第1話 第二の人生は新たな出会いとともに
第一章開幕です。
「おや?こんなところにややこがおるではないか?」
次に縷亜の意識がはっきりとしてきたとき、先ほどのレラという女性とはまた違った女性の声が聞こえてきた。そして、自分の体が全く動かせなくなっていることに気が付く。
(あ、あれ!?体が動かない……それに声も出せない!!)
自分の今置かれている現状が掴めずにいると、声の主がこっちに歩み寄ってくる足音が聞こえた。近くまで歩み寄ってくる音が聞こえると、縷亜の頭上からひょっこりと美しい金髪の女性が顔を出した。
信じられないことにその女性の綺麗な金色の髪の上……正確には頭のてっぺんには、まるで狐のような可愛い耳が生えている。
その耳はピコピコと自然に、そして滑らかに動いていることからコスプレなどの作り物ではないことは明らかだ。
(もしかしてこの人って……獣人!?)
異世界物の小説や漫画などによく出てくる動物の耳や尻尾が生えた種族……獣人。今、縷亜のことを覗き込んでいる女性は、空想上でしかなかった獣人という地球にはいなかった種族によく似ていた。
それに縷亜は大興奮しているのだが……。
「おぅおぅ、元気なややこじゃ。それに、愛い顔をしておるのぉ~。…………ん?じゃが、この匂い……まさかっ!?」
突然縷亜の体の匂いを嗅ぎ始めた彼女は、ハッ……とした表情を浮かべると、おもむろに縷亜の股間部分を細く白い手で弄り始めた。
(うわぁぁぁぁぁぁぁッ!?いきなりどこ触ってるのこの人~~~っ!!)
拒絶しようにも、手足が思うように動かない。ジタバタと体が動く限り抵抗の意志を見せるが、しかし……彼女は全く縷亜の抵抗を意に介していない。
そして感触を確かめるように何度も何度も縷亜の股間を弄った彼女は、軽々と縷亜のことを天高く抱き上げ叫んだ。
「お、おぉぉ……オスじゃぁぁぁぁッ!!」
(お、オス?な、何言ってるのこの人?……ってあの水面に映ってる赤ちゃんってまさか……。)
抱き上げられた時に、女性の後ろにある水たまりに抱きかかえられている赤ん坊の姿が目に入った。
(ボクッ!?)
縷亜は水面に映る自分の姿に驚きを隠せずにいた。
「よもや絶滅したはずの人間のオスが、このような場所に捨てられていようとは……可哀想にのぉ~。よしよし、わしが世話をしてやるからの。」
狐の女性は縷亜の事を抱き抱えてあやしながら道を歩きだした。
(ど、どこに連れていかれちゃうの?)
不安に駈られながら、成すすべなく抱き抱えられていると……もといた森を抜け、整備された街道に連れてこられた。
「もう少しで着くからの~。」
それから少し歩くと……向こうの方に町が見えてきた。
「あそこがわしとお前が住む町、ネオノアじゃぞ~。」
(ネオノア?いったいどんな町なんだろう……この獣人の人みたいな人がたくさんいるのかな?)
そして街についた彼を待ち受けていたのは、彼の中では予想通り……いや、彼の想像をはるかに凌駕する光景だった。
町に入った途端に彼の目に入ってきたのは、様々な特徴を持った人々の姿だった。
今自分のことを抱えている狐の獣人の女性のように、耳や尻尾などが動物的特徴を持った女性たちや、はたまた悪魔に生えているような羽を背中から生やした女性たち等々。多種多様な人たちが入り乱れていた。
漫画やアニメ、小説などの中でしか描かれることがなかったこの光景に縷亜は興奮を隠せずにいる。そんなとき、彼を抱えている女性に誰かが話しかけてきた。
「あっ!!由良さん!!」
声のしたほうに視線を向けると、そこには黒い毛並みの猫の獣人の女性がいた。
「おぉ、クロロではないか。もう魔物退治から戻ってきたのかの~?」
「はいっ!!由良さんは……ってあれ?その赤ちゃんは~……。」
クロロと呼ばれた獣人の女性は縷亜のことを見て首を傾げた。
そしてどうやら、今縷亜のことを抱きかかえている狐の獣人の女性の名前は由良というらしい。
「森に捨てられておったんでの、わしが拾ってきた。」
「ほぇ~、赤ちゃんなんて珍し~……。それにこの感じ、人間の赤ちゃんですよね?」
「そのようじゃ。」
まじまじと顔を覗き込んでくるクロロという女性の視線に、縷亜が少し恥ずかしさを感じていると。
「今からこのややこのことで、ミノタウロスのエナに会いに行くが……お主も一緒に来るか?」
「あ、行きます行きます~!!」
そしてまた歩みを進め始める二人。今度はどうやらミノタウロスのエナという人物に会いに行くようだ。
(……今ミノタウロスって言ってた。確かミノタウロスって……牛の怪物じゃなかったっけ?……そんな怖そうな人のところにボクのこと連れてくのっ!?)
ミノタウロスと言えば、ギリシャ神話に登場する有名な牛の怪物である。それを知っていた縷亜は、思わず恐怖し身をよじって逃れようとするが……。
「おぅおぅ、元気なややこじゃの~。」
「お腹空いてるんですかね~?もう少しの辛抱ですよ~。」
(ちが~うっ!!!!)
暴れる縷亜を慣れた手つきで由良はあやす。そして、縷亜の拒絶する意思は受け入れられずに、為すすべなくミノタウロスのもとへと連れていかれるのだった。
それではまた明日のこの時間にお会いしましょ~