しちゃったからね~。ゴブリンもいっぱい倒したし……。」
にんまりと笑みを浮かべながら、クロロはルアの肩に腕を乗せた。
「さ~っ!!剥ぎ取り剥ぎ取り~っ、オーガの素材はお金になるからね~。ルアちゃんも手伝って?」
「あ、は、はいっ!!」
そして、二人はオーガを解体して町へと戻るのだった。
それではまた明日のこの時間にお会いしましょ~