丑の刻 引きこもり研究者
炎の街、ある宿の一室の前
コンコンっ
シアは相変わらずフードを被ったまま移動し、扉をノックする
「はーい」
扉の向こうから返事がした
…しただけで開く様子はない
再びノックする
コンコンっ
「…はーい、はいはい、どなたですか?」
声が近づいてきたのが扉越しにわかった
「鱗の調査を頼みたいんですが」
「依頼者しゃんね、ポストに入れておいて」
そういうとトタトタと足音が離れていった
…ちょ、まって
コンコンっ
「……あー、まだ何かー?」
声は遠い
「あのー、私、シアって言うんですけどー…」
「はーい…そうですかー」
むぅ…?
「シア…なんですけど」
「…あー、はい、聞こえてますー」
…別人か?
声的に私の知ってるククルだと思うんだけど…
「あのー…」
「用がないならもういいですか?私今ちょっと手が離せ…」
「……ククルん?」
おっと、少し声が低くなってしまったかな?怖がらせる気などないのに、シッパイ、シッパイ、たはは
…うちの孤児院での愛称だ
私もシャーねぇなんて呼ばれていた
その愛称が聞こえてから扉の向こうが途端に騒がしくなった
バァンッ!
ものすごい勢いで私と同じような背丈の赤い髪の少女が飛び出てきた
「しっ…シアねぇ様!?」
ちなみに私もだが孤児院の中で背丈は低い
うんうん、変わってないね
「なに?その呼び方」
やはり我が妹でしたね
うんうん、姉マウントが取れるよ
研究者なんて肩書きだったから警戒してたよぉ
「チュン!?あっ!いえ、…私も孤児院を出てから世の渡り方というものを学びまして…」
ククルは私よりも早い…というか私が最後に孤児院を出ているのだから当然か
その間に世渡りの仕方を学んだ…ということだろう
「ふーん…」
「あっ!あっ!こ、これ!ですね!直ぐに調べますから!」
そう言ってククルは私の手から飛竜の鱗をひったくると部屋の中に戻っていく
扉は開けっ放しでその勢いに私は呆然としていた
そして直ぐに戻ってくる
「はい!シア姉わかったよ!」
「…早いね」
早く終わるならここに溜まってる研究素材は何だと言うのだろうか
「うん!だってごく一般的な飛竜の鱗だもん!」
にかー、と笑顔で報告するククル
…あれ?
「うそ、んなバカな…」
「んと…これ、はいこれ、普通の飛竜の鱗」
そう言ってひょいと渡されたのは私の持ってきた鱗とパッと見同じようなものだ
「よし!こんな普通なことはどうでもいいの!シア姉が来てくれたならこの街の灰を調べられるよ!」
そういうとククルは部屋の扉を閉めて鍵を掛けた
そのまま私の腕を引っ張ると宿の外に向かう
「わっとと!?ククル?どこ行くの!」
「ギルドだよ!依頼を受けに行こっ」
ククル、ククルってこんな妹だっけ?
自分の記憶にある妹の差に困惑が隠せない
ううん、でも中身以外は記憶通りだし…
◇
まさかシア姉が来るとは思ってなかった
研究者として火の街に居座ってからそこそこ経つ
最近は詠唱魔法の研究ばかりしていたから街の灰の問題とか調べて欲しい素材の依頼とかを全部後回しにしていた
冒険者を使って調べた資料によると灰はなかなか厄介で灰が降り始めた頃に現れた魔物が原因だと見ている
魔物の胸部に機械が確認されている
…シア姉の持ってきた飛竜の鱗もそういう関係でしょう
最近は普通の素材が異常種から採取されたとよく届けられるのだ
「シア姉」
「ん?」
シア姉は私が孤児院から出た時よりも目が鋭い気がする
睨むと怖いよ?
「頑張ろうね!」
魔物討伐!
最後の方にククル視点です
シャーねえは少し休憩となります
この刻はククルがメインを張ります