第77話 消えた笑み
77話~
東雲の言葉に思わずミリアはポカンとした表情を浮かべてしまう。
「えっ……と~、君は頭の上にいる狐さんを使役して戦う……みたいな感じじゃないのかい?てっきりそんな感じだと思っていたんだけど……。」
「たわけ、妾は式神のような下等な存在ではないわ。」
ピョンと東雲はルアの頭から飛び降りると、人の姿へと化けてみせた。
「仮に妾が貴様と手を合わせるならば、貴様が満足に力を発揮できるときのみだ。それ以外では相手にならん。」
「へぇ……言ってくれるじゃないか。」
初めて怒りの表情を見せたミリアは視認できないほどの速度で東雲に襲いかかる。
が…………。
「だから言っているだろう?今の貴様では相手にならん……と。」
「っ!!」
襲いかかってきたミリアをいとも簡単に組み伏せ、彼女の背中の上に座りながら東雲は言った。
「わかったらとっとと、ルアと戦うのだな。今の貴様にはあやつで充分だ。」
「くっ……覚えてるんだね。」
「くくくくく、負け犬の遠吠えにしか聞こえんな。」
ミリアの背中の上で嘲笑うように東雲は笑うと、狐の姿へと戻り、ルアの足元へと歩み寄った。
「し、東雲さん!!ボクじゃ絶対勝てないですよ!!」
そうルアは東雲に訴えかける。
「何を言っている。お前にはメタモルフォーゼという技があるだろうが。あ、妾の体を借りるのは無しだぞ?それでは結局妾が相手をしたようなものだからな。」
「うぅ……じゃあどうすれば…………。」
「お前が今思うなかで最も強かったものを思い浮かべるがいい。それで全て解決だ。」
「そんなこと言われても~っ!!」
「ほれ、あっちはもうやる気満々のようだぞ?由良とロレットを助けたいのならお前が頑張るしかないのだ。」
「う~…………。」
そう話す二人の傍らでミリアがゆっくりと立ち上がる。その表情からは笑みは消えていて、東雲に対する怒りに満ちていた。
「ここまで虚仮にされたのはいつぶりだろうね……流石の私も、怒りを感じたよ。手加減できなかったらゴメンよ?でもちゃんと血は一滴残らず啜ってあげるから……ねぇッ!!」
歪に口角を吊り上げながらミリアはルアへと襲いかかる。
「わ、わっ!?め、め、メタモル……フォーゼッ!!」
「ッ!?」
ミリアの爪がルアへと届く刹那、彼の体から眩い光が放たれ、ミリアの視界を奪う。
「な、なんだい……これは……。」
光に包まれたルアの力がどんどん増幅していくのをミリアは間近で感じていた。
そして、いつの間にか彼女の表情からは怒りの色が消え、再び笑みを浮かべていた。
一方ルアはというと…………。
(東雲さん以外で強かった人…………。)
いままで出会った様々な人達がルアの頭に思い浮かんでくるが、そのなかで彼は一番の脳裏に焼き付いている光景を思い出した。
(そういえば……レトさんはボクたちの見えないところで天使達をたくさん相手にしてた。)
そうふと、思ったその瞬間だった。
「うふふっ♪私を選ぶなんてやっぱりボクちゃんはいいセンスしてるわねぇ~。」
「レトさん!?」
「でも、ごめんなさいね。私の体を貸してあげることはできないわ。その代わり……少しだけ力を分けてあげる。」
「…………!!」
ふわりと何かが包み込むような感覚を感じたかと思うと、ルアを包んでいた光が弾け、中からは漆黒のドレスに身を包んだルアが姿を現した。
「この衣装…………。」
体を覆っている見覚えのある衣装を見たルアがポツリと溢すと、頭の中に声が響いた。
(そっ!!私の勝負服をボクちゃんのサイズに合わせたの。似合ってるわよ?あ、ちゃんと記録には残しておくからね♪)
「レトさん…………。」
いつも通りのテンションのレトに、はぁ……とルアがため息を溢すと、正面に立つミリアが口を開いた。
「あはっ、変身はそれでおしまいかい?一見、服が変わったようにしか見えないけど……随分力も上がったみたいじゃないか。それに……なんだろうね?君からは少し天使と同じ気配を感じるよ。」
ミリアはバッ……と翼を広げ、片手を前に掲げると、彼女の手の先には赤黒い魔法陣が現れた。
「どうやら本気で行っても良さそうだからね、お気に入りを使わせてもらうよ?」
そうミリアが口にすると、赤黒い魔法陣から今にも血が滴ってきそうな程真っ赤な大鎌が現れた。
彼女はそれを片手で手にすると、軽々とくるくると回して構えた。
「じゃあ……行くよ~?」
「っ…………!!」
鎌を構えたミリアにルアも、魔力を手に集める。すると、一瞬にして柔軟な魔力がルアの手を覆う。
流れるように素早く東雲が教えたことを実戦でやってのけたルアを見て東雲はポツリと言った。
「ほぉ…………悪くない。」
そして今……ミリアとルアの戦いの火蓋が切って落とされた。
それではまた明日のこの時間にお会いしましょ~




