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街の様子を直に見て魔王討伐へと向かう中、叶は現状をもう一度整理した。

真帆、王太子、総指揮官、魔術師、王、そして魔女…

彼らの言葉や態度を思い出す。


魔王復活の為に動きが活発になった魔族。

魔王討伐の為に自分たちを召喚した王国。

なのにイレギュラーの真帆は牢獄に入れた。

無駄に高い税金を巻き上げ裕福な暮らしを満喫する王や宰相とその一派。

ギリギリの暮らしを強いられている街の人々。

魔族のいる森のすぐ近くに住んでいる人達の被害。

自分は勇者として技術を磨いてきたが、真帆もまた魔女に色々教えて貰っていたこと。

魔王に気に入られ連れ去られた真帆。

そして、魔女の、言葉。


魔王を討伐するぞ、などという使命感はない。

ただ、真帆が笑っていられる場所を作りたい、それだけだ。

別に前の世界に戻りたいとも思わないが、真帆がそうしたいと言うなら帰る方法は模索したい。

魔女は言った。

己の目で、真実を確かめよと。正しき眼で、と。


自分は、ずっと王城にいた。まだ、見えていない部分がある。決断する為には、まず、総てを見なければならない。


魔王のもとへ向かっている叶と精鋭部隊だったが、魔族からもっと抵抗があると思っていたのにすんなりと魔王の城までくることができた。小物のような雑魚は相手にしたが。

さすがに異様な雰囲気を肌で感じ取れたが、突入以外方法はないように思えた。


魔王は、巨大な魔力の塊のような存在だと言っていた。魔王を倒すと言うより、魔王の城にある、巨大な魔石を破壊する必要があると。魔石に魔力が潤った為に魔王が復活したとのことだった。

叶と総指揮官は王城にいる王太子や魔術師とも連絡を取り合った。大きめの通信石でかなりの時間話すことができる。王城の様子も把握していた。王と宰相は、すでに魔王は討伐したかのように派手なパーティーの準備に取り掛かり、そのために領民から金だけでなく、モノまで徴収し始めたとのことだった。中枢まで腐りきってしまっている為、王太子の意思は全く通すことが出来ず、歯痒い思いをしているようだった。それでも、王太子に忠誠を誓っている者達が奔走しているということだった。


