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第55話 大霊山の狸さん

55話~

 東雲の肉球を存分に味わいつくし、満足そうに表情を綻ばせるルア。その表情はどこかツヤツヤとしているようにも見える。

 その横では狐の姿の東雲が仰向けになり、ピクピクと体を小刻みに震わせていた。


「満っ……足っ!!えへへ、東雲さんありがとうございました。」


「る、ルア……お前は少し…加減というものを知るべきっ……だっ…………。」


 ぜ~ぜ~と肩で息をしながらルアに苦言を呈すと、東雲は生まれたての小鹿のように足をプルプルとさせながら立ち上がった。


「うくくっ……さ、さぁ……大霊山へ向かうぞ。る、ルア!!早く妾を頭に乗せぬか!!」


 一人では歩けそうにない東雲を、ルアは頭に乗せる。ようやく安心して居座れる場所に腰を下ろした東雲は、ホッと一息……小さく口からため息を漏らした。


「うむ。……さて由良、大霊山の麓に移動魔法を繋げ。間違っても山頂には繋ぐでないぞ?」


「お任せくだされ、移動魔法展開っ!!」


 そして由良の言葉の後に、彼女達の足元に魔法陣が描かれるとそこから溢れでた光が彼女達のことを包み込む。

 その次の瞬間には、ロレットの城の厨房には誰もいなくなっていた。













 視界が光に包まれた……次の瞬間、四人は鬱蒼とした森の中へと場所を移していた。


 東雲はルアの頭の上でクンクンと鼻を鳴らすと、懐かしむように言った。


「ふん、この辺りは相変わらず酒と狸の匂いが充満しているな。」


「くんくん……確かにちょっとお酒臭い……かも?」


 東雲の言葉を確かめるようにルアも匂いを嗅いでみると、焼酎のような酒の匂いが確かに辺りに漂っている。


「狸どもは年中毎日を酒を浴びて過ごす。故にこの辺りには、やつらが好む芋焼酎の匂いがこびりついておるのだ。」


「わしも噂には聞き及んでおりましたが……まさかこの麓まで酒の匂いがするとは……。」


「うっ……我は匂いを嗅いでいるだけで酔っ払ってしまいそうだ。」


「おやおや?コレットの孫娘、お前も酒は苦手か?」


 鼻をつまんで不快そうに顔を歪めているロレットに、くつくつと笑いながら東雲は問いかけた。


「我は根っからの下戸だ。どうにも酒は体が受け付けぬ。」


「くくくくく、どうやらコレットの悪い部分も子孫に引き継がれておるらしいな。あいつも、下戸だったからな。」


 どうやらロレットの酒嫌いは、先祖であるコレットから遺伝したもののようだ。


「まぁ、不快なら鼻を摘まんでおくのだな。この先……もっと酒臭くなるぞ?」


「うぅ……不覚だ。」


 ガックリと肩を落とすロレットに、心配そうにルアが近づいた。


「ロレットさん、無理は駄目ですよ?無理そうだったらお城に帰って休んでいた方が……。」


「いいや、心配には及ばない。これを期に我の下戸を治してみせる。」


 キリッと表情を引き締めると、ロレットは一人先に歩き出してしまった。


 しかし、数歩歩いたところでふと立ち止まると、近くにあった木にもたれ掛かった。


「うぷっ……ぐぐ、まらまら……わ、我はこんにゃ……ところでぇっ!!」


 どうやら既に酒の匂いに当てられて、ひどく酔っぱらってしまったロレット。顔は真っ赤で、呂律も回っていない。

 誰がどう見ても酔っぱらっているのは明らかだった。


 そんな彼女を見て東雲は、腹を押さえながら笑っていた。


「ぷくくくく……本当に酒の匂いに当てられて酔っぱらっておるわ!!コレットもここまで下戸では…………あいや、どうだったか?」


「そ、そんなことよりも!!ロレットさんあの木にもたれ掛かって寝ちゃってますよ!?」


「どうやらここばかりはロレットにはキツかったらしいの。仕方がない、移動魔法で城まで運んでくるのじゃ。」


 やれやれと、少し呆れながらも由良はロレットに肩を貸すと、移動魔法を唱えて城へと戻っていった。


「だ、大丈夫かなぁ……。」


「問題なかろう。実際に狸どもの酒を飲んだわけでもない。仮にあやつが狸の酒を飲めば……あれどころでは済まなかっただろうがな。」


「東雲さんは、その……狸さんのお酒飲めるんですか?」


「無論だ。妾はこの山の主の大狸と酒を交わしていた仲だぞ?狸どもの酒なら何合飲もうが潰れぬよ。」


 ルアの頭の上で誇らしげに東雲は言った。


 二人がそんな会話をしていると……突然木々の間から聞き覚えのない声が聞こえ始めた。


「へぇ~?面白そうなこと話してんじゃん?おいら達自慢の酒を何杯飲んでも潰れないって?」


「ふえっ!?な、なにっ!?」


 ルアは当たりをキョロキョロと見渡すが、人の姿は見えない。しかし、東雲はある方向をじっと見つめていた。


 そしてルアの前に一枚の木の葉がヒラヒラと舞い降りてくると、それが突然人の姿へと形を変えた。


 正確に言えばそれは人間……ではなく、所々狸のような特徴を持った獣人だった。


 大きな尻尾を揺らしながら狸娘はルアに近付くと、彼の顔の前にどこから取り出したのか一升瓶をずいっと近づけた。

 その一升瓶の中にはちゃぷちゃぷと何か透明な液体が入っている。


「んなら、おいらとどれだけ飲めるのか……勝負しようぜ?お嬢ちゃん?」


 にひひひひ、と不気味に笑いながら狸娘はルアにそんな勝負を持ちかけてきたのだった。

それではまた明日のこの時間にお会いしましょ~

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