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第2話 ミノタウロスのエナ

空腹の赤ちゃんにはもちろん……アレですよね?

 由良とクロロに連れて行かれた先には、とんでもなく大きな家がそびえたっていた。家の入り口でさえ彼女たちの身長の三倍近くある。


 つまり、ここに住んでいる住人は彼女たちよりもはるかに大きな体躯をしているであろうことが家の外観でわかる。


 そんな巨大な家の玄関の扉を、由良は強く叩いた。


「お~いエナ!!おるのじゃろ~?わしじゃ由良じゃ開けてたも~。」


 ドンドン……と由良が何度も強く扉をたたくと、ゆっくりとその大きな扉が開いた。


「はぁ~い……ってあれぇ?由良さんの声が聞こえたんだけど~……。」


 中から出てきた巨大な女性は辺りをきょろきょろと見渡して首を傾げた。どうやら足元にいる由良達に気が付いていないらしい。


「エナ!!ここじゃ~っ!!」


「あっ!!由良さ~ん、それにクロロちゃんも~そんなところにいたんですねぇ~。気が付きませんでした。」


 エナという女性は足元にいた由良達に気が付くと、しゃがんで目線を合わせて話し始めた。


「それで今日は何の用ですかぁ~?」


「うむ、お主に頼みがあって来たのじゃ。こやつのことでの。」


 由良は一つ頷くと、縷亜のことを両手で高く抱きかかえてエナに見せた。


「わっ!!赤ちゃん!!私久しぶりに見ましたよぉ~。」


「しかも人間のややこじゃ。こやつに飲ませる乳を分けてもらいたいのじゃ。」


「なるほど~、そういうことでしたか~。全然いいですよぉ~ちょっと待っててくださいねぇ~。」


 バタバタとエナは家の中へと入っていく。そして数分後……彼女は大きな瓶いっぱいに入ったミルクを持って戻ってきた。


「はいっ!!このぐらいあればしばらく大丈夫です?」


「うむ、問題ないじゃろう。これがなくなったらまた来るのじゃ。」


「えへへ、いつでもどうぞ~。私も久しぶりにお乳を搾ったからスッキリしました。」


 そんな会話を彼女たちがしていると、由良がきょろきょろと周りを見渡し、彼女たち以外に人がいないことを確認してからエナに耳打ちした。


「それでの、このややこのことでお主らに知っていて欲しいことがあるのじゃが……ちと他の者には聞かれたくない話での。」


「あ、じゃあそれなら中で……。」


「うむ、邪魔するのじゃ。」


「お邪魔しま~す!!」


 エナの家の中は、外観同様すべてが巨大だったが、ちゃんと来客用に人並みのサイズの椅子やテーブルも用意されていた。その椅子に由良とクロロは腰かけた。


 腰かけた由良達にエナはお茶を差し出すと、エナは二人に向かい合うようにして座った。


「それで由良さん、その子について知ってて欲しいことって……。」


「うむ。」


 由良は、エナに差し出されたお茶を一口口にしてから話し始めた。


「このややこなんじゃが……どうやら人間のオスらしいのじゃ。」


「「人間のオスッ!?」」


「馬鹿っ!!大きな声を出すでない!!」


 思わず驚いて大きな声を上げたエナとクロロに、口に人差し指を当てながら静かにするように注意する由良。


「あ、す、すみません……。ついつい驚いちゃって。」


「私も驚きましたよぉ~。由良さん、それホントなんですかぁ?」


「うむ、まことの話じゃ。ほれ、触ってみるかの?」


(やめてぇぇぇぇっ!?!?)


 どこを触られるのか本能的にわかってしまった縷亜は、体をよじったり手足をバタバタと動かしたりして暴れるが、彼女たちの力には敵わない。


 そして為されるがまま、エナとクロロに大事な部分を触られてしまった。


(うぅ、もうお嫁にいけない……。)


 内心でボロボロと泣き崩れる縷亜とは裏腹に、エナとクロロの二人は喜びに満ちた表情を浮かべていた。


「ほ、ホントに()()()()。」


「ちっちゃいけど……確かにありますねぇ。数百年ぶりの感触ですぅ~!!」


「じゃろ?」


「で、でも……どうしてこの子が男の子ってこと他の人には言わないんです?この子なら今のこの国を救えるんじゃ……。」


 クロロの疑問に由良は首を横に振った。


「いや、ダメじゃ。今はまだ危険すぎる。()使()()()の使いがどこに身を潜めておるかわからんからのぉ。」


「う、た、確かに……。今はまだこの子を失うわけにはいきませんもんね。」


「うむ。じゃからこのことはわしらだけの秘密じゃ。女王様にも知らせてはならん。」


「わかりましたぁ~。」


 由良の言葉にエナとクロロは納得し頷いた。そんなときだった……


 きゅるるるるぅ~~~。


 と、そんな可愛らしい音が部屋の中に響き渡った。


(あっ!?)


 その音は生理反応によって引き起こされた。つまり……縷亜のお腹が空腹を迎えたという合図だった。


「お?どうやらお腹が空いたようじゃな。」


「ということは、早速私のお乳の出番ですねぇ~。」


「うむ……それと、哺乳瓶が必要じゃな。インベントリにあったかの~……。」


 由良はごそごそと腰に提げていたバッグの中に手を入れて、哺乳瓶を探し始めた。


「お?これかの……ほっ!!」


 そして由良がバッグから手を引き抜くと、その手には地球で使われている哺乳瓶と同じ形のものが握られていた。


「ふぇ~……由良さん良く哺乳瓶なんて持ってましたね?」


「まぁの、これも年の功というやつじゃな。」


 慣れた手つきで哺乳瓶にエナの乳を入れると、哺乳瓶の先っぽを縷亜に向けて差し出した。


「ほれ、遠慮せず飲むのじゃ~。」


(うっ……恥ずかしいのに、口が勝手に開いちゃうよ……。)


 空腹に体が逆らえず、勝手に口を開き、哺乳瓶を招き入れてしまう縷亜。そんな彼の様子に気を良くした由良は満足そうな笑みを浮かべた。


「うむうむ、素直でよい子じゃの~たくさん飲んで早く大きくなるのじゃぞ~。」


「ふわぁ~……ごくごく飲んでる~かわい~っ!!」


「まだまだたっくさんありますからねぇ~♪えへへ♪」


 由良達に可愛がられながら縷亜は、哺乳瓶に入っているエナの乳をごくごくと飲む。


(甘い……すごい美味しいかも。)


 そして、飲み干して満腹になった縷亜は由良の腕の中で眠りにつくのだった。

それではまた明日のこの時間にお会いしましょ~

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