亥の刻 私とみんなと弟妹
最近、体に機械が埋め込まれた魔物がよく出没するようになっているらしい
冒険者の多い雷の街での噂はもっぱらその事ばかりだ
私は買い出しを頼まれ、それを揃えた紙袋を抱えながら街を歩く
この街は大変賑わっている
人が多すぎてまっすぐ進むのも大変なくらいだ
「おい、はぐれんなよ」
「ユウキ、分かってる…歩くの速いよ」
人を避けながら、ここ数日お世話になった宿屋にたどり着く
「団長、ケイン、戻った」
「あぁ、全部買えたか?」
「うん、おまけもしてもらった」
「…なんかイヴの喋り方っぽくなってないか?」
「なに?私の悪口?」
腰に帯剣している男性にフードの女の子が杖で頭を小突く
「みんな早かったわね」
私たちが戻ってきた方向とは違う方向から露出多めな魔法使いがいくつかの紙を持ってきた
「マウネ、どうだった?」
「氷の方の話題ばかり、お抱えの兵士もそんなにって感じね」
情報集めとしてはあまりいい結果と言えないようだ
団長は当然だが安全なルートを選びたがっている
そのための情報が少なく、少し古いものとなってしまったためだ
今日は雷の街から出発の日
商人目線での取引は団長が行う
護衛と冒険者の目線はケインが
私は探索者兼運び手として
このキャラバンにお世話になる
あの時、氷から出された時にユウキだけが看病していた
他に人の痕跡があったにもかかわらず情報の制御として口止めがされているらしい
詳しく聞こうとしても
ユウキは命があるだけマシだろなんて言って逃げる
あの飛竜からの戦利品として鱗を手に入れたみたいだけど…
詳しく調べてもらうために、というのもあって研究者のいる炎の街に向かう予定だ
…あの飛竜、九割を別の誰かに持ってかれたと思う
素材の回収にしては少なすぎるし
かと言ってきれいさっぱりなくなっている
誰がなんのために?
「大丈夫か?なにか気になることでもあんのか?」
「うん、あるけど…考えても仕方ないことだから」
ふぅん、とユウキは前方の団長の方の荷車に戻っていった
私が引くのは最後尾の荷車
イヴと一緒に殿を任された
前方から笛の音が鳴る
キャラバンは他の商人を三台分加えた大所帯だ
ゆっくりと動き始めた
「シアっ」
「なに?」
イヴが起きて話しかけてくるとは珍しい
「しゅっぱーつ!」
「…うん!」
私はシア
このキャラバンの荷車の引き手だ
色んな街を巡るんだ
◇
「ねぇ、あの子と会ったでしょ?」
「…会ったが、仕向けたのか?」
薄暗い雰囲気のカウンター
赤黒い液体を口に含みながら大柄な男性と細身な女性が話している
「あら?そう思うの?あの子が自発的に動き出したのよ?私はなんにもしてないわ」
「…どうだか」
男の横には女性の身長程はありそうな大盾が立てかけられている
特徴的な盾はそれだけで誰がいるのか周囲からは分かる代物だったが、周りはその空気を読み取っているのか話しかけようとはしなかった
「次があればちゃんとやり合うのよ?」
「…」
男は黙り俯く
「やらなきゃやられるわよ、あの子はもう、一人取り込んでるんだから」
「…本当だったのか」
男は苦虫を噛み潰したような顔になっていた
そして覚悟を決める
次は軽口を叩く事もできないのかと、少し寂しそうな雰囲気を残して
対して女性は少しだけ微笑んだ
その目は楽しみで仕方がないと語るように怪しげに鈍く光っていたが
◇
ガラガラと荷車の音が聞こえる
団長達も商人たちも声が届くには距離がある
孤児院では私が最後まで残っていたのもあって一人の時間は多かった
こういう時、詠唱の練習とかで過ごすんだ
最近は忙しくて、でも楽しい時間ばかり
『また、ひとりぼっちなの?』
頭に響くのは私の中の妹の言葉
…はやく身体に返してあげないと
荷車の柄を私は強く握りしめた
さて、ぼかしてますがタイトル通りです
シア視点、キャラバンのみんなとは距離が近づいた感じですね
…すいません次回12日投稿予定となります
2本角の設定とか完全に忘れてたりしてます、街中フード被りっぱなしは世界観的に街中にいるとしても
普通に考えれば視界が狭まるので見づらいったらありゃしませんよね…