第32話 ヒーリング?
32話~
東雲が額を伝う汗を拭っていると、後ろから口がきけなくなっているロレットのモゴモゴとしたくぐもった声が聞こえてきた。
「む~~っ!!」
「ん?そういえば、また口を塞いでいたな。話して良いぞ?」
「っ!!ぷはっ……おいっ!!由良はどうなった!?」
辺りに響き渡るような怒声を響かせるロレット。そんな彼女の声に思わず耳がキーンとしてしまう東雲だったが……。
「大きな声を出すでない、妾の鼓膜が破れたらどうするんだ……まったく。」
「貴様の鼓膜のことなど、どうでもいいわっ!!それよりも由良は無事なのか!?」
「無事だ。というか、まぁ……理性のない獣になる方が難しかったからな。この成功は当たり前だ。」
東雲の言葉に思わずロレットはポカンとした表情を浮かべた。そんな彼女の表情を見てくつくつと東雲は笑う。
「くっくっ……獣になる確率の方が高いと思い込んでいたか?妾は一言もそんな事は言っていないのだがなぁ?ん?」
確かに東雲は、仙狐になるか……はたまた獣になるかという二つの可能性がある。ということしか言っていない。どちらの方が確率が高い、低い等のことは一切口にしていなかった。
「この道化めっ……。」
「くくくくっ、良い表情を浮かべるな。そういう表情が見たかった。」
悪態を吐くロレットの表情を見て満足そうに東雲は笑う。
「さて、妾の役目はこれにて終了だな。」
「役目……だと?」
「あくまでも妾は呼び起こされた身だ。役目が終われば再び眠りにつく。それだけのこと。この者と、この体の主のことは任せたぞ?」
「ちょっと待て!!おいっ!!」
最後にそれだけ言うと、東雲の体は光りに包まれ、もとのルアの姿に戻っていく。
それと同時に、ロレットの体を縛っていた言霊も消え去った。
自由に行動できるようになったロレットは、倒れこみそうになっているルアと由良のことを受け止めると、大きくため息を吐いた。
「はぁ……いったい何がどうなっているというんだ。」
ふと、ロレットはルアへと視線を向ける。
「あの東雲とやらは、この子の体を借りていたのか?由良の話ではオスだと聞いていたのだが……。(こんなに華奢な体つきに、幼顔……外見はオスには見えないが。)」
ルアが本当にオスなのかどうかということに、疑問を持ったロレットは、少し躊躇いながらもルアのズボンの上に手を這わせた。
そして無いはずのものがあるということをしっかりと実感する。
「っ!!あ、ある……しっかりと。」
「ん……んぅ……。」
「…………!!」
思わず感触を確かめるようにずっと手を這わせてしまっていたことに気が付き、ロレットはハッとした表情で手を引っ込めた。
「ひ、ひとまず……我の城に連れ帰り看病をするか。……移動魔法展開。」
ヴン……という音とともに、ロレット達の足元に巨大な魔法陣が現れ、次の瞬間にはロレット達はどこかへと消え去った。
◇
「ん~…………んん?」
ルアはふと、鼻腔を擽った甘い香りに目を覚ました。そして、自分がいつもとは違うベッドで寝ていることに気が付いた。
「あれ?ここは……どこ?」
「あ、お目覚めですね~。」
「っ!!だ、誰っ!?」
体を起こしてベッドの脇に目を向けると、そこにはピンク色のゼリー状の体の女性がいた。
「私はヒーリングスライムのトリトニーですっ。女王様にあなたのヒーリングを任されました。」
「ひ、ヒーリング?」
「はいっ、どうやらとても心身的に疲れているご様子なので、今から心のヒーリングを始めますね~。」
「えっ……ええっ!?」
トリトニーはそう言うと、いきなりそのゼリー状の体をルアの体に纏わりつかせ、身動きがとれないように拘束する。
「いやっ、な、なにして……っ!!」
「大丈夫ですよ~、とって食べたりなんてしませんから。ねっ♪」
ズルッ……
「うぅっ!?み、耳に何か……入って……。」
ズルリと音を立ててルアの耳の中に、冷たいヒーリングスライムの体の一部が入り込む。そして、耳のなかでくちゅくちゅと蠢き始め、頭の中が水音でいっぱいになる。
「あ、あっ……う、動かさない……でぇっ。」
耳の奥でくちゅくちゅとスライムが動く度に、ルアの体がビクビクと跳ねる。そんな反応を見てトリトニーはにっこりと笑みを浮かべた。
「ふふふっ♪気持ち良いですか~?たくさんくちゅくちゅしてあげますから、しっかりヒーリングしましょうね~?」
「うぁっ……うぅ…………あっ、あっ……。」
それから数十分に渡って、トリトニーにヒーリングと称され耳の中をくちゅくちゅと弄られてしまうのだった。
それではまた明日のこの時間にお会いしましょ~




