第5話 メタモルフォーゼ①
第5話。
突如ルアの目の前に現れたレト。
「うふふ~、大きくなっても相変わらずの可愛さね~。ぎゅ~って抱きしめたくなっちゃうわ。」
久しぶりの再会に表情をほころばせているレトは、ルアのことをぎゅっと抱きしめた。
「れ、レトさん……く、くるし……。」
豊満な胸を顔いっぱいにむぎゅ~っと押し付けられ、ルアは一瞬窒息しかける。未だ小さな手足をパタパタと動かしてレトに主張すると、彼女はそのことに気が付き彼のことを手放した。
「ごめんごめん、ボクちゃんがあんまり可愛かったものだから……ってこんなことしてる場合じゃなかったわね。」
冷静さを取り戻したレトは、今ルアが置かれている現状を整理し始めた。
「えっと~、今ボクちゃんはこの魔物に襲われそうになってて大ピ~ンチって認識でいいかしら?」
(コクッコクッ!!)
レトの言葉にルアは何度もうなずいた。
「う~ん、本当は別のことに使ってもらうつもりだったんだけど~。今は一大事だし仕方がないわね。ボクちゃん、私があげたご褒美のこと覚えてるかしら?」
「ご褒美…………あっ!!」
ご褒美というワードを聞いて、ルアは最初に彼女に出会ったときのことを思い出した。
そう、レトはルアと最初に出会ったときご褒美と言ってルアにある力をを授けていたのだ。
「確か、こっちの世界で楽しく暮らせるようにって……。」
「そうそう!!よく覚えてたわね~偉い偉いっ。」
レトはルアのことを褒めながらぽんぽんと彼の頭を撫でた。
「ホントは来るべき時にボクちゃんに気が付いてほしかったけど、今回は特別に私が教えてあげるわ。」
レトは撫でていた手を止めて、そっとルアの頭に手をかざすと彼に向かって言った。
「いい?まずは……そうねぇ~ミノタウロスのエナちゃんのことをつよ~く頭の中で思い浮かべなさい?」
「え、エナさんのことを?」
「そうよ~。」
ルアはレトに言われた通りに、日ごろから何かとお世話になっているミノタウロスのエネのことを頭で思い浮かべた。
すると、ドクン……と心臓が大きく脈打ち、体の内側から何かが溢れ出すような感覚に襲われた。
「うぅ……な、なに?これ……。」
初めての感覚にルアは驚き戸惑う。そんな彼を安心させるために、レトは優しい口調で語り掛ける。
「大丈夫、そのままそのまま……溢れ出る力に身を任せて?」
ルアは言われた通りに、体の内側から溢れ出る力に身を任せた。すると……溢れ出した力が全身を覆い、暖かく包まれているような心地の良い感覚へと変わった。
「その調子、それじゃあお姉さんに続いて~?せ~のっ……メタモルフォーゼ。」
「め、めたもる……ふぉ~ぜ?…………??」
レトに言われた通りメタモルフォーゼと言葉を口にしたルアだったが、何も起こらないことに一人首をかしげていた。
その時だった……。
「うっ!?うぅ……うあぁぁぁぁぁッ!!!!」
突如としてルアは、体の内側から膨大な力が溢れてくるのを感じた。そしてルアの体をまばゆい光が包んでいく。
その光景を見てレトはニヤリと笑った。
「うふふっ、さぁ誕生よ。」
そしてレトがパチンと指を鳴らすと、今まで止まっていた時が再び動き始めた。それと同時に光に包まれていたルアに向かってオーガの拳が振り下ろされる。
ルアを包み込んでいた光に拳が当たる刹那……。
パシッ…………。
「ガァッ!?」
突如光の中から現れたオーガの手よりもはるかに大きな手によって、オーガの拳はいとも簡単に受け止められてしまう。
拳が受け止められたと思いきや今度は、オーガの顎に巨大な拳がめり込んだ。それによってオーガはゴブリン達が築き上げた簡素な家に派手に突っ込んだ。
「グギギ……!!」
よろよろと立ち上がり、巨大な手が出てきた光をぎろりと睨み付けるオーガ。
その光の中からその手の主が徐々に姿を現した。
オーガよりもはるかに巨大で筋肉質な体躯……そして特徴的な闘牛のような二対の角、その姿はギリシャ神話に登場する牛の怪物……ミノタウロスそのものだった。
「ブオォォォォォッ!!」
ミノタウロス(?)は大地を揺らすような雄たけびを上げると、一直線にオーガへと向かっていく。そして全体重を乗せた突進が、よろめくオーガに直撃した。
すると、オーガはまたしても派手に吹き飛び、大きな大木にぶつかるとぐったりとして動かなくなった。
「オォォォォォッ!!!!」
勝どきを上げるように、ゴブリンの村の中心で再び雄たけびを上げたミノタウロス(?)。大地に轟くような雄たけびを上げ終えると、ミノタウロスの体は光に包まれた。
それではまた明日のこの時間にお会いしましょ~