けつい
あふれ出した光の粒が1カ所に集まり、やがて光がおさまっていく。
ようやく目が開けられるようになったわたしの目の前には
1人の男の人が立っていた。
まるでつくりもののような緑色の髪
少し長いその髪の隙間からのぞく金色の瞳は宝石のようで、
吸い寄せられてしまいそう。
しかし美しい容姿とはうらはらに、身にまとっているのは手品師のような黒い衣装に
明らかにサイズの大きいシルクハット。
一見ちぐはぐともとれる彼の見た目に、本来なら危機感を募らせるであろうこの状況が
なんだかとても間抜けなものに思えた。
「私は時の案内人。この時計を見つけたあなたに、今宵すてきな時空旅行をプレゼントしよう。」
「時空旅行?」
「ああ。あなたがこの時計を見つけたということは、何か後悔や悩みがあるのだろう?
過ぎ去った日々をやり直したいか……それとも、まだ見ぬ未来を自身の目で確かめたいのか。」
「過去を……やり直せる……?」
「おや?そちらに興味があるようですね。いいでしょう。
あなたが望む時に、時間を巻き戻してあげましょう。
チャンスは1日。過去に干渉してやり直すことは可能です。
そこで起きたことはもちろん、未来である「今」につながっている。
やり直したいことがあるならば、またとないチャンスだ。
だけど……いいかい?変わってしまった未来に責任はとれない。
つまり、一度きりのチャンスで変わるかもしれないし、変わらないかもしれない。
もしかしたら、今いる人やある物を変えてしまうかもしれない。
それでも……行ってみるかい?」
「わたしは……」
「……といっても、深刻に考えなくてもいいよ。もし、途中で過去を変えることを負担に感じたり、
つらくなったりしたら、このベルを鳴らして私を呼ぶといい。なあに、初回限定サービスさ。
ま、誰しも一回限りなんだけどね。」
そう言って彼は柔らかく微笑み、私の両手をもつと金色のベルを握らせた。
整った顔をしているだけに、すこし微笑んだだけでも、周りの空気はふわっと軽くなったように感じる。
やり直したい一日……
もう一度行きたい過去……
私にはあるだろうか。
うつむき、ベルを見つめた私の脳裏には、彼の哀しそうな表情が浮かぶ。
「案内人さん、私決めました。
5年前の12月25日。この1日をやり直したい。」
「いいよ。さあ、目をつむって」
目をつむった私をまばゆい光の粒が包んでいく。
真っ白い光だけになった世界で、
ただ時計が時を刻む音だけが響く。
「さあ、すてきな時空旅行へ、いってらっしゃい。」
温かい彼の声が聞こえた瞬間、私の体はふっと軽くなり
意識を手放した。