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3~真帆side~

真帆は、叶と別れ城下町の人通りの多い場所まで走った。

いつ、魔術が解けるかわからない。なるべく、見つかりにくいところへ。その一心であった。

真帆が着ていた簡素なワンピースは、城下町の人々に紛れるにはちょうどよいデザインだった。

叶の服装は、それなりに上等そうに見えたが、やはりわざわざ召喚儀式までして欲した存在と真帆という予想外の存在との差だろう、庶民が愛用する服のようだった。


ほぼ動かない城下町の人々に間違ってぶつからないように注意しながらも、周りに何があるかを把握していく。

そろそろ、たくさん人がいる辺りに来たし、体力もキツくなってきた真帆は足を止め、広場のようなところで少し休憩することにした。

いくつかあるベンチのうち、空いているところへ座る。

心臓がバクバクいっているのは、走ったせいか、逃亡者という立場のせいか。

そんなことを思いながら、周りの人々の表情を確認する。


人は多いものの、あまり楽しそうな表情の人はいない。

無表情だったり、ただ目的地に向かっているだけのような。子ども達も何人かいるが…子どもならではの活気に溢れた表情というよりは、生活していくのにギリギリのような、あまり子どもらしく感じられなかった。

城下町と言えば、イメージ的にもっと活気溢れた場所だと思っていたが、何万と読んだ書物の中には、庶民を人と思わないような王侯貴族がいた事も事実のようだし、魔王復活のせいかもしれないことも念頭におきながら、魔術が解けたら誰かに聞いてみようと考えた。


真帆の心臓が本来の速さに戻った頃、時間は通常通りに動き始めたようだった。

先ほどまでの無音が嘘のように、色々な音や声が聞こえる。

ちょうどすぐ近くに、雑貨屋さんのようなお店の前にヒトの良さそうな女性が見えた。この人に街の事を聞いてみようと、真帆は一歩を踏み出した。

「あの…すみませ…っ?!」

真帆の声は最後まで言葉にならなかった。突然、心臓がドクンっと強く打ったと思ったら、先ほどよりよっぽど早く心臓が動き始めたからだ。苦しくて胸を押さえ深呼吸をしようと試みたが出来ず、真帆はそのまま倒れ込んだ。

「ちょ…大丈夫かい!!」

先ほど声をかけようとした女性の声が聞こえた気がしたが、真帆の意識は途絶えた。


次に目が覚めた時、知らない部屋のベッドであった。

「目が覚めたかい?!私に話しかけてきたと思ったら突然倒れて…覚えてるかい?!」

雑貨屋の女性が助けてくれたようだった。

「あ…有難うございます…」

何とかお礼を言うが、酷く喉が掠れていた。女性はすぐにそれに気づき、水を飲ませてくれる。

「アンタ、うちはどこだい?家の人がきっと心配しているよ。半日寝てたけど何か用があったのかい?買い物かい?」

外を見ると、もう真っ暗だった。家の人…と言われても困る。真帆は咄嗟に嘘をついた。

「あの…すみません。記憶がほぼなくて…ここがどこかもわからなくて、何も持っていないし…あなたに聞こうと思ったんです…倒れた理由もわからないのですが…」

ボソボソと声を詰まらせるように言うと、女性は哀れんだ目をした。

「もしかして魔族に襲われてこの城下町まで逃げてきたのかもしれないね…ウチはアンタ1人くらいの面倒は見れるし、暫く休んでいきなよ。」

真帆は小さく頷いて俯いた。彼女の同情心を利用するようで申し訳ないが、モノも知識もない以上一番手っ取り早い方法であった。


せめてもの恩返しにと、次の日から雑貨屋のディスプレイや商売方法等の助言をしたり仕事を手伝ったりしていたのだが、ある日在庫チェックの為に奥の部屋にいると、雑貨屋の女性が神妙な顔で部屋に入ってきた。

「アンタ、本当に何も覚えていないのかい?宰相様の護衛が城下町をウロウロしていて、黒髪黒目の女の子を捜してるっていうんだけど。」

それを聞いた真帆は真っ青になった。ここ何日か城下町で過ごしていたが、他に黒髪黒目はいない。ほぼ外にも営業中のお店にも出ていないので、ほとんど他の人には見られてないので大丈夫だとは思うが、この女性に突き放されたら自分はどうなるだろうか。何と言おうか考えていると女性はタメ息をつきながら手を出した。そこには小さな魔石のついたイヤリングが見えて、真帆は少しだけ戸惑った。

「これ、髪と目の色を変えられるイヤリングだよ。つけてごらん。」

そう言われて、おずおずとイヤリングを受け取り耳につけてみる。すると、真っ黒だった髪の色が茶色へ変わった。

「ああ、別人みたいに見えるよ。…宰相様はあまりいい噂を聞かないからね…最近特に横暴になってきたなんて話も聞くし…そもそも税の取り立ても酷くて私ら庶民は食ってくだけで精一杯さ…ある意味魔族よりタチが悪いよ。ああ、怯えないで大丈夫。私が守ってあげるからさ。」

