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第56話 水

56話~

 一升瓶を携えた狸娘は、どかりとルアの前に座り込むと懐から大きな盃を取り出して、そこになみなみと中に入っていた液体を注いだ。


 そして、そこでようやくルアはその液体が何なのか理解する。


 強いアルコールの匂いがそこからぷんぷん漂ってくる。あれは酒だ。


「さて、じゃあまずはおいらから……んっ!!」


 狸娘は、舌舐めずりをすると盃に注がれていた酒を一気に飲み干した。


「ぷはーっ!!最っ高だぜ、ほら次は嬢ちゃんの番だ。」


 酒を一気に飲み干した狸娘は、再び盃になみなみと酒を注ぐと、それをルアに向かって差し出してきた。


「あ、えと…その、ボク………。」


 盃を受け取ったは良いが、ルアは前世でも今世でも未成年である。それを伝えようとしたときだった。


「こちらの娘っこは、まだ酒が飲めぬ歳だ。その勝負妾が受けようぞ。」


 ピョンとルアの頭の上から東雲は飛び降りると、人の姿に化けた。


「おっ!?あんた……狐か?」


「うむそのとおりだ。さてどれ……久方ぶりの狸の酒、頂くとしよう。」


 自分の顔と同じぐらい大きい盃に注がれた酒をルアから奪い取ると、東雲はそれを一気に飲み干した。

 そして、盃と一升瓶に交互に視線を向けると、彼女はふと首をかしげた。


「うん?なんだ?この水のような酒は……。まったく酒精が強くないではないか。」


「ははっ!!バカなことを言うもんじゃねぇ。こいつは巷の葡萄酒とかの何倍も酒精が強いんだぜ?……ってあれ?酒瓶は?」


 狸娘は、そこで自分の手元に酒が入っていた一升瓶がないことに気がついた。そして、不思議そうに辺りををキョロキョロと見渡していると衝撃的な光景を目にすることになった。


「んくっんくっ………………。」


「なっ!?」


 なくなったと思っていた一升瓶は東雲の手元にあり、あろうことか東雲はそれをラッパ飲みしていたのだ。


 ゴクゴクと勢いよく中に入っていた全ての酒を飲み干すと、東雲は大きく息を吐いた。


「……ぷはっ!!うむ、やはり酒精が弱い。これでは()だ。」


「なっ、なっ……あ、あんたマジかよ。」


 顔も紅潮させず、ケロリとした表情で言って退けた東雲に思わず狸娘は、後ずさりをする。


「さて、狸の酒の我慢比べはより多い酒を飲んだ者が勝者で違いないな?」


「っ!!そこまで知ってるのかよ。」


「見たところ他に持ち合わせの酒もないようだ。この勝負……妾の勝ちだな?」


「くっ……お、おぼえてろっ!!」


 捨て台詞を吐くと狸娘は、どこかへと消え去ってしまった。


「あ、あの……東雲さん?」


「ん?なんだ?ルアも飲みたかったか?」


「あ、いや、そういうことじゃなくて……東雲さんが生きてた頃に飲んでた狸さん達のお酒って、もっと強いお酒だったんですか?」


 ふと疑問に思ったことをルアは東雲に問いかけた。


「うむ、これの倍以上酒精は強かったはずだな。まぁ、こうは言っても物差しがわからんだろう?どれルア、少し舌を出せ。」


「し、舌ですか?んぇっ……ほ、ほうれふか?」


「そのままにしておくのだぞ?」


 言われるがままにルアが舌を出すと、東雲はその舌の上に一升瓶の底に僅かに残っていた酒を一滴垂らした。


「あうっ!?」


 突然舌にポタリと何かが滴る感触を感じたルアは、急いで自分の舌を引っ込めた。


 すると、口の中に強烈なアルコールの匂いが充満し始めた。


「流石にまだお前には早かったか?」


「ケホッケホッ!!東雲さんこんなのを全部飲んじゃったんですか!?」


「くくくくく、大狸が作る酒はこれよりも更に強いぞ?」


 くつくつと笑いながら東雲は言う。


(このお酒でも結構アルコール度数高いのに……大狸さんの作るやつはもっと強いの!?……一滴飲んだだけで酔っぱらっちゃいそう。)


「ま、今日は大狸のやつと酒でも交わしながら天使どもを倒すために協力を仰ぐとするか。」


「そ、それってボクも巻き込まれたりしませんよね!?」


「さぁ~どうだかな?大狸がお前を気に入ったら……無理矢理飲ませられるやもしれんぞ?」


「そんなの飲まされたらボクアルコール中毒で死んじゃいますよ!!」


「くくくくく、大丈夫だ。死んで間もないならば妾が生き返らせてやるからな」


「ええぇぇぇっ!?」


 二人がそんな会話をしていると、二人の近くに魔法陣が現れた。


「お、どうやら由良のやつもようやく戻ってきたみたいだな。さっ、大狸の酒を求めて山を登るのだルア。」


(なんか、趣旨が違くなってきてる気がするんだけどなぁ。)


 そして由良が合流し、一行は大霊山をゆっくりと登り始めるのだった。



それではまた明日のこの時間にお会いしましょ~

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