「キョウ様、参られますか。」

総指揮官が叶に声をかける。

「真帆がこの城のどこにいるかはわからないが、魔族や魔王と話をすることになるかもしれない。あとは察して欲しい。」

そう叶が願うと、総指揮官は神妙に頷き、部隊に向かって叫んだ。

「計画を忘れるな!では、突入!」



魔王は、真帆とともにいた。

鏡から、ずっと叶達の動向を見ていた。

「キョウや彼らは、我らの話を聞くと思うか。」

魔王の問いに、真帆は頷いた。

「叶は、ずっと私とともにいたのです。彼のことは解っています。話し合いは成立するかと。」

「わかった。シホを信じよう。」

魔王はそう言って、城にいる直属の部下である魔族に手を出すなと伝えた。他の指示を出し、城にいない部下にもまだ待機を伝えてある。



何が起こるかわからないと魔王の城の中を慎重に足を進めたキョウ達だったが、ほぼ一本道で、特に魔族と戦闘もなく、一際目立つ荘厳な扉の前までくることができた。

叶と総指揮官は互いに目を合わせ頷く。

叶が、扉に手を置くと、まるで招かれるかのように扉は勝手に開いた。

「迎撃態勢!」

総指揮官が叫ぶが、魔族が襲ってくることも、攻撃魔法が飛んでくることもなかった。


が、刹那、ドォ…ンっとものすごい威圧感に襲われる。精鋭部隊の中には思わず膝をついてしまった者もいたが、叶と総指揮官は負けじと歯を食い縛った。


「…ほう、堪えたか。」

地を這うような凍えた声が扉の奥から聞こえた。まさしく、魔王のものだった。

魔王が、魔力を放ったのだ。

叶が、部屋の奥を見据えると、そこには、中性的な風貌のこの世のものとは思えないような美しさを纏った存在がいた。そして、その横には、真帆が立っていた。

「真帆…!」

叶が思わず叫ぶと、真帆は、叶に向かってほんのりと笑った。それだけで、叶はほっと安心した。

その顔を見て、安心したのは真帆も同じだった。

「我より、シホに意識を持ってかれるとは、キョウは面白い。他は、我に敵意を剥き出しにしているというのに。」

それもそのはず、叶以外は本能的に剣を構え魔術を唱える構えを取っていた。さすが精鋭部隊と言えようか、膝をついた者もすでに持ち直していた。

叶は、真帆から魔王に視線を変えると、左手をあげ、部隊を制した。

「魔王よ、話を、聞きたい。」

「話が早くて助かるな。」

そう言って、魔王は語り出した。



魔王をはじめ、魔族は魔力で生きている。魔力は、この地から発生するもので、魔族は特に魔力が多く発生する森に住んでいる。そこに人間のならず者達がやってきて必要以上に魔力を奪っていくのだ。

魔王は前回までの勇者との戦いで、どちらかが絶えるまで戦いをするのは無意味だと悟っていたので、自分の力を使い直接王にそのならず者達をどうにかしろと伝えた。


結果、王はならず者をどうにかするのではなく恐怖に震えるばかりになった。魔王が完全復活したことにより、魔族は言葉も話せない雑魚も力がみなぎるようになり、ならず者達が隠れ住む近くの村を襲うようになった。

王はさらに恐怖し、勇者を召喚し魔王を討伐しようと企んだとのことだった。


魔王や魔族には、そこまで人間を排除しようという意思はなく、ただ、自分達の棲み家を荒らされるのが嫌なだけであった。

魔王は、気だるげにそこまで話し、一つタメ息をついた。

「で、人間よ。王ではなく、そなたらの意見を聞きたい。どちらか絶えるまで戦い続けたいか。」


そう言うや否や、魔王は部屋の天井に一つの景色を映し出した。

そこには、城下町の外側にある広大な敷地で、人間と魔族が熾烈な戦いを繰り広げられていた。王太子自ら兵をひき、指揮を取っていた。魔術師も、最前線で魔族を食い止めていた。明らかに格の違いが分かる見た目の魔族が不敵に笑い、魔族の大群を率いていた。


「魔王よ!魔王討伐や魔族排除は我ら人間の総意ではない!」

総指揮官が叫ぶ。

「だが!私は総意を伝える立場にない。王に直接意思を伝えられるのであれば!王太子とも話をしてほしい!」

それを聞いて魔王は目を細めた。

「叶は?叶はどう思う?」

真帆が、叶を迷いのない目で見つめる。

「俺からも、お願いする。あの王太子は国を治められる人物だと思う。」

叶の言葉を聞き、魔王は目を閉じた。

すると、天井に見えていた争いは、魔族が撤退を始めたようだった。王太子はそれに気付き、すぐに引き上げを命じた。何かを思案しているようだった。

どちらにせよ、そろそろ日が暮れるのでタイミング的にはちょうどよかったのかもしれなかった。


「王太子と、話をする。キョウと、そこの、こちらへ。」

魔王が奥へと指し示した。精鋭部隊はざわついたが、総指揮官は冷静にここで待っているように伝えた。もし何かが襲ってきても迎撃できるようにだけは告げた。

キョウと総指揮官が魔王と真帆の近くまで行く。すると、天井の景色は消え、今度は正面の鏡に王太子が映った。

王太子は一瞬驚いたが、すぐに顔を引き締めこちらを見据えた。

「魔王、だな。あと、キョウとシホ、総指揮官もいるのか。」

王太子の声が鏡から届く。

「王太子よ、話を聞く気はあるか。」

魔王が口を開いた。その時、王太子の方からも声がした。

「殿下!今何か恐ろしき気配が…え…魔王?!」

魔術師の声であった。王太子の前に映し出されている姿に驚愕しているようであった。

鏡に、魔術師も映る。

「…話を、聞こう。」

王太子が魔王に答えると、魔王は真帆を見て、今度は、真帆が語りだした。

そして、お互いの現状打破の為、そこにいるメンバー全員で、話し合い、計画を練った。








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