雑貨屋の女性は、どこまでもいい人のようで、自分達も大変なのに、得体の知れない自分をここまで庇ってくれることに真帆は涙が出た。この世界にきて、初めて流した涙だ。

思っていたより、自分が弱っていることに気づくとともに、この女性の役に立ちたいと心底思った。

小さく、有難うございますと呟くと、女性は嬉しそうに目を細めた。


数日後、雑貨屋に来客があった。

女性がお客さんの対応を始めたのが聞こえてきたので真帆は奥の部屋にいたのだが。女性は真っ黒な服を着た老婆とともに真帆のところへやってきた。

「…あんただね?珍しいオーラを纏った子は。」

しわがれた声で、真帆を見据えた。そして、女性に真帆と二人だけで話したいと言い、女性は部屋を離れた。


この国の魔女だと言う老婆は、真帆を見てニヤリと笑った。

「アンタ…召喚されたね?この世界のオーラじゃないんだよ。森にいた時に妙な気配を感じたけど、何故王城ではなく、ここに?」

雑貨屋の女性が宰相の護衛には自分の存在を知らせなかったのに魔女には教えたことや、魔女という立場なら状況を変えられるかもしれないと、真帆は女性には内緒という条件のもと、自分に起きた出来事を説明した。

「なるほど。王や宰相も頭が悪いね…。アンタ、私のとこに来なよ。魔術や魔王のこと、もっと詳しく教えてあげるよ。」

どちらにせよ、このままここにいても女性に迷惑をかけてしまう可能性の方が高い為、真帆は頷いた。

魔女が雑貨屋の女性にどのように説明したのかわからないが、女性は快く見送ってくれた。


さて、魔女についていくと、住み家は城下町の南の森の奥であった。

そこで、魔女に魔術について習った時、時間操作について聞いてみたところ、あれはほぼ禁術とのことだった。

周りの時間を遅くする分、魔術が解けた時に反動が術者の身体に直にくるらしく、逃亡した際の魔術が解けた時に心臓が苦しくなったのは魔術の反動ということがわかり、真帆はあの魔術はもう使うまいと決めた。


攻撃魔法も習ったが、真帆の場合は圧倒的に補助魔法に適性があった。それもそのはず、聖女とは、勇者の補佐役だからだ。

聖女が勇者に補助魔法をかけながら一緒に戦うのが本来の魔王討伐方法らしい。

魔女は、代々その話を受け継いでいたし、庶民の間でも伝記の中に勇者には支えてくれる聖女がいたと書かれている。だが、王侯貴族はそれを信じていなかった。勇者はきっと好色で、いつも女性を近くにおいていたのを伝説らしく聖女ということにしたのだと思っていたのだ。

そもそも補助魔法など要らない、という戦いには全く無知の人種なのだから。


補助魔法をほぼマスターできた時、ふと叶が戦っているような気がした真帆は、目を閉じて叶を思い浮かべながら補助魔法をかけてみた。

するとその夜、通信石で叶が喜色を含んだ声で言った。

「今日、魔族討伐についていってたんだけど、戦ってる時に真帆の色が視えたよ。急に身体が軽くなってさ、やっぱ、真帆という存在は最強だよ」

それを聞いて真帆は静かに微笑んだ。叶と繋がるこの一時が何より嬉しく、幸せな時間であった。

「アンタでも、そんな顔するんだねぇ」

どうやら魔女に見られていたらしく、からかうような声が聞こえたが、真帆は普段の無表情に近い顔にスッと戻った。

「はっ…、アンタらの絆は理解できたさぁね。…そうだな。そのうちにあの人がここを訪ねてくるだろうが、その時、アンタはどうするんだろうね。」

意味ありげに魔女は微笑み、真帆に背中を向けた。


それからまた数日経ち、真帆の基礎ステータスもあって、できる限りの魔術を覚えた。魔女自体は使えないものの、聖女特有の魔術も教えて貰い、マスターすることができた。

今日の魔術の練習は終わりだと、住み家へ戻ろうとした時、全身の毛がゾワリと立つような気配がした。その瞬間、中性的で暴力的までに美しい人物が真帆の前に現れた。


「…ああ、来たね。魔王。」

魔女が何でもないように言った。真帆は一瞬固まったが、魔女を見て少し安心した。魔女は、城下町の人々よりも砕けた態度だったからだ。そして、前に魔女が言っていたあの人とは、魔王の事だと悟った。

「魔王よ、シホ…彼女が聖女だよ。アンタにゃ言わなくても感じるかねえ。シホ、魔王の話を聞く気はあるかい?」

真帆は素早く魔王を観察した。教えられた魔王とは、何かが違う。魔王が何を話すか解らないが、とりあえず話を聞くべきかと結論を出して、ゆっくりと頷いた。


魔女の家へ着き、椅子へ座る。魔王も少し気だるそうに座った。よくよく見るとこの魔王、あまりヤル気が無さそうに見えるのだが、不思議な感覚に真帆は戸惑いながらも、魔王の話を聞き…。


一番は叶の解放、そして雑貨屋の女性をはじめとする城下町の人々の暮らし、魔族への態度等、

全てを解決すべく、真帆は魔王の城へとついていった。



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